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49 第一近衛騎士団団長

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ミハイルは途中でサミュエルと別れ自分の部屋に戻ると、怒りに任せてドサリと椅子に座りこんだ。

悪態をつかなかったのは、育ちの良さのおかげだ。

八つ当たりだと、わかっている。

自分とて、第一近衛騎士団の領分である王宮内でのことに口を出されたら腹が立つ。

今回の件について王弟殿下が被害を受けたとは言え、ことは王都内で起こったことだ。
管轄外なのだから仕方ない。

キルヒライル殿下が密かにここに戻ってきた時は、第一近衛騎士団団長として、宴までの間の彼を護ってきた。

信頼されていると思っていた。

それが裏切られたように、自分が勝手に思っているだけだ。

「失礼します」

扉を叩く音がして、侍従のキンバリーがお茶を持って入ってきた。

「お前か」

ミハイルは彼が苦手だった。

五年前から自分の侍従として側にいるが、個人的な話は一切しようとせず、時折どこかに雲隠れする。
仕事はきちんとこなしているので、首にすることもできないでいるが、蛇のような目は何を考えているかまったく読めない。

「何かお腹立ちなことでも?」

こちらが笑っていようと怒っていようと、これまでご機嫌を伺うようなことを一度も言ったことがない侍従が、珍しいことを言ってきたので、ミハイルはおやっと思った。

「私の機嫌がどこにあろうと、お前に何か関係があるのか?」

「もしお腹立ちなことで、私でお役に立てればと」

「驕るにも程がある。たかが侍従に何ができるというのだ」

火に油とはまさにこのことだ。燻っていた怒りが燃え上がった。

「出すぎたことを申しました。どうかおゆるしください」

怒鳴られ侍従は謝ったが、その場を立ち去ろうとはしなかった。

平伏して赦しを請う侍従の様子に、ミハイルは声を荒げたことに気づき、眉間に手を当て深呼吸して怒りを静めた。

プライドは人一倍高いが、上に立つ者として下位の者に対して傍若無人な振る舞いをすることはあってはならないことだと教師に教えられた。

いくら機嫌が悪くとも、感情のままに接するべきではなかった。

「声を荒げて悪かった。用があれば呼ぶ。もう下がっていい」

そう言ったが、いつもならそこで引き下がる侍従が、今日はどういう訳かその場から立ち去ろうとしない。

「どうした?何か用があるのか?」

「卿のお怒りは、エドワルド公爵と関係があるのでしょうか?」

侍従の言葉にミハイルは表情を強張らせた。

「どういう意味だ?」

「いえ、特に意味はございません。最近、この王宮で変わったこと言えばエドワルド公爵が六年ぶりにご帰還されたことですので、先ほどもお会いになられたご様子でしたので」

たかが侍従と思っていたが、ミハイルの思い過ごしだったのか。
五年も顔を付き合わせていたのに、初めて見るように侍従の顔を見た。

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