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一緒に
深淵の嚥下※
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※刺激的な描写あり
サラダの取り皿が空になると、彼女はペーパータオルで満足げに唇や手指を拭った。
そして今度は迷いなく、焼きたてのピザを一切れ持ち上げる。
彼女が新しい取り皿にそれを乗せて、息を吹きかけて冷ますのを見届けてから、僕もそれに習う。
わたらいさんは、程よく冷ましたピザを自分の口に運ぶことなく、僕の唇に押し付けて来た。
「はい、あーんして。熱いから気をつけてね」
もしママが戻ってきたらと思うと、気が気ではなかった。視線だけで、ママが消えた出入り口付近を伺う。
わたらいさんは、「大丈夫だよ」と優しく囁く。僕の閉じた唇に、チーズの油分が塗りつけられる。
「食べてよ、今」
僕は彼女に言われるままに、恐る恐る口を開ける。わたらいさんの指が唇に触れんばかりに、口内にピザを押し込まれた。
「んんっ……」
一切れ全ては収まらず、僕はピザの柔らかい部分だけを噛み切った。
わたらいさんの手には、僕の歯形が残るピザの少し焦げた耳だけが残される。具材もソースも、ほとんど僕が食べてしまった。
「美味しい?」と微笑まれて、僕は素直に頷く。
僕の口内に残された彼女がくれた餌を、僕が雛鳥の如く嚥下するその瞬間、わたらいさんの瞳が爛々と、深夜の照明よりも鋭く光った。
僕は残りの部分を食べるために再び口を開ける。
しかし、わたらいさんはそれをなかなか口へ運んでくれない。
ピザを飲み込む僕の喉の動きを、わたらいさんはさっきから食い入るように見つめていた。
瞬間、彼女の細い指先が、迷うことなく僕の開いたままの唇を割り入った。
「……んっ、ぁ」
彼女の指が僕の舌の付け根を強く押さえ、強引にそれを外側へと引き出す。
口を閉じることができず、曝け出された僕の口腔に、ファミレスの冷房の空気が触れる。ひどく無防備で、情けない姿。
「んええっ……!」
舌を引っ込めようと必死に顎を引く。絶望を感じる間もなかった。
わたらいさんの顔が影を作り、僕の視界を塞いだ。
引き出された僕の舌を、彼女は自分の唇で包み込み、吸い付くようにして深く密着した。
「……っん、んぅ……うッ」
ピザのソースの塩気と、彼女の唾液が混ざり合い、僕の味覚は麻痺していく。僕の中に彼女の成分を強引に流し込み、内側から塗り替えられるようだった。
行き場を失った僕の唾液が口角から溢れ、一筋の糸を引いて顎を伝い落ちる。
ママがずっと守り続けてきた僕の清潔さが、汚い音を立てて崩壊していく。
わたらいさんは僕の舌を離さない。
逃げようとする身体を、舌先で執拗になぞり、絡め取り、自分の所有物であることを確かめるように何度も何度も吸い上げた。
脳が、焼けるように熱い。
視界の端で、ドリンクバーのメロンソーダが毒々しい緑色に光っている。
「……っはぁ……」
不意に、彼女の唇が離れた。
粘り気のある銀の糸が、二人の唇の間に長く伸び、そして静かに切れた。
「……ふふ。ごめん、ママが外にいるのにね」
わたらいさんは、僕の口角に伝った唾液を親指でゆっくりと拭うと、その指を慈しむように自分の舌で舐めとった。
その瞳には、僕を完全に汚したことへの、残酷なまでの達成感が宿っていた。
「……本当に、飲み込んじゃうんだね」
わたらいさんの声が、熱を帯びて湿っている。
「食べ物なんて、私が毒入れちゃうかもしれないのに。……ふふ。出会った時からそうだよね。ぺこは……そんなに無防備に、私を受け入れてくれるんだね」
彼女の指が、僕の喉元を這い上がる。嚥下に合わせて上下する喉仏の動きを、宝物を確認するように何度もなぞった。
「本当に、私……餌あげるの好きなのっ。好き好き大好きって、全部受け入れてもらえる気がして……っ」
わたらいさんの頬が微かに紅潮し、その身体が喜びに打ち震えているのが分かる。
僕は呼吸を整えるために開いたままだった口を一度閉じた。
「ああっ、どうしよう……なんか、変な気持ちになってきた……っ!」
わたらいさんは、まるで我慢しきれなくなった幼い獣のように、ボックス席の壁際に押し付ける。その隙だらけの僕の首筋に顔を埋めた。
「ねえ、噛んじゃってもいい? ハヤテくんの喉、食べてもいい?」
目と目を合わせて、確認される。
僕が答える前に興奮が抑えきれないような彼女が、無理矢理僕の顎を上に持ち上げた。
喉が剥き出しになる。わたらいさんの熱い吐息が、ママにさえ触れさせたことのない僕の急所に吹きかかっている。
「あ、え……」
言葉にならない。あらゆる刺激が強すぎた。
わたらいさんの口が開き、息を吸い込む音がする。嚥下に合わせて動く部分を包むように、そっと前歯が当てられる。
「あ、ああ……ッ」
本能的な恐怖で、咄嗟に彼女の肩を掴んで引き剥がそうとする僕の手を、わたらいさんは振り解くこともしない。
そのまま噛み付かれると思った。ぎゅっと目を瞑る。けれど、彼女はすぐに顎を引いてくれた。代わりに解かれた唇から滑り出したのは、熱くて湿った舌先だった。
「……っ!」
脈打つ喉をそっと、なぞり上げられる。
深夜のファミレスの喧騒に紛れるほどの、小さな、粘り気のある音とともに。
わたらいさんがすぐに姿勢を正した。
「ママに気づかれるとうるさいもんね。だから、今はこれだけ」
僕の口から引き抜かれたさっきのピザの耳を、彼女は手にしていた。自分の指先で、僕の歯形を慈しむように撫でている。
「……いいよね?」
彼女は、ゆっくりと、僕の痕跡が残る耳を舌の上に乗せた。僕の名残りが、彼女の体内に取り込まれていく。
僕も、ようやく姿勢を正した。
乾ききった喉を潤すために、メロンソーダをストローで飲む。
「美味しい?」
わたらいさんは、未だうっとりと夢見心地で囁く。
「喉のところが動くの、本当に可愛いね……。ねえ、もっと食べて。もっと私でいっぱいになって」
僕はストローから唇を離して、思わず自分の喉に触れた。彼女は僕のここに、僕にしか分からない熱を塗りつけた。
あの瞬間、彼女の歯が僕の皮膚を薄く、確かに捉えていた。怖い、痛いという感覚よりも先に、彼女の好きという狂気が、僕の首筋から全身の血管へと、新しい毒のように回り始めていた。
「……君もピザ食べてよ」
僕が喘ぐように呟くと、わたらいさんは真っ直ぐに僕の目を見据えたまま、雛鳥みたいに口を開けた。
「そろそろ、本当にママが帰ってきちゃう。お願いだから、自分で食べて」
僕が強い口調で促しても、わたらいさんは怯まない。
僕は全てを諦めて、自分の取り皿ですっかり冷えたピザを、彼女の口に運んだ。
ピザの柔らかいところを噛み切るその瞬間も、わたらいさんはずっと僕の目を挑発的に見据えたままだった。
サラダの取り皿が空になると、彼女はペーパータオルで満足げに唇や手指を拭った。
そして今度は迷いなく、焼きたてのピザを一切れ持ち上げる。
彼女が新しい取り皿にそれを乗せて、息を吹きかけて冷ますのを見届けてから、僕もそれに習う。
わたらいさんは、程よく冷ましたピザを自分の口に運ぶことなく、僕の唇に押し付けて来た。
「はい、あーんして。熱いから気をつけてね」
もしママが戻ってきたらと思うと、気が気ではなかった。視線だけで、ママが消えた出入り口付近を伺う。
わたらいさんは、「大丈夫だよ」と優しく囁く。僕の閉じた唇に、チーズの油分が塗りつけられる。
「食べてよ、今」
僕は彼女に言われるままに、恐る恐る口を開ける。わたらいさんの指が唇に触れんばかりに、口内にピザを押し込まれた。
「んんっ……」
一切れ全ては収まらず、僕はピザの柔らかい部分だけを噛み切った。
わたらいさんの手には、僕の歯形が残るピザの少し焦げた耳だけが残される。具材もソースも、ほとんど僕が食べてしまった。
「美味しい?」と微笑まれて、僕は素直に頷く。
僕の口内に残された彼女がくれた餌を、僕が雛鳥の如く嚥下するその瞬間、わたらいさんの瞳が爛々と、深夜の照明よりも鋭く光った。
僕は残りの部分を食べるために再び口を開ける。
しかし、わたらいさんはそれをなかなか口へ運んでくれない。
ピザを飲み込む僕の喉の動きを、わたらいさんはさっきから食い入るように見つめていた。
瞬間、彼女の細い指先が、迷うことなく僕の開いたままの唇を割り入った。
「……んっ、ぁ」
彼女の指が僕の舌の付け根を強く押さえ、強引にそれを外側へと引き出す。
口を閉じることができず、曝け出された僕の口腔に、ファミレスの冷房の空気が触れる。ひどく無防備で、情けない姿。
「んええっ……!」
舌を引っ込めようと必死に顎を引く。絶望を感じる間もなかった。
わたらいさんの顔が影を作り、僕の視界を塞いだ。
引き出された僕の舌を、彼女は自分の唇で包み込み、吸い付くようにして深く密着した。
「……っん、んぅ……うッ」
ピザのソースの塩気と、彼女の唾液が混ざり合い、僕の味覚は麻痺していく。僕の中に彼女の成分を強引に流し込み、内側から塗り替えられるようだった。
行き場を失った僕の唾液が口角から溢れ、一筋の糸を引いて顎を伝い落ちる。
ママがずっと守り続けてきた僕の清潔さが、汚い音を立てて崩壊していく。
わたらいさんは僕の舌を離さない。
逃げようとする身体を、舌先で執拗になぞり、絡め取り、自分の所有物であることを確かめるように何度も何度も吸い上げた。
脳が、焼けるように熱い。
視界の端で、ドリンクバーのメロンソーダが毒々しい緑色に光っている。
「……っはぁ……」
不意に、彼女の唇が離れた。
粘り気のある銀の糸が、二人の唇の間に長く伸び、そして静かに切れた。
「……ふふ。ごめん、ママが外にいるのにね」
わたらいさんは、僕の口角に伝った唾液を親指でゆっくりと拭うと、その指を慈しむように自分の舌で舐めとった。
その瞳には、僕を完全に汚したことへの、残酷なまでの達成感が宿っていた。
「……本当に、飲み込んじゃうんだね」
わたらいさんの声が、熱を帯びて湿っている。
「食べ物なんて、私が毒入れちゃうかもしれないのに。……ふふ。出会った時からそうだよね。ぺこは……そんなに無防備に、私を受け入れてくれるんだね」
彼女の指が、僕の喉元を這い上がる。嚥下に合わせて上下する喉仏の動きを、宝物を確認するように何度もなぞった。
「本当に、私……餌あげるの好きなのっ。好き好き大好きって、全部受け入れてもらえる気がして……っ」
わたらいさんの頬が微かに紅潮し、その身体が喜びに打ち震えているのが分かる。
僕は呼吸を整えるために開いたままだった口を一度閉じた。
「ああっ、どうしよう……なんか、変な気持ちになってきた……っ!」
わたらいさんは、まるで我慢しきれなくなった幼い獣のように、ボックス席の壁際に押し付ける。その隙だらけの僕の首筋に顔を埋めた。
「ねえ、噛んじゃってもいい? ハヤテくんの喉、食べてもいい?」
目と目を合わせて、確認される。
僕が答える前に興奮が抑えきれないような彼女が、無理矢理僕の顎を上に持ち上げた。
喉が剥き出しになる。わたらいさんの熱い吐息が、ママにさえ触れさせたことのない僕の急所に吹きかかっている。
「あ、え……」
言葉にならない。あらゆる刺激が強すぎた。
わたらいさんの口が開き、息を吸い込む音がする。嚥下に合わせて動く部分を包むように、そっと前歯が当てられる。
「あ、ああ……ッ」
本能的な恐怖で、咄嗟に彼女の肩を掴んで引き剥がそうとする僕の手を、わたらいさんは振り解くこともしない。
そのまま噛み付かれると思った。ぎゅっと目を瞑る。けれど、彼女はすぐに顎を引いてくれた。代わりに解かれた唇から滑り出したのは、熱くて湿った舌先だった。
「……っ!」
脈打つ喉をそっと、なぞり上げられる。
深夜のファミレスの喧騒に紛れるほどの、小さな、粘り気のある音とともに。
わたらいさんがすぐに姿勢を正した。
「ママに気づかれるとうるさいもんね。だから、今はこれだけ」
僕の口から引き抜かれたさっきのピザの耳を、彼女は手にしていた。自分の指先で、僕の歯形を慈しむように撫でている。
「……いいよね?」
彼女は、ゆっくりと、僕の痕跡が残る耳を舌の上に乗せた。僕の名残りが、彼女の体内に取り込まれていく。
僕も、ようやく姿勢を正した。
乾ききった喉を潤すために、メロンソーダをストローで飲む。
「美味しい?」
わたらいさんは、未だうっとりと夢見心地で囁く。
「喉のところが動くの、本当に可愛いね……。ねえ、もっと食べて。もっと私でいっぱいになって」
僕はストローから唇を離して、思わず自分の喉に触れた。彼女は僕のここに、僕にしか分からない熱を塗りつけた。
あの瞬間、彼女の歯が僕の皮膚を薄く、確かに捉えていた。怖い、痛いという感覚よりも先に、彼女の好きという狂気が、僕の首筋から全身の血管へと、新しい毒のように回り始めていた。
「……君もピザ食べてよ」
僕が喘ぐように呟くと、わたらいさんは真っ直ぐに僕の目を見据えたまま、雛鳥みたいに口を開けた。
「そろそろ、本当にママが帰ってきちゃう。お願いだから、自分で食べて」
僕が強い口調で促しても、わたらいさんは怯まない。
僕は全てを諦めて、自分の取り皿ですっかり冷えたピザを、彼女の口に運んだ。
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