【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
88 / 118

88 聖女の能力

しおりを挟む
 長い夢を見ていた気がした。

 ひどく懐かしい。それでいて切ない。

「う…」

 頭を動かすと鋭い痛みが襲ってきた。

「先生、目が覚めた?」
「財前…さん?」

 顔を動かすと、私の顔を心配そうに覗き込む財前さんがいた。側には副神官長や魔塔主補佐もいる。

「良かった。私が誰かわかるんですね」

 私が彼女の名前を呼んだことで安心している。

「ここは?」

 見回すと見慣れない部屋にいることがわかった。

「ここは神殿の中です」
「神殿…あ、財前さん魔巣窟!」

 なぜ彼女がここにいるのか。

「落ち着いて先生、先生は一週間も眠っていたんですよ」
「い、一週間?」
「何があったか、覚えていますか?」

 そう聞かれて、眉間に皺を寄せて考える。

「私…王宮の宴に出ていて…」
「その宴で、先生は魔塔主に拉致されたんです。あ、元魔塔主ですね」

 拉致され、荒野で目が覚めて、それから魔巣窟へと落とされたことを思い出した。

「私、どうして? あの人に確かに落とされたのに」

 助かったのだとわかるが、落とされてからの記憶が曖昧だ。

「もう少し早くたどり着いていれば間に合ったんですが、すみません」

 アドキンスさんが頭を下げて謝った。

「まさか王宮から拉致するとは思っていませんでした。ですが、今の王宮の結界は彼が手を加えたもの。容易に破れたのでしょう」

 王宮には外から魔法と物理的攻撃に対して結界が張られている。またその結界の中でも研究室や許可を得た以外で魔法を使用することは禁止されていて、使えば直ちに通報が守備隊に行く。だが、それも彼は時間的余裕が出来るように手を加えていたそうだ。

「マルシャルが何か企んでいるのではと疑い、ずっと見張っていたのです」
「そうです。私もアドキンス殿からそれを聞いて、あの日、陛下にそのことを伝え、対策を取るところだったのです。ただ、彼が何を企んでいるのかまではわからなかった。しかしそれを察したのでしょう、あのような暴挙に出るとは。我々の判断ミスです」

 話を聞くうちに徐々に彼が話したことを思い出した。

「最初に二人が召喚されたことが不思議でした。単なる事故なのか、それとも意図的なのか。ですが、あの時の魔法陣はマルシャルの手ですぐに消されてしまって、すぐには確認できませんでした」

 アドキンスさんはそれで暫く様子を見ようと考えたらしい。

「『判定の玉』が割れたのも、あなたの過失なのか事故なのか、それもわかりませんでした。あの時、あなたのことも判定出来ていたなら、違う結果になっていたかもしれません」
「あの、あの人は…」
「魔塔の地下で魔法封じの鎖で拘束しております。何があったのか、あなたの話も聞かなければ決断をくだせませんからね。目が覚めるまで待つしかありませんでした」

 マルシャルの言い分は大方私に語ったとおりだった。

「生贄など、この世界のどの国でも禁じられていることです。生贄を捧げて、仮に魔巣窟が一掃されたとして、誰も彼を讃えることはない。だから過去の魔塔主はその方法を行うことを躊躇ったのでしょう」
「聖女を召喚することも、一種の生贄だと思うけど。命をかけるかかけないかだけの違いでしょ」

 財前さんがチクリと嫌味を言う。それには彼らも二の句が継げなかった。

「あの、そう言えば、アドルファスさんは?」

 彼の姿がないことを不思議に思った。
 私が何日も目を覚まさなかったら、一番に心配してくれるであろう人がここにはいない。

「彼は陛下に呼ばれて今回の件の後始末をしているの。先生が目覚めたら教えてくれって言われているから、すぐに伝えるわ」

 財前さんがそう教えてくれた。

「そう…」

 何か腑に落ちなかったが、それだけ彼が頼りにされているからだろうと思った。

「私ね、夢を見たの」
「夢を?」
「そう、夢…だったのかな。夢の中で家族が出てきたの。私と財前さんがいなくなって大騒ぎしていた。財前さんが誘拐されて、私が巻き込まれたんじゃないかって」
「誘拐・・そんな風になっちゃんんだ。そうだよね。突然二人の人間が姿を消したんだもの」

 ひと昔前なら神隠しだと騒がれただろう。

「それから、アドルファスさんが靄の中を泳ぐようにして私を助けに来てくれる夢」

 暗闇にたなびく彼の銀髪が希望の光のように思えた。

「私、どうやって助けられたの?」

 自分で這い上がった記憶がない。ならやはりアドルファスさんが?

「私達が駆付けた時は全身真っ黒になって地面に横たわっていたんです。どこが頭でどこが前か後ろかわかんなかったんですよ」
「真っ黒?」
「そう、あれが瘴気だったのかな、慌ててカザールさんと浄化しようとして、力を注いだら、突然先生が光りだして、あっという間に黒いものが小さくなっていって、ピンポン玉くらいになったの」
「ぴ?」

 ピンポン玉が何なのかアドキンスさんとカザールさんには伝わらなかった。

「それはどうでもいい。要は先生を包んでいた靄がするするするって小さく濃縮されて、最後は消えちゃったの」

 いちいち説明が面倒くさいのか財前さんは、彼らの疑問を無視して話を進めた。

「それで、摩巣窟は?」
「どういうわけか、濃度が薄くなって、あの後すぐに聖女殿に浄化していただきました」
「予定より少し早かったですが、ユイナ様のお陰です」
「私の?」
「ええ、あなたにも聖女様の浄化の力が宿っていました」
 私にも聖女の力があった。

 実感はないけど、アドルファスさんが発作を起こした時に何か力が発動したのだろうか。

「はっきりそれを証明するには『判定の玉』が必要です。それもマルシャルが修復すると言っておりましたが、偽物を用意して本物は修復せずに放置していたようなのです。ですから修復までまだ数日かかります」
「でも、私たちが駆けつけたときの状況を見れば、先生に浄化の力があるのは皆認めているわ」

 何の力もないおまけだと思っていたのに、聖女だと急に言われて、私はこれからどうなるのだろう。

「もちろん、聖女と認定されたからには今までのようにはいきません。神殿でレイ様と共にお世話させていただきます」
「それは・・」
「レインズフォード家の後見は不要ということです」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました

九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。 それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。 侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。 ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。

処理中です...