18 / 213
2巻
2-2
「いつもこうなんだよ。魔獣が来るとこうやって準備して、みんなで丈夫な部屋に移動するの」
お兄ちゃんはニッコリ。全然怖がってません。ママ達も急いで荷物を準備していること以外、お顔はいつも通り。ラオク先生は窓の方に行って、今日はいい天気ですね、煙がよく見えますって落ち着いていました。
「では私は先に」
「レスター、この毛布を持って行って」
レスターが僕のお気に入りの――サウキーの絵が描いてある毛布と、それから他にもたくさん物を持って、お部屋から出て行きます。それからすぐにばぁばが戻って来ました。
「用意は大丈夫?」
「はい。もう行けますわ。さぁ、マイケル、ジョーディ、それからわんわん達。これからお部屋を移動するわよ。マイケルはばぁばと、ジョーディは私と、わんわん達はベルと一緒にね。先生は私達の後について来てください」
ばぁばとお兄ちゃんが、一番にお部屋から出ました。次にママが僕を抱っこして出ます。廊下をあっちこっち、使用人さん達とメイドさん達が走ってます。
みんなで階段を下りて一階に着くと、右に歩いて行って一番端っこの部屋の前に。ドアがもう開いていて、レスターが荷物を運び入れていました。
その中は、僕達がお泊まりしている部屋より、ちょっと小さいです。ママが僕をベッドに下ろして、また動かないでって注意します。お兄ちゃんとわんわん達もベッドに乗っかって、ママは荷物の方へ。
ママ達を見ていたら、わんわん達が何かを見つけました。
『ジョーディ、もう一個ドアがあるよ』
『あとで見てみようよ。今はベッドから下りちゃダメだもんね』
「あい!」
街で遊べないって言われてブーブー言ってたけど、それどころじゃなくなっちゃったし、お部屋の中を探検するのもいいかも。そんなお話をしていたら、
「ジョーディ様、朝のご飯を食べる前に診察してしまいましょうね」
ラオク先生が、ベッドに乗ってる僕の方に近づいてきました。そうだ、色々あって忘れてたけど、僕は先生から逃げようとしてたんだった。だって知らない人だったから。忘れてたよ。
ラオク先生は、ママとのお話からすると、たぶんお医者さんだよね。僕、この世界に来てもお医者さんと離れられないのかな? もう検査とかヤダ。だって今までいっぱいしたんだよ。
あっ、でも、先生が僕のことを診て、元気だって言ってくれたら、部屋の中で騒いで遊んでも大丈夫かも。そう思った僕は、先生が近づいて来ても、逃げないでじっとしてました。
「あれ、今度は逃げないんだね。じゃあ、そのまま静かにしていてね。診察はすぐに終わるよ」
ラオク先生がそっと僕の頭に手を載せます。すぐに手を載っけたところが温かくなってきて、それが体全体に広がります。ポカポカ、ポカポカ。最初は大丈夫だったんだけど、どんどん熱くなってきて、今は熱いくらいです。
僕が熱いのから逃げようとしたら、ママが僕のことを押さえました。手をバタバタ、足をバタバタさせて逃げようとしたけど、ママのガードが固くて身動きできません……涙が出ちゃいます。
「ジョーディ、もう少しだからね」
もうダメってなった時、ラオク先生が頭から手を放しました。そしたら熱いのがどんどんなくなっていきます。
「うえ、うえぇ」
「もう終わりですよ」
「先生、どうでしょうか」
「何処も悪いところはありません。もう大丈夫だと思います。ですが油断は禁物です。今大丈夫でも、この騒ぎですからね。またぶり返す可能性もあります。やはり今日、明日は安静に」
え~、あんなに熱いの我慢したのに? それに、今は大丈夫なんでしょう? だったら遊んでもいいんじゃない?
ラオク先生が、持っていたカバンの中から、瓶を取り出しました。あっ、あれは何となく覚えてる。確かとっても苦い物が入ってたよね。
「食後の後にこの薬を」
僕がじぃーって瓶を睨んでたら、先生が笑いました。
「ははは、そんなに睨まなくても、この薬は美味しい薬ですよ。昨日の苦い薬を何となく覚えていましたか?」
先生ったら笑ってるけど、大切なことだよ。苦い薬なんて飲みたくないもん。僕がまた瓶を睨んでいたら、ベルがご飯の準備ができましたって声を上げました。
テーブルを見たら、いつの間にか朝のご飯の準備ができていました。
僕はママに抱っこされて椅子に座ります。このお部屋にも僕専用の椅子がありました。赤ちゃんが使う、テーブルと椅子がくっ付いてるやつのことね。ママが僕の胸にハンカチを付けてくれて、ベルがテーブルに、お野菜のスープと果物の盛り合わせを置きます。
みんなでいただきますをして、ご飯を食べている時でした。部屋の端っこの方で、レスターとベルがまだ荷物の片付けをしてたんだけど、ベルがカバンをガサゴソ探ります。そして中から出した物は……大きな枕でした。あの枕、僕がお家で使ってるやつ! どうやってカバンの中に入ってたの? だってカバンよりも枕の方が大きいんだよ?
僕がビックリしてじぃ~って見てたら、ママが早くご飯食べなさいって注意しました。でも、ご飯を食べながらもカバンから目が離せません。だって枕の他にも、たくさん物が出てくるんだよ。あのカバン、絶対おかしいよ。
よそ見して食べていたらスープを零しちゃって、ハンカチもテーブルの上もべちゃべちゃに。
「ジョーディ、ちゃんと前を見て食べて。何をそんなに真剣に見ているのよ」
ママがベルの方を見て、ああって頷きます。それでベルに、僕がご飯終わるまで待ってって言いました。ベルが僕を見て、やっぱりああってなると、カバンを壁の方に片付けちゃったの。早くご飯を食べて、あのカバンを見せてもらわなきゃ。
でも結局いつもみたいに、僕が一番最後までご飯食べてたよ……ちょうど食べ終わった時、窓を誰かが叩きました。あっ! ローリーだ‼
ママにお顔を拭いてもらって、お兄ちゃんとわんわん達と一緒に、すぐに窓に走ります。ばぁばが窓を開けました。
「どんな様子?」
『思っていた、いや、感じていたよりもなぜか魔獣の数が多い。ラディスがルリエットに一度魔法を使って欲しいと呼んでいる』
「そんなに多いの? ルリエット、ここは私が見ていますから、あなたはあの人達の所へ」
「お義母様、よろしくお願いします」
ママが僕達にキスしてお部屋から出て行きました。パパもママも大丈夫かな? 僕がずっと外を見ていたらお兄ちゃんが言います。
「これもいつもと同じ。だからママもパパもすぐに帰ってくるよ」
お兄ちゃん、ニコニコ笑ってます。お兄ちゃんが僕の手を引っ張って、ベッドの方に連れて行きます。そして、ここで遊んでようって言いました。
それでね、最初はベッドの上で、お兄ちゃんとわんわん達と大人しく遊んでたんだけど、やっぱり飽きちゃって。お兄ちゃんは本を読み始めて、僕とわんわん達はベッドの上をグルグル歩いてます。もちろん僕はハイハイね、その方が速いから。
「ちゃよねぇ」
『ねぇ~』
『飽きちゃったねぇ~』
僕はベルを呼んで、下に降ろしてもらおうとしました。その時、またあの大きな音が鳴りました。お兄ちゃんが素早くベッドから飛び降りて、窓の方に走って行って、背伸びしてお外を見ます。
「なかなか、今回は大変そうですね」
「旦那様方がいますから、もう少しで終わるはずですよ」
ラオク先生とベルも窓の外を見ています。
「べゆ~、ちて!」
「ダメですよジョーディ様、静かにベッドの上です」
「べちょ、ち~」
「そうですよ。しぃ~ですよ」
でも静かにしてるの、飽きちゃったんだもん。僕はほっぺを膨らませて、ベッドの上を高速ハイハイして抗議します。わんわん達も伏せをしたまま上手にハイハイみたいに動いて、一緒に怒ってくれました。
それを見たラオク先生が、少しだったら動いても良いってベルに言ってくれたの。ラオク先生の診察はあんまり好きじゃないけど、少し好きになってあげてもいいかな?
「これ以上我慢させたら、ベッドの上で余計に動きそうですからね。気分転換させましょう」
ベルがそっと、僕のことを下に降ろしてくれます。その時また大きな音がして、今度は少しお家がミシッて鳴りました。
ベルとラオク先生がお兄ちゃんの方に歩いて行って、お外を見ました。僕はその間に、さっきの不思議なカバンの方に歩いて行きます。僕の体よりもちょっと大きくて、茶色いカバンです。わんわん達も僕について来て、一緒にカバンを見ました。
『変なカバンだったね』
『カバンは小さいのに、大きな物がたくさん出てきたよね』
わんわん達も同じことを思っていたみたい。あとで見てみようって二匹でお話ししてたんだって。
カバンにはボタンが四個も付いていて、開けるのはとっても大変でした。でもこの前森にいた時、何回も服のボタンを外したり締めたりしてたから、ちょっとだけ上手にできるようになったんだよ。
全部のボタンを開けて、カバンの蓋をめくります。それでみんなで中を覗きました。あれ? 何にも入ってない。中は空っぽでした。
『何も入ってないね、全部出しちゃったのかな?』
『大きい物、たくさん入ってたもんね』
「とよぉ~」
『うん、もっと中見てみよう』
僕達は上から覗くのをやめて、今度はカバンの中に顔を突っ込みます。そしたら急にカバンの中が少し明るくなって、中にたくさんの道具とか毛布とか、色々な物が見えたの。それにとっても中が広いんだよ。
僕もわんわん達もビックリ、もっと顔を中に入れちゃいます。僕の体もわんわん達の体も、半分くらいカバンに入っちゃいました。このカバン、どうなってるのかな? だって僕達がこれだけ中に入っても口はゆるゆるだし、それだけじゃなくて、中が今いるお部屋よりも広いんだよ。うんとね、お家にある僕のお部屋くらい。
じぃ~って見てたら、もっとビックリな物が見えました。
カバンの中の端っこの方を、お魚さんが泳いでいたんだ。カバンの中で泳いでるんだよ。青色でとっても綺麗なお魚さんです。お魚さんに釣られて、にゃんにゃんがそっちに行こうとしました。その時、誰かが僕達を引っ張りました。
「皆様、何をなさっているのですか⁉」
ベルがわんわん達を抱っこして、お兄ちゃんが僕の洋服を引っ張っていました。ラオク先生は焦った顔をして、それからため息をつきました。僕は興奮しながらみんなにカバンの話をして、にゃんにゃんはお魚さんが欲しいってベルに訴えて、もう一度カバンの方に行こうとしました。
「ダメですよ。このカバンはとても大切な物なのです。それに中に入って大丈夫だと証明されているわけではないのです。まぁ昔やったバカはいますが、その時はどうだったか……。まぁ、それは良いのですが、危ないことをしてはいけません!」
「本当に、子供って何するか分からないね」
「ジョーディ、それやると、パパもママも怒るよ」
面白そうだったのに……それに、にゃんにゃんが、お魚お魚って止まりません。ベルが仕方ありませんねって、カバンをガサゴソ探って、お魚さんを取ってくれました。それからカバンは、僕の手が届かない高い場所に置かれることに。残念。
でも今度は別の気になることができました。それは、ベルが出してくれたお魚さん。お水がないのにお部屋の中を、すい~すい~って泳いでいます。そういえばカバンの中にもお水はなかったよね。
ベルが言うには、このお魚さんは、空を泳ぐことができるんだって。もちろんお水の中でも泳げるけど、空を泳いでる方が多いんだって。
お魚さんを見て喜んでいると、にゃんにゃんがお魚さんを食べたいって騒ぎ始めました。ベルがとっても苦いからやめなさいって注意しても、どうしても食べたいって譲らないにゃんにゃん。
ベルがため息をついて、一匹のお魚さんを捕まえて、しっぽの所をちょっとだけ切ります。このお魚さんは怪我とかしても、少しすると治っちゃうから大丈夫なんだって。
切ったしっぽをにゃんにゃんに渡すベル。にゃんにゃんがすぐにかぶりつきます。そして勢い良く吐き出しました。かなり苦かったみたい。ぺっぺってして、もう絶対に食べないって言いました。
*********
「ぐあっ‼」
「ルドルフ様……、なぜ……」
私――レイジンは、自分の偽名を呼ぶ冒険者の足を斬りつける。
「ぎゃあぁぁぁっ‼」
冒険者は叫び声を上げ、その場に崩れ落ちた。綺麗に片足が切断されている。素晴らしい剣だ。ここへ来る前にベルトベル様に頂いたのだ。今まで使っていた剣とまるで違い、斬った感触がまったくない。それなのに冒険者の足は完全に切断されていた。
冒険者は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私に話しかけてきた。
「なぜ? なぜですかルドルフ様」
「なぜ? お前達は最初から消される運命だった。ただそれだけだ」
私は静かに冒険者に近づく。その時、デイライトが私のいる牢に顔を出した。そして私達を見てまだ終わっていないのかと眉をひそめる。分かっている、今殺すところだ。私は剣を構え直し、そして……。
「私の名前はルドルフではない」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」
冒険者の頭を斬り落とした。ふむ。やはりすっと斬ることができた。刃を確認するが刃こぼれも起こしていない。数回斬っただけだが、悪い剣なら、頭を斬り落とせば一回で刃こぼれしてしまう。
ギルドを出る前に再度、全員死んでいるかを確認し、皆で冒険者ギルドから出た。ベルトベル様に奴らの気を逸らしてもらったおかげで、取り調べが本格的に始まる前に、全員を殺すことができた。
少し離れた場所まで移動すると、向こうからマカリスター家の親子と、その契約魔獣が走って来るのが見えた。奴らの部下と、冒険者ギルドのマスター、カーストの姿も見える。
奴らは私達の横を過ぎ、冒険者ギルドへと走って行った。おそらく異変に気付いたのだろう。もう遅いがな。奴らを見送り、再び私達はアジトに向かって歩き始める。
私達がアジトに戻ると、既にベルトベル様は戻られていた。が、ベルトベル様が複雑な表情をしていることに気付く。何かあったのだろうか?
*********
私――ラディスの所へルリエットが来てくれて、少し劣勢に立たされていた我々は持ち直すことができた。ルリエットは相変わらず、物凄い勢いで魔法を繰り出し、ウォーキングウッド達を焼き払った。威力がありすぎて時々爆発まで起こしていたが、それについては触れないでおこう。
そしてベヒモス達の方も、ローリー達が上手く対応してくれた。ダークウルフとホワイトキャットには感謝しなければ。魔獣は私達が考えていたよりも数が多く、彼らがいなければ、今頃街への侵入を許し、かなりの被害が出ていただろう。
しかし、ルリエットが来て少しして、私達の所へローリーが慌てて戻って来ると、冒険者ギルドの方で嫌な気配が複数すると伝えてきた。皆、顔を見合わせる。
「あなた、ここは私に任せて! あなたはギルドの方に。お義父さんも、カーストもよ!」
ルリエットにこの場を任せ、私達は急いで冒険者ギルドに向かった。向かっている最中もローリー達に様子を探ってもらったが、途中で嫌な気配は消えてしまったらしい。そしてギルドに着いた私達を待っていたのは、最悪な光景だった。カーストがそれを睨む。
「やられたな。何処までが計算されたことだったのか」
「魔獣の襲撃は偶然か、それとも意図的に引き起こされたものか」
牢に入れてあった者達がすべて殺されていた。もちろんジョーディが攫われる原因を作ったあの冒険者達も、キラービーの襲撃を引き起こした冒険者達も。そして……。
「……家族に連絡を。俺が話をする」
「……はい」
カーストがギルド職員に指示を出す。カーストの前には、ここの見張りを命じたギルド職員の遺体が二人分。彼らの家族には悲しい知らせを伝えなければならない。
カーストはしゃがみこんで、遺体を見つめる。
「こいつらは職員の中でも、そこそこの腕前だったんだ。元冒険者だったしな。それなのに抵抗した痕跡もなく殺されている」
「コレをやったのは、それなりの腕を持った奴らか……」
「何処から何処までが繋がっているのか、すぐに調べなければのう。孫達には街でたくさん遊んで欲しかったが、これでは安心して外に出せん。カースト、ここは任せるぞ。ラディス、お前はワシと共に魔獣達の所へ。すべての魔獣をさっさと倒し、こちらに力を入れなければ」
カーストはギルドに残り、私と父さんはすぐにルリエット達の所へと戻った。
*********
空を飛ぶお魚さんと遊んでたら、いつの間にか大きな音が全然聞こえなくなっていました。
「しぃ~ね」
『本当だ、静かになってる』
にゃんにゃんがお魚さんの方にジャンプした後、窓の方に駆け寄って、僕もわんわんもそれに続きます。お兄ちゃんはつま先で立てばお外が見えるけど、僕はジャンプしないと見えません。にゃんにゃんはお兄ちゃんの頭の上に乗っかって、わんわんは僕の肩にしがみ付いて、僕はジャンプしてお外を見ようとします。
「ジョーディ様、ジャンプはダメです」
ベルが僕のことを抱っこしてくれました。騎士さん達がお庭の中をあっちに行ったり、そっちに行ったり。とっても忙しく動いてました。
「全然音がしなくなったから、ママもパパももうすぐ帰って来るよ。いつもそう」
お外を見ているうちに、忙しくしていた騎士さん達がいなくなって、部屋の扉をトントンと、誰かがノックしました。ベルが返事をします。
「はい」
「クプレです。魔獣討伐が終了いたしました。それからこちらにラオク先生がおられると聞きました。診療所に、怪我をした騎士と冒険者が集まって来たので、すぐにお戻りをと助手の方が」
「ちっ、やっぱりか。あれ程いつも怪我するなと言っているのに。また徹夜か」
今、ラオク先生舌打ちした? それにとっても嫌そうな顔してる。先生はお医者さんでしょう? すぐにお怪我した人達の所に行かなくちゃ。
でも先生は、何でムサい男達の治療をしなればならないとか、その辺のポーションでも飲んでおけば治るだろとか、ずっとブツブツ言ってるの。みんなでそんな先生を見つめます。
「こほんっ、ラオク先生?」
ベルがラオク先生を呼びます。ベルを見たラオク先生は急に慌てた顔になって、ドアの方に向かってお返事をしました。
「今すぐ行く」
「外に馬車を用意してあります。お急ぎください」
ラオク先生がカバンの中を見て、忘れ物がないか確認します。それからドアの方に歩いて行くと、
「明日まで安静ですからね。旦那様にもう一度お伝えください」
そう言って、僕とお兄ちゃんにさようならをして、お部屋から出て行きました。
「まったく、お子様方にあんな話を聞かせるなど」
ベルは僕をベッドの上に降ろすと、部屋のお片付けを始めました。空を飛ぶお魚さんも、あの不思議なカバンにしまっちゃいます。お兄ちゃんもベッドの上のお片付けを始めて、僕とわんわん達に動かないでねって言いました。その後、僕達はちゃんと静かにしてたよ。
ラオク先生が帰って少しして、ドアがバタンッ!と大きな音を立てて開きました。お部屋の中にママが入って来て、僕とお兄ちゃんを抱きしめます。
「みんな怪我はないわね? あら、ラオク先生は?」
ママが早口に聞いてくるので、ベルが今までのことを説明します。それでママがやっと落ち着くと、お兄ちゃんがパパはどうしているのか聞きました。
「ちょっと魔獣が多くてね。じぃじと一緒に、騎士さん達の所に残っているの。きっと夜までには帰ってくるわ」
パパもじぃじもまだ帰って来ないんだって。僕、ちょっとだけしょんぼりです。
「ジョーディ、ママ帰って来たでしょう? ママ、しょんぼりされたら悲しいわ」
ママが帰って来てくれたのはもちろん嬉しいけど、でもパパも一緒だともっと嬉しかったの。
「そうだわ! 大人しくいい子で待っててくれたジョーディ達には、ママ特製のおやつをあげるわ! いつもよりも大きなゼリーよ」
ゼリー‼ ママの作ってくれるゼリーはとっても美味しいんだよ。しょんぼりしていた気持ちがすぐに吹き飛びました。
「あの人よりゼリーの方が強いのよね」
ママが何かボソッと言ったけど、よく聞こえませんでした。
お片付けがほとんど終わって、僕達はお泊まりのお部屋に戻ります。あっ、それからね、今ばぁばはいません。ママが魔獣をやっつけに行ってすぐ、騎士さんがばぁばにも手伝って欲しいって呼びに来て、ばぁばも外に行っちゃったんだ。
「きっと、ばぁばはもうすぐ帰って来るわ。ベル、これからのことなのだけど……」
ママがベルと話しながらキッチンへ向かいます。僕はみんなとゼリー楽しみだねってお話ししながら、おやつの時間を待ちます。早くパパもじぃじもばぁばも帰って来るといいなぁ。どんな魔獣が襲ってきたのかも聞いてみたいし。あとは……やっぱり僕、大人しくしてないとダメ?
次の日。お昼ご飯を食べ終わった後、今日も静かにしてないとダメって言われて、ベッドの上でみんなでゴロゴロしてたら、パパがお部屋に入って来ました。
「ぱ~ぱ‼」
「パパ‼」
『お父さん!』
『お帰りなさい‼』
わんパパ達、そしてもちろんローリーも一緒です。僕はママにベッドから下ろしてもらって、高速ハイハイでパパの所に向かいます。そしてパパの足に抱きついて、
「ば~ば~っ‼」
思わず泣いちゃいました。パパがやっと帰って来たんだもん。
ママは昨日、パパ達は夜に帰って来るって言ってたでしょう? でも夜になっても帰って来なくて、寝る時寂しくて泣いちゃったんだ。
ママが、せっかく具合が良くなったのにって、何とか僕のこと抱っこしたり、おもちゃで遊ぼうとしたり。でもなかなか泣くのをやめられませんでした。
それでいつも通り泣きすぎて、おえってなっちゃって……そのまま朝まで寝たり起きたり。そして朝、ラオク先生の登場です。あのとっても熱くなる診察を受けました。そのせいでまた泣いちゃったよ。
「大丈夫ですよ。ただ泣きすぎただけです。何処も悪くありません」
僕は診察が終わると泣きながら、サササッて先生から離れます。
お兄ちゃんはニッコリ。全然怖がってません。ママ達も急いで荷物を準備していること以外、お顔はいつも通り。ラオク先生は窓の方に行って、今日はいい天気ですね、煙がよく見えますって落ち着いていました。
「では私は先に」
「レスター、この毛布を持って行って」
レスターが僕のお気に入りの――サウキーの絵が描いてある毛布と、それから他にもたくさん物を持って、お部屋から出て行きます。それからすぐにばぁばが戻って来ました。
「用意は大丈夫?」
「はい。もう行けますわ。さぁ、マイケル、ジョーディ、それからわんわん達。これからお部屋を移動するわよ。マイケルはばぁばと、ジョーディは私と、わんわん達はベルと一緒にね。先生は私達の後について来てください」
ばぁばとお兄ちゃんが、一番にお部屋から出ました。次にママが僕を抱っこして出ます。廊下をあっちこっち、使用人さん達とメイドさん達が走ってます。
みんなで階段を下りて一階に着くと、右に歩いて行って一番端っこの部屋の前に。ドアがもう開いていて、レスターが荷物を運び入れていました。
その中は、僕達がお泊まりしている部屋より、ちょっと小さいです。ママが僕をベッドに下ろして、また動かないでって注意します。お兄ちゃんとわんわん達もベッドに乗っかって、ママは荷物の方へ。
ママ達を見ていたら、わんわん達が何かを見つけました。
『ジョーディ、もう一個ドアがあるよ』
『あとで見てみようよ。今はベッドから下りちゃダメだもんね』
「あい!」
街で遊べないって言われてブーブー言ってたけど、それどころじゃなくなっちゃったし、お部屋の中を探検するのもいいかも。そんなお話をしていたら、
「ジョーディ様、朝のご飯を食べる前に診察してしまいましょうね」
ラオク先生が、ベッドに乗ってる僕の方に近づいてきました。そうだ、色々あって忘れてたけど、僕は先生から逃げようとしてたんだった。だって知らない人だったから。忘れてたよ。
ラオク先生は、ママとのお話からすると、たぶんお医者さんだよね。僕、この世界に来てもお医者さんと離れられないのかな? もう検査とかヤダ。だって今までいっぱいしたんだよ。
あっ、でも、先生が僕のことを診て、元気だって言ってくれたら、部屋の中で騒いで遊んでも大丈夫かも。そう思った僕は、先生が近づいて来ても、逃げないでじっとしてました。
「あれ、今度は逃げないんだね。じゃあ、そのまま静かにしていてね。診察はすぐに終わるよ」
ラオク先生がそっと僕の頭に手を載せます。すぐに手を載っけたところが温かくなってきて、それが体全体に広がります。ポカポカ、ポカポカ。最初は大丈夫だったんだけど、どんどん熱くなってきて、今は熱いくらいです。
僕が熱いのから逃げようとしたら、ママが僕のことを押さえました。手をバタバタ、足をバタバタさせて逃げようとしたけど、ママのガードが固くて身動きできません……涙が出ちゃいます。
「ジョーディ、もう少しだからね」
もうダメってなった時、ラオク先生が頭から手を放しました。そしたら熱いのがどんどんなくなっていきます。
「うえ、うえぇ」
「もう終わりですよ」
「先生、どうでしょうか」
「何処も悪いところはありません。もう大丈夫だと思います。ですが油断は禁物です。今大丈夫でも、この騒ぎですからね。またぶり返す可能性もあります。やはり今日、明日は安静に」
え~、あんなに熱いの我慢したのに? それに、今は大丈夫なんでしょう? だったら遊んでもいいんじゃない?
ラオク先生が、持っていたカバンの中から、瓶を取り出しました。あっ、あれは何となく覚えてる。確かとっても苦い物が入ってたよね。
「食後の後にこの薬を」
僕がじぃーって瓶を睨んでたら、先生が笑いました。
「ははは、そんなに睨まなくても、この薬は美味しい薬ですよ。昨日の苦い薬を何となく覚えていましたか?」
先生ったら笑ってるけど、大切なことだよ。苦い薬なんて飲みたくないもん。僕がまた瓶を睨んでいたら、ベルがご飯の準備ができましたって声を上げました。
テーブルを見たら、いつの間にか朝のご飯の準備ができていました。
僕はママに抱っこされて椅子に座ります。このお部屋にも僕専用の椅子がありました。赤ちゃんが使う、テーブルと椅子がくっ付いてるやつのことね。ママが僕の胸にハンカチを付けてくれて、ベルがテーブルに、お野菜のスープと果物の盛り合わせを置きます。
みんなでいただきますをして、ご飯を食べている時でした。部屋の端っこの方で、レスターとベルがまだ荷物の片付けをしてたんだけど、ベルがカバンをガサゴソ探ります。そして中から出した物は……大きな枕でした。あの枕、僕がお家で使ってるやつ! どうやってカバンの中に入ってたの? だってカバンよりも枕の方が大きいんだよ?
僕がビックリしてじぃ~って見てたら、ママが早くご飯食べなさいって注意しました。でも、ご飯を食べながらもカバンから目が離せません。だって枕の他にも、たくさん物が出てくるんだよ。あのカバン、絶対おかしいよ。
よそ見して食べていたらスープを零しちゃって、ハンカチもテーブルの上もべちゃべちゃに。
「ジョーディ、ちゃんと前を見て食べて。何をそんなに真剣に見ているのよ」
ママがベルの方を見て、ああって頷きます。それでベルに、僕がご飯終わるまで待ってって言いました。ベルが僕を見て、やっぱりああってなると、カバンを壁の方に片付けちゃったの。早くご飯を食べて、あのカバンを見せてもらわなきゃ。
でも結局いつもみたいに、僕が一番最後までご飯食べてたよ……ちょうど食べ終わった時、窓を誰かが叩きました。あっ! ローリーだ‼
ママにお顔を拭いてもらって、お兄ちゃんとわんわん達と一緒に、すぐに窓に走ります。ばぁばが窓を開けました。
「どんな様子?」
『思っていた、いや、感じていたよりもなぜか魔獣の数が多い。ラディスがルリエットに一度魔法を使って欲しいと呼んでいる』
「そんなに多いの? ルリエット、ここは私が見ていますから、あなたはあの人達の所へ」
「お義母様、よろしくお願いします」
ママが僕達にキスしてお部屋から出て行きました。パパもママも大丈夫かな? 僕がずっと外を見ていたらお兄ちゃんが言います。
「これもいつもと同じ。だからママもパパもすぐに帰ってくるよ」
お兄ちゃん、ニコニコ笑ってます。お兄ちゃんが僕の手を引っ張って、ベッドの方に連れて行きます。そして、ここで遊んでようって言いました。
それでね、最初はベッドの上で、お兄ちゃんとわんわん達と大人しく遊んでたんだけど、やっぱり飽きちゃって。お兄ちゃんは本を読み始めて、僕とわんわん達はベッドの上をグルグル歩いてます。もちろん僕はハイハイね、その方が速いから。
「ちゃよねぇ」
『ねぇ~』
『飽きちゃったねぇ~』
僕はベルを呼んで、下に降ろしてもらおうとしました。その時、またあの大きな音が鳴りました。お兄ちゃんが素早くベッドから飛び降りて、窓の方に走って行って、背伸びしてお外を見ます。
「なかなか、今回は大変そうですね」
「旦那様方がいますから、もう少しで終わるはずですよ」
ラオク先生とベルも窓の外を見ています。
「べゆ~、ちて!」
「ダメですよジョーディ様、静かにベッドの上です」
「べちょ、ち~」
「そうですよ。しぃ~ですよ」
でも静かにしてるの、飽きちゃったんだもん。僕はほっぺを膨らませて、ベッドの上を高速ハイハイして抗議します。わんわん達も伏せをしたまま上手にハイハイみたいに動いて、一緒に怒ってくれました。
それを見たラオク先生が、少しだったら動いても良いってベルに言ってくれたの。ラオク先生の診察はあんまり好きじゃないけど、少し好きになってあげてもいいかな?
「これ以上我慢させたら、ベッドの上で余計に動きそうですからね。気分転換させましょう」
ベルがそっと、僕のことを下に降ろしてくれます。その時また大きな音がして、今度は少しお家がミシッて鳴りました。
ベルとラオク先生がお兄ちゃんの方に歩いて行って、お外を見ました。僕はその間に、さっきの不思議なカバンの方に歩いて行きます。僕の体よりもちょっと大きくて、茶色いカバンです。わんわん達も僕について来て、一緒にカバンを見ました。
『変なカバンだったね』
『カバンは小さいのに、大きな物がたくさん出てきたよね』
わんわん達も同じことを思っていたみたい。あとで見てみようって二匹でお話ししてたんだって。
カバンにはボタンが四個も付いていて、開けるのはとっても大変でした。でもこの前森にいた時、何回も服のボタンを外したり締めたりしてたから、ちょっとだけ上手にできるようになったんだよ。
全部のボタンを開けて、カバンの蓋をめくります。それでみんなで中を覗きました。あれ? 何にも入ってない。中は空っぽでした。
『何も入ってないね、全部出しちゃったのかな?』
『大きい物、たくさん入ってたもんね』
「とよぉ~」
『うん、もっと中見てみよう』
僕達は上から覗くのをやめて、今度はカバンの中に顔を突っ込みます。そしたら急にカバンの中が少し明るくなって、中にたくさんの道具とか毛布とか、色々な物が見えたの。それにとっても中が広いんだよ。
僕もわんわん達もビックリ、もっと顔を中に入れちゃいます。僕の体もわんわん達の体も、半分くらいカバンに入っちゃいました。このカバン、どうなってるのかな? だって僕達がこれだけ中に入っても口はゆるゆるだし、それだけじゃなくて、中が今いるお部屋よりも広いんだよ。うんとね、お家にある僕のお部屋くらい。
じぃ~って見てたら、もっとビックリな物が見えました。
カバンの中の端っこの方を、お魚さんが泳いでいたんだ。カバンの中で泳いでるんだよ。青色でとっても綺麗なお魚さんです。お魚さんに釣られて、にゃんにゃんがそっちに行こうとしました。その時、誰かが僕達を引っ張りました。
「皆様、何をなさっているのですか⁉」
ベルがわんわん達を抱っこして、お兄ちゃんが僕の洋服を引っ張っていました。ラオク先生は焦った顔をして、それからため息をつきました。僕は興奮しながらみんなにカバンの話をして、にゃんにゃんはお魚さんが欲しいってベルに訴えて、もう一度カバンの方に行こうとしました。
「ダメですよ。このカバンはとても大切な物なのです。それに中に入って大丈夫だと証明されているわけではないのです。まぁ昔やったバカはいますが、その時はどうだったか……。まぁ、それは良いのですが、危ないことをしてはいけません!」
「本当に、子供って何するか分からないね」
「ジョーディ、それやると、パパもママも怒るよ」
面白そうだったのに……それに、にゃんにゃんが、お魚お魚って止まりません。ベルが仕方ありませんねって、カバンをガサゴソ探って、お魚さんを取ってくれました。それからカバンは、僕の手が届かない高い場所に置かれることに。残念。
でも今度は別の気になることができました。それは、ベルが出してくれたお魚さん。お水がないのにお部屋の中を、すい~すい~って泳いでいます。そういえばカバンの中にもお水はなかったよね。
ベルが言うには、このお魚さんは、空を泳ぐことができるんだって。もちろんお水の中でも泳げるけど、空を泳いでる方が多いんだって。
お魚さんを見て喜んでいると、にゃんにゃんがお魚さんを食べたいって騒ぎ始めました。ベルがとっても苦いからやめなさいって注意しても、どうしても食べたいって譲らないにゃんにゃん。
ベルがため息をついて、一匹のお魚さんを捕まえて、しっぽの所をちょっとだけ切ります。このお魚さんは怪我とかしても、少しすると治っちゃうから大丈夫なんだって。
切ったしっぽをにゃんにゃんに渡すベル。にゃんにゃんがすぐにかぶりつきます。そして勢い良く吐き出しました。かなり苦かったみたい。ぺっぺってして、もう絶対に食べないって言いました。
*********
「ぐあっ‼」
「ルドルフ様……、なぜ……」
私――レイジンは、自分の偽名を呼ぶ冒険者の足を斬りつける。
「ぎゃあぁぁぁっ‼」
冒険者は叫び声を上げ、その場に崩れ落ちた。綺麗に片足が切断されている。素晴らしい剣だ。ここへ来る前にベルトベル様に頂いたのだ。今まで使っていた剣とまるで違い、斬った感触がまったくない。それなのに冒険者の足は完全に切断されていた。
冒険者は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私に話しかけてきた。
「なぜ? なぜですかルドルフ様」
「なぜ? お前達は最初から消される運命だった。ただそれだけだ」
私は静かに冒険者に近づく。その時、デイライトが私のいる牢に顔を出した。そして私達を見てまだ終わっていないのかと眉をひそめる。分かっている、今殺すところだ。私は剣を構え直し、そして……。
「私の名前はルドルフではない」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ‼」
冒険者の頭を斬り落とした。ふむ。やはりすっと斬ることができた。刃を確認するが刃こぼれも起こしていない。数回斬っただけだが、悪い剣なら、頭を斬り落とせば一回で刃こぼれしてしまう。
ギルドを出る前に再度、全員死んでいるかを確認し、皆で冒険者ギルドから出た。ベルトベル様に奴らの気を逸らしてもらったおかげで、取り調べが本格的に始まる前に、全員を殺すことができた。
少し離れた場所まで移動すると、向こうからマカリスター家の親子と、その契約魔獣が走って来るのが見えた。奴らの部下と、冒険者ギルドのマスター、カーストの姿も見える。
奴らは私達の横を過ぎ、冒険者ギルドへと走って行った。おそらく異変に気付いたのだろう。もう遅いがな。奴らを見送り、再び私達はアジトに向かって歩き始める。
私達がアジトに戻ると、既にベルトベル様は戻られていた。が、ベルトベル様が複雑な表情をしていることに気付く。何かあったのだろうか?
*********
私――ラディスの所へルリエットが来てくれて、少し劣勢に立たされていた我々は持ち直すことができた。ルリエットは相変わらず、物凄い勢いで魔法を繰り出し、ウォーキングウッド達を焼き払った。威力がありすぎて時々爆発まで起こしていたが、それについては触れないでおこう。
そしてベヒモス達の方も、ローリー達が上手く対応してくれた。ダークウルフとホワイトキャットには感謝しなければ。魔獣は私達が考えていたよりも数が多く、彼らがいなければ、今頃街への侵入を許し、かなりの被害が出ていただろう。
しかし、ルリエットが来て少しして、私達の所へローリーが慌てて戻って来ると、冒険者ギルドの方で嫌な気配が複数すると伝えてきた。皆、顔を見合わせる。
「あなた、ここは私に任せて! あなたはギルドの方に。お義父さんも、カーストもよ!」
ルリエットにこの場を任せ、私達は急いで冒険者ギルドに向かった。向かっている最中もローリー達に様子を探ってもらったが、途中で嫌な気配は消えてしまったらしい。そしてギルドに着いた私達を待っていたのは、最悪な光景だった。カーストがそれを睨む。
「やられたな。何処までが計算されたことだったのか」
「魔獣の襲撃は偶然か、それとも意図的に引き起こされたものか」
牢に入れてあった者達がすべて殺されていた。もちろんジョーディが攫われる原因を作ったあの冒険者達も、キラービーの襲撃を引き起こした冒険者達も。そして……。
「……家族に連絡を。俺が話をする」
「……はい」
カーストがギルド職員に指示を出す。カーストの前には、ここの見張りを命じたギルド職員の遺体が二人分。彼らの家族には悲しい知らせを伝えなければならない。
カーストはしゃがみこんで、遺体を見つめる。
「こいつらは職員の中でも、そこそこの腕前だったんだ。元冒険者だったしな。それなのに抵抗した痕跡もなく殺されている」
「コレをやったのは、それなりの腕を持った奴らか……」
「何処から何処までが繋がっているのか、すぐに調べなければのう。孫達には街でたくさん遊んで欲しかったが、これでは安心して外に出せん。カースト、ここは任せるぞ。ラディス、お前はワシと共に魔獣達の所へ。すべての魔獣をさっさと倒し、こちらに力を入れなければ」
カーストはギルドに残り、私と父さんはすぐにルリエット達の所へと戻った。
*********
空を飛ぶお魚さんと遊んでたら、いつの間にか大きな音が全然聞こえなくなっていました。
「しぃ~ね」
『本当だ、静かになってる』
にゃんにゃんがお魚さんの方にジャンプした後、窓の方に駆け寄って、僕もわんわんもそれに続きます。お兄ちゃんはつま先で立てばお外が見えるけど、僕はジャンプしないと見えません。にゃんにゃんはお兄ちゃんの頭の上に乗っかって、わんわんは僕の肩にしがみ付いて、僕はジャンプしてお外を見ようとします。
「ジョーディ様、ジャンプはダメです」
ベルが僕のことを抱っこしてくれました。騎士さん達がお庭の中をあっちに行ったり、そっちに行ったり。とっても忙しく動いてました。
「全然音がしなくなったから、ママもパパももうすぐ帰って来るよ。いつもそう」
お外を見ているうちに、忙しくしていた騎士さん達がいなくなって、部屋の扉をトントンと、誰かがノックしました。ベルが返事をします。
「はい」
「クプレです。魔獣討伐が終了いたしました。それからこちらにラオク先生がおられると聞きました。診療所に、怪我をした騎士と冒険者が集まって来たので、すぐにお戻りをと助手の方が」
「ちっ、やっぱりか。あれ程いつも怪我するなと言っているのに。また徹夜か」
今、ラオク先生舌打ちした? それにとっても嫌そうな顔してる。先生はお医者さんでしょう? すぐにお怪我した人達の所に行かなくちゃ。
でも先生は、何でムサい男達の治療をしなればならないとか、その辺のポーションでも飲んでおけば治るだろとか、ずっとブツブツ言ってるの。みんなでそんな先生を見つめます。
「こほんっ、ラオク先生?」
ベルがラオク先生を呼びます。ベルを見たラオク先生は急に慌てた顔になって、ドアの方に向かってお返事をしました。
「今すぐ行く」
「外に馬車を用意してあります。お急ぎください」
ラオク先生がカバンの中を見て、忘れ物がないか確認します。それからドアの方に歩いて行くと、
「明日まで安静ですからね。旦那様にもう一度お伝えください」
そう言って、僕とお兄ちゃんにさようならをして、お部屋から出て行きました。
「まったく、お子様方にあんな話を聞かせるなど」
ベルは僕をベッドの上に降ろすと、部屋のお片付けを始めました。空を飛ぶお魚さんも、あの不思議なカバンにしまっちゃいます。お兄ちゃんもベッドの上のお片付けを始めて、僕とわんわん達に動かないでねって言いました。その後、僕達はちゃんと静かにしてたよ。
ラオク先生が帰って少しして、ドアがバタンッ!と大きな音を立てて開きました。お部屋の中にママが入って来て、僕とお兄ちゃんを抱きしめます。
「みんな怪我はないわね? あら、ラオク先生は?」
ママが早口に聞いてくるので、ベルが今までのことを説明します。それでママがやっと落ち着くと、お兄ちゃんがパパはどうしているのか聞きました。
「ちょっと魔獣が多くてね。じぃじと一緒に、騎士さん達の所に残っているの。きっと夜までには帰ってくるわ」
パパもじぃじもまだ帰って来ないんだって。僕、ちょっとだけしょんぼりです。
「ジョーディ、ママ帰って来たでしょう? ママ、しょんぼりされたら悲しいわ」
ママが帰って来てくれたのはもちろん嬉しいけど、でもパパも一緒だともっと嬉しかったの。
「そうだわ! 大人しくいい子で待っててくれたジョーディ達には、ママ特製のおやつをあげるわ! いつもよりも大きなゼリーよ」
ゼリー‼ ママの作ってくれるゼリーはとっても美味しいんだよ。しょんぼりしていた気持ちがすぐに吹き飛びました。
「あの人よりゼリーの方が強いのよね」
ママが何かボソッと言ったけど、よく聞こえませんでした。
お片付けがほとんど終わって、僕達はお泊まりのお部屋に戻ります。あっ、それからね、今ばぁばはいません。ママが魔獣をやっつけに行ってすぐ、騎士さんがばぁばにも手伝って欲しいって呼びに来て、ばぁばも外に行っちゃったんだ。
「きっと、ばぁばはもうすぐ帰って来るわ。ベル、これからのことなのだけど……」
ママがベルと話しながらキッチンへ向かいます。僕はみんなとゼリー楽しみだねってお話ししながら、おやつの時間を待ちます。早くパパもじぃじもばぁばも帰って来るといいなぁ。どんな魔獣が襲ってきたのかも聞いてみたいし。あとは……やっぱり僕、大人しくしてないとダメ?
次の日。お昼ご飯を食べ終わった後、今日も静かにしてないとダメって言われて、ベッドの上でみんなでゴロゴロしてたら、パパがお部屋に入って来ました。
「ぱ~ぱ‼」
「パパ‼」
『お父さん!』
『お帰りなさい‼』
わんパパ達、そしてもちろんローリーも一緒です。僕はママにベッドから下ろしてもらって、高速ハイハイでパパの所に向かいます。そしてパパの足に抱きついて、
「ば~ば~っ‼」
思わず泣いちゃいました。パパがやっと帰って来たんだもん。
ママは昨日、パパ達は夜に帰って来るって言ってたでしょう? でも夜になっても帰って来なくて、寝る時寂しくて泣いちゃったんだ。
ママが、せっかく具合が良くなったのにって、何とか僕のこと抱っこしたり、おもちゃで遊ぼうとしたり。でもなかなか泣くのをやめられませんでした。
それでいつも通り泣きすぎて、おえってなっちゃって……そのまま朝まで寝たり起きたり。そして朝、ラオク先生の登場です。あのとっても熱くなる診察を受けました。そのせいでまた泣いちゃったよ。
「大丈夫ですよ。ただ泣きすぎただけです。何処も悪くありません」
僕は診察が終わると泣きながら、サササッて先生から離れます。
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
異世界転生パン職人の美味しい開拓記~最高の食パンを焼いたら没落令嬢ともふもふが家族になりました~
黒崎隼人
ファンタジー
前世で腕の立つパン職人であり農家でもあった青年トールは、異世界に転生して驚愕した。
この世界のパンは、硬くてパサパサで、スープに浸さなければとても食べられないものばかりだったのだ。
「美味しいパンで人々を笑顔にしたい」
その純粋な情熱を胸に、トールは荒れ果てた土地を自らの手で切り拓き、最高の小麦を育て上げる。
そして魔法の力も駆使し、この異世界に初めて、雪のように白くてふかふかの「食パン」を誕生させた!
その究極の味に衝撃を受けた没落貴族の令嬢セリア、そしてパンの耳が大好きなもふもふ魔獣のアルルと共に、トールは小さなパン屋「食パン商会」を開店する。
一口食べれば誰もが虜になる至高の食パンは、瞬く間に王都中で大人気に!
しかし、その成功を面白く思わない巨大商業ギルドが、卑劣な手段でトールたちの邪魔をしてきて……?
理不尽な妨害も、圧倒的なパンの美味しさと職人の意地で完全粉砕!
やがて彼らの焼くパンは王宮の晩餐会にまで供され、世界そのものを温かく変えていく。
これは、パンを愛する青年が、極上の食パンと黄金の小麦畑で、大切な人たちと一緒に最高の居場所を作り上げる、優しくて美味しい成り上がりスローライフ!
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
