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35 闇の天使③
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「ちょっと頭が良くて顔がいいからとチヤホヤされていい気になって、そのくせ俺は別に興味はありません、みたいに澄ました顔して、さも当然だという態度が気に食わないんだよ」
つまりジュストが賢くて顔も良くて、モテるのが気に入らない。その上、その状況を自慢して喜ぶわけでもないことが彼らの気に障ったようだ。自慢しまくる方が苛つくだろうが、それはそれできっと難癖つけてくるに違いない。
「俺は別にそうしてほしいと頼んでいるわけではありません。皆、好意でやってくれているだけです」
「は?それが気に入らないって言ってるんだ。アベリーと二人で『闇の天使』『光の天使』とか言われて、女どもを侍らせて」
銀髪のステファンが『光の天使』。二人並ぶとさぞかし圧巻だろう。
「ステファンがそのことをどう思っているかわかりませんが、それは自分から言いふらしたわけでもない。他人の言動に対して全て制御することはできない。だが、ステファンが『光の天使』と呼ばれるのは俺も気に入らない。天使はどう見てもギャレットだ。金髪で『光の天使』と呼ばれるに相応しい」
そう言ってこちらを肩越しに振り返り、微笑む。目の中に入れても痛くないと言った感じで。
「へ? あ、兄上…」
ステファンならそんなことを言われて満更でもないと言っていそうである。
でもここでそれを言ったら火に油だろう。
照れて俯きながらジュストの腕を掴む。
「ほら、かわいいだろ? ああ、君たちにはわからなくて結構だ」
「はあ? ふざけてるのか!」
相手は六人。しかも皆体格もいいしかなりご立腹である。
しかしジュストは一歩も引かず、毅然とした態度で彼らに向き合っている。
やせ我慢かと思いきや、ジュストの手は少しも震えていない。
ギャレットと同じくジュストに庇われているレーヌの方が青ざめ、大袈裟なくらいカタカタと怯えている。
ギャレットはジュストの背中を見上げる。まだ十五歳だと言うのに、その背中はとても広く頼もしい。
周りの人たち遠巻きにこちらの様子を見守っている。
人目もあるし、いくら乱暴でがさつでも、相手も一応貴族のお坊ちゃんたちだ。街のゴロツキのように手を出してくるとは思えないが、辺りに緊張感が漂っていて、ギャレットは固唾を呑んで相手の出方を待った。
「お前の弟のことなど、どうでもいい!」
「どうでもいい?」
ベルンの吐き捨てるような言い方に、ジュストの声が一段低くなった。
「お前、今何て言った?」
ジュストから立ち昇る怒気に、相手も何か悟ったようだ。
「あに、うえ?」
「お前だと? 上級生に向かって」
「上級生が聞いて呆れる。寄ってたかって下級生に対して、数にものを言わせて言いがかりをつけるのが上級生か」
「な、何を!」
ジュストの挑発にベルン達が怒りを顕にする。
「そうよね」
「やだわ。モテない男の僻みかしら」
「ジュスト様に嫉妬しているのよ」
そんな声が背後から聞こえた。
それは彼らにも聞こえたらしく、後ろにいた者たちが一瞬にして弱腰になった。
「お、おいベルン、もうやめよう。このままでいくと俺たちのここでの立場が悪くなる」
「俺は辺境伯領主の嫡男だ。伯爵と言えども国境を預かる我が家は侯爵家にも劣らない権力を持っている。何を躊躇する」
ベルンは辺境伯領主の息子なのか。爵位は伯爵でも、実権はモヒナート家より上らしい。貴族社会は家格が物を言う。だから強気でジュストに言いがかりをつけられるのだ。
「そうじゃない。お前、わかっているのか。ここであいつをこれ以上攻撃したら、学園の女子全員を敵に回すことになるぞ」
どうやらお仲間は状況を読む能力が少しはあるようだ。ベルンの袖を引き、止めるよう説得しようと試みた。
「お前たち何を弱気になっている。『闇の天使』か何か知らないが、あんな黒髪で赤い目をした悪魔が天使だと、笑わせるな!」
ひときわ大きく叫んだベルンの声が、辺りに響いた。
つまりジュストが賢くて顔も良くて、モテるのが気に入らない。その上、その状況を自慢して喜ぶわけでもないことが彼らの気に障ったようだ。自慢しまくる方が苛つくだろうが、それはそれできっと難癖つけてくるに違いない。
「俺は別にそうしてほしいと頼んでいるわけではありません。皆、好意でやってくれているだけです」
「は?それが気に入らないって言ってるんだ。アベリーと二人で『闇の天使』『光の天使』とか言われて、女どもを侍らせて」
銀髪のステファンが『光の天使』。二人並ぶとさぞかし圧巻だろう。
「ステファンがそのことをどう思っているかわかりませんが、それは自分から言いふらしたわけでもない。他人の言動に対して全て制御することはできない。だが、ステファンが『光の天使』と呼ばれるのは俺も気に入らない。天使はどう見てもギャレットだ。金髪で『光の天使』と呼ばれるに相応しい」
そう言ってこちらを肩越しに振り返り、微笑む。目の中に入れても痛くないと言った感じで。
「へ? あ、兄上…」
ステファンならそんなことを言われて満更でもないと言っていそうである。
でもここでそれを言ったら火に油だろう。
照れて俯きながらジュストの腕を掴む。
「ほら、かわいいだろ? ああ、君たちにはわからなくて結構だ」
「はあ? ふざけてるのか!」
相手は六人。しかも皆体格もいいしかなりご立腹である。
しかしジュストは一歩も引かず、毅然とした態度で彼らに向き合っている。
やせ我慢かと思いきや、ジュストの手は少しも震えていない。
ギャレットと同じくジュストに庇われているレーヌの方が青ざめ、大袈裟なくらいカタカタと怯えている。
ギャレットはジュストの背中を見上げる。まだ十五歳だと言うのに、その背中はとても広く頼もしい。
周りの人たち遠巻きにこちらの様子を見守っている。
人目もあるし、いくら乱暴でがさつでも、相手も一応貴族のお坊ちゃんたちだ。街のゴロツキのように手を出してくるとは思えないが、辺りに緊張感が漂っていて、ギャレットは固唾を呑んで相手の出方を待った。
「お前の弟のことなど、どうでもいい!」
「どうでもいい?」
ベルンの吐き捨てるような言い方に、ジュストの声が一段低くなった。
「お前、今何て言った?」
ジュストから立ち昇る怒気に、相手も何か悟ったようだ。
「あに、うえ?」
「お前だと? 上級生に向かって」
「上級生が聞いて呆れる。寄ってたかって下級生に対して、数にものを言わせて言いがかりをつけるのが上級生か」
「な、何を!」
ジュストの挑発にベルン達が怒りを顕にする。
「そうよね」
「やだわ。モテない男の僻みかしら」
「ジュスト様に嫉妬しているのよ」
そんな声が背後から聞こえた。
それは彼らにも聞こえたらしく、後ろにいた者たちが一瞬にして弱腰になった。
「お、おいベルン、もうやめよう。このままでいくと俺たちのここでの立場が悪くなる」
「俺は辺境伯領主の嫡男だ。伯爵と言えども国境を預かる我が家は侯爵家にも劣らない権力を持っている。何を躊躇する」
ベルンは辺境伯領主の息子なのか。爵位は伯爵でも、実権はモヒナート家より上らしい。貴族社会は家格が物を言う。だから強気でジュストに言いがかりをつけられるのだ。
「そうじゃない。お前、わかっているのか。ここであいつをこれ以上攻撃したら、学園の女子全員を敵に回すことになるぞ」
どうやらお仲間は状況を読む能力が少しはあるようだ。ベルンの袖を引き、止めるよう説得しようと試みた。
「お前たち何を弱気になっている。『闇の天使』か何か知らないが、あんな黒髪で赤い目をした悪魔が天使だと、笑わせるな!」
ひときわ大きく叫んだベルンの声が、辺りに響いた。
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