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第200話 さてと、予想外の結果でしたが、これも懐かしい味です。

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前回のあらすじ:美味い出汁の取れる骨を手に入れた。


 本日の釣果・・・劣化魔石中448個、大187個、魔石小161個、魔石中21個。

 ・・・何か思った以上に多くないか、これ? 一応念のために言っておくと、この魔石群はマーブルの起こした大火災の被害に遭った魔物達は含まれていない。ここのあるものは、ほとんどが地下十一階以降で手に入れた魔石群である。ちなみに、魔石中はスカルワイバーンが落としたものである。

 スカルワイバーンからは、魔石の他にスカルワイバーンの骨も手に入れたけど、量がヤバい。具体的かどうかはわからないけど、そこそこ繁盛しているラーメン屋クラスだと2、3年は出汁用の骨を仕入れる必要が無いくらいの感じかな。ということで、これは公開案件だね。試作してみないことにはわからないけど。

 ということで戻って参りましたよ、フロストの町に。マーブル達が急かすので、帝都では挨拶もそこそこに移動するハメになりましてね。・・・私の料理を期待してくれるのは嬉しいんだけど、別に逃げないからそこまで急かさんでも、とは思うけどね。

 では、早速試してみる、ということで、鍋を用意しまして、って、こちらが指示を出すまでもなく鍋を持ってコンロに置くジェミニ、、、。そのコンロのそばでは、ライムが水の準備を、マーブルがいつでも火を着けられるようスタンバっている次第です、、、。

 ・・・あのね、君達、まだ出汁取りの段階だからね。何を作るかってまだ何も決まっていない段階だからね、その辺は分かっているのかなぁ、、、。多分、分かってないよな、これって。もう一度言うけど、これはまだ出汁だからね、、、。

 期待はされているものの、どうしようか悩みつつも骨を投入し、ライムに水を入れてもらう。とりあえず骨が完全にかぶる位でいいかな。で、水を投入し終えたら、マーブルの出番ですよ。希望ですか? とりあえず沸騰するまでは強火で、沸騰したら弱火にしてちょ。

 普段でも指示通りの火力にバッチリ合わせてくれるマーブルだけど、今日はいつも以上に完全にこちらの想像通りの感じに仕上げていた、、、。いや、普段でもしっかりこちらの思っている感じで火力を出してくれているんですよ、、、。

 スカルワイバーンの骨なんだけど、沸騰してから違和感に気付いた。この骨、アクが出ねぇ、、、。煮込みながらアク取りをしようと準備をしていたけど、アクが出てこないのだ。普段煮込んでいる鶏ガラや牛骨や豚骨だけど、これらは例外なくアクも出るし、最初の下茹で+掃除は必要だから、必ず行っている。ライムがキレイにしてくれても出てくるものは出てくるのだ。

 まぁ、ライムのおかげでアク取りや掃除の手間はほぼ極限状態まで楽になっているものの、それでも必要な作業なんだよね。けど、これに限っては一切必要がないのだ。掃除に関しては、こいつが完全に骨しかなかったので行っていないけどね。とりあえず、アク取りの作業が不要となったので、煮込みつつ味見をして何を作るかを確認していくことにしますか。

 まずは煮込むこと10分、軽く掬って味を確かめる。・・・なるほど、鶏に近い味ではあるけど、鶏の他に何か別のものが含まれている感じで、それが旨味につながっているな。マーブル達も味見をしたいらしく可愛い目でこちらを見ていたので、マーブル達にも味見をしてもらう。・・・反応は非常に薄かったのは笑えた。期待していただけに裏切られた感がもの凄く顔に出ていて、それもまた非常に可愛らしかった。でもね、君達、あくまで出汁だから、そこまでしっかりと味が出ているわけじゃないんだよ。

 この出汁の味で何を作るかは決めました。はい、ラーメンでございます。といっても、残念ながらかんすいは手に入っていないので、麺は代用品となります。で、その代用品ですが、ズバリ、パスタです。その種類ですが、もちろんスパゲッティではなく太平麺のリングイネでございます。

 麺をパスタで代用できるのは以前いた世界でも試しているから問題無い。で、その中でもリングイネは一番好みに合ったものだ。下手な中華麺よりもリングイネを使った方が美味いものも多かったのだ。材料も今あるもので作れるだけでなく、素材も以前いた世界とは比べものにならない位質がいいので、期待が膨らんでしまうのは仕方がない。

 出汁はこのまま煮込ませるとして、麺の他には、メンマは、無理だな、アレに関しては材料がさっぱりわからない。タケノコすら手に入れてないしね。メンマは諦めるとして、チャーシューは問題無い。我らの食の味方であるオークさんがいる。あとはネギだけど、考えてみたら無かった。いや、ネギではないけど、それに近い植物ならあったな。あれを代用品として使いますか。あとはご飯だけど、麦ご飯の在庫もまだあるな。念のためこれも仕込んでおきましょうかね。

 さて、これから調理開始、となったとき、それに合わせてマーブル達が整列していた。可愛いやら嬉しいやらで胸がいっぱいになり、頭の中で描いていたレシピが飛びそうになってしまったのは内緒。手伝ってくれる気満々ですので、大いに甘えるとしましょう。文字通り猫の手を借りるのだけど、言葉とは違い主力となるほどの戦力である。

「みなさんが整列してくれたということで、何となく察しはついていると思いますが、これよりスカルワイバーンの骨を煮込んだ出汁を使った料理を作りたいと思います。この料理は以前私がいた世界で実際に作っていた料理なのですが、ここまで一から作るのは初めてになりますが、味は自分で言うのも何だけど美味いと思うので、みんなにも気に入って頂けるとは思います。」

「ミャア!!」

「アイスさんの以前いた世界の料理ですか!? 楽しみです!!」

「ボクもたのしみー!!」

「これから料理を作りますので、夕食の時間はその分遅くなります。もちろん私一人だとかなり時間がかかってしまいますので、みんなにもバッチリ手伝ってもらいますよ。」

「ニャア!」「キュウ!」「ピィ!」

 分かっている、任せろ! と言わんばかりにキレのある敬礼を返してきた3人。頼もしいやら可愛いやらで最高ですな。

「では、ジェミニはまずフライパンと麺茹で用の鍋を1つずつ、それと、ボールを1つと、漬け込み用の器を持ってきてください。ライムは小麦粉を、マーブルはコンロの前で待機です。」

 私が指示すると、うちの猫(こ)達は可愛い声を出してから、それぞれの任務に就いていった。3人とも張り切っていたのか、まさに疾風迅雷に相応しい勢いでこちらの指定したものを用意してくれた。

 鍋とフライパンをそれぞれコンロの上に置き、鍋に水を入れてから「しるけん」を投入する。その後でコンロに火を着けてもらう。フライパンに油を入れてフライパンを熱くしながら油にも馴染ませていく。良い感じにフライパンが熱くなったらオーク肉を投入。本来は縛ったりして型崩れを防ぐけど、今回は縛るのが面倒だし、そもそも必要ない。オーク肉は塊のまま全部の麺に焼き入れを付けるように焼いていく。

 オークの肉を焼きながら、漬け込み用の器に醤油、ハチミツ、各香辛料を入れて味を調整して、漬け込みダレが完成。全6面を焼き上げたオーク肉を漬け込みダレの器に入れて、その器の周りを水術で覆って気泡が出始める程度の温度の状態で囲む。要するに低温調理である。

 チャーシューはこれで大丈夫なので、次は麺である。ボールに小麦粉を投入、小麦粉が約1キロだから、油は20グラムくらい入れて、専用の蓋をしてから蓋の上にライムが乗って、その上を走り回る。フロスト領では麺が普及しており、大量生産できる魔導具まで作り上げてしまったほどである。その途中でこういった蓋をして、その蓋の上を走り回ることで大量の小麦粉をかき混ぜることができる道具ができており、これはその1つである。

 ある程度まとまってきたら、コカトリスの卵を割って、溶いてから小麦粉の器へと投入、再び蓋をして攪拌再開。これもある程度混ざったので、ここからは私の出番である。ツヤが出るまでまとめつつこねていく。

 しばらくこねていくと、ようやくツヤが出てきたので、これを10個に分け、また周りが乾燥しないように水術で保護しながら生地を休ませておく。

 その間にも、チャーシューの漬け込みが終わったので、水術を解除して休ませる。・・・正直、味見も考えたけど、恐らく味見をしてしまうと止まらなくなる可能性が大いにありそうだったので、ここはぐっと我慢してなんとか耐えきった。

 麺生地はもう少し休ませたかったので、その間にテーブルをキレイにして打ち粉をして準備しておく。さてと出汁の方はどうかな、と最初はしるけんの入った方を確認すると、良い感じだったので、しるけんを取りだしてこちらも休ませることにした。

 一方のスカルワイバーンの骨を煮込んだ鍋だけど、こちらはとんでもないことになっていた。というのも、あれだけキレイな色の出汁が出ていたと思ったら、思いっきり白濁としてしまっていたのだ。

「うわ、マジかよ、、、。」

 思わずこう口から出てしまった。これを濾し取るのか、面倒だなと思いつつ少し味を確認してみると、何と鍋の中にあった骨がほぼ溶けている状態になっており、ざらざら感が全く感じられなかった。それどころか、どこかで食べた記憶のある味わいだった。ん? これって、コッテリで有名のあの店の味に近いぞ! まさか、高級感溢れる鶏ガラだと思っていたものが、更に煮込むと思いっきり好き嫌いが分かれてしまうあの味に変わるのか、、、。いや、これどうしようか。私は大好きだけど、マーブル達は喜んでくれるのか心配になってきたぞ、、、。

 いろいろ考えていたら、生地も十分休ませることができたようなので、とりあえずこの骨鍋はしばらくこのまま煮込むことにして麺を作ってしまおう。

 いつもは麺棒を使って広げていたけど、今回はそんな時間もないので、究極のズルをすることに決めた。では、マーブルさんお願いします。そう、マーブルの闇魔法の重力を使って平たくしてしまおう、ということでございます。マーブルも喜んで協力してくれたので、10個の麺生地がアッサリと良い感じの厚さに、しかも形はキレイな長方形になっていた。それを折りたたんで、約1.5ミリくらいの太さに切っていく。これを残り9個やるのも面倒なので、もちろんマーブルの風魔法で切ってもらった。サンプルがあったので、非常に早く終わった。

 あとは麺を茹で、スープに入れてチャーシューとネギの代用葉物を置けば完成であるが、予定したスープでは、かえしを入れて、骨出汁をメインにしるけんの出汁を入れれば大丈夫だったのだけど、骨出汁が違うものになってしまったので、かえしの比率や追加で入れるものが出来てしまった。

 とりあえず、かえしを予定の半分に、その分しるけんの出汁を入れ、ニンニクなどの香辛料を少しばかり擂って入れ、骨出汁を入れてかき混ぜてから味見をしてみると、良い感じに仕上がったので、これでいくとしましょう。マーブル達が気に入ってくれるか心配だったので、味見をしてもらいましたが、みんないい顔で反応してくれたので恐らく大丈夫だよね?

 何とかなってホッとしたので、麺を茹で始めた。乾麺とは違い、手打ちの麺はすぐに茹で上がってくれるのでありがたい。保存は利かないけどな!! 麺を茹でている間にスープを完成させてしまおう。4人分の器を用意して、それぞれに先程の分量でスープを投入していく。うん、この色だ、この色。あ、器を温めておくの忘れた、、、。まぁ、いい、次の時にはそれをやろう。

 あ、チャーシュー忘れてた! 急いでチャーシューを取りだして、マーブルに薄く何枚も切ってもらう。このラーメンには厚切りは合わないのだ。ついでにネギの代用品の葉物もみじん切りにしておく。

 ついに麺が茹で上がったので、しっかり水を切ってそれぞれの器に投入。麺とスープを絡ませてから、葉物とチャーシューを置いていって、ついに完成!!

 テーブルに持っていきみんな配置についたところで、頂きますか。みんな、待たせちゃってゴメンね。

「お待たせしました、では、食材となってくれた全てのものに感謝して、頂きます!!」

「ミャア!」「頂きますです!」「いただきまーす!!」

 ついに、これが食べられるのか、と期待を込めて箸で麺を掬って口に入れた。ああ、これだ、この味だ、、、。久しぶりのあの味に感動していた。マーブル達を見ると、やはり美味しそうに食べていた。

「ニャア!!」「アイスさん! これ、美味しいです!!」「あるじー、おいしーよ!!」

 うんうん、みんな喜んでくれて何よりだ。このラーメンの味は本当に好みが分かれるから正直期待半分不安半分だったんだよね。ちなみに、マーブルもジェミニもライムも箸こそ使えないけど、みんなスプーンとフォークは完全に使いこなせている。今回もスプーンとフォークを上手に使って食べているのだ。以前は私が使っているものと同じサイズだったけど、洞穴族がここに来てからは、マーブル達にそれぞれ合った大きさのカトラリーを作ってくれたので、今はそれを使ってしっかり食べている。

 やはり、こうしてみんなで一緒に同じ美味しいものを食べるっていいよね、とつくづく感じながら天、じゃなかった、スカルワイバーンの骨を煮込んで作ったラーメンを堪能した。

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とあるやんごとなきお方A「くっ、まさか、ここまで遅い時間だったとは、、、。」
とあるやんごとなきお方B「ええ、ここまで遅い時間では、流石に待ちきれませんでしたわ。」

アイスのラーメンを待ちきれずに、結局料理長の料理を堪能する2人でした、、、。
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