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87 差し込んだ光
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宙を見つめる母と目が合った思ったのは気のせいだろうか。
そのまま映像はフェイドアウトするように消えていった。
あれは痛みが見せた私の妄想?
それとも真実の姿?
痛みは朦朧とした意識を覚醒させるが、あまりの痛みに現実逃避しているとも考えられる。
財前さんと私が急にいなくなったことについて、話していたのは恐らくは本当のことだろう。あんなリアルな妄想をするはずがない。
痛みで麻痺した頭でそう結論づけた。
では、家族の言動は? 私のことを心配し憔悴仕切っていた。
もしあれが真実の姿なら、私は家族のことを誤解していたことになる。
勝手にしろと言われたのも、好きにしていいという意味だったのかも知れない。
少なくとも学費は面倒を見てくれていたのだから。
本当に反対していたなら、そんなこともしてくれなかったはず。
意地を張っていないで帰ってこいという言葉も、心配していると言いたかったのかも。
それなら父も母も自分から会いに来てくれれば良かったのに。
そう思ったが、意固地になった私が素直に両親を自分の部屋に招き入れたかどうかはわからない。
でも、何もかも遅い。
もうあそこには帰れない。私はここで闇に取り込まれていつしか朽ちていくのだ。
砂に水が染み込むように、私の体に闇が取り込まれていく。それは宇宙空間のように果てのない闇だった。
もうどこが境目かもわからない。痛みはまだ全身を苛んでいたが、手足の力が抜けて藻掻く気力も無くなっていた。
『アドルファスさん…』
私がいなくなったことにもう気づいたかな。
私を探そうとして、前のように無理をしたらどうしよう。
もう彼が吐き戻しても私はそれを受け止めることができない。
きっとこれから彼の所にまた縁談が舞い込んでくるだろう。
その中に彼が心を傾ける人がいたらいいな。
それを見なくて済むのが、せめてもの救いだ。
彼が私以外の人の手を取り、微笑み、あの仮面を取り払うことを想像し、嫉妬心が沸き起こる。
その人が彼のことを傷のせいで拒んだらどうしよう。私ならあの傷に手を触れキスをしてあげるのに。
私が犠牲になって魔巣窟が無くなったら、皆幸せになるかな。きっとそうだ。
そうだといいな。
お父さん…お母さん…お兄ちゃん、お姉ちゃん…
もう力が入らない。
『アドルファス…会いたい…会いたい』
「ユイナ」
そう、あのバリトン風の耳に心地良い声で名前を呼ばれたい。
唯奈という漢字ではなく、ちょっと緩めの軽い雰囲気で…
「ユイナ!」
パチリと、閉じていた目を開ける。
真っ暗で何も見えないけど、靄が波打っているのがわかる。
目を凝らして見ると、ずっと上の方から何かが近づいてくるのが見えた
風速三十メートルの向かい風を浴びているようで、なかなか進まないが、力強いストロークで突き進んでくる。
白く輝く光の矢? 違う。ユラユラとうねりながら・・あれは髪?
ーアドルファス?!
さっきの父達のように幻影ではないか。
一瞬そう思ったけど、掻き分けてくる空気の流れが、ビンタのように頬を打ち、それが現実だと理解した。
重い体を動かして水泳のターンのように空中を蹴って、向かってくる彼に縛られた両手を伸ばした。
後少し、もう少しで届く。精一杯体を伸ばして彼を迎える。
指先が触れ、次いでもう離さないとばかりに指を絡める。
「捕まえた。ユイナ」
絡めた手をぎゅっと握り、その腕で私を抱き寄せた。
暗闇の中でアドルファスさんのアイスブルーの瞳が一等星のように輝いている。長い銀髪が顔の周りを明るく照らしている。
「さあ、ユイナ、帰りましょう」
アドルファスさんが触れると手足を縛っていた縄がするりと解けた。
これは夢? 最後に神様が見せてくれた幸せな夢。
「会いたかった」
その言葉を最後に私は意識を失った。
そのまま映像はフェイドアウトするように消えていった。
あれは痛みが見せた私の妄想?
それとも真実の姿?
痛みは朦朧とした意識を覚醒させるが、あまりの痛みに現実逃避しているとも考えられる。
財前さんと私が急にいなくなったことについて、話していたのは恐らくは本当のことだろう。あんなリアルな妄想をするはずがない。
痛みで麻痺した頭でそう結論づけた。
では、家族の言動は? 私のことを心配し憔悴仕切っていた。
もしあれが真実の姿なら、私は家族のことを誤解していたことになる。
勝手にしろと言われたのも、好きにしていいという意味だったのかも知れない。
少なくとも学費は面倒を見てくれていたのだから。
本当に反対していたなら、そんなこともしてくれなかったはず。
意地を張っていないで帰ってこいという言葉も、心配していると言いたかったのかも。
それなら父も母も自分から会いに来てくれれば良かったのに。
そう思ったが、意固地になった私が素直に両親を自分の部屋に招き入れたかどうかはわからない。
でも、何もかも遅い。
もうあそこには帰れない。私はここで闇に取り込まれていつしか朽ちていくのだ。
砂に水が染み込むように、私の体に闇が取り込まれていく。それは宇宙空間のように果てのない闇だった。
もうどこが境目かもわからない。痛みはまだ全身を苛んでいたが、手足の力が抜けて藻掻く気力も無くなっていた。
『アドルファスさん…』
私がいなくなったことにもう気づいたかな。
私を探そうとして、前のように無理をしたらどうしよう。
もう彼が吐き戻しても私はそれを受け止めることができない。
きっとこれから彼の所にまた縁談が舞い込んでくるだろう。
その中に彼が心を傾ける人がいたらいいな。
それを見なくて済むのが、せめてもの救いだ。
彼が私以外の人の手を取り、微笑み、あの仮面を取り払うことを想像し、嫉妬心が沸き起こる。
その人が彼のことを傷のせいで拒んだらどうしよう。私ならあの傷に手を触れキスをしてあげるのに。
私が犠牲になって魔巣窟が無くなったら、皆幸せになるかな。きっとそうだ。
そうだといいな。
お父さん…お母さん…お兄ちゃん、お姉ちゃん…
もう力が入らない。
『アドルファス…会いたい…会いたい』
「ユイナ」
そう、あのバリトン風の耳に心地良い声で名前を呼ばれたい。
唯奈という漢字ではなく、ちょっと緩めの軽い雰囲気で…
「ユイナ!」
パチリと、閉じていた目を開ける。
真っ暗で何も見えないけど、靄が波打っているのがわかる。
目を凝らして見ると、ずっと上の方から何かが近づいてくるのが見えた
風速三十メートルの向かい風を浴びているようで、なかなか進まないが、力強いストロークで突き進んでくる。
白く輝く光の矢? 違う。ユラユラとうねりながら・・あれは髪?
ーアドルファス?!
さっきの父達のように幻影ではないか。
一瞬そう思ったけど、掻き分けてくる空気の流れが、ビンタのように頬を打ち、それが現実だと理解した。
重い体を動かして水泳のターンのように空中を蹴って、向かってくる彼に縛られた両手を伸ばした。
後少し、もう少しで届く。精一杯体を伸ばして彼を迎える。
指先が触れ、次いでもう離さないとばかりに指を絡める。
「捕まえた。ユイナ」
絡めた手をぎゅっと握り、その腕で私を抱き寄せた。
暗闇の中でアドルファスさんのアイスブルーの瞳が一等星のように輝いている。長い銀髪が顔の周りを明るく照らしている。
「さあ、ユイナ、帰りましょう」
アドルファスさんが触れると手足を縛っていた縄がするりと解けた。
これは夢? 最後に神様が見せてくれた幸せな夢。
「会いたかった」
その言葉を最後に私は意識を失った。
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