【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
114 / 118

114 王都に戻って

しおりを挟む
 アドルファスのご両親に見送られボルサットを後にして、再び転移ゲートを使って王都へと戻った。

 レディ・シンクレアにナターシャ様の記憶が戻ったことを伝えると、彼女の目からブワッと涙が溢れた。
 そんな風に泣く彼女を初めて見たので驚いた。

「ありがとう、ユイナさん。あなたは我が家に幸運をもたらす神様の使徒だわ」

 天使と悪魔と言う言い方はこの世界にはなく、神様の使徒というのが、天使のことだろう。

「そうそう、ボルタンヌ商会から色々と届いているのよ」

 そう言ってレディが見せてくれたのは、ブラとショーツの上下セットが五セット。

 デザインもオーソドックスなものからシルク素材のもの、レースをふんだんに使ったもの、ハーフカップのものなどだった。

「すごい、初めて作ったとは思えません」

 手で触ってみて、その完成度の高さに驚く。
 ドレスだけ見ても元々ドレスなど着たことがないので、その良し悪しはよくわかない。

 でも彼女が作ったブラとショーツを見ると、彼女のデザイナー、仕立て屋としての技量がよくわかった。
 わたしの着ていたものひとつから、よくこれほど作れたものだ。

「実は先に出来たものを見せてもらったのだけど、わたしの寸法ですぐに作ってもらうよう頼んであるの」
「え、レ、レディがこれを身につけられるのですか?」
「あら、私もまだまだ現役のつもりですわよ」

 などと言って胸を張る。

「それに、ボルタンヌも、新しい分野を開拓できて張り切っていたわ。当分は口コミで仕事をしていくそうですけど、もっと人を入れて、下着専門の店を構えるそうよ」
「そ、そこまで発展しているなんて」
「けれど、それはまだまだ先の話らしいわ。いきなりこれを店頭に置いても誰も来ないでしょう。下着をオーダーメイドするなど、これからの分野ですから。そう簡単には概念は覆りません」
「では、レディと、それから財前さんにも顧客になってもらいましょう。まずはそこから手を広げていっては?」

 貴婦人の中で、未だに絶大な影響力を持つ彼女が気に入って使っている。また聖女も使っているとなれば、宣伝効果は抜群だ。

「私もそう思ったのだけど、聖女様のことは思いつかなかったわ」

「彼女の年代に合うデザインも必要ですね」

「ユイナに商才があるとは思いませんでした」

 そんな私達の話を真横で聞いていたアドルファスがボソリと言った。

「本当ならこのような場、男性には席を外すべきだと言うところですよ」

 レディが眉根を寄せて非難する。
 下着を広げている場所に男性がいるなど駄目ですよ。と言われたけど、彼はユイナが関わることなら知っておきたいと引かなかった。

「すみません、でもユイナのことなら何だって興味があります」
「仕方ありませんね」

 そんな彼をレディは優しく受け入れる。孫には甘いのがよくわかる。

「でも確かに、ボルタンヌの商魂に火を点けるなんてすごいわ」
「いえ、ただこれは異世界のものというだけで、私は何も発明していません」
「でも、あなたがこの世界に来たことで私達の生活が良い方向に変わったのは確実です。たとえ既存のものから発したこととは言え、それを私達にもたらしてくれたのはあなたですもの」
「そうです。きっとユイナは歴史に名を残す存在になるでしょう」
「歴史…そんな」

 ちょっと怖くなってしまった。


 王都に戻って二日後、私は「潔斎の儀」に挑んだ。

 前日から神殿に泊まり込み、清めを行った後、神殿の奥深くで祈りを捧げた。

 円堂型になった密閉された部屋の中、おそらくどこかに空気穴があるのだろう。蠟燭がユラユラ揺れている。
 祈りのために整えられた祭壇のようなところには、膝をついても痛くないようにクッションが置かれている。

 そこへ膝をついて、顔の前で手を合わせた。

 静かな空間、聞こえるのは自分の息遣いのみ。心臓の音さえ聞こえてきそう。激しく走った後には血液が体を巡る音も聞こえてくるが、それはそんな状況に似ていた。

 この世界に来て、こんな風に静かな時を過ごすのは初めてだった。
 頭の中に生きてきたこれまでの記憶が浮かんでくる。

 異世界に連れてこられ、聖女じゃないと言われて、アドルファスに引き取ってもらった。
 出会った頃から優しかったアドルファス。

 彼のことを考えると自然と口元が綻ぶ。

 私にどんな力があるにせよ、これからはこの世界のため、皆のため、何より彼のため、生きていきたい。

 私一人が出来ることなど、たかが知れている。全ての人を幸せに導くなど出来ない。

 誰かにとっての幸せが、全ての人の幸せとは限らない。
 欲望全てを叶えることはできない。

 それでも、今日はいい日だった。そう人々が私に出会ってそう思ってくれるなら、少しは助けになれたら。

 そう願った。

 まだまだ私にどんな力があるのかわからない。
 全属性があると言われても、浄化以外の力は感じられない。

 次第に体の内側から仄かに温かい何かが湧き上がり、やがて私の体から光が放たれた。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました

九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。 それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。 侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。 ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。

処理中です...