高嶺の花が堕ちるまで

美海

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「ルゼ様、挿れますよ。考え事はしていていいですが、痛い時は痛いと言うこと」
「っ、痛いの、嫌……!」
「痛くしないように気をつけますが、挿れて中に子種を注がないと子ができないので、すみません」

 ロルフは優しい。
 初夜にルゼが『服を脱いで裸を見せるのは嫌だ』と言ったら、秘所だけを晒して繋がればいいと教えてくれた。
 子作りに必要がない箇所を触るな、必要がある箇所も長々と弄るなと言うと『慣らさないと痛い思いをしますよ』と困った顔をしながらも、触れ合いは最小限にすると約束してくれた。
 ロルフはルゼの希望を何でも聞いてくれる『良い旦那さま』だ。

「ひぎっ、痛い……っ!」

 それなのに、優しい彼との夜の営みはどうしてこんなにも痛くて苦しいのだろう。こわばる体を太い熱杭で貫かれて、ルゼは痛みに涙を流した。
 今日も駄目だった。
 濡れない穴に香油を塗り込んで潤いを持たせ、指で前戯を施されてようやくほぐれた蜜洞も、ルゼが挿入を躊躇っているうちに狭く閉ざされてしまう。そこを大きさの合わない男根にこじ開けられる恐怖と苦痛とで、ルゼの体はいっそうこわばり、硬く侵入者を拒絶する。負の循環だった。

「痛いですか? 香油を足しましょう」
「足してもどうせ痛いものっ、もう、終わる?」
「まだ全然入ってません」
「うぅ……やだ、裂けるの、こわい!」
「初夜の時に血が出たのは、あなたが処女だったからです。もう怪我はしませんよ」

 言われて悲惨な初夜を思い出したルゼの目には、新たな涙がこみ上げた。
 あの夜は薄い夜着を纏い、ひっくり返った蛙のような無様な姿勢を取らされただけでも屈辱的だった。自分でも見たことがない場所を知らない仲の相手に見られるなんて堪え難かったのに、ロルフは今よりずっと冷ややかな視線をルゼに向けていた。
 一通りの準備をした後で陰茎を膣に突き入れたロルフは、躊躇いなく腰を送り、奥まで進めようとした。それまでにさんざん駄々をこねていたルゼが挿入に同意したから、ルゼの気が変わらないうちに早く終わらせようとしたのかもしれない。

『痛っ、痛い、やだ、痛いのっ! やめていれないでっ、むりっ、いやぁああ――……!』

 狭い穴を押し広げられて処女膜を破られ、そのまま張った亀頭で潤いの足りない洞をぞりぞりと擦られて、あまりの痛みにルゼは気を失った。
 あの日の記憶は曖昧だが、破瓜を確認したロルフの呆然とした顔だけはよく覚えている。

 初夜の翌日以降、ロルフは優しくなった。
 それまでの丁寧で礼儀正しいがどこか冷ややかな態度ではなく、心からルゼを案じているような態度に変わった。
 ルゼの言うことは何でも聞いてくれるし、欲しいものはなんでも買ってくれる。ルゼの嫌なものは全て遠ざけてくれる。

「……『怪我はしない』と言われても、痛いのは嫌ですよね。今日はもうやめましょうか」

 ほら、彼はルゼを尊重して大事にして――愛してくれる。
 週に一度のこの時間さえ無ければ、ルゼは結婚生活に何の不満もないのだ。なのに、この生活は子作りありきのものなのだという。

「今日やめるって言ってもっ、次も、挿れるの?」
「ええ。護国卿の命令は『子作り』ですから」
「じゃあっ、今日、中に出して! 早く赤ちゃんできるように、奥で出すところまでしてっ!」
「……分かってないんだろうが、凄い殺し文句だな」
「なにっ? なんて言ったの?」
「何でもありませんよ、ルゼ様。残りも挿れてしまいましょうね」
「いだあぁっ!」
「嫌なことはすぐに終わりますから。天井のしみでも数えていてください」

 全てを納めきった後で性急に腰を振る夫に揺さぶられながら、ルゼはひたすらこの苦行が早く終わるようにと願っていた。

「お疲れ様でした、ルゼ様」
「ぁ……っ、」

 体の奥深くに熱い飛沫を浴びせかけられて、ようやく凶器が引き抜かれる。
 情事の余韻に浸ることもなく、ロルフは種々の液体にまみれたルゼを湯で濡らした布で清めて、新しい夜着に着せ替えてくれた。

「今夜も我慢してくださったから、何か欲しいものがあるなら用意しますよ」
「娼婦じゃないもの。引き換えにねだったりなんかしないわ」
「一夜の花代ではなく、美しいあなたへの捧げ物です」
「……真珠入りの白粉が欲しいの。肌が美しくなると聞いたから」
「分かりました、用意します。……今日ので子どもができているといいですね」
「うん」

 子作りさえなければ、優しい夫と満ち足りた結婚生活のどちらもが手に入るのだ。早く孕んで、この『痛くて苦しい嫌なこと』を止めにしたい。
 その一心で頷くルゼを、ロルフは複雑そうな顔で見ていた。
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