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37 悪魔の瞳③
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表彰式が始まった。
三位はステファンが最後に戦った相手だった。
三位から順に陛下から賞品として剣が授与される。
ステファンと王太子殿下、三位のブラーウス子爵令息が肩を並べて立つと、拍手喝采が起こった。
ジュストが剣を賜った時には三位のブラーウスよりも大きな歓声が上がった。
もちろん優勝者の王太子殿下の時の歓声が一番大きかったが、ギャレットはジュストの晴れ姿に感感動しまくった。
(凄い、ジュストの準優勝を皆が祝ってくれている。もうぼっちとは言わせない)
ギャレットととの仲も良好どころかすこぶる良い。学園でも間違いなく人々から人望もあって成績もいい。
ジュストの人生は前途洋々。死亡エンドさよなら。
「私達は帰りましょう。カレンのお見舞いに行かなくては」
ステファンとレーヌとを残し、ナディアと学園を後にした。
カレンの容態はすっかり良くなっていた。病み上がりなので、気を使って長居することなく家に帰る馬車の中で、ナディアが呟いた。
「何だか疲れたわね」
「うん」
ヒロインのレーヌに会い、王太子殿下に会い、そしてトラブルもあって、母親以上にギャレットは疲れ切って、家に着く前に眠ってしまった。
色々あったからか、ギャレットは夢を見た。
その夢の中で、ギャレットは小説どおりの悪役令息になっていた。
ジュストを苛め抜き、彼を闇に染める。それでも飽き足らず最後はジュストが想いを寄せるレーヌに手を出した。
そして逆上したジュストに命を奪われる。
積年の恨みと大事な女性に手をかけた義弟に向ける憎悪でジュストの赤い瞳はその色味を増していた。
「わぁ!」
ジュストがギャレットに向かって剣を振り下ろした瞬間に目が覚めた。
「あ、僕の部屋」
馬車で寝てしまって、誰かが部屋まで運んでくれたのだろう。
服も着替えてある。
窓の外を見ればすっかり暗くなっている。
ドキドキと激しく打つ心臓の鼓動を感じ、キュッと胸の辺りを抑えた。
「大丈夫、あれは夢だ。ジュストが僕を殺すなんてあり得ない」
レーヌの言動はおかしかったが、ギャレットが彼女を虐めたわけではない。
「大丈夫」
何度も自分で自分に言い聞かせる。
フラグは立っていない筈だ。
でも、今日ジュストに向かってあの辺境伯領主の息子が口にした「悪魔の瞳」という言葉が耳から離れない。
小説ではジュストの過去の中でその言葉が出てきただけだった。
それはジュスト=モヒナートという人格を形成するためのエピソードのひとつとして、過去の彼の辛い記憶の中に登場する。
何度も何度もベルンの声でその言葉が蘇る。
フラグは完全に折れた。そう思っているのが自分の願望で、実はフラグは物語の強制力が働いて、いつでも立とうと狙っているのだとしたら?
パラレルワールドのような世界があり、平行線上の世界がどこかで交わり、ふとした拍子に別の世界に繋がり、ジュストとギャレットの運命が大きく変わっていくのではないか。
「兄上…」
ジュストを大事に思うこの気持ちもいつか変わるのだろうか。
夢の中で見たジュストの氷のように冷たい目が忘れられない。
普段は温かく自分に注がれる赤い瞳からの眼差しが、突き刺す氷の刃のような冷たさを帯びる時が来るのか。
言いしれない不安がギャレットを襲う。
殺される恐怖よりも、二度とジュストが自分にあの温かい眼差しを向けて微笑んでくれなくなることの方が、なぜかギャレットには恐ろしかった。
三位はステファンが最後に戦った相手だった。
三位から順に陛下から賞品として剣が授与される。
ステファンと王太子殿下、三位のブラーウス子爵令息が肩を並べて立つと、拍手喝采が起こった。
ジュストが剣を賜った時には三位のブラーウスよりも大きな歓声が上がった。
もちろん優勝者の王太子殿下の時の歓声が一番大きかったが、ギャレットはジュストの晴れ姿に感感動しまくった。
(凄い、ジュストの準優勝を皆が祝ってくれている。もうぼっちとは言わせない)
ギャレットととの仲も良好どころかすこぶる良い。学園でも間違いなく人々から人望もあって成績もいい。
ジュストの人生は前途洋々。死亡エンドさよなら。
「私達は帰りましょう。カレンのお見舞いに行かなくては」
ステファンとレーヌとを残し、ナディアと学園を後にした。
カレンの容態はすっかり良くなっていた。病み上がりなので、気を使って長居することなく家に帰る馬車の中で、ナディアが呟いた。
「何だか疲れたわね」
「うん」
ヒロインのレーヌに会い、王太子殿下に会い、そしてトラブルもあって、母親以上にギャレットは疲れ切って、家に着く前に眠ってしまった。
色々あったからか、ギャレットは夢を見た。
その夢の中で、ギャレットは小説どおりの悪役令息になっていた。
ジュストを苛め抜き、彼を闇に染める。それでも飽き足らず最後はジュストが想いを寄せるレーヌに手を出した。
そして逆上したジュストに命を奪われる。
積年の恨みと大事な女性に手をかけた義弟に向ける憎悪でジュストの赤い瞳はその色味を増していた。
「わぁ!」
ジュストがギャレットに向かって剣を振り下ろした瞬間に目が覚めた。
「あ、僕の部屋」
馬車で寝てしまって、誰かが部屋まで運んでくれたのだろう。
服も着替えてある。
窓の外を見ればすっかり暗くなっている。
ドキドキと激しく打つ心臓の鼓動を感じ、キュッと胸の辺りを抑えた。
「大丈夫、あれは夢だ。ジュストが僕を殺すなんてあり得ない」
レーヌの言動はおかしかったが、ギャレットが彼女を虐めたわけではない。
「大丈夫」
何度も自分で自分に言い聞かせる。
フラグは立っていない筈だ。
でも、今日ジュストに向かってあの辺境伯領主の息子が口にした「悪魔の瞳」という言葉が耳から離れない。
小説ではジュストの過去の中でその言葉が出てきただけだった。
それはジュスト=モヒナートという人格を形成するためのエピソードのひとつとして、過去の彼の辛い記憶の中に登場する。
何度も何度もベルンの声でその言葉が蘇る。
フラグは完全に折れた。そう思っているのが自分の願望で、実はフラグは物語の強制力が働いて、いつでも立とうと狙っているのだとしたら?
パラレルワールドのような世界があり、平行線上の世界がどこかで交わり、ふとした拍子に別の世界に繋がり、ジュストとギャレットの運命が大きく変わっていくのではないか。
「兄上…」
ジュストを大事に思うこの気持ちもいつか変わるのだろうか。
夢の中で見たジュストの氷のように冷たい目が忘れられない。
普段は温かく自分に注がれる赤い瞳からの眼差しが、突き刺す氷の刃のような冷たさを帯びる時が来るのか。
言いしれない不安がギャレットを襲う。
殺される恐怖よりも、二度とジュストが自分にあの温かい眼差しを向けて微笑んでくれなくなることの方が、なぜかギャレットには恐ろしかった。
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