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14 愛の力
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今僕は学園の門の前に立っている。石造りの門柱に取り付けられた太くて厚い板でできた頑強な扉は普段は解放されているのに今日は固く閉じられて僕たちでは開けることができない。それならと塀を乗り越えようとしても見えない壁があるようで弾かれてしまう。見上げた空は学園の上は暗い灰紫色で僕らの頭上に広がる青い空と違い不穏な空気をただよわせている。ホラー映画を思わせるそこは決して望んで入りたい雰囲気ではない。ないのだけれど……
「やっと着いたのに」
ここにたどり着くまでの一週間ほどの旅はちょっといろいろありすぎて思い出したくない。長いこと愛し子なんて監禁生活をしていたせいで驚くほど僕の体力は落ちていた。そのせいで旅の後半はサイラー様かロイさんと相乗りしなくてはいけないほど疲れきってしまっていた。そしてそれのせいでさらに精神的に疲れはてることになったんだよね。
(疲れた……)
今だって本当は両親が待つお家に帰ってベッドに潜り込みたい程だけどそれをしたら起き上がれなくなることは目に見えてる。これ以上マリアに時間を与えてはいけない、ただそれだけで僕は今ここにに立っているんだ。
「なんだこれは」
ふすんと鼻息荒く学園内を望むサイラー様 が剣で門の隙間を広げようとするのをロイさんが「やめておけ」とその背中をつかむ。そして「触るな」とその手を弾くサイラー様。ロイさんがやれやれといった風なのにさらにつっかかるサイラー様。
(またやってる)
旅の始まりから口数少ないながらも正論でサイラー様のペースを乱しがちなロイさんをサイラー様は苦手に思ってはいそうだった。それが今みたいにロイさんに不機嫌を隠さない態度をとるようになったのは僕とサイラー様との距離が近いとその度に僕らの間に割ってはいってくるからだった。
特になんとなくえちちな雰囲気に流されちゃいそうな時にはたとえ寝ている深夜であろうと絶対に邪魔をしてくるロイさんにサイラー様はいらいらしっぱなしで。
旅の後半はロイさんが見ていないときには告白の結果待ちをしている人とは思えないほど露骨に僕に手を出してくる始末。だから相乗りを断ったらそれでまたロイさんに突っかかっていくサイラー様で、おかげでとっても疲れました!
遠い目をしながら二人を見ていると中央の扉の横に付けられた小さな通用門の窓から顔を出してきた人が僕を目にして目を細めた。
「あぁフィル様。久しぶりですね」
「カイ先生?」
その人は子どもの頃から僕の体調管理をしてくれていた主治医のような魔法使いのカイ先生だった。
「騒がしいから誰かと思ったよ」
カイ先生はそういって窓を閉め通用門を引いた。
「あの二人はフィル様の?」
いつもの様にグレーのケープを深く被ったカイ先生は二人にもこちらにこいと声をかける。
「あまり人を増やさない方がいいのですけどね」
「おいお前は白い髪の魔法使いの仲間ではないのか?魔法使いは信用ならん」
サイラー様が警戒心をむき出しにして不躾に直球の質問をなげる。カイ先生は大きな目をぎょろりとさせただけで「魔法使いには色々な事情があるもので」とぼそりと呟いた。そうして僕のことをじっと見つめると今度はしっかりと微笑んだ。
「いろいろあったみたいだね。入りなさい」
そういいながら先導するようにカイ先生が学園の奥へと歩みを進める。
「学園というのは子ども達が学ぶ場だと思っていたが」
ロイさんがそういうのも当然のことだった。
「どういうことだ?」
(なんだ?ここ)
先生の後ろについていきながら僕とサイラー様は驚きを隠せなかった。たしかにここは僕らの学舎であったはずなのに。至るところを覆い尽くすのは緑色。門から校舎に向かう広場にある噴水までが緑の葉っぱに覆われてしまっている。
かろうじて残る石畳の上を歩くけれど人一人分の幅ほどしか残っておらずふわふわとした苔やらでうめつくされている。
「君が行方不明になってから半年ほどだが学園内は少々様子が変わってしまってね。特にここ数日で危ないところが増えたから案内しよう」
「なんなんだこれは?」
「この土地の魔素が増えたことで魔生植物たちが元気付いてしまってね。とくに蔦植物類は小さな生き物の生き血を好むから触れないようにした方がいい。とくにあの辺のね」
そう言って先生は校舎のほうで蔓延る蔦を指差した。
「なんだと!危ないではないか。なぜ騎士達は駆除しない?」
「ここに残っているもの達はそれを危険と思わないものしかいないからですね」
「どういうことですか?」
「これを起こしたのはマリアなのです。大半のものはマリアの魅了で思考力も鈍ってしまっている」
「おい、お前はマリアの魅了にかかっていないのか?」
「ふふ。あんな子供だましの魔道具私には効きませんよ。わたしはフィル様の味方です。必ず戻ってくると知ってましたからね」
「おや?噂をすれば」
先生が足をとめる。
「お出ましのようだ」
ロイさんが腰にはいた剣のつかを掴んだ。サイラー様が僕を背にかばうように前に出た。
「あっれー誰かと思ったらモブモブしい女神の愛し子様じゃないですかぁ?いいんですかぁ?こんなところにいて。お隣の国教会から懸賞金つきで探されてますよぉ」
こつりこつりとヒールで石畳をならしながらマリアが現れた。学生服ではなく床上すれすれのスカート丈の長い桃色のドレスをまとい今から舞踏会にでもでかけるかのような装いと彼女の特徴的なピンクの髪が高く結い上げられた様はDのつくアニメのお姫様のようだった。
「マリア」
「この私を呼び捨て?え?モブの癖に」
眉をひそめて僕を睨み付けるマリアははっきりいって怖い。びびった僕は思わずサイラー様の肘を握ってしまう。かわいらしい印象 だった以前に比べて性格のきつさが顔に出ている。彼女の視線だけで僕は逃げ出したくなった。
そんな僕の手をぽんぽんと落ち着かせるように軽くたたくサイラー様。マリアと対峙しているのにその様子におかしいところはまだない。
(魅了が効いてない?)
「マリア、アーノルトはどこだ」
「あれ?サイラー様?もうどこにいってたんですかぁ。マリア心配したんですよ。せっかくのお祝いの席にもいらっしゃらないし」
「お祝い?」
「そう。私とアーノルトのお祝い」
僕をみてにたりと笑うマリアの笑顔には瘴気が漂っているんじゃないかと思えるくらい嫌な感じがした。
「なにをお祝いしたんです」
「あぁごめんねぇ。元カレのことなんて聞きたくないかぁ。でもモブのあなたも一応国民だし。しっといたほうがいいと思う。将来の国王とお妃様くらい」
「お妃様って」
「もちろん私よ」
芝居がかった身振りでマリアが扇子をくるりと手首を使ってかえした。その動きで彼女の香水が香った。甘ったるく僕には不快でしかない香り。
「んふふふ。アーノルトと結婚したの」
「え?」
「あっははは。良い顔するじゃない、負け犬。もらえると思ってたご飯を取り上げられちゃったみたいな顔して。どうしたの?まさかアーノルトと結婚できるなんて思ってなかったでしょ?あんた男だし。モブだし」
(……ちょっと理解が)
「文句があったなら最初に言えばよかったでしょ。戦いもせずに逃げて。わたしねぇあんたみたいな惨めな人大嫌い!!なの」
(結婚?ハーレムを目指してるのに?)
白い魔法使いが言っていたハーレム発言を思い出してマリアを睨み付ける。
「くやしいんだぁ?あははは!」
僕の表情をみてマリアは心底楽しそうに笑った。
(この娘本当に性格が悪い!)
「へーくやしいんだねぇ。戦いもせずに逃げたからくやしいとかいう気持ちはないんだと思ってたよ。ねぇ、教えてあげるね。アーノルトを攻略するの簡単だったよ。やっぱりモブにかまってたのは暇潰しだったんだなって思ったの。私の愛の力でアーノルトの目が覚めたって感じ。だってほら、真実の愛って魔法にかけられたお姫様を目覚めさせたり、野獣になってた王子を元に戻すくらい強いものじゃない?」
くやしい?たしかにそうだ。でもそれより僕の心をえぐったのは彼女の言った「暇潰し」という単語だった。アーノルト様が本気じゃなかったからマリアに取られたんだと考えたくなかったのに。言い返す言葉が見つからない。
(でもマリアはアーノルト様を愛してなんか居ないのに!)
ぐるぐるとお腹の中で怒りが渦巻いて息がつまる。
「あれ?ロイ?ロイよね?え?あんたが連れてきたの?」
ロイさんを見つけたマリアは僕を尻目に彼に絡みだす。
「ちょうどいいわ。サイラーとロイこっちに来て私と一緒に遊びましょう。もうアーノルトの攻略が終わったから他の攻略対象も落としてっていいんだよねぇ。効率的にいきたいからね。二人同時に攻略しちゃお」
そう言うと胸の前で手を組んでマリアはにっこりと笑った。表情だけは聖母のような慈愛に満ちたものだった。
「サイラー様。ロイ様。こちらに来てください❤️」
その声をどう表せば良いのだろう。甘すぎる砂糖菓子のようで僕には心地よくない声なのにその誘いに途端にトロリとした目になった二人がマリアに近づいていく。
「ね、サイラー様あなた私のこと好き?」
「!もちろん好きだ」
「私のお願い聞いて?」
「あぁもちろんだ」
「あのフィルって子、私のこと襲おうとしてるの。マリア怖い!」
「心配はいらない。俺が守る」
「ありがとう」
「もちろんだ」
愛しげにマリアを見つめるサイラー様の瞳に僕が写ることはなく、くすくすと笑うマリアが勝ち誇ったように僕を見る。
(魅了の魔法が効いてる。さっきまでと何が違う?声、声だけで?)
「ロイ様。私のこと好き?」
「初めて会ったというのに何故こんなに貴方に惹かれるのか。わからないが愛している!」
「嬉しい。私のこと守ってくださいますか?」
「もちろんだ」
「じゃああの子ここからつまみ出して下さいます?」
「もちろんだ」
知らない人をみるような瞳で僕をみるロイさん。彼の手が僕に伸ばされようとしたその時、遠くから懐かしい 声が聞こえた。
「マリア!マリアどこだ!」
僕を見てにんまりと笑ったマリアが声をあげる。僕に向けられた彼女の口が「みてて」と動いた。
「ここよアーノルト」
「やっと着いたのに」
ここにたどり着くまでの一週間ほどの旅はちょっといろいろありすぎて思い出したくない。長いこと愛し子なんて監禁生活をしていたせいで驚くほど僕の体力は落ちていた。そのせいで旅の後半はサイラー様かロイさんと相乗りしなくてはいけないほど疲れきってしまっていた。そしてそれのせいでさらに精神的に疲れはてることになったんだよね。
(疲れた……)
今だって本当は両親が待つお家に帰ってベッドに潜り込みたい程だけどそれをしたら起き上がれなくなることは目に見えてる。これ以上マリアに時間を与えてはいけない、ただそれだけで僕は今ここにに立っているんだ。
「なんだこれは」
ふすんと鼻息荒く学園内を望むサイラー様 が剣で門の隙間を広げようとするのをロイさんが「やめておけ」とその背中をつかむ。そして「触るな」とその手を弾くサイラー様。ロイさんがやれやれといった風なのにさらにつっかかるサイラー様。
(またやってる)
旅の始まりから口数少ないながらも正論でサイラー様のペースを乱しがちなロイさんをサイラー様は苦手に思ってはいそうだった。それが今みたいにロイさんに不機嫌を隠さない態度をとるようになったのは僕とサイラー様との距離が近いとその度に僕らの間に割ってはいってくるからだった。
特になんとなくえちちな雰囲気に流されちゃいそうな時にはたとえ寝ている深夜であろうと絶対に邪魔をしてくるロイさんにサイラー様はいらいらしっぱなしで。
旅の後半はロイさんが見ていないときには告白の結果待ちをしている人とは思えないほど露骨に僕に手を出してくる始末。だから相乗りを断ったらそれでまたロイさんに突っかかっていくサイラー様で、おかげでとっても疲れました!
遠い目をしながら二人を見ていると中央の扉の横に付けられた小さな通用門の窓から顔を出してきた人が僕を目にして目を細めた。
「あぁフィル様。久しぶりですね」
「カイ先生?」
その人は子どもの頃から僕の体調管理をしてくれていた主治医のような魔法使いのカイ先生だった。
「騒がしいから誰かと思ったよ」
カイ先生はそういって窓を閉め通用門を引いた。
「あの二人はフィル様の?」
いつもの様にグレーのケープを深く被ったカイ先生は二人にもこちらにこいと声をかける。
「あまり人を増やさない方がいいのですけどね」
「おいお前は白い髪の魔法使いの仲間ではないのか?魔法使いは信用ならん」
サイラー様が警戒心をむき出しにして不躾に直球の質問をなげる。カイ先生は大きな目をぎょろりとさせただけで「魔法使いには色々な事情があるもので」とぼそりと呟いた。そうして僕のことをじっと見つめると今度はしっかりと微笑んだ。
「いろいろあったみたいだね。入りなさい」
そういいながら先導するようにカイ先生が学園の奥へと歩みを進める。
「学園というのは子ども達が学ぶ場だと思っていたが」
ロイさんがそういうのも当然のことだった。
「どういうことだ?」
(なんだ?ここ)
先生の後ろについていきながら僕とサイラー様は驚きを隠せなかった。たしかにここは僕らの学舎であったはずなのに。至るところを覆い尽くすのは緑色。門から校舎に向かう広場にある噴水までが緑の葉っぱに覆われてしまっている。
かろうじて残る石畳の上を歩くけれど人一人分の幅ほどしか残っておらずふわふわとした苔やらでうめつくされている。
「君が行方不明になってから半年ほどだが学園内は少々様子が変わってしまってね。特にここ数日で危ないところが増えたから案内しよう」
「なんなんだこれは?」
「この土地の魔素が増えたことで魔生植物たちが元気付いてしまってね。とくに蔦植物類は小さな生き物の生き血を好むから触れないようにした方がいい。とくにあの辺のね」
そう言って先生は校舎のほうで蔓延る蔦を指差した。
「なんだと!危ないではないか。なぜ騎士達は駆除しない?」
「ここに残っているもの達はそれを危険と思わないものしかいないからですね」
「どういうことですか?」
「これを起こしたのはマリアなのです。大半のものはマリアの魅了で思考力も鈍ってしまっている」
「おい、お前はマリアの魅了にかかっていないのか?」
「ふふ。あんな子供だましの魔道具私には効きませんよ。わたしはフィル様の味方です。必ず戻ってくると知ってましたからね」
「おや?噂をすれば」
先生が足をとめる。
「お出ましのようだ」
ロイさんが腰にはいた剣のつかを掴んだ。サイラー様が僕を背にかばうように前に出た。
「あっれー誰かと思ったらモブモブしい女神の愛し子様じゃないですかぁ?いいんですかぁ?こんなところにいて。お隣の国教会から懸賞金つきで探されてますよぉ」
こつりこつりとヒールで石畳をならしながらマリアが現れた。学生服ではなく床上すれすれのスカート丈の長い桃色のドレスをまとい今から舞踏会にでもでかけるかのような装いと彼女の特徴的なピンクの髪が高く結い上げられた様はDのつくアニメのお姫様のようだった。
「マリア」
「この私を呼び捨て?え?モブの癖に」
眉をひそめて僕を睨み付けるマリアははっきりいって怖い。びびった僕は思わずサイラー様の肘を握ってしまう。かわいらしい印象 だった以前に比べて性格のきつさが顔に出ている。彼女の視線だけで僕は逃げ出したくなった。
そんな僕の手をぽんぽんと落ち着かせるように軽くたたくサイラー様。マリアと対峙しているのにその様子におかしいところはまだない。
(魅了が効いてない?)
「マリア、アーノルトはどこだ」
「あれ?サイラー様?もうどこにいってたんですかぁ。マリア心配したんですよ。せっかくのお祝いの席にもいらっしゃらないし」
「お祝い?」
「そう。私とアーノルトのお祝い」
僕をみてにたりと笑うマリアの笑顔には瘴気が漂っているんじゃないかと思えるくらい嫌な感じがした。
「なにをお祝いしたんです」
「あぁごめんねぇ。元カレのことなんて聞きたくないかぁ。でもモブのあなたも一応国民だし。しっといたほうがいいと思う。将来の国王とお妃様くらい」
「お妃様って」
「もちろん私よ」
芝居がかった身振りでマリアが扇子をくるりと手首を使ってかえした。その動きで彼女の香水が香った。甘ったるく僕には不快でしかない香り。
「んふふふ。アーノルトと結婚したの」
「え?」
「あっははは。良い顔するじゃない、負け犬。もらえると思ってたご飯を取り上げられちゃったみたいな顔して。どうしたの?まさかアーノルトと結婚できるなんて思ってなかったでしょ?あんた男だし。モブだし」
(……ちょっと理解が)
「文句があったなら最初に言えばよかったでしょ。戦いもせずに逃げて。わたしねぇあんたみたいな惨めな人大嫌い!!なの」
(結婚?ハーレムを目指してるのに?)
白い魔法使いが言っていたハーレム発言を思い出してマリアを睨み付ける。
「くやしいんだぁ?あははは!」
僕の表情をみてマリアは心底楽しそうに笑った。
(この娘本当に性格が悪い!)
「へーくやしいんだねぇ。戦いもせずに逃げたからくやしいとかいう気持ちはないんだと思ってたよ。ねぇ、教えてあげるね。アーノルトを攻略するの簡単だったよ。やっぱりモブにかまってたのは暇潰しだったんだなって思ったの。私の愛の力でアーノルトの目が覚めたって感じ。だってほら、真実の愛って魔法にかけられたお姫様を目覚めさせたり、野獣になってた王子を元に戻すくらい強いものじゃない?」
くやしい?たしかにそうだ。でもそれより僕の心をえぐったのは彼女の言った「暇潰し」という単語だった。アーノルト様が本気じゃなかったからマリアに取られたんだと考えたくなかったのに。言い返す言葉が見つからない。
(でもマリアはアーノルト様を愛してなんか居ないのに!)
ぐるぐるとお腹の中で怒りが渦巻いて息がつまる。
「あれ?ロイ?ロイよね?え?あんたが連れてきたの?」
ロイさんを見つけたマリアは僕を尻目に彼に絡みだす。
「ちょうどいいわ。サイラーとロイこっちに来て私と一緒に遊びましょう。もうアーノルトの攻略が終わったから他の攻略対象も落としてっていいんだよねぇ。効率的にいきたいからね。二人同時に攻略しちゃお」
そう言うと胸の前で手を組んでマリアはにっこりと笑った。表情だけは聖母のような慈愛に満ちたものだった。
「サイラー様。ロイ様。こちらに来てください❤️」
その声をどう表せば良いのだろう。甘すぎる砂糖菓子のようで僕には心地よくない声なのにその誘いに途端にトロリとした目になった二人がマリアに近づいていく。
「ね、サイラー様あなた私のこと好き?」
「!もちろん好きだ」
「私のお願い聞いて?」
「あぁもちろんだ」
「あのフィルって子、私のこと襲おうとしてるの。マリア怖い!」
「心配はいらない。俺が守る」
「ありがとう」
「もちろんだ」
愛しげにマリアを見つめるサイラー様の瞳に僕が写ることはなく、くすくすと笑うマリアが勝ち誇ったように僕を見る。
(魅了の魔法が効いてる。さっきまでと何が違う?声、声だけで?)
「ロイ様。私のこと好き?」
「初めて会ったというのに何故こんなに貴方に惹かれるのか。わからないが愛している!」
「嬉しい。私のこと守ってくださいますか?」
「もちろんだ」
「じゃああの子ここからつまみ出して下さいます?」
「もちろんだ」
知らない人をみるような瞳で僕をみるロイさん。彼の手が僕に伸ばされようとしたその時、遠くから懐かしい 声が聞こえた。
「マリア!マリアどこだ!」
僕を見てにんまりと笑ったマリアが声をあげる。僕に向けられた彼女の口が「みてて」と動いた。
「ここよアーノルト」
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