【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
61 / 118

61 いつもと違う朝

しおりを挟む
唇を離し、アドルファスさんが上半身を起こす。
最後にキスで少し濡れた唇を舌先がチロリと舐める。その仕草に見惚れる。

「申しわけございません。よろしいでしょうか」と扉の向こうから声をかけてきた。
「え、ディーターさん…」

我に返って慌てて彼の体の下から抜け出してベッドから飛び降りた。

「うそ…ど、どうしよ…」

アドルファスさんの部屋でひと晩明かしたことが知られたら、確実にだと思われる。
でも逃げようにも、ディーターさんがいる場所を通らないと廊下に出られない。

慌てる私と反対にアドルファスさんは優雅に半身を起こし、片腕を突いてもう片方の手で乱れた自分の髪を掬い上げる。さらさらと長い髪が流れ落ち、光を受けて輝いた。

「入ってきても大丈夫だ」

外のディーターさんに聞こえるように少し大きな声を出す。

「ちょっ、ア、アドルファスさん」
「気にすることはありません」
「で、でも」
「おはようございます」

ディーターさんが部屋に入ってきて、私のことをチラリと見たが、何も言わずアドルファスさんに一礼する。

「旦那様、仮面は」

頭を上げてアドルファスさんが仮面を付けていないことに驚く。

「ああ…彼女には知っておいてもらおうと思って外した」

アドルファスさんがそう言うと、ディーターさんはまじまじと私の顔を見た。

「彼女には体の傷も見せた」
「え」

またもや驚きの声を発して食い入るように見つめてくる。

「お体の具合はいかがでしょうか。もしまだお加減が優れないようなら、休暇届を出しますが」
「大丈夫だ。すっかり良くなった」
「本当でございますか?」

アドルファスさんの返事が信じられないのか、驚いている。

「嘘をついてどうする」
「それはそうですが、いつも発作の後は快復まで最低でも二日は寝込まれていらっしゃったのに」
「クムヒム神官も今回は発作が軽いようだと言っていた。発作の苦しさはいつもと変わらなかったのに、最初はおかしいと思ったが、浄化を受けてもこれほど早く快復するのは初めてだ」
「私も驚いております。何か変化があったのでしょうか」
「単に魔素が薄まったとか…良くなっているのではないんですか」

アドルファスさんの部屋で一夜を明かした気恥ずかしさも忘れ、二人の会話に割って入った。いつもより快復が早いらしいが、アドルファスさんの体調が良くなっているなら、それでいいのではないだろうか。

「神官の力は抑えるだけで、すべてを消し去ることはできない。それができるのは聖女だけだ。発作の軽さで快復具合は違うが、完全に治療できたわけではない」
「そうなのです。ですから驚いているのです」
「何が違うのか…」

アドルファスさんは顎に手を当ててじっと私を見る。

「アドルファスさん?」
「旦那様?」
「いや、何でもない。ディーター、支度をするから手伝ってくれ」
「畏まりました」
「あ、私も、部屋へ戻ります」
「ありがとう、ユイナさん」

部屋を出ようとした私にアドルファスさんがお礼を言った。

「私は何も…ただです」

『付き添った』ことをわざとゆっくり言って強調する。

「そうだな。

アドルファスさんも『昨夜は』を少し強めに言う。
でも私が何もなかったことを主張したのに対し、アドルファスさんの言い方はこれからはわからないと、はっきり言っている。

匂わせる言い方に、ディーターさんの反応が気になって視線を動かす。

「ありがとうございます。私の立場から申し上げることではありませんが、これからもよろしくお願いいたします」

そう言って深々と頭を下げられた。

「え?」

何をこれからもよろしくするのか。頭を下げたディーターさんのつむじを見つめる。

「レディ・シンクレアには私から話す」
「承知いたしました」
「あの、アドルファスさん…何を話す…って」

嫌な予感がして訊ねる。

「もちろん、昨夜のことだ」
「ゆ、昨夜の」

まさか同じベッドで一緒に過ごしたことをレディ・シンクレアに言う?
何もなかったとはいえ、彼女にどう思われるか。

「何を想像しているかわかるが、発作のことだ」
  
アドルファスさんは私の考えはお見通しのようだ。

「あ、そう…」
「もちろん、その後のことも…」
「え」

ということは、私がここで寝たことも?

「この家で起こったことはいずれ彼女の耳に入る。変に伝わるよりありのままを話しておいた方がいい」
「……」
「ユイナさんも一緒に今夜彼女に話そう」
「はい」

そのまま部屋に戻り、身支度をしてアドルファスさんと朝食を食べた。
アドルファスさんは仕事にでかけ、私は昼前にボルタンヌさんの所から届いた衣装と、ブラジャーの試作品について、彼女のところのお針子さんと意見を交わした。

話しているうちにレディ・シンクレアが帰ってきた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました

九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。 それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。 侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。 ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。

処理中です...