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第171話 さてと、やってまいりました肉狩りの時間です。

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前回のあらすじ:なかなか襲撃に来なくて少し焦れた。


 グレイルから、ドラゴン族襲撃の報を受けてから2週間。ようやくやってきたようだ。ってか、長ぇ。ドラゴン、しかも飛龍族中心だったら、もっと早く来いよ! こっちは待ちくたびれているんだよ。それからついでにアバロン帝国の使者だけど、そろそろ到着してもよさそうなのにこちらに来ようとしない。まあ、どうせ襲撃を受けて壊滅的になった町に偉そうに来て援助するとか意味不明の言葉をほざこうとしてるんだろうな。

 あ、そうそう、コーメ元伯爵ご一行が1週間前にこっちに到着した。何かスッキリした顔で「これからお世話になります」とか言ってたな。陛下もそうだけど、リトン公爵なんか超ニコニコ顔だったよ。とりあえず希望を聞いたら、この町での所属を希望したらしいので、リトン公爵の補助をする条件で呑んだそうだ。本当はノンビリ過ごしたかったようだけど、甘い。

 端から見るともの凄い好条件に映ったらしく、珍しく文句が挙がったとか? それらの文句に対して、同じ仕事をやらせてみたらしい。結果はというと、全く話にならず、文句を言った連中はスゴスゴと引き返したらしい。もちろん、それだけでは文句を言ったモン勝ちとなるので、公衆の面前で土下座させたらしい。嫌ならここを出てくれてもいいぞ、とは陛下の言。何なら亡命先を用意するとまで言われて青くなったようだ。

 ハクヤ元男爵は、そのコーメ元伯爵の補助についているそうだ。鑑定技能があるから、たまに冒険者ギルドへと駆り出されて鑑定の仕事などもしているそうだ。ベーア並びにハンニバ元准男爵はアイン麾下に置かれたそうで、そこで領民達と訓練に明け暮れているそうだ。流石に名の知れた軍人だったらしく、個々の戦闘力では領民達に敵わなかったそうだけど、指揮能力は優れていたようで、副隊長扱いなのだそう。

 ちなみに4人とも爵位はいらないそうだ。もっとも、こちらでも与えられる爵位がないのが実情なんだけどね。ちなみに、我がトリトン帝国では、爵位持ちの貴族は少ない。リトン伯爵が公爵に昇爵して宰相も務めることになったときに一気に人員を整理したのだ。仕事をさせてみて能力に見合わない爵位をもっている貴族達は降格ないし、剥奪までして一気に減らした。逆に、良い結果を残したものについては爵位こそ与えなかったものの、出世させて俸禄を増やすことによって効率化に成功した。

 こんな状況なので、もちろん不満に思う貴族が続出したが、下のものは出世したり、公平に評価されたので反乱を起こそうとしたものはほとんどおらず、起こそうとしても未然に防がれて処刑もしくは追放となっていたようである。その仕事をひそかにうちで引き受けていたと聞いたときには驚いたけど、それならどうして私なんかが侯爵になれたのかサッパリ分からない。やっている仕事といえば、書類にサインをしたり印を押したりする誰でも出来るような仕事だ。

 いつだっけか、その話を聞いたときに、これはチャンスと思って爵位の返上を申し出たところ、思いっきり反対されたのだ。逆に、リトン公爵に「俺の仕事と爵位を押しつけるぞ!」と脅されて、しぶしぶ引き下がってしまった。何でだろう?

 話は大きくそれてしまったが、そういったわけで、コーメ達も加わって戦闘訓練を行っていたようだ。コーメとハクヤは魔法に優れていたようで、新たな教官が生まれたとユミールさんが喜んでいた。逆にコーメ達はゴブリンシャーマンでここまで魔法を使いこなすものがいたことに驚いていた。マーブルについては凄すぎて比較するのも失礼だと言ってたな。マーブル基準だと数段劣るジェミニとライムだけど、コーメに言わせると十分過ぎるほどヤバいレベルなんだそうだ。それ以上に可愛いがな!!

 そろそろ襲撃が来るということで、エーリッヒさんが作戦を発表した。ぶっちゃけ城壁がないから、正面からぶつかる方が効率的ということらしい。この面子なら正面からのごり押しで十分とまで言っていた。とはいえバラバラに戦っては戦力の無駄ということで、部隊を3つに分けるそうだ。1つはうちの領民で、もう1つはトリトン帝国の精鋭で、もう1つは冒険者達の合計3つで。うちの領民達が主力となって正面を受け持つ。それを帝国の精鋭と冒険者達が左右に控える形で受け持つそうだ。

 ちなみに、領民達はカムドさんが率いて、エーリッヒさん達がそれを補助する形のようだ。帝国の精鋭達は陛下が率いることになった。戦闘に参加しないという条件で。というのも、本当は思いっきり外す予定だったのだけど、陛下がごねた。だってさ、陛下に戦ってもらうと恐らくメチャクチャになるじゃん? せっかくの肉がぐちゃぐちゃになったら全部台無しじゃん? ということを正直に伝えたところ、リトン公爵にも言われて「ぐぬぬ、、、。」となったが、それでも参加したいということだったので、指揮だけ取るけど、直接戦闘の参加は禁止とした。ちなみに補助はマーブルとジェミニにお願いした。陛下はマーブルとジェミニと会話ができるし、陛下を力尽くで止められるのもこの猫(こ)達だけである。

 冒険者達に関しては私が指揮をとることになり、その補助をアンジェリカさんとルカさんがすることになった。フロスト領に居着いている冒険者達は納得していたが、ドラゴンと戦えると聞いてこちらに来た冒険者達は不満を言っていた。言うまでもなく、普段からこちらにいる冒険者達ではなく、ドラゴンが襲撃してくると聞いて来た冒険者達だ。

「おいおい、何で、冒険者の行動に貴族様が口を出すんだ? 俺らは冒険者だぜ? 何で一々指示を受けなきゃらならないんだ?」

「町が襲撃されているのに領主が顔を出さなくてどうする? まあ、指示に従いたくないのなら、従わなくてもいい。これは、他の冒険者達も同じだ。ただし、一応言っておくが、邪魔だと判断したら遠慮なくこちらは攻撃するからそのつもりで、な。」

「そうだな。アイス様の言っている通りだな。ぶっちゃけ足手纏は害にしかならないからな。」

 私の発言に、普段からこちらにいる冒険者達は賛成している。冒険者サイドでは、一触即発の状態になっているが、面倒だからこいつら始末しておこうかな。こっちのギルドでは発表してないのにわざわざ来たってことは、アバロン帝国から何かしらの指示を受けている感じがするし。

 そんな事を考えていたら、ガブリエルが来て報告してきた。って、ガブリエルはドラゴン関係の任務は頼んでないはずだけど。

「フロスト侯爵、あと30分ほどで最初の魔物が来るそうです。数は200程かと。あ、カムイ殿から侯爵に伝えるように頼まれたので来ました。」

「ガブリエル、ご苦労様。そういうことだったのね。種類はわかるかな?」

「報告ですと、ワイバーンが130ほど、ブラックワイバーンが50くらいだそうです。残りは緑龍20という感じだそうです。どれも飛行部隊です。」

 その報告を聞いた冒険者達は青ざめる。特に私に文句を言ったり不満を抱いていた冒険者達は特におびえがひどかった。

「今の話を聞いたな? 冒険者諸君には自分の生活もあるだろうから、無理に参加して欲しいとは思わないから、別に逃げても構わない。」

 私の発言に胸をなで下ろす冒険者達。もちろん、邪魔者はいらないから、念押しをしておいた。

「逃げても構わないが、町の中に避難することは許さん。ドサクサに紛れて騒ぎを起こされてはかなわんからな。逃げるなら町から離れることが条件だ。まあ、現在町は厳戒態勢となっているから、侵入者は有無を言わせず処分されるからな。」

 一部の冒険者は折角の忠告を無視して町へと避難しようとした。その冒険者達に立ちはだかったのはコカトリスだ。コカトリスは目を光らせると、その冒険者達はたちまち石化状態になった。その石化状態となった冒険者達にコカトリスは躊躇いもなく蹴りを入れてその冒険者達を粉々に砕いた。

「見ての通りだ。町に入りさえしなければ、別にこちらは何もしない。とはいえ、たかが200程度の魔物にビビっているようでは話にならないな。」

「ですわね! 正直、もっと引き連れてくれるかと期待しておりましたのに、、、。」

 そう言ったのはアンジェリカさんだった。

「アイスさん! 200ということは、ワタクシ達が担当する数はもっと少ないと言うことですわよね?」

「ですね。恐らくこちらの担当する数は良くても30くらいじゃないかと。」

「えーっ、たったの30ですの?」

「まあ、仕方ないですよ。主力は領民達ですからね。でも、その領民達も同じように少ないと感じているでしょうね。」

「ですわね、、、。下手すると、ワタクシ達よりも暴れられないでしょうからね、、、。」

 私達の会話に恐る恐る話しかけてきた冒険者がいた。結構前からここで活動をしている冒険者だ。

「ご、ご領主様、こんな事を聞くのは失礼かもしれないですが、ひょっとして、ご領主様達って、この規模のワイバーンとか脅威に思ってないので?」

「全く。むしろ雑魚でしょ。この程度なら、戦姫の3人でお釣りが来るよ。」

「で、でも、相手は空を飛んでいるんですよ? しかもワイバーンは矢も魔法も耐性があるやっかいな敵ですぜ?」

「大丈夫。ということで、指令を伝えます。恐らくあの集団は綺麗に3つに分かれてこちらを襲撃してくるので、ルカさんは魔法でひたすら撃ち落として下さい。」

「ん、了解。」

「冒険者のみんなは、ルカさんが撃ち落としたワイバーンを仕留めるだけの簡単なお仕事です。優先的に普通のワイバーンを狙って下さい。恐らくブラック種は傷一つつきそうにないので。ワイバーンだから、通常種でも美味しいでしょ? あと、倒し方だけど、できるだけ綺麗に首を切り離すように。そうしないと、素材の価値が落ちるから、手取りが悪くなるよ。首が無理そうなら、頭を潰すこと。あ、仕留めたら、これを渡すから、これに入れといてね。」

 そう言うと、アンジェリカさんが各冒険者に1つずつ袋を渡す。

「フロスト公爵、この袋は?」

「これは、マーブル印の使い捨てマジックバッグだよ。これに仕留めたワイバーンを入れて。」

「使い捨てとは、一体?」

「この袋はね、大容量のマジックバッグだけど、一度取り出すと二度と入れられないから。」

「なるほど! この狩りが終わってからゆっくり解体とかすればいい、ということで?」

「そういうこと。それに使い捨てにしないと、バッグの値段が下がって、職人達が困るからね。」

 バッグを受け取った冒険者達は「おお!」とか言いながら少し興奮気味だ。その中で少し浮かない顔をしていた冒険者が意を決したように話してきた。

「ご領主、私は弓を使うのですが、一体どうすれば?」

「おお、弓使いか。君はワイバーンを一撃で撃ち落とせるかい?」

「いえ、正直、命中率には自身がありますが、そこまでの威力は自身がありません。」

「私とは逆か。だったら、撃ち落とされたワイバーンの目を狙おう。誤射が心配なら、他の冒険者が攻撃していないやつを狙って。数発も同じ場所を射貫けば仕留められるから頑張って!」

「了解です!」

「アンジェリカさんはブラック種を仕留めて下さい。多分配分的に5体くらいじゃないかな。」

「了解しましたわ! アイスさんはどうなさいますの?」

「私は緑龍を倒します。とはいえ、こっちに来るのは精々2、3体くらいでしょうから、その後は冒険者達のサポートでしょうかね。」

 そんなことを話しつつも、粒にしか見えなかったワイバーン達の姿が徐々に大きくなってきた。

「さてと、話はここまでかな。全員、戦闘準備!」

 私の号令で冒険者達が戦闘準備に入った。ルカさんが目を閉じ集中する。口元が動いているが、恐らく詠唱しているのだろう。アンジェリカさんが警戒を強めていた。もちろん、ワイバーンに対してではなく好き勝手動きそうな冒険者達を警戒しているのだ。

 目を閉じていたルカさんが、ゆっくり目を開けるのを確認した。詠唱準備が完了したのだろう。射程距離に入ったようで、愛用の杖をクルクル回してから上に上げた。

「・・・邪魔、落ちろ。」

 いつも通りといえば、いつも通りなのだけど、これで発動しているんだから不思議だ。杖からは分厚い炎を纏った刃がワイバーン達を襲った。私もオニジョロウを右手に持ち、左手から数本矢を作り出して前方へと向かう。恐らく緑龍にはダメージはあるけど、撃ち落とすほどではなさそうだったので、直接攻撃したほうが良さそうだと判断した。

 ルカさんの放った魔法は、狙いを過たず、ワイバーンの羽の付け根を切り裂いた。羽を失ったワイバーンは次々と墜落している。隣の領民達でも同じようなことが起きているようで、喚声やら墜落してドシーンという音が所々で響いていた。

 緑龍達はルカさんの魔法を受けて結構ダメージを喰らってはいたが、どうにか落ちずに空に漂っている状態だったので、トドメを刺すべく弓に矢をつがえ、ある程度引き絞った状態で2体の龍へと向かっていた。

 緑龍達は私の姿を見ると、すぐさま攻撃態勢に入ったようだが、私が弓矢装備であるのを見ると、挑発するかのごとく受け止め体勢に変わっていた。折角撃たせてくれるんだから、撃たせてもらおうじゃないの。とりあえず、眉間、喉の2カ所でいいかな。ついでにもう1体も同じようにしますかね。今回の鏃はドリル状の貫通力重視にしてある。そして、贅沢にも矢羽根はコカトリスの羽を使っている。ブラッシングで取れた羽毛をゴブリンの職人が矢羽根に加工してくれたもので、高品質のくせに在庫は潤沢にある逸品だ。ちなみに、この矢羽根を利用しているのは私とセイラさんのみである。それ以外はコカトリス達が許可を出していないらしい。

 我が町のペット達は、ブラッシングが大好きで、モフモフ大好きな領民達も競ってブラッシングをしているため、こういったものは大量に手に入る。領民達も自分のお気に入りのペットの毛を集めては、洗って貴重品を入れる袋にしたり、布にして服にしたりする者もいたりする。私も実は、マーブルやジェミニの毛を集めては、何かしらの布にしたりしている。当人達は恥ずかしいやら何やらで嫌がっているので、我が空間収納の肥やしになっているのが現状だけど、いずれは私も何かしら作ってもらって利用したいのが本音だ。

 またまた話はそれてしまったけど、コカトリスの羽毛でできた矢羽根は風属性が乗るらしく、2体に放った矢はあっさりと緑龍を貫通してさらに遠くまで行ってしまった、、、。なんつー威力なんだよ、、、。言うまでもなく緑龍も即死して、普通に墜落して終了。今はマーブル達もいないので、早速空間収納に収めて回収完了。

 アンジェリカさんは、ブラックワイバーンの追い打ちを担当してもらったけど、こちらもあっさりと終了してマーブル印(こっちは言うまでもなく超大容量+時間停止の最高品質)のマジックバッグに収納していた。

 フロスト領に常在している冒険者達は流石に手慣れており、見事な連携で仕留めては、マジックバッグに収納していた。逆に今回の件で来ていた冒険者達は、墜落したワイバーンでも満足に倒せない状況で、あちこちを攻撃しては、反撃に遭ったりと散々な状態で、どうにか倒しては切れ切れになったワイバーンを慌ててしまっていたりという有様であった。袋を渡されなかった冒険者達も何とか倒したはいいけど、大きすぎて回収すらままならない状態だったけど、それは自業自得だ。

 そんなこんなで、ワイバーン達約200体を仕留め終わったので、改めて号令を下した。

「皆さん、お疲れ様でした。怪我をした者や、疲労の激しい者優先で町に戻って治療やら回復やらしてきて下さい。」

 冒険者達は、指示通り怪我の度合いが高い者や疲労している者から町へと戻っていった。残った者は、アンジェリカさんとルカさん、あとはわずかながら冒険者もいた。その中には『救済の風』の面々も。

 ちなみに、何でまだここにいるのか? もちろん後続部隊がいるからに決まっているじゃないですか。

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冒険者達「治療ありがとう、助かったぜ!」
回復部隊「いえいえ、これが役目ですから。」

ライム「ボクのでばんがない、、、。」
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