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第118話 さてと、面倒な会談でございます、、、。

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前回のあらすじ:胡散臭そうな連中が来た。





 司祭室側から会議室へと入る。司祭以下全員が頭を下げて、こちらの発言を待っている状態である。しかしよく見てみると、頭は下げていても平伏しているわけではないらしい。どうやら、一応ここの領主は齢15の若造であるという情報くらいは手に入れているのであろう。まあ、正直私達を舐めきっているのでしょうかね。中の人立派にオッサンなんだけど、こいつらが知っているわけでもないしね。


「よくぞ来た。遠慮はいらぬ。面を上げよ。」


 声を出したのはフェラー族長である。今回はセバスチャンになってもらっている。本人凄ぇ嫌がったけどごり押しした、というか、獣人のままでもよかったけど、どうでもいいことでこいつらに切り口を与えてやる必要もないし。それ以前にマーブル達も一緒だから、そっちから突っ込んでくるかな。


「その方らがなぜここに来たのか皆目見当がつかんが、用件を聞こうか。」


 連中が頭を上げてから、続けてフェラー族長に言ってもらう。というか、平民と貴族との会談では、基本こういうものらしい。こいつらは宗教関係の者で、通常は貴族と同様に扱うみたいだけど、敢えて平民に対応するやり方を取る。ちなみに、普段こういった会見については全く経験がないわけではない。その時はこんな勿体つけたやり方はとらないで、もっとフレンドリーに接している。今回は別に仲良くやる気は全く無いからね。


「名高きフロスト伯爵にお会いできて光栄です。わたくしはサヘルと申します。ハングラー教会サムタン公国支部で司祭をしております。以後お見知りおきを。そして、隣にいるのが、ハングラー教で聖女を務めておりますレイラと申します。レイラ、伯爵にご挨拶を。」


「お初にお目にかかります。わたしはハングラー神のお告げで光栄にも聖女に選ばれ、現在はサムタン公国で治癒や祈祷を行っております。」


 うわぁ、早速こいつ偽名使いやがったよ。恐らくそれを突っ込むと、教団内での呼び名とかぬかすんだろうなあ。どちらにしてもこいつは信用には値しないな。隣にいる聖女(笑)は一応素直な性格なんだろうか、黒さが出ていないな。まあ、洗脳状態みたいだし。それにしても、ハングラー神のお告げって、何なんだろう。確かアマさんもこんな名前の神っていないと言っていたな。まあ、実際に訊いてみた方がいいのかもね。聞くではなく訊く、ね。


「遠いところから、こんな辺鄙な地までどんな目的で来たのかは知らんが、よくぞ参った。直答を許す故、遠慮なくこちらに来た目的について話すと良い。あ、昨日より、恐れ多くもトリトン皇帝陛下より侯爵へと昇爵いただいたゆえ、私はフロスト伯爵ではなくフロスト侯爵である。」


 ここからは私の仕事である。さて、どう出てくるかな。正直、私の影武者としてラヒラスに対応させる方が良かったかも知れない。あ、そうすると、相手がボロクソに言い負かされてしまうか、で、こっちは笑いを堪えきれずになる、と。恐らくこんな理由でラヒラスの同席を反対したんだろうな。別に良いと思うけど。


「これは存じ上げなかったとは言え失礼を致しました、フロスト侯爵。今回、我々がこちらに伺いましたのは、2つの件についてのお願いに参った次第です。」


「お願いとな? 公国と教団のどちらからの指示なのかはわからないが、お願いするのにそれほど物騒な者を用意して行うのがそちらの流儀か?」


 司祭がお願いに参ったという発言に合わせて、後ろにいた連中はなにやら戦闘態勢の気配を出してきたのでさり気なく指摘してみた。まあ、この程度の相手がいくら粋がったところで、大したことはないんだけどね。所詮はDランク程度の腕前が6人来たところで、私達はおろか、フェラー族長にすら手も足も出ない。


「いえ、滅相もございません。それはフロスト侯爵の勘違いでございます。」


「まあいいか。どうせ大したこともできないだろうし。それで、2つのお願いとは?」


「早速お聞き届け頂きありがとうございます。2つの件とはですね、。」


「おい、今お前なんて言った? 今、早速お聞き届け頂きと聞いたが?」


 なるほど、こうやって自分の都合の良いように話をして無理矢理有利な展開に持っていくやり方か。


「はい、お聞き届け頂けるものと私は判断しましたが、それが何か?」


「お前、頭大丈夫か? 「話を聞く」のと、「話を聞き届ける」の違いもわからないのか? それとも、わざと、その指摘に対してとぼけて自分の主張を無理矢理相手に押しつけるのか?」


 私は前方に殺気を展開した。フェラー族長は私の後方で控えているから大丈夫。司祭の顔は途端に青ざめ始め、後ろに控えていた護衛もがたがた震え出していた。聖女は特に変化はなさそう、でもなかった。後でライムに綺麗にしてあげようかね。


 殺気を展開して、ようやく自分の立場がわかったのであろう、ギレムという名前を隠してサヘルと名乗っている司祭は、震えてすぐさま土下座モードに変更、どもりながら必死で弁解してきた。


「そ、そんな、め、滅相もございません! い、今のは、わ、わたくしの勘違いでございました、誠に申し訳ありませんでした!!」


「とりあえず話を聞いてみるだけだ、とりあえず言うだけ言ってみろ。聞く聞かないは話の内容によりけりだ。」


 司祭は震えながらも、目的をこちらに伝えてきた。あ、一応殺気は解除したけどね。


「は、はい。ひ、1つめは、そ、そちらで捕らえております我が国の勇者メンバーを、か、解放して頂きたいのです。」


「勇者メンバー? そちらの国では勇者というものはどういった役割を担っているのだ?」


「は、はい。ゆ、勇者とはですね。こ、この世界にいる、ま、魔王を、た、倒す使命を、も、持った若者のことでございます。」


「ほう、して、そちらでいうところの魔王とやらは、どんな存在なのだ?」


「はい、魔王という存在は、人間に対して容赦なく襲ってくる、人間の敵と申せましょう。」


「なるほど。で、その勇者とやらの存在は、サムタン公国での存在なのか、それともハングラー教会での存在なのか、どちらなのだ?」


「はい、勇者は我がハングラー教会で選びます。今回の勇者はサムタン公国から現れたのです。」


「なるほど。で、その勇者とやらは、どうやって選ぶのだ?」


「はい、ハングラー神が勇者が顕現なさる地を選ばれ、そのお告げをハングラー教会の教皇がお受けになり、その対象国に伝わり、召喚の儀によって呼ばれる存在でございます。つまり、勇者とは神に選ばれし存在であり、不当に拘束するのは、神の御意志に反するために、勇者の解放をお願いするのでございます。」


「なるほど、そちらの言い分はわかった。しかし、お前らがどれだけ言葉で飾ろうとも、ここで拘束している連中は、我が領にとっては犯罪者であり、それ以外の何物でもない。よって、解放なぞ受け入れる気は毛頭ない。」


「ゆ、勇者が犯罪者扱いですと? い、一体、どんな罪を?」


「まず1つ目は、我が国への不法侵入である。いま拘束している連中は、我が国に対しての入国手続きを取っておらん。」


「そ、それにつきましては、勇者に関しては、入国許可手続きは不要な存在です!!」


「それは、お前らが教団内で勝手に取り決めた暗黙の了解というものであろう? 我が国にはお前達の教会を認めておらんから、そんなものは知らないし、我が国にそれは通用しない。十分に犯罪者である。それは隣国のタンヌ王国でも同じである。つまり、お前らの言う勇者パーティというのは、2カ国において犯罪を犯している国際犯罪者である!」


「ほ、他にはどんな罪が適用されているのですか?」


「2つめは、そいつらが引き起こしたモンスタートレインによる被害である。あいつらが逃げてきたせいで、魔物が我がフロストの町だけではなく、隣のトリニトの町まで被害が広がったのだ! 特にトリニトの町では城門と城壁が破壊されてしまい、住民に多大な被害をもたらしたのだぞ!! 今現在も必死に復興作業に努めてはいるが、いつ終わるか皆目見当が付かない状態だ。それについてはどう思っているのだ!!」


「そ、それは、、、。」


 まあ、実際にはフロスト領の被害はほぼ皆無だし、トリニトの町にしても、城門と城壁は破壊されたけど、こちらで差し入れとして用意した魔樹などの素材でトリニトの町は前以上に守りが補強されるけど、それでも戦えない住民達の心理的被害は計り知れない状況だ。


「あとな、これで3つめだけど、これが一番重要だ。逃げてきたこいつらを我が領で救助し、我が領の住民達が一致団結して、こいつらが引っ張ってきた魔物達をどうにかして追い払った、、、。にも関わらず、だ、こいつらは、その助けてくれた住民達に対して、乱暴狼藉を働いたのだぞ!! お前らは、助けてくれた者に対して、そういう仕打ちをしても問題ないとでも言うのか!!!」


 殺気はほどほどにして、一気に詰め寄る。流石に助けてもらった上に、乱暴狼藉まで働いたと聞いて司祭は言葉が出てこない。しかし、隣にいた聖女が一発逆転を狙って発言してきた。火に油を注ぐ結果になるとも知らずに、、、。あ、この火に油を注ぐ対象は私ではなくて、うちの領民に対してね。私はというと、うん、知ってた、って感じだから別に何とも思わなかったけど。


「フロスト侯爵様! 勇者様達が乱暴狼藉を働いたとはいえ、それは獣人に対してでしょう! 人間に対してのことならともかく、獣人に対しては問題ないと思われます!!」


 まあ、何とも思わなかったとはいえ、それはそういう事を言ってくるだろう的な意味での何とも思わない、だ。助けてもらってその上で、恩を仇で返すようなことを問題ないというその腐った心魂に対してはもちろん怒りしか浮かんでこないのは当たり前だ。しかも乱暴狼藉を受けたのは我が領民なのだから。


「ほう、その発言は我が領に対しての侮辱と捉えていいのだな、、、?」


 腹を立てたのは私だけではなかった。その場にいた同じ獣人であるフェラー族長はもちろん、マーブルやジェミニ、ライムもその発言に怒りを露わにした。その怒りに晒されている連中は、恐怖で気を失ってしまった。どうにかして使命を果たそうと必死に自分を奮い立たせていた司祭を除いては。


「フ、フロスト伯爵、、、。せ、聖女とはいえ、こ、この者はまだ、み、未熟なゆえ、た、大変、し、失礼な、は、発言をし、して、しまいましたが、な、何卒、お、お許し、く、ください、ま、ませ、、、。」


「ほう、何か言いたいことがあるようだな、言ってみろ。」


「も、申し訳、あ、ありませんが、ゆ、勇者達が、ど、どんな、乱暴狼藉を、し、したのか、お、お教え、い、頂け、な、ないでしょうか?」


「言わなくても、先程、そちらの聖女とやらが、言っていたではないか。特にこれ以上言うこともないだろう。後な、その勇者達は、その乱暴狼藉を働こうとした者に返り討ちに遭って半死半生の状態だ。安心しろ、死なない程度に手加減はしてあるようだし、しっかりと餌も与えているからな。」


「え? ゆ、勇者達、が、か、返り討ち、で、ご、ございます、か?」


「当然だろう。そうでなければ、あいつらが引き連れてきた魔物共をどうやって追い払うのだ?」


「そ、それは、、、。」


「これだけ我が領、いや、我が国に多大な被害をもたらしたのだ。犯罪者以外の何物でもないだろう?」


 流石に、司祭も勇者達が自分たちの国でも犯罪となる行為をしているとは思ってもいなかったようで、これ以上弁解することはなかった。


「わ、わたくしが浅はかでした、、、。勇者達は、我が国と我が教団が責任を持ってしかるべき処理を致しますので、何卒、勇者達を我が国にお返し願えませんでしょうか?」


「ふむ、あいつらを犯罪者として処理するならば、その要望は受け入れよう。ただし、しかるべき処置を執ったとこちらが判断できるまで、我が領で売っている食材や魔物の素材に関して一切卸さないので、そのつもりでいるがよい。」


「は、はい、、、。フロスト侯爵のお慈悲に感謝致します。」


 司祭はこの時点で自分の勝利を確信していたのだろう。自領、まして自分たちの教会に戻ってしまえばこちらのもの、あとは、すっとぼければいいと思っているだろう。事実、顔がそう物語っていた。


「あ、ちなみに、お前らの教団で大切に扱っている上質の魔石とか、その着ている服もシルクスパイダーの上級品だろ? 後、他にもいろいろとお前らの教団でいろいろ購入していたよな? それらって、ほぼ全部、うちの町から冒険者ギルドに卸しているものだから。」


 私はそう言いながら、フェラー族長を通じて、司祭に一枚の紙を渡した。司祭はその紙に書かれている内容を見て、愕然とした。何故なら、ハングラー教会で使用している物で特に重要と思われる素材や品のほぼ全てがそこに書かれていたのだ。それに書いてあるのは、ほぼ全てがフロストの町の冒険者ギルドだけから卸しているものだった。今までは金に物をいわせて購入できていたものが、領主の一声で手に入らなくなる。そしてそれは他の領地や国でも求めてやまない品々であった。それが、いくら金を積んでも手に入らなくなるのだ。


「さて、1つ目の話は以上でいいな。2つ目は言わなくともわかる。ハングラー教会の布教を認め、領内に教会を建てさせるか、この教会にお前らの司教を常駐させてくれ、といった類いのものだろう? もちろん、不許可だし、恐らくこの一件で、トリトン帝国はハングラー教会の布教自体が禁止されると思うぞ。」


「なっ、そ、そんな横暴な、、、。」


「いや、人族しか存在を認めていないお前らの教えの方が横暴じゃないのか? ということで、話は終了だな。ここの監禁室に入った連中を護送車にいれてお前らに渡すから、それで祖国へと戻ってくれればいいから。じゃあ、フェラー族長、後は頼みましたよ。」


 そう言って、会議室を後にした。トリトン陛下の出番は結局なかったね。ということで、陛下には今回の内容を話してから、宮殿へとお帰り願いましょう。


 少ししてから、ハングラー教会の者達は護送車を引いて帰途に就いた。一応あの護送車は脱出不可能な魔法をマーブルにかけてもらっているから、途中で出たりすることはできないから安心だね。あとは、冒険者ギルドへと、教会へは何も売らないように頼んでおくか。正直、あの犯罪者達をどうしようと、知らん。一つ言えるのは、しっかり裁こうが裁くまいが、今後サムタン公国とハングラー教会には我が領で卸した物は一切売るつもりはないからね。頑張って自分たちで調達してくださいね。


 この後、訓練場で嬉しそうに暴れ回っていた陛下に、今回の話の内容と、私が選んだ行動について報告したけど、特に問題ないとのことだった。逆に呼ばれなかったことについて感謝された。いや、これが終わったらあなたは宮殿に戻って政務ですからね。そんなことを思っていたら、訓練所にいきなり魔方陣が浮かび上がったかと思ったら、リトン公爵と数名が現れて、陛下を拘束した。


 リトン公爵と久方ぶりの再開であったが、それを喜ぶ余裕もなくその件はまた今度ということで戻っていった。もちろん陛下はドナドナされていった。


 さてと、久しぶりに腹が立ったので、恵みのダンジョンへと行って癒やされに行こうと、マーブル達に提案したところ大賛成ということだったので、この日は恵みのダンジョンへと行って大いに癒やされたのだった。

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トリトン陛下「ちょ、まだ、訓練終わってない、、、。」

リトン公爵「そんなことより仕事してくださいね。」
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