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一緒に
致死量の解毒
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ファミレスの店内は、眩しいほどに白く、夢の中にいるように時々視界が霞んでしまう。
僕の手から食べさせられたピザを咀嚼するわたらいさんが、未だに僕の目を射抜いている。
時折ちらっと赤い舌を出して、唇についたピザソースを舐めとっている。
それだけで、これが本当に現実に起こっていることなのかどうか、分からなくなる。
ドリンクバーの機械が発する低い音と、時折聞こえる厨房の音。もともと客の少ない店内で、僕たちのテーブルだけが世界の果てに取り残されたような異様な静寂に包まれていた。
そうだとしたら、これは終わりなのだろうか。何かが始まる前の静けさなのだろうか。
ふいに自動ドアが開き、夜の湿った空気が店内の乾いた冷房と混ざり合うのが分かった。
ママが戻ってきたんだ。
その足音は、驚くほど正確なリズムで僕たちのテーブルへと近づいてくる。
わたらいさんは瞬時に、行儀の良い「恵ちゃん」に戻り、通路側の椅子に深く腰掛けた。
僕も慌てて、わたらいさんの歯形がついたピザの残りを口に放り込み、機械的に顎を動かす。
「お待たせ。電話、長引いちゃったわ」
ママは席に着くなり、まず卓上の空になったサラダの皿に視線を落とした。
「あら、二人ともお野菜全部食べたのね。偉いわ」
ママは満足げに目を細める。
そのまま、今度は冷めてしまった自分のコーヒーを、一口も飲まずにしばらく眺めていた。
「……恵ちゃんのご祖父母様にはお話ししておいたわよ」
ママはそう言って、冷めたコーヒーを一口飲んだ。カップがソーサーに戻る乾いた音が、耳障りなほどに響く。
「病院から一度ご自宅に戻られたけれど、鍵がなくて入れなかったそうよ。何度電話しても、出なかったって」
ママの瞳が、わたらいさんを静かに射抜く。それは一見、慈悲深い説教のようだが、実際のは、わたらいさんの逃げ場を完全に塞ぐ鋭い棘だった。
「でも、もう安心なさい。さっき事情を話して、全部納得していただいたから。
お二人とも、よほど安心なさったのか、涙声だったわ。わざわざ連絡をくれてありがとうって。
ダメよ、恵ちゃん。二度とお二人を不安にさせないと、私からしっかりお約束しておいたわ」
「はい……本当にご迷惑をおかけしました……」
わたらいさんは、さっきまで僕の喉を焼き尽くしていた獣のような面影を消し、ただ反省する少女として項垂れている。
僕たちがこの数分間で共有した甘い毒を、ママの正論が徹底的に解毒していく。
「さあ、残りを食べたらすぐにお家へ帰りましょう。恵ちゃんは、一度お家でお着替えを取ってくるのが一番合理的ね。
今夜はうちのリビングを使いなさい。お風呂、沸かしておくから」
何ひとつ、僕たちの意思が介在する隙間はない。
僕もわたらいさんも、ただ「はい」と短く、消え入るような声で答えることしか許されなかった。
僕らは、残りの冷めたピザをひたすら口に押し込む。
ママにバレないように飲み込んだはずのわたらいさんの唾液が、ママの正しさに晒されないようにメロンソーダで流し込んだ。
僕の手から食べさせられたピザを咀嚼するわたらいさんが、未だに僕の目を射抜いている。
時折ちらっと赤い舌を出して、唇についたピザソースを舐めとっている。
それだけで、これが本当に現実に起こっていることなのかどうか、分からなくなる。
ドリンクバーの機械が発する低い音と、時折聞こえる厨房の音。もともと客の少ない店内で、僕たちのテーブルだけが世界の果てに取り残されたような異様な静寂に包まれていた。
そうだとしたら、これは終わりなのだろうか。何かが始まる前の静けさなのだろうか。
ふいに自動ドアが開き、夜の湿った空気が店内の乾いた冷房と混ざり合うのが分かった。
ママが戻ってきたんだ。
その足音は、驚くほど正確なリズムで僕たちのテーブルへと近づいてくる。
わたらいさんは瞬時に、行儀の良い「恵ちゃん」に戻り、通路側の椅子に深く腰掛けた。
僕も慌てて、わたらいさんの歯形がついたピザの残りを口に放り込み、機械的に顎を動かす。
「お待たせ。電話、長引いちゃったわ」
ママは席に着くなり、まず卓上の空になったサラダの皿に視線を落とした。
「あら、二人ともお野菜全部食べたのね。偉いわ」
ママは満足げに目を細める。
そのまま、今度は冷めてしまった自分のコーヒーを、一口も飲まずにしばらく眺めていた。
「……恵ちゃんのご祖父母様にはお話ししておいたわよ」
ママはそう言って、冷めたコーヒーを一口飲んだ。カップがソーサーに戻る乾いた音が、耳障りなほどに響く。
「病院から一度ご自宅に戻られたけれど、鍵がなくて入れなかったそうよ。何度電話しても、出なかったって」
ママの瞳が、わたらいさんを静かに射抜く。それは一見、慈悲深い説教のようだが、実際のは、わたらいさんの逃げ場を完全に塞ぐ鋭い棘だった。
「でも、もう安心なさい。さっき事情を話して、全部納得していただいたから。
お二人とも、よほど安心なさったのか、涙声だったわ。わざわざ連絡をくれてありがとうって。
ダメよ、恵ちゃん。二度とお二人を不安にさせないと、私からしっかりお約束しておいたわ」
「はい……本当にご迷惑をおかけしました……」
わたらいさんは、さっきまで僕の喉を焼き尽くしていた獣のような面影を消し、ただ反省する少女として項垂れている。
僕たちがこの数分間で共有した甘い毒を、ママの正論が徹底的に解毒していく。
「さあ、残りを食べたらすぐにお家へ帰りましょう。恵ちゃんは、一度お家でお着替えを取ってくるのが一番合理的ね。
今夜はうちのリビングを使いなさい。お風呂、沸かしておくから」
何ひとつ、僕たちの意思が介在する隙間はない。
僕もわたらいさんも、ただ「はい」と短く、消え入るような声で答えることしか許されなかった。
僕らは、残りの冷めたピザをひたすら口に押し込む。
ママにバレないように飲み込んだはずのわたらいさんの唾液が、ママの正しさに晒されないようにメロンソーダで流し込んだ。
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