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【本編最終話】雨、が……??
しおりを挟む王宮に着いて案内されたのは、謁見の間のように広い場所ではなく応接間だった。
室内には陛下の他に、ベルダー様に少し冷たさを足したような宰相様と、ベルダー様を少しワイルドにしたような騎士様がいる。
宰相様も騎士様もベルダー様のお兄様だから、三人ともベルダー様で少しややこしい。
やはり馬車の中で言われた通り、魔導師のベルダー様の事はルゼド様と呼んだ方が良いだろう。
陛下が座っているソファと机を挟んで向かいにあるソファをすすめられたので、ルゼド様と並んで座る。
「次に開発する魔導具について話し合う前に、ひとつ私からご報告さしあげてもよろしいでしょうか」
まさか隣に座るルゼド様が一番に話し出すとは思わなかったので、驚いてしまった。
発言を許そう、と威厳のある声で陛下が告げる。
「ありがとうございます。私事で恐縮ですが、こちらのサクラ・ナルセと結婚する運びとなりましたのでご報告申し上げます」
ルゼド様ーーーー!?!?!?
確かに私、研究所の人にはしばらく言わないでって言って、陛下に報告しちゃダメとは言っていないけど。
ここにはお兄様もいるのに、私と結婚するなんて宣言しちゃっていいんですか!?
「本気か? ルゼド・ベルダー」
そう告げた陛下の表情は、怒っているようにも見える。
「はい、つきましてはこちらの結婚届に陛下の承認をいただきたく存じます」
そう言ってルゼド様が出した書類は、『内容はまた時間のある時にゆっくり教えますね』と昨日ルゼド様に言われて私がサインした書類だった。
仕事の書類じゃ、なかったんですねー!?
そう心の中で叫んだ瞬間、馬車の中でルゼド様に言われた言葉を思い出した。
——もし私が陛下に対して失言でもしてしまいそうな時は、名前を呼んで止めてください——
「ベル……ルゼド様っ、ルゼド様っっ」
「どうしましたか、サクラ」
蕩けそうなくらい甘い微笑みをルゼド様から向けられて、こんな事態なのに思わずキュンとときめいてしまった。
陛下が盛大なため息をついている。
「クローシェが、お前の事を好いている。この結婚届を認めずクローシェとの結婚を命じる事もできるのだが?」
「そんな事になったら、私は失恋による傷心で魔導具開発が手につかなくなってしまうでしょうね」
陛下が、隣に座っている宰相のべルダー様へ視線を向けた。
「どう思う、ブレイ・ベルダー」
「我が国にとって、ルゼドが魔導具を作らなくなるのは痛手かと。その損失はクローシェ王女とルゼドの結婚による経済効果では賄いきれません。それに……」
言葉を濁した宰相を陛下が促した。
「なんだ? 言ってみろ」
「ベルダー家の者が異性に名前呼びを許すのは、余程の事です。ルゼドの想いを無視する事は難しいでしょう」
ぇええええーーー!?
余程の事、って本当ですか!?
その話を知っていたら、恐れ多くてこの場で名前呼びなんてしなかったのに。
陛下はしばらく考えたあと、私が仕事の書類だと思って記入した結婚届に承認のサインをした。
結婚話、白紙になると覚悟していたのに承認されちゃった……。
ルゼド様、本当にこれで良かったのかな。
一時の気の迷いだったとしても、もう取り消しできないよ。
「他に無ければ、次に開発を頼みたい魔導具の話をさせてもらうが?」
陛下のお言葉に対して特に申し出る者は無く、本題へ戻った。
宰相のベルダー様が説明を始める。
「我が国は数年に一度、深刻な干ばつ被害に見舞われます。特に農作物の収穫量が大幅に落ち込むため、干ばつが経済に与える影響は甚大です」
私はまだこの世界に来て一年程度で干ばつの被害を知らないけれど、話だけは聞いた事がある。
信じられないくらい長い間、雨が降らない日が続くらしい。
「そのため次に王立魔導具研究所で優先して開発に取り組んでもらいたいのは、干ばつ被害を防ぐための魔導具になります」
宰相が話し終えたタイミングで、ルゼド様がスッと手を上げる。
陛下に発言を許されたルゼド様が、移動する旨を告げてから席を立った。
窓の所まで歩き、シャーッとカーテンを開けている。
「その件について、宰相から事前に相談を受けていたので今回は試作品を持って参りました。窓の外をご覧ください」
皆の視線が窓の方へ集まった。
ルゼド様が、ご自分の左耳に指で触れる。
指が触れた場所で、一昨日からつけ始めたイヤーカフがほのかに光っているのが見えた。
「こちらのイヤーカフを耳につけた状態で、指で触れて魔力を流すと一定時間経過後に広い範囲ではありませんが、雨が降り始めます」
ぇ……?
雨、が……??
確かに少ししたら、窓の外で雨が降り始めた。
雨粒がポツポツ窓についていく。
「魔力の強さによって雨の降る量が変わるのですが、まだその調整が難しいのが課題ですね。私は魔力がかなり強いので、試しに使ってみたら大雨になってしまいました」
試しに使ってみたら、大雨に……。
もしかして、ぃぇ、もしかしなくても。
「また、使用権限をつけられるようにして、使用者は限らせるべきだと考えています。天候を操って悪用する者が出ては大変な事になりますから」
……ルゼド様が悪用しちゃいましたよね!?
うむ、と陛下が頷き、魔導具研究所で優先して開発する魔導具は、雨を降らせる機能を持たせたイヤーカフに決まった。
話し合いが終了し陛下と別れ、第二王子と会うためルゼド様とそちらへ向かう。
途中、廊下でふたりきりとなったので、ルゼド様に声をかけた。
「ベルダー様!」
できるだけ怒った顔をして、低い声でルゼド様を呼ぶ。
「ルゼドと呼んでくれないのですね……怒っていますか、サクラ?」
きゅぅん、と鳴いている捨てられた仔犬のような表情のルゼド様。
心臓に、トスッとハートの矢が刺さったような錯覚に陥ってしまう。
こんな表情をするなんて、ずるい。
「……怒って、ないです」
私がそう呟くとルゼド様が、ぱぁぁああッと輝くような笑顔を見せた。
「ぁぁ、よかった。では第二王子との話が終わったらサクラの家へ行って、荷物をまとめてしまいましょう」
「ぇ、なぜ荷物を……?」
「私の家へ引越すためですよ。その方が研究所へ通うのも、近いから楽でしょう?」
ルゼド様が嬉しそうにニコニコ微笑んでいる。
「ぇ、ぇ、もしかして一緒に住むのですか? しかも今日って、こんな急に?」
「ええ、引越しは晴れた日にした方がいいと思います。今日はこのあと雨が降りませんから」
そう言って悪戯っぽく笑ったルゼド様の耳には、いつの間に外したのかイヤーカフがついていなかった。
【本編 完】
※近日中に、おまけの話を二話投稿します。もしよろしければお付き合いくださいませ。
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