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転ぶ
しおりを挟む信じられない事に僕はお世話係の試験に合格した。
僕が合格したくらいだから他にもたくさんいるのかと思ったら、合格者は僕ともうひとりだけ。
「お二人にはこちらの部屋で共同生活をしていただきます。とは言っても、交代でミチェーリ様のお世話にあたっていただくので入れ違いになる事が多いと思いますが」
お世話係は王宮で住み込みの仕事。
案内されたのは、二人部屋にしてはかなり広い部屋だった。
「私はネージュ王太子妃殿下の専属侍女をしておりました、マリベルと申します。今はネージュ様の専属を外れミチェーリ様のお世話もさせていただいておりますので、分からない事がありましたら何でも聞いてください」
「こんなに狭い部屋で暮らせというのですか、筆頭公爵家の僕に。しかも平民の男と一緒だなんて」
僕の隣で怒っているのは、ルフトエア公爵家次男のフォッグ様。
おかっぱくらいのピンクブロンドの髪が特徴的だ。
名前を知ったのは、両殿下とそのお子であるミチェーリ様と顔合わせをした時。
その時は、とてもにこやかに笑っていたのに。
殿下たちと別れてマリベルさんと僕の三人になった途端、とても不機嫌になってしまった。
「一緒の部屋の方がミチェーリ様に関する情報共有もしやすいだろうという両殿下のご意向です。ご意見があるようでしたらネージュ様にお伝えいたしますが、どうなさいますか?」
「両殿下の……、それなら伝えなくていい」
「では、食事の時間になりましたら呼びに参りますので、それまではご自身の荷物の整理やお渡しした資料を読んでお過ごしください」
僕の荷物は少ないから、あっという間に片付いてしまった。
時間まで資料を読んでいようと思い、椅子に座る。
でも読み始めたところですぐにフォッグ様から話しかけられた。
「おい、さっき侍女が室内の説明をした時お茶の道具の説明もしてただろ、聞いてたか?」
「はい」
お茶を淹れるための道具は揃っているので自由に使っていい、と言われている。
「喉が渇いた」
「お茶の道具は使っていいみたいですよ。茶葉もあるようですし」
「まさかお前は僕にお茶を淹れろと言っているのか、公爵家のこの僕に。お前が淹れるに決まってるだろ?」
もしかしてお茶の淹れ方を知らないのかな。
公爵家だから、自分でお茶を淹れる事なんてないのかもしれない。
「よかったら僕と一緒にお茶を淹れてみませんか。これからひとりの時もあるでしょうし、その時は自分でしないとだから」
お茶を淹れに行こうとフォッグ様のすぐ前を通った時だった。
スッと、フォッグ様の足が差し出される。
ぁ、と思った瞬間、僕はフォッグ様の足に躓いて思いきり転んでしまった。
「僕の前を歩く時はもっと腰を低くしろ。礼儀をわきまえたまえ」
これからの共同生活が、少し不安……。
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