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初めての夜
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寝室で人を待つ時って、何をしながら待つのが正解なんだろう。
とりあえず、ベッドの端にちょこんと座ってみる。
ベッドはダブルベッドよりも各段に大きい。もしかしてクィーンより大きい? キングサイズ?
普通の家なら大きすぎるベッドも、この広い部屋だとバランス良く見える。
二人で寝ても、充分すぎる広さがあることにホッとした。
本当にこのマンションは、部屋が広すぎる。
リビングはもちろん、余っているから花さんここ使ってと言われた部屋も。
相澤さんの部屋はどんな感じなんだろう。
お風呂も、すごく広かったなぁ。ジャグジーまであったし。
一人で入るには広すぎる。
相澤さん……彼女さんと、一緒に入ったりするのかな。
ん、そもそも相澤さん、私がここに住んじゃって、彼女さんは気にしない? それとも、今は彼女いないのかな?
いやぁ、あんなに素敵な人だもん、きっといるよね。もしかしたら、複数……とか?
ガチャ、とドアが開く音に全身がビクゥッと飛び跳ねた。
寝室に入ってきた彼の髪は、湯あがりでまだ濡れている。上気してうっすらと赤い頬が、なんとも言えない色気を醸し出していた。
彼が着ているのは全体的に淡いブルーを基調として、襟と袖のところに濃紺の縁がついたパジャマ。
彼が近づいてくると、パジャマの生地が明らかに上質なのが分かった。なんか、てろんって滑らかな感じ。
私が買うものとは絶対に値段の桁が違う。
私は、というと、身につけているのはグレーのスウェット上下。手首足首にゴムが入っていて、動きやすさとしては抜群。
相澤さんがベッドに座ると、微かに私のところまでベッドの沈む感触が伝わってきた。
人がもう一人余裕で座れるくらいの距離は空いているけれど、なんだかドキドキする。
おやすみなさいを言うまでの時間って、いったい何を話して過ごせば良いのだろう。
チラ、と相澤さんの方を見る。
「なんだか、こうして誰かと並んで寝るなんて、学生の時の合宿みたいだ」
悪戯っぽい目でこちらを見て、彼が言う。
合宿……ですか。ロマンチックのかけらもないシチュエーションですね。
でも、ちょっと安心した。
「何か運動とかされてたんですか」
「バスケットボールを。あとは海外にいたから日本への憧れとか強くて、空手はずっと習っていました」
相澤さんの道着姿……。想像したら、あまりにかっこよすぎて、何故か鼻のあたりが熱くなってしまった。
「花さんは?」
「中学ではテニスをしていました。高校からは体育以外運動をしなくなっちゃいましたね、運動不足です」
「俺も日本に戻ってからは、たまにジムに行くくらいかな、少しお腹がたるんできたかも」
相澤さんはそう言いながら、パジャマの裾をぴろっと捲ってお腹を見せた。
程よく鍛えられた腹筋に、一瞬、目を奪われてしまう。
「花さん、今度一緒にジムに行きましょうか。何か他のスポーツもいいですね。これから一緒に過ごす時間がたくさんあるから、楽しみです」
私と一緒に過ごすのを、楽しみにしてくれる人がいる。
しかもそれが、好きな人だなんて。
一緒に撮った写真を見た時のように、なんだか嬉しくて頬が緩んでしまう。
顔が熱くなってくるのを感じて、両手で頬をおさえた。
「花……」
名前を呼びかけられた気がして横を見ると、相澤さんの手が目の前にあってびっくりした。
目の前の手がビクッと震える。
その奥に、切なそうに微笑む相澤さんの顔が見えた。
相澤さんは、シャボン玉を壊さずに触ろうとするような手つきで私の髪を一房すくうと、自分の口元へ近づけて、ゆっくりと目を瞑った。
「俺と同じ匂いがする。嬉しい」
あ、これ使ってって言われたとおりにシャンプーとか使ったからかな。
相澤さん、そんなにお気に入りの匂いなんだ。
確かに、いい匂い。
「それじゃ、充電できたので、行きます」
充電? 別の部屋でスマホの充電でもしてたのかな。
相澤さんは、名残惜しそうな感じで、もう一度私の髪を口元へ近づけた。
その光景は、まるで童話の中の王子様が、お姫様の手の甲にキスをしているかのように美しくて、思わずウットリと見惚れてしまう。
「このあと少し部屋で仕事をするので、花さんは先に寝ていてください」
髪をそぅっと離すと、今度は優しく頭を撫でてくる。
こんな時間に、仕事……。
そんなに忙しいのに、これまで私を助けるために何かと時間を使ってくれたんだ。
きっと、いつも周りの人のために、頑張っちゃう人なんだろうな。
……何か、相澤さんのために、できること、ないかな。
「ブランケットは2枚とも洗ってあるから、好きな方を使って。寒かったら、そこの布団も使って」
できること、できること……
あ、そうだ。
「何かあったらすぐ前の部屋にいるから呼んで。それじゃ、おやすみ……」
「相澤さん、ちょっとだけ時間をください」
相澤さんが立ち上がるより先に、私はベッドを下りて相澤さんの正面に正座する。
「花……さん……?」
知識だけで、したことは無いくせに、相澤さんで初めて試してみるなんて。
自信が無いから申し訳なくて、なんだか目を合わせられない。
目の前の高さにある、ベッドに座った相澤さんのお腹あたりを見て話す。
「相澤さん」
「……は、はい」
「私、前は医者になりたかったので、体の事をたくさん勉強してきました」
「……う、うん」
「体の気持ちいいところも、分かっているつもりです」
「気持ち……いい?」
「でも実際に誰かにするのは初めてだから、上手くできないかもしれないけど……」
「ちょっ、花さん?」
「仕事の疲れを忘れるくらい、相澤さんを、いっぱい気持ちよくさせたいです」
「……ッ……!」
「なので、ちょっとだけ時間をください」
ふぅ、ちゃんと言えた。
目線を上げて相澤さんを見ると、その顔は真っ赤で期待と困惑が入り混じったような、なんとも複雑な表情をしていた。
とりあえず、ベッドの端にちょこんと座ってみる。
ベッドはダブルベッドよりも各段に大きい。もしかしてクィーンより大きい? キングサイズ?
普通の家なら大きすぎるベッドも、この広い部屋だとバランス良く見える。
二人で寝ても、充分すぎる広さがあることにホッとした。
本当にこのマンションは、部屋が広すぎる。
リビングはもちろん、余っているから花さんここ使ってと言われた部屋も。
相澤さんの部屋はどんな感じなんだろう。
お風呂も、すごく広かったなぁ。ジャグジーまであったし。
一人で入るには広すぎる。
相澤さん……彼女さんと、一緒に入ったりするのかな。
ん、そもそも相澤さん、私がここに住んじゃって、彼女さんは気にしない? それとも、今は彼女いないのかな?
いやぁ、あんなに素敵な人だもん、きっといるよね。もしかしたら、複数……とか?
ガチャ、とドアが開く音に全身がビクゥッと飛び跳ねた。
寝室に入ってきた彼の髪は、湯あがりでまだ濡れている。上気してうっすらと赤い頬が、なんとも言えない色気を醸し出していた。
彼が着ているのは全体的に淡いブルーを基調として、襟と袖のところに濃紺の縁がついたパジャマ。
彼が近づいてくると、パジャマの生地が明らかに上質なのが分かった。なんか、てろんって滑らかな感じ。
私が買うものとは絶対に値段の桁が違う。
私は、というと、身につけているのはグレーのスウェット上下。手首足首にゴムが入っていて、動きやすさとしては抜群。
相澤さんがベッドに座ると、微かに私のところまでベッドの沈む感触が伝わってきた。
人がもう一人余裕で座れるくらいの距離は空いているけれど、なんだかドキドキする。
おやすみなさいを言うまでの時間って、いったい何を話して過ごせば良いのだろう。
チラ、と相澤さんの方を見る。
「なんだか、こうして誰かと並んで寝るなんて、学生の時の合宿みたいだ」
悪戯っぽい目でこちらを見て、彼が言う。
合宿……ですか。ロマンチックのかけらもないシチュエーションですね。
でも、ちょっと安心した。
「何か運動とかされてたんですか」
「バスケットボールを。あとは海外にいたから日本への憧れとか強くて、空手はずっと習っていました」
相澤さんの道着姿……。想像したら、あまりにかっこよすぎて、何故か鼻のあたりが熱くなってしまった。
「花さんは?」
「中学ではテニスをしていました。高校からは体育以外運動をしなくなっちゃいましたね、運動不足です」
「俺も日本に戻ってからは、たまにジムに行くくらいかな、少しお腹がたるんできたかも」
相澤さんはそう言いながら、パジャマの裾をぴろっと捲ってお腹を見せた。
程よく鍛えられた腹筋に、一瞬、目を奪われてしまう。
「花さん、今度一緒にジムに行きましょうか。何か他のスポーツもいいですね。これから一緒に過ごす時間がたくさんあるから、楽しみです」
私と一緒に過ごすのを、楽しみにしてくれる人がいる。
しかもそれが、好きな人だなんて。
一緒に撮った写真を見た時のように、なんだか嬉しくて頬が緩んでしまう。
顔が熱くなってくるのを感じて、両手で頬をおさえた。
「花……」
名前を呼びかけられた気がして横を見ると、相澤さんの手が目の前にあってびっくりした。
目の前の手がビクッと震える。
その奥に、切なそうに微笑む相澤さんの顔が見えた。
相澤さんは、シャボン玉を壊さずに触ろうとするような手つきで私の髪を一房すくうと、自分の口元へ近づけて、ゆっくりと目を瞑った。
「俺と同じ匂いがする。嬉しい」
あ、これ使ってって言われたとおりにシャンプーとか使ったからかな。
相澤さん、そんなにお気に入りの匂いなんだ。
確かに、いい匂い。
「それじゃ、充電できたので、行きます」
充電? 別の部屋でスマホの充電でもしてたのかな。
相澤さんは、名残惜しそうな感じで、もう一度私の髪を口元へ近づけた。
その光景は、まるで童話の中の王子様が、お姫様の手の甲にキスをしているかのように美しくて、思わずウットリと見惚れてしまう。
「このあと少し部屋で仕事をするので、花さんは先に寝ていてください」
髪をそぅっと離すと、今度は優しく頭を撫でてくる。
こんな時間に、仕事……。
そんなに忙しいのに、これまで私を助けるために何かと時間を使ってくれたんだ。
きっと、いつも周りの人のために、頑張っちゃう人なんだろうな。
……何か、相澤さんのために、できること、ないかな。
「ブランケットは2枚とも洗ってあるから、好きな方を使って。寒かったら、そこの布団も使って」
できること、できること……
あ、そうだ。
「何かあったらすぐ前の部屋にいるから呼んで。それじゃ、おやすみ……」
「相澤さん、ちょっとだけ時間をください」
相澤さんが立ち上がるより先に、私はベッドを下りて相澤さんの正面に正座する。
「花……さん……?」
知識だけで、したことは無いくせに、相澤さんで初めて試してみるなんて。
自信が無いから申し訳なくて、なんだか目を合わせられない。
目の前の高さにある、ベッドに座った相澤さんのお腹あたりを見て話す。
「相澤さん」
「……は、はい」
「私、前は医者になりたかったので、体の事をたくさん勉強してきました」
「……う、うん」
「体の気持ちいいところも、分かっているつもりです」
「気持ち……いい?」
「でも実際に誰かにするのは初めてだから、上手くできないかもしれないけど……」
「ちょっ、花さん?」
「仕事の疲れを忘れるくらい、相澤さんを、いっぱい気持ちよくさせたいです」
「……ッ……!」
「なので、ちょっとだけ時間をください」
ふぅ、ちゃんと言えた。
目線を上げて相澤さんを見ると、その顔は真っ赤で期待と困惑が入り混じったような、なんとも複雑な表情をしていた。
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