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第206話 さてと、ようやくボス戦ですか。

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前回のあらすじ:そこにはプールがあった。


「さて、どうしようか、これ?」

 私達は目の前にある真っ黒なプール? のような25メートル四方の水槽を目にしていた。真っ黒とはいえ全く見えないわけではなく、ぼんやりとシルエットのようなものは確認出来る。恐らくボスと思われる超大型種が1匹と、その取り巻きが多数、、、。取り巻きは超大型種と比べると小さいものの、それでもかなりの大きさのように思える。

 近づいてはみたものの、向こうから襲ってくる気配は全く感じられない。水中目がけて攻撃するのはよろしくないので、向こうが襲ってくるのを待つしか無いのだけど、その気配が全く感じられないので多少途方に暮れているのが正直なところ。

「あんなに大きそうなものがたくさんいるのに、狭くないんですかね?」

 ジェミニがそんなことを口にして、私はようやくそっちに気がついた。そういえばそうじゃん。ひょっとして、あの真っ黒なやつは大きさを誤魔化すため!? それならばある程度納得はいく。魔物とはいえ、相手は魚である。間違いなくこちらを仕留められる保証というか自信がなければ、わざわざ相手の土俵に立つ必要はないのである。

「うーん、これは困ったね。無視して先進む?」

「アイスさん、流石にボス部屋のようですし、無理ですよ。現に入り口も出口も閉まっているです。」

 そうか、そういえばボス部屋だったね。

「ミャア。」

「ん? 何、マーブル? ああ、鑑定してみろって? うん、実は試してみたんだけど、どうもあの黒いのが邪魔で鑑定できないってアマさんが。」

「ミャウ、、、。」

 そう、一応鑑定はしようとしてみたんだけどね、結果が「真っ黒で分からんぞい。」って返事だったのよね。

「よし、考えていても仕方がない、ライム、あの水に向かって魔法を試してくれない?」

「わかったー!」

 ライムの体が光り出し、その光がプールに入り込む。が、特に反応はない。ならばと再びライムが魔法を放つが、やはり反応はなかった。

「ボクのまほうではむりみたい。」

「ありがとう、ライム。ということは、あの水は別に闇属性ではないということか、、、。」

「となると、次はこの部屋にボタンやレバーなんかの隠し要素があるかもしれないかな。ちょっと探してみましょうかね。あ、ライムは天井から頼むよ。」

 部屋の中をくまなく調べてはみたけど、何もなかった。では、次の手だ。

「よし、次はサンダーレインを放とう!」

「ミャア!」「キュウ!」「ピー!」

 3人の可愛い敬礼を確認した後、まず私が水術で霧状の塊を用意する。それをマーブルが風魔法で包み込んで激しくかき回す。塊はときどきバチッっという音が出ている。それを確認したジェミニが土魔法で土の塊を作り出す、とはいえ、迷宮内なので、それほど土は集められなかったけど、それでも何とかなる大きさではあったと思う。その土の塊をライムが光魔法でコーティング。その土の塊をライムが静電気の塊目がけて蹴り放った。

 元気玉ならぬ電気玉はプールの中に入ると、プール内で電撃が広がっていた。しかし、これも効果が無かった。

「ありゃ、これでも効果がないか、、、。」

 あの黒い水、絶縁機能持ち? それとも、あの魚たちが電撃無効ないし耐性持ちってこと!? そうなると、あとは釣りとか? いや、それは無理だな。そもそも私は釣りをしたことがない。以前いた世界でも釣りは一度もしたことがないのだ。さて、どうしようかな、、、。

「あの、アイスさん。水術であの水凍らせてしまうのは?」

「・・・そうしたいのは山々だけど、ここが水源だとすると厳しいかも。まぁ、他に手もなさそうだし、それでいきますか。」

 マーブル達も頷いていたので、その案を採用することにして、水術を発動させる。幸いにしてプールは水源ではなかったようで、どうにか凍らせることには成功した。とはいえ、結構時間がかかったね、かなり深いよこのプール。

「さて、凍らせたはいいけど、これからどうしようかね。地道に魔法で削っていくかな?」

「ミャウ、、、。」

「ですね、ちょっと面倒ですよね、、、。」

「あのおっきいのだけみずにもどしたらどーかな?」

「おお、そうしますか!」

 と、こんな感じで意見が決まりそうだったとき、氷にひびができ始めていた。氷のひびは広がり始めたと思ったら、どんどん大きくなり、やがて割れたと思ったら、魚の大群が空を浮いていた。

 ・・・お前ら、空飛べるんなら最初から飛んで来いよ、、、。っと心の中で突っ込みつつ、プールの氷を再び修復する。また逃げ込まれたら面倒だし。魚群はボスを中心にこちらを攻撃せんと様子を窺っているようだ。ボスは10メートルくらいの大きさがあり、取り巻き達はというと、これも3メートルくらいと、やはり大きかった。

 ・・・どうやったら、あんなスペースでこんな量の魚が存在できるんだろうか、、、。プールの容量と今いる魚たちの総体積の割合が全く合わない、、、。しかも、シルエットだと泳いでたぞ、こいつら。っと、折角姿を現したんだから、改めて鑑定鑑定と。アマさん今度は頼むよ。

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『キングトラウト』・・・おおっ、ようやく魚系の魔物が現れたのぅ。長かった、非常に長かった。どれほどこの時を待ち侘びたことか、、、。ちなみに、生食には向いていないようじゃの。
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 ほう、トラウトか、、、。サーモンではないのが残念だけど、焼けば美味いことに変わりは無い。とはいえ、あの水の中にいたというのが少々気になるところだけど。ちなみに、私はサーモンとマスの区別はできないのでわかりません。では、ボスの方は一体どうなんだろうね。

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『マセマティックス』・・・ほぅ、これは、、、。こいつはそこにいるキングトラウトの上位種であるエンペラートラウトという種類の特別種というやつじゃの。ダンジョンならではじゃのう。こやつはキングトラウトとは異なり生でも食べられるようじゃな。・・・アイスよ、頼むぞい。
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 何が、「アイスよ、頼むぞい。」だよ、、、。まぁ、生食もいけるのであればそれはそれで嬉しいですがね。しかし、名前がおかしくないか? マセマティックスって何だよ!? ん? そういえばボスって体にどこかで見たような記号やら何やらがあるな、、、。とりあえず見つかったのが「Π」とか「Ω」とかだな。あとは、何かの数式みたいなものが?

 !! まさか、、、。あれって数学で使ったりする文字だよな。ちゃっかり「x」とかもあるし。ということは、あの名前っていわゆる「数学」ってやつか。で、省略されていなければ、数学は英語でマセマティックス、短くしてマスって、おい!! 転生者、しかも一部の知る人ぞ知るようなネタぶっ込んでくるんじゃねぇよ!! 誰も気付かなかったらどうするつもりだったんだよ!!

 ・・・っと、まぁ、いい。あの数学は生食いけるんだよな。ということはトラウトサーモンみたいなものか。どちらにしろ楽しみだぜ。

「さてと、みなさん、嬉しい知らせです! 何と! ここにいる魚たち! 食べられます!!」

「ミャア!!」「キュウ!!」「ピー!!」

 それを聞いたマーブル達は大喜びだった。ボスという認識が食材という認識に変わった瞬間でもあった。それに伴ってボスを含めた魚たちは、警戒から恐怖へと変わったようで、堪えきれなくなった取り巻き達が一斉にこちらに攻撃してきた。

 マーブルとジェミニはそれぞれ、すれ違いざまにキングトラウトを一閃、真っ二つに切り裂かれて消滅。ライムは真っ向から体当たりをかますとキングトラウトが天井まで跳ね飛ばされ、その後床にたたきつけられ消滅。私ですか? 弓出してなかったし、避けて左フックで仕留めましたよ。ライジングドラゴンブロウ? 無理ですよ、着地後に狙われたらシャレにならないじゃないですか、、、。

 その後、次々に襲ってくるトラウトたちを仕留めていき、最後に残ったのはボスである数学、、、。一向にこちらに近寄ってくる気配がない、それどころか、何か黒いものを纏い始めた始末。なるほど、あの黒い水の正体はこいつだったのね。

 試しにとマーブルが風魔法を放つ。やはりあの黒いものに阻まれた様子。いや、正確には完全に阻まれたわけではなく、ある程度ダメージは通っている様子。水中じゃないから半減しきれなかったんだろうなと予想。しからばと、いくつか追加で風魔法を放った。流石に耐えきれなかったようでズタズタにされて消滅した。

 全滅して少ししてから、ふさがれていた扉が消えて、その他には凍らせていたプールの真ん中に魚の大群が出現した。内訳は、高級トラウトの身と最高級トラウトサーモンの身とその卵である。

「よしっ!!」

 思わず小さくガッツポーズをしてしまったが、問題はないだろう。

 その後、この部屋をでて先に進むと、無機質な部屋とそこにはクリスタルのようなものが鎮座していた。恐らくこれがクリスタルコアというやつだろう。鑑定してみると、やはりクリスタルコアだった。触れるとダンジョンマスターになれるみたいだけど、ここはフロスト領ではなく帝都なんだよなぁ、、、。それに、もうすでに恵みのダンジョンのマスターになっているから、これ以上は勘弁してほしい。まぁ、あのダンジョンについては基本何もしてないけどね。

 取り敢えず、この件は一旦保留にしてリトン公爵に報告してからかな。マーブルにこの場所に転送ポイントを設置してもらうことにした。多分来られるでしょ。

 では、折角だから、ここでマスとトラウトサーモンの試食会としましょうか。

「マーブル、ジェミニ、ライム、折角だから、これを味見してみないかい?」

「ミャア!!」

「もちろん、食べるです!!」

「ボクもたべるー!!」

 そう言って、嬉しそうにこちらに飛びついて来た。うん、幸せだ。よし、では作成開始だ。とはいえ、実際にはマスは塩焼き、トラウトサーモンは刺身にする程度で他には何もしないけどね。イクラ? 実はイクラ苦手なんだよねぇ、、、。

 そもそもあれを漬けるだけの醤油も無いしね。醤油はあるにしても、今回のお刺身用とかホントに少量しか用意してないから。まぁ、私は食べなくても領民達は喜んで食べるだろうし後で作らないといけなくなるのは目に見えているかな。取り敢えずイクラについては戻ったら作ってしまってこちらで少しずつ放出するのがいいかな。それほど獲れないだろうしね。

 何はともあれこれから昼食だ。先程しまったマスを1匹分取りだして捌いて切り身にしていく。骨は今のところ使い途もないからダンジョンに吸収してもらいましょうか。同様にトラウトサーモンも捌いてそれぞれ柵にしていく。

 やや広めな鉄板を出してマーブルに点火してもらい、温まったら油を引いて切り身にしたマスを順次置いていき焼いていく軽く塩、いや、スガーを振るのを忘れてはいけない。トラウトサーモンは水術で作った氷の台の上にまな板を置いて刺身にしていく。よし、問題無く刺身になっているな。流石は調理スキルだ。

 ある程度焼けたら置いた順番にひっくり返していく。グリルじゃないから両面焼かないとね。とはいえ、これだけ質を誇る食材だから、火を通しすぎては少し勿体ないので、ギリギリを攻める感じで焼き上げる。

 マーブル達にそれぞれ皿を用意してもらい、切り身と刺身を乗せていく。もちろん、これらはそれぞれ別の皿である。空間収納にしまっておいた押し麦ご飯と作っておいた味噌汁を取りだして、それぞれよそって準備完了。

「では、食材となってくれた生き物たちに感謝をして、頂きます!!」

「ミャア!!」「キュウ!!」「ピー!!」

 では、頂きましょうか、、、。最初は焼きマスからだね。・・・よし、予想以上の出来映えだ! これは非常に美味い。焼き鮭ほど脂はないにしても、以前いた世界で食べたマスとは比べものにならないくらい美味い。高級トラウトというのは伊達ではないのかもしれない。

 次はトラウトサーモンだね。醤油につけると、醤油が脂に染まってしまった。どれだけ脂があるんだろう、これは期待して良いやつだ! では、食べましょうか、、、。!! マジか! ここまでとは思わなかった。魚自体も凄く久しぶりというのもあったけど、それを抜きにしてもここまで美味いとは思わなかった。

 マーブル達も大絶賛であった、よかった。取り敢えず焼いた魚の匂いを付けたまま戻るのはよろしくないと思ったので、急遽ねぐらに戻って風呂と洗濯を済ませてからダンジョンマスターのルームに戻って、そこから帝都のフロスト邸を経由してフロスト領へと戻った。

 後は報告するだけか。・・・ところで水源ってどこなんだろうか、、、。
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