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2巻
2-2
「いつもこうなんだよ。魔獣が来るとこうやって準備して、みんなで丈夫な部屋に移動するの」
お兄ちゃんはニッコリ。全然怖がってません。ママ達も急いで荷物を準備していること以外、お顔はいつも通り。ラオク先生は窓の方に行って、今日はいい天気ですね、煙がよく見えますって落ち着いていました。
「では私は先に」
「レスター、この毛布を持って行って」
レスターが僕のお気に入りの――サウキーの絵が描いてある毛布と、それから他にもたくさん物を持って、お部屋から出て行きます。それからすぐにばぁばが戻って来ました。
「用意は大丈夫?」
「はい。もう行けますわ。さぁ、マイケル、ジョーディ、それからわんわん達。これからお部屋を移動するわよ。マイケルはばぁばと、ジョーディは私と、わんわん達はベルと一緒にね。先生は私達の後について来てください」
ばぁばとお兄ちゃんが、一番にお部屋から出ました。次にママが僕を抱っこして出ます。廊下をあっちこっち、使用人さん達とメイドさん達が走ってます。
みんなで階段を下りて一階に着くと、右に歩いて行って一番端っこの部屋の前に。ドアがもう開いていて、レスターが荷物を運び入れていました。
その中は、僕達がお泊まりしている部屋より、ちょっと小さいです。ママが僕をベッドに下ろして、また動かないでって注意します。お兄ちゃんとわんわん達もベッドに乗っかって、ママは荷物の方へ。
ママ達を見ていたら、わんわん達が何かを見つけました。
『ジョーディ、もう一個ドアがあるよ』
『あとで見てみようよ。今はベッドから下りちゃダメだもんね』
「あい!」
街で遊べないって言われてブーブー言ってたけど、それどころじゃなくなっちゃったし、お部屋の中を探検するのもいいかも。そんなお話をしていたら、
「ジョーディ様、朝のご飯を食べる前に診察してしまいましょうね」
ラオク先生が、ベッドに乗ってる僕の方に近づいてきました。そうだ、色々あって忘れてたけど、僕は先生から逃げようとしてたんだった。だって知らない人だったから。忘れてたよ。
ラオク先生は、ママとのお話からすると、たぶんお医者さんだよね。僕、この世界に来てもお医者さんと離れられないのかな? もう検査とかヤダ。だって今までいっぱいしたんだよ。
あっ、でも、先生が僕のことを診て、元気だって言ってくれたら、部屋の中で騒いで遊んでも大丈夫かも。そう思った僕は、先生が近づいて来ても、逃げないでじっとしてました。
「あれ、今度は逃げないんだね。じゃあ、そのまま静かにしていてね。診察はすぐに終わるよ」
ラオク先生がそっと僕の頭に手を載せます。すぐに手を載っけたところが温かくなってきて、それが体全体に広がります。ポカポカ、ポカポカ。最初は大丈夫だったんだけど、どんどん熱くなってきて、今は熱いくらいです。
僕が熱いのから逃げようとしたら、ママが僕のことを押さえました。手をバタバタ、足をバタバタさせて逃げようとしたけど、ママのガードが固くて身動きできません……涙が出ちゃいます。
「ジョーディ、もう少しだからね」
もうダメってなった時、ラオク先生が頭から手を放しました。そしたら熱いのがどんどんなくなっていきます。
「うえ、うえぇ」
「もう終わりですよ」
「先生、どうでしょうか」
「何処も悪いところはありません。もう大丈夫だと思います。ですが油断は禁物です。今大丈夫でも、この騒ぎですからね。またぶり返す可能性もあります。やはり今日、明日は安静に」
え~、あんなに熱いの我慢したのに? それに、今は大丈夫なんでしょう? だったら遊んでもいいんじゃない?
ラオク先生が、持っていたカバンの中から、瓶を取り出しました。あっ、あれは何となく覚えてる。確かとっても苦い物が入ってたよね。
「食後の後にこの薬を」
僕がじぃーって瓶を睨んでたら、先生が笑いました。
「ははは、そんなに睨まなくても、この薬は美味しい薬ですよ。昨日の苦い薬を何となく覚えていましたか?」
先生ったら笑ってるけど、大切なことだよ。苦い薬なんて飲みたくないもん。僕がまた瓶を睨んでいたら、ベルがご飯の準備ができましたって声を上げました。
テーブルを見たら、いつの間にか朝のご飯の準備ができていました。
僕はママに抱っこされて椅子に座ります。このお部屋にも僕専用の椅子がありました。赤ちゃんが使う、テーブルと椅子がくっ付いてるやつのことね。ママが僕の胸にハンカチを付けてくれて、ベルがテーブルに、お野菜のスープと果物の盛り合わせを置きます。
みんなでいただきますをして、ご飯を食べている時でした。部屋の端っこの方で、レスターとベルがまだ荷物の片付けをしてたんだけど、ベルがカバンをガサゴソ探ります。そして中から出した物は……大きな枕でした。あの枕、僕がお家で使ってるやつ! どうやってカバンの中に入ってたの? だってカバンよりも枕の方が大きいんだよ?
僕がビックリしてじぃ~って見てたら、ママが早くご飯食べなさいって注意しました。でも、ご飯を食べながらもカバンから目が離せません。だって枕の他にも、たくさん物が出てくるんだよ。あのカバン、絶対おかしいよ。
よそ見して食べていたらスープを零しちゃって、ハンカチもテーブルの上もべちゃべちゃに。
「ジョーディ、ちゃんと前を見て食べて。何をそんなに真剣に見ているのよ」
ママがベルの方を見て、ああって頷きます。それでベルに、僕がご飯終わるまで待ってって言いました。ベルが僕を見て、やっぱりああってなると、カバンを壁の方に片付けちゃったの。早くご飯を食べて、あのカバンを見せてもらわなきゃ。
でも結局いつもみたいに、僕が一番最後までご飯食べてたよ……ちょうど食べ終わった時、窓を誰かが叩きました。あっ! ローリーだ‼
ママにお顔を拭いてもらって、お兄ちゃんとわんわん達と一緒に、すぐに窓に走ります。ばぁばが窓を開けました。
「どんな様子?」
『思っていた、いや、感じていたよりもなぜか魔獣の数が多い。ラディスがルリエットに一度魔法を使って欲しいと呼んでいる』
「そんなに多いの? ルリエット、ここは私が見ていますから、あなたはあの人達の所へ」
「お義母様、よろしくお願いします」
ママが僕達にキスしてお部屋から出て行きました。パパもママも大丈夫かな? 僕がずっと外を見ていたらお兄ちゃんが言います。
「これもいつもと同じ。だからママもパパもすぐに帰ってくるよ」
お兄ちゃん、ニコニコ笑ってます。お兄ちゃんが僕の手を引っ張って、ベッドの方に連れて行きます。そして、ここで遊んでようって言いました。
それでね、最初はベッドの上で、お兄ちゃんとわんわん達と大人しく遊んでたんだけど、やっぱり飽きちゃって。お兄ちゃんは本を読み始めて、僕とわんわん達はベッドの上をグルグル歩いてます。もちろん僕はハイハイね、その方が速いから。
「ちゃよねぇ」
『ねぇ~』
『飽きちゃったねぇ~』
僕はベルを呼んで、下に降ろしてもらおうとしました。その時、またあの大きな音が鳴りました。お兄ちゃんが素早くベッドから飛び降りて、窓の方に走って行って、背伸びしてお外を見ます。
「なかなか、今回は大変そうですね」
「旦那様方がいますから、もう少しで終わるはずですよ」
ラオク先生とベルも窓の外を見ています。
「べゆ~、ちて!」
「ダメですよジョーディ様、静かにベッドの上です」
「べちょ、ち~」
「そうですよ。しぃ~ですよ」
でも静かにしてるの、飽きちゃったんだもん。僕はほっぺを膨らませて、ベッドの上を高速ハイハイして抗議します。わんわん達も伏せをしたまま上手にハイハイみたいに動いて、一緒に怒ってくれました。
それを見たラオク先生が、少しだったら動いても良いってベルに言ってくれたの。ラオク先生の診察はあんまり好きじゃないけど、少し好きになってあげてもいいかな?
「これ以上我慢させたら、ベッドの上で余計に動きそうですからね。気分転換させましょう」
ベルがそっと、僕のことを下に降ろしてくれます。その時また大きな音がして、今度は少しお家がミシッて鳴りました。
ベルとラオク先生がお兄ちゃんの方に歩いて行って、お外を見ました。僕はその間に、さっきの不思議なカバンの方に歩いて行きます。僕の体よりもちょっと大きくて、茶色いカバンです。わんわん達も僕について来て、一緒にカバンを見ました。
『変なカバンだったね』
『カバンは小さいのに、大きな物がたくさん出てきたよね』
わんわん達も同じことを思っていたみたい。あとで見てみようって二匹でお話ししてたんだって。
カバンにはボタンが四個も付いていて、開けるのはとっても大変でした。でもこの前森にいた時、何回も服のボタンを外したり締めたりしてたから、ちょっとだけ上手にできるようになったんだよ。
全部のボタンを開けて、カバンの蓋をめくります。それでみんなで中を覗きました。あれ? 何にも入ってない。中は空っぽでした。
『何も入ってないね、全部出しちゃったのかな?』
『大きい物、たくさん入ってたもんね』
「とよぉ~」
『うん、もっと中見てみよう』
僕達は上から覗くのをやめて、今度はカバンの中に顔を突っ込みます。そしたら急にカバンの中が少し明るくなって、中にたくさんの道具とか毛布とか、色々な物が見えたの。それにとっても中が広いんだよ。
僕もわんわん達もビックリ、もっと顔を中に入れちゃいます。僕の体もわんわん達の体も、半分くらいカバンに入っちゃいました。このカバン、どうなってるのかな? だって僕達がこれだけ中に入っても口はゆるゆるだし、それだけじゃなくて、中が今いるお部屋よりも広いんだよ。うんとね、お家にある僕のお部屋くらい。
じぃ~って見てたら、もっとビックリな物が見えました。
カバンの中の端っこの方を、お魚さんが泳いでいたんだ。カバンの中で泳いでるんだよ。青色でとっても綺麗なお魚さんです。お魚さんに釣られて、にゃんにゃんがそっちに行こうとしました。その時、誰かが僕達を引っ張りました。
「皆様、何をなさっているのですか⁉」
ベルがわんわん達を抱っこして、お兄ちゃんが僕の洋服を引っ張っていました。ラオク先生は焦った顔をして、それからため息をつきました。僕は興奮しながらみんなにカバンの話をして、にゃんにゃんはお魚さんが欲しいってベルに訴えて、もう一度カバンの方に行こうとしました。
「ダメですよ。このカバンはとても大切な物なのです。それに中に入って大丈夫だと証明されているわけではないのです。まぁ昔やったバカはいますが、その時はどうだったか……。まぁ、それは良いのですが、危ないことをしてはいけません!」
「本当に、子供って何するか分からないね」
「ジョーディ、それやると、パパもママも怒るよ」
面白そうだったのに……それに、にゃんにゃんが、お魚お魚って止まりません。ベルが仕方ありませんねって、カバンをガサゴソ探って、お魚さんを取ってくれました。それからカバンは、僕の手が届かない高い場所に置かれることに。残念。
でも今度は別の気になることができました。それは、ベルが出してくれたお魚さん。お水がないのにお部屋の中を、すい~すい~って泳いでいます。そういえばカバンの中にもお水はなかったよね。
ベルが言うには、このお魚さんは、空を泳ぐことができるんだって。もちろんお水の中でも泳げるけど、空を泳いでる方が多いんだって。
お魚さんを見て喜んでいると、にゃんにゃんがお魚さんを食べたいって騒ぎ始めました。ベルがとっても苦いからやめなさいって注意しても、どうしても食べたいって譲らないにゃんにゃん。
ベルがため息をついて、一匹のお魚さんを捕まえて、しっぽの所をちょっとだけ切ります。このお魚さんは怪我とかしても、少しすると治っちゃうから大丈夫なんだって。
切ったしっぽをにゃんにゃんに渡すベル。にゃんにゃんがすぐにかぶりつきます。そして勢い良く吐き出しました。かなり苦かったみたい。ぺっぺってして、もう絶対に食べないって言いました。
*********
「ぐあっ‼」
「ルドルフ様……、なぜ……」
私――レイジンは、自分の偽名を呼ぶ冒険者の足を斬りつける。
「ぎゃあぁぁぁっ‼」
冒険者は叫び声を上げ、その場に崩れ落ちた。綺麗に片足が切断されている。素晴らしい剣だ。ここへ来る前にベルトベル様に頂いたのだ。今まで使っていた剣とまるで違い、斬った感触がまったくない。それなのに冒険者の足は完全に切断されていた。
冒険者は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私に話しかけてきた。
「なぜ? なぜですかルドルフ様」
「なぜ? お前達は最初から消される運命だった。ただそれだけだ」
私は静かに冒険者に近づく。その時、デイライトが私のいる牢に顔を出した。そして私達を見てまだ終わっていないのかと眉をひそめる。分かっている、今殺すところだ。私は剣を構え直し、そして……。
「私の名前はルドルフではない」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」
冒険者の頭を斬り落とした。ふむ。やはりすっと斬ることができた。刃を確認するが刃こぼれも起こしていない。数回斬っただけだが、悪い剣なら、頭を斬り落とせば一回で刃こぼれしてしまう。
ギルドを出る前に再度、全員死んでいるかを確認し、皆で冒険者ギルドから出た。ベルトベル様に奴らの気を逸らしてもらったおかげで、取り調べが本格的に始まる前に、全員を殺すことができた。
少し離れた場所まで移動すると、向こうからマカリスター家の親子と、その契約魔獣が走って来るのが見えた。奴らの部下と、冒険者ギルドのマスター、カーストの姿も見える。
奴らは私達の横を過ぎ、冒険者ギルドへと走って行った。おそらく異変に気付いたのだろう。もう遅いがな。奴らを見送り、再び私達はアジトに向かって歩き始める。
私達がアジトに戻ると、既にベルトベル様は戻られていた。が、ベルトベル様が複雑な表情をしていることに気付く。何かあったのだろうか?
*********
私――ラディスの所へルリエットが来てくれて、少し劣勢に立たされていた我々は持ち直すことができた。ルリエットは相変わらず、物凄い勢いで魔法を繰り出し、ウォーキングウッド達を焼き払った。威力がありすぎて時々爆発まで起こしていたが、それについては触れないでおこう。
そしてベヒモス達の方も、ローリー達が上手く対応してくれた。ダークウルフとホワイトキャットには感謝しなければ。魔獣は私達が考えていたよりも数が多く、彼らがいなければ、今頃街への侵入を許し、かなりの被害が出ていただろう。
しかし、ルリエットが来て少しして、私達の所へローリーが慌てて戻って来ると、冒険者ギルドの方で嫌な気配が複数すると伝えてきた。皆、顔を見合わせる。
「あなた、ここは私に任せて! あなたはギルドの方に。お義父さんも、カーストもよ!」
ルリエットにこの場を任せ、私達は急いで冒険者ギルドに向かった。向かっている最中もローリー達に様子を探ってもらったが、途中で嫌な気配は消えてしまったらしい。そしてギルドに着いた私達を待っていたのは、最悪な光景だった。カーストがそれを睨む。
「やられたな。何処までが計算されたことだったのか」
「魔獣の襲撃は偶然か、それとも意図的に引き起こされたものか」
牢に入れてあった者達がすべて殺されていた。もちろんジョーディが攫われる原因を作ったあの冒険者達も、キラービーの襲撃を引き起こした冒険者達も。そして……。
「……家族に連絡を。俺が話をする」
「……はい」
カーストがギルド職員に指示を出す。カーストの前には、ここの見張りを命じたギルド職員の遺体が二人分。彼らの家族には悲しい知らせを伝えなければならない。
カーストはしゃがみこんで、遺体を見つめる。
「こいつらは職員の中でも、そこそこの腕前だったんだ。元冒険者だったしな。それなのに抵抗した痕跡もなく殺されている」
「コレをやったのは、それなりの腕を持った奴らか……」
「何処から何処までが繋がっているのか、すぐに調べなければのう。孫達には街でたくさん遊んで欲しかったが、これでは安心して外に出せん。カースト、ここは任せるぞ。ラディス、お前はワシと共に魔獣達の所へ。すべての魔獣をさっさと倒し、こちらに力を入れなければ」
カーストはギルドに残り、私と父さんはすぐにルリエット達の所へと戻った。
*********
空を飛ぶお魚さんと遊んでたら、いつの間にか大きな音が全然聞こえなくなっていました。
「しぃ~ね」
『本当だ、静かになってる』
にゃんにゃんがお魚さんの方にジャンプした後、窓の方に駆け寄って、僕もわんわんもそれに続きます。お兄ちゃんはつま先で立てばお外が見えるけど、僕はジャンプしないと見えません。にゃんにゃんはお兄ちゃんの頭の上に乗っかって、わんわんは僕の肩にしがみ付いて、僕はジャンプしてお外を見ようとします。
「ジョーディ様、ジャンプはダメです」
ベルが僕のことを抱っこしてくれました。騎士さん達がお庭の中をあっちに行ったり、そっちに行ったり。とっても忙しく動いてました。
「全然音がしなくなったから、ママもパパももうすぐ帰って来るよ。いつもそう」
お外を見ているうちに、忙しくしていた騎士さん達がいなくなって、部屋の扉をトントンと、誰かがノックしました。ベルが返事をします。
「はい」
「クプレです。魔獣討伐が終了いたしました。それからこちらにラオク先生がおられると聞きました。診療所に、怪我をした騎士と冒険者が集まって来たので、すぐにお戻りをと助手の方が」
「ちっ、やっぱりか。あれ程いつも怪我するなと言っているのに。また徹夜か」
今、ラオク先生舌打ちした? それにとっても嫌そうな顔してる。先生はお医者さんでしょう? すぐにお怪我した人達の所に行かなくちゃ。
でも先生は、何でムサい男達の治療をしなればならないとか、その辺のポーションでも飲んでおけば治るだろとか、ずっとブツブツ言ってるの。みんなでそんな先生を見つめます。
「こほんっ、ラオク先生?」
ベルがラオク先生を呼びます。ベルを見たラオク先生は急に慌てた顔になって、ドアの方に向かってお返事をしました。
「今すぐ行く」
「外に馬車を用意してあります。お急ぎください」
ラオク先生がカバンの中を見て、忘れ物がないか確認します。それからドアの方に歩いて行くと、
「明日まで安静ですからね。旦那様にもう一度お伝えください」
そう言って、僕とお兄ちゃんにさようならをして、お部屋から出て行きました。
「まったく、お子様方にあんな話を聞かせるなど」
ベルは僕をベッドの上に降ろすと、部屋のお片付けを始めました。空を飛ぶお魚さんも、あの不思議なカバンにしまっちゃいます。お兄ちゃんもベッドの上のお片付けを始めて、僕とわんわん達に動かないでねって言いました。その後、僕達はちゃんと静かにしてたよ。
ラオク先生が帰って少しして、ドアがバタンッ!と大きな音を立てて開きました。お部屋の中にママが入って来て、僕とお兄ちゃんを抱きしめます。
「みんな怪我はないわね? あら、ラオク先生は?」
ママが早口に聞いてくるので、ベルが今までのことを説明します。それでママがやっと落ち着くと、お兄ちゃんがパパはどうしているのか聞きました。
「ちょっと魔獣が多くてね。じぃじと一緒に、騎士さん達の所に残っているの。きっと夜までには帰ってくるわ」
パパもじぃじもまだ帰って来ないんだって。僕、ちょっとだけしょんぼりです。
「ジョーディ、ママ帰って来たでしょう? ママ、しょんぼりされたら悲しいわ」
ママが帰って来てくれたのはもちろん嬉しいけど、でもパパも一緒だともっと嬉しかったの。
「そうだわ! 大人しくいい子で待っててくれたジョーディ達には、ママ特製のおやつをあげるわ! いつもよりも大きなゼリーよ」
ゼリー‼ ママの作ってくれるゼリーはとっても美味しいんだよ。しょんぼりしていた気持ちがすぐに吹き飛びました。
「あの人よりゼリーの方が強いのよね」
ママが何かボソッと言ったけど、よく聞こえませんでした。
お片付けがほとんど終わって、僕達はお泊まりのお部屋に戻ります。あっ、それからね、今ばぁばはいません。ママが魔獣をやっつけに行ってすぐ、騎士さんがばぁばにも手伝って欲しいって呼びに来て、ばぁばも外に行っちゃったんだ。
「きっと、ばぁばはもうすぐ帰って来るわ。ベル、これからのことなのだけど……」
ママがベルと話しながらキッチンへ向かいます。僕はみんなとゼリー楽しみだねってお話ししながら、おやつの時間を待ちます。早くパパもじぃじもばぁばも帰って来るといいなぁ。どんな魔獣が襲ってきたのかも聞いてみたいし。あとは……やっぱり僕、大人しくしてないとダメ?
次の日。お昼ご飯を食べ終わった後、今日も静かにしてないとダメって言われて、ベッドの上でみんなでゴロゴロしてたら、パパがお部屋に入って来ました。
「ぱ~ぱ‼」
「パパ‼」
『お父さん!』
『お帰りなさい‼』
わんパパ達、そしてもちろんローリーも一緒です。僕はママにベッドから下ろしてもらって、高速ハイハイでパパの所に向かいます。そしてパパの足に抱きついて、
「ば~ば~っ‼」
思わず泣いちゃいました。パパがやっと帰って来たんだもん。
ママは昨日、パパ達は夜に帰って来るって言ってたでしょう? でも夜になっても帰って来なくて、寝る時寂しくて泣いちゃったんだ。
ママが、せっかく具合が良くなったのにって、何とか僕のこと抱っこしたり、おもちゃで遊ぼうとしたり。でもなかなか泣くのをやめられませんでした。
それでいつも通り泣きすぎて、おえってなっちゃって……そのまま朝まで寝たり起きたり。そして朝、ラオク先生の登場です。あのとっても熱くなる診察を受けました。そのせいでまた泣いちゃったよ。
「大丈夫ですよ。ただ泣きすぎただけです。何処も悪くありません」
僕は診察が終わると泣きながら、サササッて先生から離れます。
お兄ちゃんはニッコリ。全然怖がってません。ママ達も急いで荷物を準備していること以外、お顔はいつも通り。ラオク先生は窓の方に行って、今日はいい天気ですね、煙がよく見えますって落ち着いていました。
「では私は先に」
「レスター、この毛布を持って行って」
レスターが僕のお気に入りの――サウキーの絵が描いてある毛布と、それから他にもたくさん物を持って、お部屋から出て行きます。それからすぐにばぁばが戻って来ました。
「用意は大丈夫?」
「はい。もう行けますわ。さぁ、マイケル、ジョーディ、それからわんわん達。これからお部屋を移動するわよ。マイケルはばぁばと、ジョーディは私と、わんわん達はベルと一緒にね。先生は私達の後について来てください」
ばぁばとお兄ちゃんが、一番にお部屋から出ました。次にママが僕を抱っこして出ます。廊下をあっちこっち、使用人さん達とメイドさん達が走ってます。
みんなで階段を下りて一階に着くと、右に歩いて行って一番端っこの部屋の前に。ドアがもう開いていて、レスターが荷物を運び入れていました。
その中は、僕達がお泊まりしている部屋より、ちょっと小さいです。ママが僕をベッドに下ろして、また動かないでって注意します。お兄ちゃんとわんわん達もベッドに乗っかって、ママは荷物の方へ。
ママ達を見ていたら、わんわん達が何かを見つけました。
『ジョーディ、もう一個ドアがあるよ』
『あとで見てみようよ。今はベッドから下りちゃダメだもんね』
「あい!」
街で遊べないって言われてブーブー言ってたけど、それどころじゃなくなっちゃったし、お部屋の中を探検するのもいいかも。そんなお話をしていたら、
「ジョーディ様、朝のご飯を食べる前に診察してしまいましょうね」
ラオク先生が、ベッドに乗ってる僕の方に近づいてきました。そうだ、色々あって忘れてたけど、僕は先生から逃げようとしてたんだった。だって知らない人だったから。忘れてたよ。
ラオク先生は、ママとのお話からすると、たぶんお医者さんだよね。僕、この世界に来てもお医者さんと離れられないのかな? もう検査とかヤダ。だって今までいっぱいしたんだよ。
あっ、でも、先生が僕のことを診て、元気だって言ってくれたら、部屋の中で騒いで遊んでも大丈夫かも。そう思った僕は、先生が近づいて来ても、逃げないでじっとしてました。
「あれ、今度は逃げないんだね。じゃあ、そのまま静かにしていてね。診察はすぐに終わるよ」
ラオク先生がそっと僕の頭に手を載せます。すぐに手を載っけたところが温かくなってきて、それが体全体に広がります。ポカポカ、ポカポカ。最初は大丈夫だったんだけど、どんどん熱くなってきて、今は熱いくらいです。
僕が熱いのから逃げようとしたら、ママが僕のことを押さえました。手をバタバタ、足をバタバタさせて逃げようとしたけど、ママのガードが固くて身動きできません……涙が出ちゃいます。
「ジョーディ、もう少しだからね」
もうダメってなった時、ラオク先生が頭から手を放しました。そしたら熱いのがどんどんなくなっていきます。
「うえ、うえぇ」
「もう終わりですよ」
「先生、どうでしょうか」
「何処も悪いところはありません。もう大丈夫だと思います。ですが油断は禁物です。今大丈夫でも、この騒ぎですからね。またぶり返す可能性もあります。やはり今日、明日は安静に」
え~、あんなに熱いの我慢したのに? それに、今は大丈夫なんでしょう? だったら遊んでもいいんじゃない?
ラオク先生が、持っていたカバンの中から、瓶を取り出しました。あっ、あれは何となく覚えてる。確かとっても苦い物が入ってたよね。
「食後の後にこの薬を」
僕がじぃーって瓶を睨んでたら、先生が笑いました。
「ははは、そんなに睨まなくても、この薬は美味しい薬ですよ。昨日の苦い薬を何となく覚えていましたか?」
先生ったら笑ってるけど、大切なことだよ。苦い薬なんて飲みたくないもん。僕がまた瓶を睨んでいたら、ベルがご飯の準備ができましたって声を上げました。
テーブルを見たら、いつの間にか朝のご飯の準備ができていました。
僕はママに抱っこされて椅子に座ります。このお部屋にも僕専用の椅子がありました。赤ちゃんが使う、テーブルと椅子がくっ付いてるやつのことね。ママが僕の胸にハンカチを付けてくれて、ベルがテーブルに、お野菜のスープと果物の盛り合わせを置きます。
みんなでいただきますをして、ご飯を食べている時でした。部屋の端っこの方で、レスターとベルがまだ荷物の片付けをしてたんだけど、ベルがカバンをガサゴソ探ります。そして中から出した物は……大きな枕でした。あの枕、僕がお家で使ってるやつ! どうやってカバンの中に入ってたの? だってカバンよりも枕の方が大きいんだよ?
僕がビックリしてじぃ~って見てたら、ママが早くご飯食べなさいって注意しました。でも、ご飯を食べながらもカバンから目が離せません。だって枕の他にも、たくさん物が出てくるんだよ。あのカバン、絶対おかしいよ。
よそ見して食べていたらスープを零しちゃって、ハンカチもテーブルの上もべちゃべちゃに。
「ジョーディ、ちゃんと前を見て食べて。何をそんなに真剣に見ているのよ」
ママがベルの方を見て、ああって頷きます。それでベルに、僕がご飯終わるまで待ってって言いました。ベルが僕を見て、やっぱりああってなると、カバンを壁の方に片付けちゃったの。早くご飯を食べて、あのカバンを見せてもらわなきゃ。
でも結局いつもみたいに、僕が一番最後までご飯食べてたよ……ちょうど食べ終わった時、窓を誰かが叩きました。あっ! ローリーだ‼
ママにお顔を拭いてもらって、お兄ちゃんとわんわん達と一緒に、すぐに窓に走ります。ばぁばが窓を開けました。
「どんな様子?」
『思っていた、いや、感じていたよりもなぜか魔獣の数が多い。ラディスがルリエットに一度魔法を使って欲しいと呼んでいる』
「そんなに多いの? ルリエット、ここは私が見ていますから、あなたはあの人達の所へ」
「お義母様、よろしくお願いします」
ママが僕達にキスしてお部屋から出て行きました。パパもママも大丈夫かな? 僕がずっと外を見ていたらお兄ちゃんが言います。
「これもいつもと同じ。だからママもパパもすぐに帰ってくるよ」
お兄ちゃん、ニコニコ笑ってます。お兄ちゃんが僕の手を引っ張って、ベッドの方に連れて行きます。そして、ここで遊んでようって言いました。
それでね、最初はベッドの上で、お兄ちゃんとわんわん達と大人しく遊んでたんだけど、やっぱり飽きちゃって。お兄ちゃんは本を読み始めて、僕とわんわん達はベッドの上をグルグル歩いてます。もちろん僕はハイハイね、その方が速いから。
「ちゃよねぇ」
『ねぇ~』
『飽きちゃったねぇ~』
僕はベルを呼んで、下に降ろしてもらおうとしました。その時、またあの大きな音が鳴りました。お兄ちゃんが素早くベッドから飛び降りて、窓の方に走って行って、背伸びしてお外を見ます。
「なかなか、今回は大変そうですね」
「旦那様方がいますから、もう少しで終わるはずですよ」
ラオク先生とベルも窓の外を見ています。
「べゆ~、ちて!」
「ダメですよジョーディ様、静かにベッドの上です」
「べちょ、ち~」
「そうですよ。しぃ~ですよ」
でも静かにしてるの、飽きちゃったんだもん。僕はほっぺを膨らませて、ベッドの上を高速ハイハイして抗議します。わんわん達も伏せをしたまま上手にハイハイみたいに動いて、一緒に怒ってくれました。
それを見たラオク先生が、少しだったら動いても良いってベルに言ってくれたの。ラオク先生の診察はあんまり好きじゃないけど、少し好きになってあげてもいいかな?
「これ以上我慢させたら、ベッドの上で余計に動きそうですからね。気分転換させましょう」
ベルがそっと、僕のことを下に降ろしてくれます。その時また大きな音がして、今度は少しお家がミシッて鳴りました。
ベルとラオク先生がお兄ちゃんの方に歩いて行って、お外を見ました。僕はその間に、さっきの不思議なカバンの方に歩いて行きます。僕の体よりもちょっと大きくて、茶色いカバンです。わんわん達も僕について来て、一緒にカバンを見ました。
『変なカバンだったね』
『カバンは小さいのに、大きな物がたくさん出てきたよね』
わんわん達も同じことを思っていたみたい。あとで見てみようって二匹でお話ししてたんだって。
カバンにはボタンが四個も付いていて、開けるのはとっても大変でした。でもこの前森にいた時、何回も服のボタンを外したり締めたりしてたから、ちょっとだけ上手にできるようになったんだよ。
全部のボタンを開けて、カバンの蓋をめくります。それでみんなで中を覗きました。あれ? 何にも入ってない。中は空っぽでした。
『何も入ってないね、全部出しちゃったのかな?』
『大きい物、たくさん入ってたもんね』
「とよぉ~」
『うん、もっと中見てみよう』
僕達は上から覗くのをやめて、今度はカバンの中に顔を突っ込みます。そしたら急にカバンの中が少し明るくなって、中にたくさんの道具とか毛布とか、色々な物が見えたの。それにとっても中が広いんだよ。
僕もわんわん達もビックリ、もっと顔を中に入れちゃいます。僕の体もわんわん達の体も、半分くらいカバンに入っちゃいました。このカバン、どうなってるのかな? だって僕達がこれだけ中に入っても口はゆるゆるだし、それだけじゃなくて、中が今いるお部屋よりも広いんだよ。うんとね、お家にある僕のお部屋くらい。
じぃ~って見てたら、もっとビックリな物が見えました。
カバンの中の端っこの方を、お魚さんが泳いでいたんだ。カバンの中で泳いでるんだよ。青色でとっても綺麗なお魚さんです。お魚さんに釣られて、にゃんにゃんがそっちに行こうとしました。その時、誰かが僕達を引っ張りました。
「皆様、何をなさっているのですか⁉」
ベルがわんわん達を抱っこして、お兄ちゃんが僕の洋服を引っ張っていました。ラオク先生は焦った顔をして、それからため息をつきました。僕は興奮しながらみんなにカバンの話をして、にゃんにゃんはお魚さんが欲しいってベルに訴えて、もう一度カバンの方に行こうとしました。
「ダメですよ。このカバンはとても大切な物なのです。それに中に入って大丈夫だと証明されているわけではないのです。まぁ昔やったバカはいますが、その時はどうだったか……。まぁ、それは良いのですが、危ないことをしてはいけません!」
「本当に、子供って何するか分からないね」
「ジョーディ、それやると、パパもママも怒るよ」
面白そうだったのに……それに、にゃんにゃんが、お魚お魚って止まりません。ベルが仕方ありませんねって、カバンをガサゴソ探って、お魚さんを取ってくれました。それからカバンは、僕の手が届かない高い場所に置かれることに。残念。
でも今度は別の気になることができました。それは、ベルが出してくれたお魚さん。お水がないのにお部屋の中を、すい~すい~って泳いでいます。そういえばカバンの中にもお水はなかったよね。
ベルが言うには、このお魚さんは、空を泳ぐことができるんだって。もちろんお水の中でも泳げるけど、空を泳いでる方が多いんだって。
お魚さんを見て喜んでいると、にゃんにゃんがお魚さんを食べたいって騒ぎ始めました。ベルがとっても苦いからやめなさいって注意しても、どうしても食べたいって譲らないにゃんにゃん。
ベルがため息をついて、一匹のお魚さんを捕まえて、しっぽの所をちょっとだけ切ります。このお魚さんは怪我とかしても、少しすると治っちゃうから大丈夫なんだって。
切ったしっぽをにゃんにゃんに渡すベル。にゃんにゃんがすぐにかぶりつきます。そして勢い良く吐き出しました。かなり苦かったみたい。ぺっぺってして、もう絶対に食べないって言いました。
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「ぐあっ‼」
「ルドルフ様……、なぜ……」
私――レイジンは、自分の偽名を呼ぶ冒険者の足を斬りつける。
「ぎゃあぁぁぁっ‼」
冒険者は叫び声を上げ、その場に崩れ落ちた。綺麗に片足が切断されている。素晴らしい剣だ。ここへ来る前にベルトベル様に頂いたのだ。今まで使っていた剣とまるで違い、斬った感触がまったくない。それなのに冒険者の足は完全に切断されていた。
冒険者は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私に話しかけてきた。
「なぜ? なぜですかルドルフ様」
「なぜ? お前達は最初から消される運命だった。ただそれだけだ」
私は静かに冒険者に近づく。その時、デイライトが私のいる牢に顔を出した。そして私達を見てまだ終わっていないのかと眉をひそめる。分かっている、今殺すところだ。私は剣を構え直し、そして……。
「私の名前はルドルフではない」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」
冒険者の頭を斬り落とした。ふむ。やはりすっと斬ることができた。刃を確認するが刃こぼれも起こしていない。数回斬っただけだが、悪い剣なら、頭を斬り落とせば一回で刃こぼれしてしまう。
ギルドを出る前に再度、全員死んでいるかを確認し、皆で冒険者ギルドから出た。ベルトベル様に奴らの気を逸らしてもらったおかげで、取り調べが本格的に始まる前に、全員を殺すことができた。
少し離れた場所まで移動すると、向こうからマカリスター家の親子と、その契約魔獣が走って来るのが見えた。奴らの部下と、冒険者ギルドのマスター、カーストの姿も見える。
奴らは私達の横を過ぎ、冒険者ギルドへと走って行った。おそらく異変に気付いたのだろう。もう遅いがな。奴らを見送り、再び私達はアジトに向かって歩き始める。
私達がアジトに戻ると、既にベルトベル様は戻られていた。が、ベルトベル様が複雑な表情をしていることに気付く。何かあったのだろうか?
*********
私――ラディスの所へルリエットが来てくれて、少し劣勢に立たされていた我々は持ち直すことができた。ルリエットは相変わらず、物凄い勢いで魔法を繰り出し、ウォーキングウッド達を焼き払った。威力がありすぎて時々爆発まで起こしていたが、それについては触れないでおこう。
そしてベヒモス達の方も、ローリー達が上手く対応してくれた。ダークウルフとホワイトキャットには感謝しなければ。魔獣は私達が考えていたよりも数が多く、彼らがいなければ、今頃街への侵入を許し、かなりの被害が出ていただろう。
しかし、ルリエットが来て少しして、私達の所へローリーが慌てて戻って来ると、冒険者ギルドの方で嫌な気配が複数すると伝えてきた。皆、顔を見合わせる。
「あなた、ここは私に任せて! あなたはギルドの方に。お義父さんも、カーストもよ!」
ルリエットにこの場を任せ、私達は急いで冒険者ギルドに向かった。向かっている最中もローリー達に様子を探ってもらったが、途中で嫌な気配は消えてしまったらしい。そしてギルドに着いた私達を待っていたのは、最悪な光景だった。カーストがそれを睨む。
「やられたな。何処までが計算されたことだったのか」
「魔獣の襲撃は偶然か、それとも意図的に引き起こされたものか」
牢に入れてあった者達がすべて殺されていた。もちろんジョーディが攫われる原因を作ったあの冒険者達も、キラービーの襲撃を引き起こした冒険者達も。そして……。
「……家族に連絡を。俺が話をする」
「……はい」
カーストがギルド職員に指示を出す。カーストの前には、ここの見張りを命じたギルド職員の遺体が二人分。彼らの家族には悲しい知らせを伝えなければならない。
カーストはしゃがみこんで、遺体を見つめる。
「こいつらは職員の中でも、そこそこの腕前だったんだ。元冒険者だったしな。それなのに抵抗した痕跡もなく殺されている」
「コレをやったのは、それなりの腕を持った奴らか……」
「何処から何処までが繋がっているのか、すぐに調べなければのう。孫達には街でたくさん遊んで欲しかったが、これでは安心して外に出せん。カースト、ここは任せるぞ。ラディス、お前はワシと共に魔獣達の所へ。すべての魔獣をさっさと倒し、こちらに力を入れなければ」
カーストはギルドに残り、私と父さんはすぐにルリエット達の所へと戻った。
*********
空を飛ぶお魚さんと遊んでたら、いつの間にか大きな音が全然聞こえなくなっていました。
「しぃ~ね」
『本当だ、静かになってる』
にゃんにゃんがお魚さんの方にジャンプした後、窓の方に駆け寄って、僕もわんわんもそれに続きます。お兄ちゃんはつま先で立てばお外が見えるけど、僕はジャンプしないと見えません。にゃんにゃんはお兄ちゃんの頭の上に乗っかって、わんわんは僕の肩にしがみ付いて、僕はジャンプしてお外を見ようとします。
「ジョーディ様、ジャンプはダメです」
ベルが僕のことを抱っこしてくれました。騎士さん達がお庭の中をあっちに行ったり、そっちに行ったり。とっても忙しく動いてました。
「全然音がしなくなったから、ママもパパももうすぐ帰って来るよ。いつもそう」
お外を見ているうちに、忙しくしていた騎士さん達がいなくなって、部屋の扉をトントンと、誰かがノックしました。ベルが返事をします。
「はい」
「クプレです。魔獣討伐が終了いたしました。それからこちらにラオク先生がおられると聞きました。診療所に、怪我をした騎士と冒険者が集まって来たので、すぐにお戻りをと助手の方が」
「ちっ、やっぱりか。あれ程いつも怪我するなと言っているのに。また徹夜か」
今、ラオク先生舌打ちした? それにとっても嫌そうな顔してる。先生はお医者さんでしょう? すぐにお怪我した人達の所に行かなくちゃ。
でも先生は、何でムサい男達の治療をしなればならないとか、その辺のポーションでも飲んでおけば治るだろとか、ずっとブツブツ言ってるの。みんなでそんな先生を見つめます。
「こほんっ、ラオク先生?」
ベルがラオク先生を呼びます。ベルを見たラオク先生は急に慌てた顔になって、ドアの方に向かってお返事をしました。
「今すぐ行く」
「外に馬車を用意してあります。お急ぎください」
ラオク先生がカバンの中を見て、忘れ物がないか確認します。それからドアの方に歩いて行くと、
「明日まで安静ですからね。旦那様にもう一度お伝えください」
そう言って、僕とお兄ちゃんにさようならをして、お部屋から出て行きました。
「まったく、お子様方にあんな話を聞かせるなど」
ベルは僕をベッドの上に降ろすと、部屋のお片付けを始めました。空を飛ぶお魚さんも、あの不思議なカバンにしまっちゃいます。お兄ちゃんもベッドの上のお片付けを始めて、僕とわんわん達に動かないでねって言いました。その後、僕達はちゃんと静かにしてたよ。
ラオク先生が帰って少しして、ドアがバタンッ!と大きな音を立てて開きました。お部屋の中にママが入って来て、僕とお兄ちゃんを抱きしめます。
「みんな怪我はないわね? あら、ラオク先生は?」
ママが早口に聞いてくるので、ベルが今までのことを説明します。それでママがやっと落ち着くと、お兄ちゃんがパパはどうしているのか聞きました。
「ちょっと魔獣が多くてね。じぃじと一緒に、騎士さん達の所に残っているの。きっと夜までには帰ってくるわ」
パパもじぃじもまだ帰って来ないんだって。僕、ちょっとだけしょんぼりです。
「ジョーディ、ママ帰って来たでしょう? ママ、しょんぼりされたら悲しいわ」
ママが帰って来てくれたのはもちろん嬉しいけど、でもパパも一緒だともっと嬉しかったの。
「そうだわ! 大人しくいい子で待っててくれたジョーディ達には、ママ特製のおやつをあげるわ! いつもよりも大きなゼリーよ」
ゼリー‼ ママの作ってくれるゼリーはとっても美味しいんだよ。しょんぼりしていた気持ちがすぐに吹き飛びました。
「あの人よりゼリーの方が強いのよね」
ママが何かボソッと言ったけど、よく聞こえませんでした。
お片付けがほとんど終わって、僕達はお泊まりのお部屋に戻ります。あっ、それからね、今ばぁばはいません。ママが魔獣をやっつけに行ってすぐ、騎士さんがばぁばにも手伝って欲しいって呼びに来て、ばぁばも外に行っちゃったんだ。
「きっと、ばぁばはもうすぐ帰って来るわ。ベル、これからのことなのだけど……」
ママがベルと話しながらキッチンへ向かいます。僕はみんなとゼリー楽しみだねってお話ししながら、おやつの時間を待ちます。早くパパもじぃじもばぁばも帰って来るといいなぁ。どんな魔獣が襲ってきたのかも聞いてみたいし。あとは……やっぱり僕、大人しくしてないとダメ?
次の日。お昼ご飯を食べ終わった後、今日も静かにしてないとダメって言われて、ベッドの上でみんなでゴロゴロしてたら、パパがお部屋に入って来ました。
「ぱ~ぱ‼」
「パパ‼」
『お父さん!』
『お帰りなさい‼』
わんパパ達、そしてもちろんローリーも一緒です。僕はママにベッドから下ろしてもらって、高速ハイハイでパパの所に向かいます。そしてパパの足に抱きついて、
「ば~ば~っ‼」
思わず泣いちゃいました。パパがやっと帰って来たんだもん。
ママは昨日、パパ達は夜に帰って来るって言ってたでしょう? でも夜になっても帰って来なくて、寝る時寂しくて泣いちゃったんだ。
ママが、せっかく具合が良くなったのにって、何とか僕のこと抱っこしたり、おもちゃで遊ぼうとしたり。でもなかなか泣くのをやめられませんでした。
それでいつも通り泣きすぎて、おえってなっちゃって……そのまま朝まで寝たり起きたり。そして朝、ラオク先生の登場です。あのとっても熱くなる診察を受けました。そのせいでまた泣いちゃったよ。
「大丈夫ですよ。ただ泣きすぎただけです。何処も悪くありません」
僕は診察が終わると泣きながら、サササッて先生から離れます。
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