ネグレクト少年の拾い食いとヤンデレ少女の餌付け

小鳥遊愚香

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人をバカにする鍵

3024

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 わたらいさんに譲られ、先にエレベーターに乗り込む。

 利用者にも分かりやすいように、階数のボタンの横に、それぞれ対応する部屋番号のシールが貼ってあった。

 確認してから、3階のボタンを押す。

 エレベーターが動き出しても、僕たちは、何も話さなかった。

 表示板の数字が大きくなるのを、ぼんやりと見ている。

 なんとなく振り返ると、背後は鏡張りになっていた。

 落ち着かない。

 さっきまで繋いでいた彼女の手が、また僕の方へ差し出されるのを、ただ待っていた。



 エレベーターが三階に到着し、低く、重い電子音が鳴った。

 音もなく、扉が開くと、そこには果てしなく無機質な光景が広がっていた。

 白に近いグレーの床に、等間隔に並ぶオレンジ色の扉。

 天井のLED照明が、僕たちの足音に反応して、前方へとパチパチと順番に灯っていく。

 まるで、意思を持った光の道が、僕たちを奥へ奥へと誘っているようだった。

 曲がり角には、数十番刻みの地図やプレートがあり、それに従い歩みを進めた。

「……三階、だね」

 わたらいさんも、涙の跡を隠すように顔を上げ、歩き出す。

 彼女の靴音が反響して、耳の奥に刺さる。

 3001、3002、3003……。

 番号は、奥へ向かうにつれて大きくなっていく。

 入り組んだ角を曲がるたびに、一階には辛うじてあった、人や街の気配が遠ざかり、代わりに誰にも見られないという静かな恐怖が、肌にまとわりついてくる。

 やがて、その番号は、ほとんど突き当たりに近い通路の陰にひっそりと現れた。

 3024。

 ドアノブに、探し求めていた鍵穴がある。
 
 僕は、ポケットの中で鍵を握りしめた。

 あんなに怒っていたはずなのに。
 この瞬間を待ち侘びていたはずなのに。

 いざその前に立つと、指先が凍りついたように動かない。

「……開けないの?」

 わたらいさんが、僕の真横に立った。
 彼女の肩が、僕の腕に微かに触れる。

 その体温の低さに、僕はハッとした。

 ――開けなきゃいけない。

 たとえこの中に、僕のすべてを壊すような「何か」が入っていたとしても。

 僕は震える手で、ポケットから鍵を取り出して、鍵穴に一思いに差し込んだ。

 鍵は抵抗なくすんなりと飲み込まれた。
 そのまま手首を使って捻ると、カチャ、と確かな解錠音がした。

 僕は一度鍵を引き抜くと、隣にいるわたらいさんを見た。

「扉は、わたらいさんが開けて」

 わたらいさんは、何も言わずにドアノブにそっと触れ、扉を開けた。

 開くと同時に、4畳半ほどの収納スペース内が煌々と照らされる。

 おそらく、人感センサーか何かだろう。

「……入ろうよ」

 わたらいさんの声は、幾分落ち着いていた。

 それでも僕は、反射的に数歩下がってしまう。

 ――見えている。
 もう、見えている。

 よく見なくても、中に入って確認しなくても、僕はもう分かってしまった。

 まるで、初めから僕の存在なんて想定していなかったみたいに、兄ちゃんの私物だけが、綺麗に整理されて並んでいた。

「入ろうよ、ぺこ」

 ――入れないよ、わたらいさん。
 僕、まだ、信じてたんだ。

 ――それなのに。
 ここに閉じ込められているのは、兄ちゃんの残骸だけなんだよ。

「……ねえ、大丈夫?」

 わたらいさんが、僕に向けて差し出したその手を、僕は力いっぱい振り払っていた。

 僕の視線はもう彼女ではなく、その奥に向いていた。
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