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8 厩での出来事(謎の男目線)
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食事をしながら、常に周囲を警戒していた。
自分に向けられる視線がないか。
出入口が見える位置に座り、肉にかぶりつきながら、出入りする者を観察する。
気づいたのは、だからだった。
その時入ってきたのはけっこうな美少年だった。
ほっそりとした体躯、すんなり伸びた手足、黒髪を無造作に首の後ろで束ね、瞳の色は、食堂の灯りだけではよくわからないが、紫か?
アーモンド型のきりりとした目元に、すっと通った鼻筋、薄すぎず厚すぎない口は、うっすら笑みを浮かべ、食堂内をちらりと一瞥してから食堂の娘と何やら会話をしている。今はほとんど満席だった。
娘の頬や耳が仄かに赤くなってのがわかる。
ヒラヒラと娘に手を降り、その少年は食堂を出ていった。
こちらには全く気づいていなかったように思う。追っ手ではなかったのだろう。追っ手があんな様相では、目立って仕方がない。そうなら人選ミスだ。
食事を終え、少し部屋に戻って一息ついたら、暗いうちに出発しよう。
ここには食事と暫しの休憩に立ち寄っただけだ。ずっと馬を飛ばして来たので、馬にも休憩が必要だ。宿の馬丁はちゃんと世話をしてくれただろうか?
暫く食堂内の様子を見渡しながら座っていると、少しずつ空席が増えてきた。
あまり席が空きすぎると目立ってくるので、そろそろ出立の用意をしようと、テーブルの上に代金を置き、食堂を出て厩に向かった。
この宿は食事も旨かったし、厩もそれなりにキレイだ。いい宿なのだろう。急ぐ旅なので、部屋を取らずに通過するだけなのが残念だ。
厩の前まで来ると、人がいるのがわかった。
警戒して、すっと扉の隙間から中に入る。
我ながら、ここ数年で気配を消すのが上手くなった。
奥の方で足音が聞こえる。聞こえる声は囁き程度で、おそらく馬に話しかけているのだろう。
パッと馬房の中から出てきたのは、先程見かけた少年だった。
馬の前に水と飼い葉の入ったバケツを置き、馬がそれに頭を突っ込んで食べるのを眺めている。
不意にぐううううう、と盛大な音が聞こえて、それが少年のお腹から発せられたことに気づいた。
「そろそろ食堂は空いてきたかな」
耳に心地よい、少し低めのボーイソプラノといったところか。
思わずクスリと笑ってしまった。
その声に、パッと少年がこちらを見た。
気配なく近づいていたので、驚いた様子だった。
厩の灯りを受け、キレイな紫の瞳と視線が合った。
狼狽えておかしな悲鳴をあげるのも面白かった。
フードを被るこちらの顔がわからないため、どう対応していいか困っているのも面白かった。
「たった今済ませた所だ。お兄さんで、合ってるよ」
こちらを警戒してピリピリとしている。
野良猫みたいだ、と思った。
いや、あっちが子ネズミで、こっちは猫か?
通りすぎる際に間近でそのキレイな顔を眺めた。
全身で自分を警戒している。気配に敏感なのだろう。見かけより腕が立つのかも知れない。
からかわれたのが面白くなかったのか、厩を出る時、皮肉たっぷりに言われた。
「バイバイ、自称お兄さん」と
まだまだ若いと意気がっている親父のように言われた。
いや、多分、まだまだお兄さんだろ!
暫く厩の入り口を呆気に取られて眺めていた。
すっと愛馬の鼻息が顔にかかり、現実に戻って、馬に鞍をつけ、出立の準備をした。
一日でも早く王都に着かなくてはいけないのだ。
自分に向けられる視線がないか。
出入口が見える位置に座り、肉にかぶりつきながら、出入りする者を観察する。
気づいたのは、だからだった。
その時入ってきたのはけっこうな美少年だった。
ほっそりとした体躯、すんなり伸びた手足、黒髪を無造作に首の後ろで束ね、瞳の色は、食堂の灯りだけではよくわからないが、紫か?
アーモンド型のきりりとした目元に、すっと通った鼻筋、薄すぎず厚すぎない口は、うっすら笑みを浮かべ、食堂内をちらりと一瞥してから食堂の娘と何やら会話をしている。今はほとんど満席だった。
娘の頬や耳が仄かに赤くなってのがわかる。
ヒラヒラと娘に手を降り、その少年は食堂を出ていった。
こちらには全く気づいていなかったように思う。追っ手ではなかったのだろう。追っ手があんな様相では、目立って仕方がない。そうなら人選ミスだ。
食事を終え、少し部屋に戻って一息ついたら、暗いうちに出発しよう。
ここには食事と暫しの休憩に立ち寄っただけだ。ずっと馬を飛ばして来たので、馬にも休憩が必要だ。宿の馬丁はちゃんと世話をしてくれただろうか?
暫く食堂内の様子を見渡しながら座っていると、少しずつ空席が増えてきた。
あまり席が空きすぎると目立ってくるので、そろそろ出立の用意をしようと、テーブルの上に代金を置き、食堂を出て厩に向かった。
この宿は食事も旨かったし、厩もそれなりにキレイだ。いい宿なのだろう。急ぐ旅なので、部屋を取らずに通過するだけなのが残念だ。
厩の前まで来ると、人がいるのがわかった。
警戒して、すっと扉の隙間から中に入る。
我ながら、ここ数年で気配を消すのが上手くなった。
奥の方で足音が聞こえる。聞こえる声は囁き程度で、おそらく馬に話しかけているのだろう。
パッと馬房の中から出てきたのは、先程見かけた少年だった。
馬の前に水と飼い葉の入ったバケツを置き、馬がそれに頭を突っ込んで食べるのを眺めている。
不意にぐううううう、と盛大な音が聞こえて、それが少年のお腹から発せられたことに気づいた。
「そろそろ食堂は空いてきたかな」
耳に心地よい、少し低めのボーイソプラノといったところか。
思わずクスリと笑ってしまった。
その声に、パッと少年がこちらを見た。
気配なく近づいていたので、驚いた様子だった。
厩の灯りを受け、キレイな紫の瞳と視線が合った。
狼狽えておかしな悲鳴をあげるのも面白かった。
フードを被るこちらの顔がわからないため、どう対応していいか困っているのも面白かった。
「たった今済ませた所だ。お兄さんで、合ってるよ」
こちらを警戒してピリピリとしている。
野良猫みたいだ、と思った。
いや、あっちが子ネズミで、こっちは猫か?
通りすぎる際に間近でそのキレイな顔を眺めた。
全身で自分を警戒している。気配に敏感なのだろう。見かけより腕が立つのかも知れない。
からかわれたのが面白くなかったのか、厩を出る時、皮肉たっぷりに言われた。
「バイバイ、自称お兄さん」と
まだまだ若いと意気がっている親父のように言われた。
いや、多分、まだまだお兄さんだろ!
暫く厩の入り口を呆気に取られて眺めていた。
すっと愛馬の鼻息が顔にかかり、現実に戻って、馬に鞍をつけ、出立の準備をした。
一日でも早く王都に着かなくてはいけないのだ。
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