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62 あなたがいたから
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アドルファスさんが夕方帰宅し、夕食を終えてからレディ・シンクレアと三人でサロンに移った。
彼はどこまで話すつもりだろう。
発作のことやクムヒム神官を呼んだことはもちろん話すだろう。それからディーターさんが知っていること…私がアドルファスさんの部屋で一夜を過ごしたことくらいは話すだろうと予想はついた。
「改まって何かしら?」
レディ・シンクレアは優雅にソーサーを手に持ち、カップのお茶を口に含む。
「私はユイナさんを恋人にしたいと思っています」
「え!?」
そこから?
驚いて隣のアドルファスさんの顔を見上げた。
「そう…それで彼女の方は?」
「承諾はもらっています」
私の驚きに反してレディ・シンクレアは落ち着いている。
「アドルファスはこう言っていますが、それで間違いはないの?」
レディ・シンクレアが私に訊ねる。
「あ…あの、えっと…まあ…そう…です」
はっきり「うん」とは言っていない。でも拒絶もしていない。この場合オッケーになるのか。
「なんだかはっきりしないわね。まさかアドルファスが無理矢理ゴリ押ししたのかしら」
「ユイナさん、まさか私は勘違い…してましたか?」
アドルファスさんが不安げに私を見る。
「い、いえそんなことは、ちゃ、ちゃんと…わ、わかってます。でも、いきなりレディ・シンクレアに言うとは…私はてっきり…」
「彼女に嘘や誤魔化しは通用しませんし、言っておかなければこうして手を握ることもできない」
そう言って指を絡めて手を握ってくる。
「ア、アドルファスさん」
長い指が絡みつき、親指が甲を撫で、自分の身内の前で堂々といちゃついてくる。
「二人のことはわかりました。私の前でひっつくのはそれくらいにしておいてください」
レディ・シンクレアは呆れ顔で私達を見る。
「それで、話はそれだけですか?」
「いえ、実は…」
アドルファスさんが今度は本当に発作について話した。
話を聞いてレディ・シンクレアの顔が瞬く間に険しくなった。
「アドルファスさんが無理をしたのは私のせいなんです」
「違います。わざとしたわけではありませんし、私が加減を間違えたんです」
二人で自分が悪いと口々に言うと、「落ち着きなさい」とレディ・シンクレアに窘められた。
「起こってしまったことは仕方ありません。ユイナさんはアドルファスの体のことや魔法について知らなかったのですから、あなたは悪くありません」
彼女は私に非はないとアドルファスさんの意見に賛同した。
「けれど、この世界のことを殆ど知らないのに歩き回ったことは、出会った方たちが良識ある者だったというだけで、少し不用心過ぎますね。これからは気をつけてください」
「はい」
「それからアドルファス」
レディ・シンクレアは私に釘を刺してからアドルファスの方を見た。
「もう五年も経つのです。今回は致し方なかったとは言え、己の限界を見極められないのは修練が足りません。もっと励みなさい」
「面目もありません。これからも鋭意努力いたします」
「とは言え、今回は軽く済んで何よりでした。でも、今までと発作の初期段階は同じようなのに、今回はこれまでで一番軽かったとは、何が違うんでしょう」
「それなのですが…」
「何か思い当たることでも?」
「ええ」
アドルファスさんはちらりと私を見て、手をさらに強く握った。
「ユイナさんがいたから…ということはないでしょうか?」
「え、わ、私…」
意外な話に目を丸くする。
「なぜそう思ったのですか?」
レディ・シンクレアも理由を訊ねる。
「倒れた時の苦しさは発作の中でも酷い方だと自分でもわかっていました。しかしクムヒム神官が治療した時には、軽い方の発作だと言われました。何が違うのかと考えたら、ユイナさんが傍にいました」
「でも、私は何の力も…」
「そうです。それだけでは根拠になりません。単にあなたの気持ちの問題では?」
「わかっています。今のところはただの勘にしか過ぎません。でも、無視もできないと思います」
「勘…ねえ…」
レディ・シンクレアは片方の手を顎に当てて、じっくりと私とアドルファスさんを交互に何度も見た。
「アドルファスの勘をまるで信用していないわけではありません。あなたがそう感じたのならその可能性もあるでしょう。もしユイナさんに何らかの力があるのなら、見極める必要はありますね」
アドルファスさんのことを信頼しているからこその言葉だった。
でも私に何の力があるというのか。
「私は聖女ではないし、何か力があるようには…」
「でも聖女が触れた後、すぐに『判定の玉』は割れてしまって、きちんと調べたわけではない」
「それはそうですけど…」
「『判定の玉』が修復できたら、もう一度確認してみましょう。何かわかるかも知れません」
私が触ろうとして床に落ちて割れてしまったあの珠。修復は出来ると聞いてほっとしたことを思い出す。私には力がないから関係ないものだと思っていた。
「そうね。でも、それでユイナさんに何かしら力があったとしたら、どうするの?」
彼はどこまで話すつもりだろう。
発作のことやクムヒム神官を呼んだことはもちろん話すだろう。それからディーターさんが知っていること…私がアドルファスさんの部屋で一夜を過ごしたことくらいは話すだろうと予想はついた。
「改まって何かしら?」
レディ・シンクレアは優雅にソーサーを手に持ち、カップのお茶を口に含む。
「私はユイナさんを恋人にしたいと思っています」
「え!?」
そこから?
驚いて隣のアドルファスさんの顔を見上げた。
「そう…それで彼女の方は?」
「承諾はもらっています」
私の驚きに反してレディ・シンクレアは落ち着いている。
「アドルファスはこう言っていますが、それで間違いはないの?」
レディ・シンクレアが私に訊ねる。
「あ…あの、えっと…まあ…そう…です」
はっきり「うん」とは言っていない。でも拒絶もしていない。この場合オッケーになるのか。
「なんだかはっきりしないわね。まさかアドルファスが無理矢理ゴリ押ししたのかしら」
「ユイナさん、まさか私は勘違い…してましたか?」
アドルファスさんが不安げに私を見る。
「い、いえそんなことは、ちゃ、ちゃんと…わ、わかってます。でも、いきなりレディ・シンクレアに言うとは…私はてっきり…」
「彼女に嘘や誤魔化しは通用しませんし、言っておかなければこうして手を握ることもできない」
そう言って指を絡めて手を握ってくる。
「ア、アドルファスさん」
長い指が絡みつき、親指が甲を撫で、自分の身内の前で堂々といちゃついてくる。
「二人のことはわかりました。私の前でひっつくのはそれくらいにしておいてください」
レディ・シンクレアは呆れ顔で私達を見る。
「それで、話はそれだけですか?」
「いえ、実は…」
アドルファスさんが今度は本当に発作について話した。
話を聞いてレディ・シンクレアの顔が瞬く間に険しくなった。
「アドルファスさんが無理をしたのは私のせいなんです」
「違います。わざとしたわけではありませんし、私が加減を間違えたんです」
二人で自分が悪いと口々に言うと、「落ち着きなさい」とレディ・シンクレアに窘められた。
「起こってしまったことは仕方ありません。ユイナさんはアドルファスの体のことや魔法について知らなかったのですから、あなたは悪くありません」
彼女は私に非はないとアドルファスさんの意見に賛同した。
「けれど、この世界のことを殆ど知らないのに歩き回ったことは、出会った方たちが良識ある者だったというだけで、少し不用心過ぎますね。これからは気をつけてください」
「はい」
「それからアドルファス」
レディ・シンクレアは私に釘を刺してからアドルファスの方を見た。
「もう五年も経つのです。今回は致し方なかったとは言え、己の限界を見極められないのは修練が足りません。もっと励みなさい」
「面目もありません。これからも鋭意努力いたします」
「とは言え、今回は軽く済んで何よりでした。でも、今までと発作の初期段階は同じようなのに、今回はこれまでで一番軽かったとは、何が違うんでしょう」
「それなのですが…」
「何か思い当たることでも?」
「ええ」
アドルファスさんはちらりと私を見て、手をさらに強く握った。
「ユイナさんがいたから…ということはないでしょうか?」
「え、わ、私…」
意外な話に目を丸くする。
「なぜそう思ったのですか?」
レディ・シンクレアも理由を訊ねる。
「倒れた時の苦しさは発作の中でも酷い方だと自分でもわかっていました。しかしクムヒム神官が治療した時には、軽い方の発作だと言われました。何が違うのかと考えたら、ユイナさんが傍にいました」
「でも、私は何の力も…」
「そうです。それだけでは根拠になりません。単にあなたの気持ちの問題では?」
「わかっています。今のところはただの勘にしか過ぎません。でも、無視もできないと思います」
「勘…ねえ…」
レディ・シンクレアは片方の手を顎に当てて、じっくりと私とアドルファスさんを交互に何度も見た。
「アドルファスの勘をまるで信用していないわけではありません。あなたがそう感じたのならその可能性もあるでしょう。もしユイナさんに何らかの力があるのなら、見極める必要はありますね」
アドルファスさんのことを信頼しているからこその言葉だった。
でも私に何の力があるというのか。
「私は聖女ではないし、何か力があるようには…」
「でも聖女が触れた後、すぐに『判定の玉』は割れてしまって、きちんと調べたわけではない」
「それはそうですけど…」
「『判定の玉』が修復できたら、もう一度確認してみましょう。何かわかるかも知れません」
私が触ろうとして床に落ちて割れてしまったあの珠。修復は出来ると聞いてほっとしたことを思い出す。私には力がないから関係ないものだと思っていた。
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