上 下
209 / 210

第209話 さてと、式典その後の様子です。

しおりを挟む
前回のあらすじ:私頑張った。


 式典も恙なく終わった。式典に参加したのは各貴族と来賓数名と極々一部の帝都民のみであり、その他の帝都民は自分たちの住んでいる場所の近くに水が流れるのを確認しただけである。まぁ、宮殿自体も帝国内では二番目に大きい建物ではあるけれども、それでも他国の宮殿と比べると小規模であることは否めない。いかんせん世界最貧国の1つではあるのでそれも致し方ない。

 要するに入りきらないのである。とはいえ、帝都の各所に水が流れるようになって、思う存分水が使えるようになったのだから、それだけでもかなり嬉しかったのだろう、帝都中から歓声が聞こえてきたのだ。その歓声は宮殿の奥にいた私達にも聞こえたのだから、どれだけ凄かったかご理解頂けると思う。

 式典が終わった後は、祝賀会を行う予定らしく、貴族達は宮殿内で、平民達は屋外でそれぞれ行う予定だそうだ。私達は言うまでもなく屋外組での参加予定だ。一応身分は侯爵ではあるけれども、以前いた世界はもちろんのこと、今でもほぼ平民と変わらない生活を送っているし、何よりあの貴族同士の陰湿なやりとりはできる限り避けたい。

 ・・・予定は未定であり決定にあらず、そんな言葉が頭の中をよぎってしまった。ハイ、宮殿内での参加を余儀なくされてしまいました、、、。散々ごねたけど、侯爵という立場がそれを許してくれず。かなり落ち込んでいたのだけど、マーブル達が一緒に参加してくれるということで渋々承知したわけですよ。

 マーブル達にゴメンねと謝ると、それぞれ私の定位置に飛び乗ってモフプヨをして慰めてくれました。そんな中でジェミニが、「戻ったら蒲焼き食べたいです。」とボソッと言ってきましたよ。マーブルやライムも頷いておりましたね。もちろん承諾以外の返事はありません。喜んで用意しますとも!!

 祝賀会もなんとか終了して、私達はフロスト領へと一足先に戻った。ちなみに参加した領民達は数日帝都にとどまってから戻るそうだ。アンジェリカさん達戦姫はというと、同じく帝都に数日滞在するそうだ。というのも、タンヌ王国からの来賓も数名来ていたようなので、タンヌ王国側から是非にとせがまれて渋々承知したそうだ。

 フロストの町に戻った私達は、我が家(領主館)に戻ると、さっさといつもの格好に着替え、脱いだ貴族服を職人街にいるヴィエネッタに預けてから、ねぐらへと移動した。

 ヴィエネッタに預けたのはもちろん、洗濯等を任せるからである。服が服なのでいつも通りに水術で高温の状態でかき回すだけというのは正直よろしくないと思ったからだ。ヴィエネッタ曰く、その程度では何ともないから大丈夫とのことだったけど、正直怖い。それ以上に面倒だというのは黙っておこう。

 ねぐらに移動したのはもちろん、蒲焼きのためである。祝賀会での食事は? と思うかもしれないけど、あの場でガッツリ食べられると思ったら大間違いである。人が引っ切りなしにやってきて挨拶をしてくるのだ。

 定番の娘紹介イベントはもちろんのこと、やれ戦姫を紹介してくれだの、やれウサギ族のどれかを譲ってほしいだのと非常に面倒臭い物だった。

 おいおいマジかよ、と思ったのは、顔が脂ぎっており、腹も思いっきり出てしまっているド定番のボンクラ貴族の息子がハァハァしながら「あのネコ耳の子を是非に!! もちろん、触れたりはしません!!」とかいう、いわゆる「Yes、○リータ、Noタッチ」的なものまでいやがった時には流石に殺気が出てしまった。言うまでもなくネコ耳とは、我が領のアイドルの一角であるパトラちゃんのことだ。

 そんなこともあり、私は腹ぺこ状態であるし、料理長の本拠地での本気料理を思いっきり堪能できなかった恨みも少なからずあったので、思いっきり美味い物を作って食べまくるぞ! ということでねぐらにやってきたのである。

 ウナギの蒲焼きや、ドラゴンの上位種など高級素材を惜しむことなく投入して作った夕食をマーブル達と水入らずで楽しんだ後は、いつも通り風呂と洗濯、モフモフを済ませてから領主館へと戻って就寝した。

 ・・・あれから数ヶ月が経過し、帝都では水が行き渡ったことで体をキレイに保つように徹底的に教育をし直した結果、以前の姿が想像できないほどまでに変わっていった。

 また、たった数ヶ月でここまで上手くいったのも、宰相であるリトン公爵の日頃の成果の賜物でもあった。というのも、リトン公爵は伯爵のときから常日頃積極的に領民の顔役ともいえる人達と交流をしていたそうなのだ。

 顔役の方も、普段から世話になっていたリトン公爵がいうのであればと積極的に協力した結果、今回のような早い浸透が可能となったのである。その話を聞いたとき、凄ぇとか思ったけど、見習おうとは思わなかった。

「フロスト侯爵が美味い物を沢山作ってくれるようになってからは、説得が楽になったよ。」とか言っていたけど聞かなかったことにしよう。

 さて、帝都では一段落付いたかもしれないけど、まだまだやらなければならないことは山ほどある、というよりも、これからやらなければならないことが山ほど出てきた、というのが正しいのだろう。リトン公爵もそうだけど、何だかんだ言ってもトリトン陛下自体も忙しくてこちらに来ることはほとんどないだろうなぁ、、、。

 ・・・と思っていた時期が私にもありました。ええ、以前と変わらずほぼ毎日来やが、、、いや、いらっしゃいますよ、もちろん陛下も一緒にね。

「・・・陛下、並びにリトン公爵、帝都の開発計画でかなりお忙しい状況のはずなんですが、なぜほぼ毎日フロストの町に?」

「フロスト侯爵は不思議に思うかもしれんが、別に開発計画なぞ、帝都にいなくてもできるのだよ。」

「リトン宰相の言うとおりだぜ。それにな、最近は以前よりもかなり調子がいいんだよ、だから、向こうで何が起きているのかは、大まかなことはここにいてもわかるんだよ。」

 チッ、やはりダンジョンから水が湧き出た件で、トリトン陛下がパワーアップしてやがるぜ。いや、力の一部がまた戻ってきたという方が正しいのか、にしても、まさか相変わらずここに通い込むとは夢にも思わなかったけど、、、。

「それによう、あっちにいると、必ず誰か付いてるだろ? どうにも落ち着かなくてなぁ。」

「いえ、お二人の立場でしたら、必ず誰かが付いているのが当然では!? いい加減そっちにも慣れていきましょう、いや、この場合は元に戻りましょうといった方が正しいのか。」

「何を今更、というのが我らの意見だな。それに必ず誰かが付いている必要があるのは侯爵も同じなのではないかね?」

「私には常に、マーブル、ジェミニ、ライムといったこれ以上無い頼もしい護衛が付いておりますので、陛下やリトン公爵とは違いますよ。」

「まぁ、それは置いておくとして、こちらにいる方が具体的な案が出やすいのだよ。帝都にしろ、他の都市にしろ、水路についてはここを参考にしているからな。」

「技術者は派遣しておりますが、、、。」

「確かに派遣されてはおるが、実際には領民ではなく、ここの領民から教えを受けた者達だろう? 確かに彼らは優秀で我らとしても非常に助かっておるが、やはり大元であるゴブリン達や洞穴族の者達から聞かないとわからないものもまだまだ存在するのだよ。」

「実際に彼らを派遣してもいいとは思いますがね、問題は彼らの指示に従うかどうかが問題ですかね。」

「そこなんだよ。はぁ、本当に面倒なことだ。他国よりはマシとはいえ、我が国でも人族以外の蔑視の風潮はあるからなぁ、、、。」

「それなら勅命で出すぞ? その方がやりやすいだろ?」

「いえ、そう致しますと周りがうるさくなりますので。」

「周り? いいじゃねぇかよ、別に。元々ここは何処の国とも友好的じゃなかったしな。」

「とはいえ、無理して敵対する必要もございますまい。それに、全国的に工事を展開しておりますので、人がおらんのですよ、、、。それに、、、。」

「それに? 何だ、他にも理由があんのか?」

「ええ、彼らを派遣しても問題無くなると、我らはここに来ている意味、いや、名分がな、、、。」

「宰相! それ以上は言わなくてもいい。そっちの方が問題だな、じゃあ、現状維持で。」

「承知致しました。」

「えぇ、、、、。」

 こっちにいるためだけに、そんなことしてるのかよ!!

 相変わらずこの2人、いや3人か、マリー夫人も含めて。まぁ、普段と変わらないといえば変わらないんだよねぇ。この人達平気で町中歩いて領民達と一緒に酒飲んだり食事したりしてるし、むしろ来なくなったら領民達に違和感が発生するのかなぁ、、、。

 ところで、国のトップの2人と1人は相変わらずであったが、一般レベルではどうだったか? というと、以前よりむしろ来客が増えている状況らしい。というのも、祝賀会でいろいろあったようだ。

 例えば軍関係でいうと、今までは武術を鍛えにだけフロスト領へと来ていた者が多かったのだが、最近ではもちろんマーシィ教官の下へと来る者も相変わらず多いが、ゴブリン族の3隊長であるエーリッヒさん、エルヴィンさん、ハインツさんの元へ来る者が増えていた。

 特に、貴族の長男や、冒険者でも指揮を執ることが結構ある者達はこぞって彼らの元を訪れるようになったのである。・・・やはり彼らはこの世界でもリアルチートなんだなぁとつくづく思ったのだった。

 他にも鍛冶や宝飾などでは洞穴族に、生活用品の加工などではゴブリン族に、魔導具ではラヒラスのところに通う始末。ちなみにラヒラスは問答無用で門前払いをしていた。「製作の邪魔」なんだそうだ。

 また、勉強しようとこちらに来る者もいれば、全く来ない者ももちろんいる。貴族毎に思いっきり分かれているのが面白い。獣人蔑視とかの考えを持つ者や宗教に帰依している連中はもちろん来るわけがない。単純にいいとこ取りをすればいいだけの話なのにそれができない。まぁ、こちらに手出しさえしなければ別にどうでもいい。

 もちろん、それ以外の目的でも来る人が増えている。そう、あのデブ貴族? である。何やら彼を筆頭として「パトラちゃん親衛隊」を結成して活動しているようだ。Yes何とかを堅持しているようで、とりあえずパトラちゃんの安寧は保たれているようだ。

 時たま見回りで領内を歩いていると、「アイスしゃまー!!」と飛びついてくるのだけど、飛びついた瞬間に憎悪の視線がまとわりついてうざったい。とはいえ、手を出してくることはないのでこちらとしては何もできないのが現状である。

 言うまでもなく別バージョンも存在する。そう、クレオ君に対してだ。こちらはゴツい系の女戦士が多く、やはり紳士(淑女?)協定が結ばれているらしく、こちらもかろうじてクレオ君の安寧は保たれているようだけど、どちらにしても面倒くさいのが来たなぁというのが本音である。

 こうして考えてみると、町の発展っていいこともあれば悪いこともあると改めて思ったのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:63

ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:45

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:2,525

【完結】突然異世界に召喚された俺、とりあえず勇者になってみますね

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:108

身一つで異世界に。 〜 何も持たない男が成り上がる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:95

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:19

処理中です...