私たちのスーサイドノート

田口想

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『生き人形』。

 “宝石で造られた美しい人形の少女が現れ、不思議な問いを残して去る“と、この国で噂されている都市伝説。

 なんでも、その人形の白い肌は真珠で作られ。彼女の美しい金髪は純金で作られているのだとか。

 人形の瞳には海のように輝くサファイアが埋め込まれ。その瞳で相手を映すと、その淡く柔らかな薔薇色の唇でこう問うのだそうだ。


『この遺書の意味を知りませんか?』と。


 警官は老人の問いに瞼をぴくっと反応させ、先ほどよりも鋭い眼光で老人を睨みつけた。
老人は警官の様子に気づいたのか、更に体をこわばらせて身を縮める。

「…『生き人形』だって?くだらない。あんな噂のために我々が動くわけないだろ」

「そ、そうですよね。へへ、失礼しました」

 老人が焦った様子で肯定する。警官達はその様子を見てふんっと鼻を鳴らすと、踵を返すようにその場を後にした。
二人は老人の姿が小さくなるのを確認し、ボソボソと小さな声で話始める。

「まさか、あの噂がもうスラム街にまで広まっているだなんて…」

「ああ、まぁ。俺たちも含めて、誰も本当だとは思わないさ」

「…ですが、国がわざわざこのような噂話のために動くとは思えません。もしかしたら、本当なのでは」

その問いに、隣にいる警官が鼻で笑い出す。

「おとぎ話じゃあるまいし…。あまりにも国民が話題にするから、国も動かざる終えないのだろう」

「そう、ですかね…」

答えに納得の行かない表情にもう一人の警官がイラついた様子で相手を小突く。

「シャキッとしろ。例えくだらないことでも、俺たちは言われたことをやればいいのだ」

「…そうですね。さっさとここから出て、仕事に戻りましょう」

警官は雑念を振り払ったような表情を浮かべて見せると、二人はその場を後にした。



 二人の背をじっと眺めていた老人。
自分の視界から二人がいなくなるのを確認すると、不機嫌そうにふんっと鼻を鳴らした。

「噂を追いかけるなんて、警官もいい身分だな。それでお金がもらえるんだから」

 そう言って床から立ち上がり、ボロいローブを脱ぎ去る。

 特徴的な褐色の肌とドレッドヘアが現れ、先ほどまでの弱々しい老人が嘘のように少年へと姿を変えた。

 少年は口元のひげをとると、吐き気でも催すような表情で髭を顔から遠ざける。

「臭っ。これ、何でできてるんだよ…。それにしても『生き人形』ねぇ」

先ほどの警官たちの会話を振り返り、青年が不敵な笑みを浮かべた。

「いいね。金になりそうだ」
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