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第204話 さてと、みんなには内緒ですよ。

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前回のあらすじ:マーブル達にウナギを振る舞った。


本日の釣果・・・劣化魔石およびウナギたくさん

 今私はモーレツにタレでウナギが食べたいです。とはいえ、領主館で作ってしまうとすぐにバレてしまう、ということで、困ったときのねぐらでございます。ねぐらには、おっさん冒険者のときに手に入れたヤバい金属が封印された状態で存在しているが、そんなものはどうでもいい。必要なのは美味しい水と、本当の意味でマーブル達とのんびりできる空間である。それと、スガープラントの採取というのもあるけどね。

 一応、こう見えても領主であるので、基本的なことを任せている(丸投げともいう)フェラー族長とカムドさんから報告を受けたり、こんなんでも侯爵という立場(さっさと返上したい、というかいらない)であるので、トリトン陛下とリトン公爵と大まかな話し合いをする。基本食い意地が張っている陛下であるけど、リトン公爵も一緒なので、こう見えても仕事はしている。いや、一番仕事してないのは私かもしれないけど、それは任命した人達が悪いということで諦めてもらう。

 族長とカムドさんから受けた報告だと、魔の森と呼ばれる森で何か起こりそうな感じだそうだ。魔の森は我がフロスト領にとっては大切な場所である。食料や木材といった生活必需品があそこには存在している。何事もなければいいのだけど、恐らくそれはフラグだろうなぁ、、、。大ごとにならないうちに私の方でも任務を完了させないとな。でも、魚は欲しい。いくら侯爵の身分とはいえ任務が完了した後では、おいそれとは潜れないだろうからなぁ。恵みのダンジョンをいじるという手もあるけど、残念ながら水場となる場所の展開は出来ない感じだったので、内陸の我が国ではしばらくは王都に出現したあのダンジョンしかないからねぇ。

 陛下とリトン公爵との話し合いでは、進捗状況の報告とその後の行動方針がメインである。一応水路が見つかり水が手に入りそうだけど、水源地まで行かないと個人使用ならともかく王都全体以上で使うとなるとすぐに枯れてしまうだろう、という個人的意見を述べておいた。

 その報告をした後で、改めて深部の探索を依頼されたので、こちらとしてもそのつもりだったので了解した。トリトン陛下は何か言いたそうだったけど、結局言わなかった。・・・ひょっとして気付き始めているのか!? まずい、非常にまずい、、、。今できることといえば、すっとぼけること、これしかない。

 それは置いといて、王都では、それに合わせて現在水を張り巡らせる工事を行っているようだ。そんな予算あるのか? とか思ったけど、先日我が領へ臨時徴収があったときの分をそれに充てているようだ。そういった使い方であれば問題無い。もっとも、リトン公爵は一部をくすねたりとかそんなことはしないことは理解しているので心配はしていなかったけど。

 国内が少しずつ発展してきているとはいえ、まだまだ貧しい国であることには変わりないし、3馬、いや、3大臣が失脚してからそれほど経過していないので、ここはじっくり取り組んでもらうしかないのだろう。それでも、フロスト領へ招待された国民が各地で活躍しているのを聞くと、もてなした甲斐はあったな、とは思う。まぁ、私はあまり関与してないので、お前が言うなと言われるとそうなのだけどね。

 薄氷を踏むような思いで報告を済ませた後、領主館に戻り、吸水作業の済んだ押し麦と醤油を空間収納に入れて、マーブルにねぐらに転送してもらう。久しぶりのねぐらだけど、やはり落ち着く。っと、さっさと始めるとしましょうかね。何と言っても夕食まだだからねぇ。というのも、タレバージョンをリクエストされたからである。マーブル達にお願いされたら断れない。多少時間がかかるから、と言っても待つと言われては用意せざるを得ない。

「では、これよりタレの作成に入りますが、これについては4人だけの内緒ということを念押ししておくけど、大丈夫かな?」

「ニャア!」

「わかっているです! そのためにここで作るですよね?」

「わかったー、だまっておく!」

「よし、それでは作っていきますか。では、マーブルは押し麦ご飯の火付けをお願い。ジェミニはスガープラントの採取を頼むね。ライムはねぐらの掃除を頼みます。」

「ミャア!」

「キュウ!」

「ピー!」

 マーブル達が可愛らしい敬礼で応えてくれた後、それぞれ自分の役目を果たすべく行動に移っていった。では私も始めるとしますかね。私がやることといえば、タレ作りもそうだけど、その前にウナギを捌かないといけない、しかもかなりの数である。というのも、美味いタレ作りにはウナギの骨が必要だからである。正直私が一番大変な作業であるが、解体係のジェミニができない以上は私がやるしかない。

 ということで、私は黙々とウナギを捌いていく。最初こそは多少ぎこちない部分はあったけれども、10匹を超えた辺りからすんなりと捌くことができるようになった。これを映像化すればお金が取れるレベルだと思うけど、そんなものはないからしないけどね。まぁ、10匹程度でここまですんなりと捌けるようになったのは調理スキルのおかげである。

 すんなり捌けるようになったとはいえ、数が数であるので、一番時間もかかるし、実際にマーブル達はこちらが頼んだ作業を終えてこちらの作業をじっくり見ている。かれこれ50匹くらいは捌いたかな。ウナギのストックはまだまだ沢山あるけど、正直キリがないし、タレ用の醤油分はこれで十分だろう。

「よし、とりあえずはこれで十分だね。では、次の作業に入ります。これよりタレを作りますが、マーブルはねぐらにある薪をこっちに持ってきて欲しい。で、ウナギの骨を少し焼いておきたいから、薪に火をつけて。で、それが終わったらウナギの頭の焼却です。」

「ミャア!!」

「次はジェミニだけど、まずは頭の焼却用の穴を掘って欲しい。それが終わったら、薪を集めてきて欲しい。今ある分は恐らく骨を焼く程度の量しかないからね。」

「確かに、あまり多くないですね。了解です!」

「ライムは、スガープラントの白い部分から甘い成分を絞り出しておいて。」

「わかったー!」

 再度可愛らしい敬礼を見てから作業開始である。水術で作っておいた氷の台から骨を取り、用意した網の上に置く。もちろん全部は置けないから置ける分だけね。さっきも言ったけど、薪の量はそれほどあるわけではないので、骨からも水術で水分を出来るだけ減らして焼き目をすぐに付けられる状態にしておく。

 マーブルが火の用意をしてくれたのでしっかりと焼いていく。焼き上げた骨は次々に鍋に投入していく。また、骨を焼きつつ、鍋に用意した醤油を一壺分丸々投入する。本当は頭も入れると良いらしいけど、取り出すのが面倒なので却下だ。

 骨を焼き上げてから、それらを全て鍋に投入し終わった頃に、ライムもスガープラントの絞り出しが終わったようで、絞り出した汁を別の壺に入れてもらった。絞り汁は水術で水分を取りだして固形の状態にするだけである。これが甜菜であれば、いくつか工程を経ないと砂糖にならないけど、このスガープラントに関してはそういった工程をすっ飛ばしてほぼ砂糖になる。ご都合主義とか思うかもしれないけど、この世界ではそうなっているのだから仕方がない。もちろん、以前いた世界でのしっかりと工程を経て作られた砂糖と比べると
多少は劣るところもあるけど、別に気になるレベルではないし、第一精製するという技術はもちろんのこと、そうしようという考えもこの世界には存在しないから、平たく言うと不可能、といえばいいのか。

 まぁ、それはさておきタレの準備は整ったので、マーブルに火を着けてもらう。薪が必要なのはウナギであり、タレを作る際には薪は必要ない、というか、それこそ薪が勿体ない。煮詰めるだけだからね。

 今の状況は、押し麦ご飯の様子を確認するのと、タレを煮詰める作業だけだったので、マーブル達も薪を集める作業に参加するべくこの場を離れていった。正直少し寂しいというのもあるけど、ジェミニが頑張って薪を集めてきてくれており、それを手伝いに行くというマーブル達の優しさに水を差すわけにはいかず、快く送り出した。いや、私が仮に手伝いに行ったとしても、暗くなっている状態の森に行くのは自殺行為である。ただでさえ方向音痴なのだから、、、。

 タレが良い感じで煮詰まってきており、押し麦ご飯の方も、炊きあがってあとは蒸らすだけの状態となったときに、マーブル達が戻ってきた。3人とも嬉しそうな表情をしていることから、かなりの量の薪を入手してくれたのだろう。手ぶらの状態なのはもちろん、マーブルが空間収納の魔法をつかっているからであろう。本当は炭火が一番いいのだけど、炭なんてないしね。そもそも炭が必要になるなんて思わなかったし。

 量が多いということだったので、ねぐらの倉庫に集めた薪を持ってきてもらったのだけど、ほぼ半分を占めるほどの量を集めてきてしまった。話を聞くと、木が結構倒れており、しかも時間も結構経過していたらしく乾燥状態だったので、それらを切ってきたのがほとんどらしい。となると、見た目には乾燥しているように見えても内部では結構水分含んでるなこれ。とはいえ、これだけの量を集めてきてくれたマーブル達には感謝しかないので、言うまでもなくモフモフやおにぎりの刑でもって存分に労った。いや、正確には労ってもらったという方が正しいのか、、、。

 倉庫に置いた薪だけど、今回使う分を取りだして、念のために水術をつかって水分を抜いてから、持ちたそうにしていたマーブル達にそれぞれ渡して調理開始だ。嬉しい誤算だったのは、木ではあるけど串をついでに沢山つくってくれていた。こちらは水分を抜いてしまうと蒲焼きと一緒に燃えてしまう可能性が高かったので、改めて水術で水分を含ませた状態にしておいた。こう見ると水術ってチートだよね。魔法使えないけどな(血涙)!!

 それでは役者が揃ったところで、本格的に蒲焼きを作りましょうかね。その前にタレで使った骨を取り出しましょうかね。タレの完成度を確認することもあり、取りだした骨を囓ってみると、予想以上に良い味でビックリした。それを見てマーブル達も食べたそうにしていたので、少しずつではあるけど分けることにした。いや、メインの前にお腹いっぱいになったら困るでしょう、別にケチった訳じゃないからね。

 捌いたウナギだけど、捌いただけで身については切っていないので、これから切るのだ。とりあえず1人につき2匹ずつだね。身は半分にして、片方は蒸して、もう片方はそのまま焼くとしましょうか。

 考えがまとまったところで、作業を開始する。何だかんだ言って、いつもより遅い夕食になっているので、一から全部私がやると時間が掛かりすぎてしまうので、ここは手伝ってもらうことにした。主にウナギを串に刺す作業だけどね。まずは手本を見せる。

「こうやって切った身を、こんな感じで串を刺していって欲しいんだ。」

 手本を見せると、マーブル達は早速ウナギを串に刺し始めた。一度しか見てないのに私よりも上手だ。特にライムは恐ろしい勢いでウナギを串に刺していった。しかも私達よりも正確に、、、。

 あまりにもアッサリとできたので、折角だからと、捌いた分のウナギ全部に串を刺してもらうことにした。どうせいずれやらないといけないから、今のうちにやっておこうという考えだ。ちなみに、今食べる分以外のウナギは3等分にしてもらうことにした。マーブル達は楽しそうに作業をしていた。やはり可愛すぎる。

 さて、次は今回食べる用に用意したウナギの半分を蒸す作業である。もちろん水術で蒸気を作って、それで蒸す。蒸す作業自体は、先程ダンジョンでもやったので問題無く完了した。

 蒸す作業も終わったので、次はお待ちかね焼きの作業である。骨を焼いていた網をそのまま使う。網にのせてしまうと、天然物なので皮と身が離れる可能性が高いので、本当は網を外して焼きたいところだけど、そうしてしまうと言うまでもなく長さが足りない。

 慎重に皮の方から焼いていく。ある程度火が通ったところで裏返しをする。一通り焼けたので、タレを付ける作業だ。もちろん刷毛なんてものはないので、タレを作った鍋に突っ込むやり方だ。タレがバッチリ付いたウナギをまた網に置いて焼き上げる。焼き始めた順番通りに、ウナギを上げては、タレに突っ込んで、それをまた網に置いていく。

 しばらくして、タレが良い感じで焼けてくると、あのウナギの蒲焼きのかぐわしい香りが一面に広がってきた。その香りにマーブル達も大興奮だ。そろそろ出来上がりも近くなってきたので、蒸しが完了した押し麦ご飯を器に盛りつけていく。ドンブリじゃないのが少し残念だけど、そんなものは些細なことだ。

 ご飯の盛りつけが完了したころ、良い感じでウナギが焼き上がってきたので、焼き上がった鰻を再びタレにつけて盛りつけたご飯にのせて完成だ。

「みんな、待たせちゃってゴメンね。これがタレを付けたウナギ料理だよ。では、食材となってくれた生き物達に感謝して、頂きます!」

「ミャア!!」「キュー!!」「ピー!!」

 みんな一斉に食べ始める。さてと、出来の方はどうかな、、、。お! 思った以上に美味くできたな。やはり天然物、いや、ダンジョン産のものだと臭みが全く出てない。というか、以前いた世界でも、こんなに美味いウナギって食べたことないぞ、、、。

 マーブル達を見ると、みんな嬉しそうに食べていた。マーブルは「ミャア! ミャア!」と食べる度に私を誘惑する可愛い声で鳴いているし、ライムも「おいしい-!」とことある毎に言っているし、ジェミニに至っては、「こんなの、イールじゃない!!」とか嬉しそうに言ってるしね。何はともあれ喜んでくれてよかったよ。私も素晴らしい完成度に満足だ。

 ウナ丼を食べ終わって、少しマッタリしてからみんなに話した。

「みなさん、ウナ丼は美味しかったでしょう? 特にタレを付けたウナギは最高でしたね。しかし、これを知っているのは私達4人だけなのです。何が言いたいのかはわかりますね?」

「アイスさんが、久しぶりにねぐらで作った理由がわかったです、、、。」

 ジェミニがそう答えると、マーブルとライムも頷いた。

「一つ言いたいのは、このタレを使って焼いた匂いっていうのは、自分たちが思っている以上に強い匂いが付いているのです。」

 マーブルが何かを察したように、風魔法を繰り出して匂いをできるだけ上空へと飛ばした。

「マーブル、正解です。しかし、それだけでは不十分です。ということで、久しぶりにここで風呂と洗濯を済ませようと思います。」

 こうしていつも以上に念入りに湯船に浸かり、洗濯も念を入れて2度洗いまでして乾かした。そうしながらもマーブルはねぐら内の空気を入れ換えるべく広範囲に風魔法を使っていた。

 ウナギの蒲焼きの余韻に浸りながらも領民にバレないかビクビクしながらフロストの町へと転送魔法で戻って寝床に着いたのだった、、、。
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