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人をバカにする鍵
ふたりで見つける
しおりを挟む「探しもの?」
運転手が、バックミラー越しに僕を見る。
「忘れ物か?この間の病院か?」
「いえ、その……そうじゃないんです」
ポケットから取り出した鍵を、僕は信号待ちを利用して、運転手へと手渡した。
「鍵?」
運転手が尋ねる。
「なんの鍵だ?」
「それが、分からなくて」
僕は、わたらいさんの方をちらりと見る。
「ふたりで、色々探したんですけど……」
「綾瀬くんの……お兄さんが、使っていたものみたいなんです」
わたらいさんが助け舟を出してくれた。
「本人には、聞けないので」
運転手が、唸り声とため息の中間みたいな声を出した。
「……心当たりは、ないのか?」
僕は、首を横に振った。
「家の中とか、今住んでいるアパートの周りとか……調べたけれど、どれも違いました」
わたらいさんが補足した。
信号が変わり、前の車が動き出す。
「見せてくれて、ありがとう」
運転手は、鍵を返してくれた。
タクシーが、走り出す。
見慣れた街並みの車窓は、コマ送りみたいにさらさら流れていく。
「本当は……」
僕は、隣に座るわたらいさんの手に縋るように、無意識に触れていた。
いや、触れたなんて、そんな優しいものじゃない。
行き場のない不安を、彼女にぶつけるみたいに、その指先を強く握りしめてしまった。
わたらいさんの肩が、ビクンと小さく跳ねる。
その凍りついたようなこわばりが、握った手のひらから、確かに伝わった。
「……っ、あ、ごめんっ!」
ハッとして、僕はすぐに手を離した。
さっきのコンビニでの、彼女の拒絶が脳裏をよぎり、血の気が引く。
案の定、離した僕の手を、彼女は握り直そうとはしなかった。
ただ、膝の上で自分の指をぎゅっと組み直し、震えを誤魔化すように俯いている。
温もりを求めているはずなのに、触れ合うことが、今はただ、こんなにも痛い。
「本当は、ふたりで見つけたかった」
大きく息を吐こうとして、僕は途中で止めた。
「でも、もうどうしたらいいか、わかんなくて」
僕は逃げるように、目の前の運転席のシートにしがみついた。
「何か知りませんか?他の大人の人には聞けないんです」
運転手がバックミラー越しに、また僕を見た。
「何か悪い事してるってわけじゃないですよ」
わたらいさんが、慌てて言う。
「ただ、その……誰にでも、話せることじゃないっていう話で」
「ああ、よくわかってるよ」
運転手が短く答える。
「……だからこそ、俺もなんて答えようか迷ってる」
信号が赤になって、再びタクシーが停車した。
サイドブレーキを引いた運転手は、後部座席へと振り返った。
「正直言って、俺はその鍵に心当たりがある」
僕とわたらいさんは顔を見合わせた。
「でも、いいか。これはふたりで見つけるべき鍵だ」
運転手は、僕たちの顔を交互に見て言う。
「この先の道、ちょっと寄り道させてもらう。そこにヒントがあるから、ふたりで見つけるんだ。いいな」
僕も、わたらいさんも、強く頷いた。
「なーんて、かっこよさそうなこと言ったけど、俺にもはっきりした確信があるわけじゃない」
運転手が、表情を崩す。
「ただ……似たようなのを、この辺で見たことがある気がするんだ」
サイドブレーキを下ろし、前方に集中し始める。
「全然違ったら、笑ってくれ」
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