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 気のせいだったかもしれない。
 でも、建物に入る前に見上げた時、窓の内側に人影が見えたような気がしたから。

 王宮二階、バルコニー側の部屋を目指して走る。

 空気が、熱い。

 ――ああ、誰か魔法を使える女性にお願いして、バリアの魔法をかけてもらえばよかった。

 この世界で魔法を使えるのは女性だけ。
 でもアカリ様はまだバリアの魔法を覚えていないし。
 私はバリアを使えるけれど、魔法は自分自身にかけることができないから意味がない。

 煙で息が、苦しくなってきた。

 手のひらを口に当て、咳き込みながら前へと進む。

 たぶん、もう少し行けばバルコニーのある部屋――

 少しだけホッと気が緩んだ、その時だった。
 自分のすぐ近くで響く、凄まじい音。
 まるで王宮内にあるすべてのガラス製食器が、一度に叩き割られたかのよう。

「ッ!」

 音とほぼ同時にふくらはぎに痛みを感じてしゃがみ込み、顔をしかめてしまう。

 でもその直後、大きく目を見開いてしまった。
 自分からそう離れていない床に、巨大なシャンデリアが落ちていたから。
 辺りには尖ったガラスの破片が散乱している。

 頭に直撃しなくてよかった……っ
 だけど――

 痛みを感じた場所へ目線を動かすと、自分のふくらはぎから赤い血が流れているのが見えた。
 立ち上がろうとしても、足に力が入らずどうしても立てない。

 それに、つい先ほどまでは歩ける場所がもう少しあったのに。
 燃え盛る炎が、いつの間にか私の逃げ道をすべて奪おうとしている。

「クリフ、いるなら逃げて! 早く、城の外へ――」

 そこまで言って、ゴホッゴホッ、と盛大にむせてしまった。

 クリフ、もう城内にはいないのかしら。
 副団長が把握していなかっただけで、噴水広場に避難しているといいけど。

「――……レッ……」

 ……何か、聞こえた?

 耳を澄ましてみる。
 聞こえてくるのは、パチパチと燃える音や何かが破裂するような音。

 でも……
 その音にまじって、微かに声が聞こえた。

 みるみるうちに視界が滲んでいく。

 なんか、泣きそう。
 だって……この声。

「……ヴェレっ!!」

 少しずつ近付いてきた声が、今でははっきり聞こえる。
 姿を見たいのに、視界がぼやけてよく見えない。
 だけど、誰かは声でわかった。

「クリフ!!」

 会いたかった人が、私の方へと走ってくる。





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