死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

38.幸せに満ちた一日

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育児に追われる日々が続き、私は寝不足のままいつも通り朝を迎えた。重いまぶたを開けると、目に飛び込んできたのは――ベッド全体を覆う鮮やかな赤い薔薇の花びら。

「えっ…?」

思わず声を漏らし、目をこする。それでも目の前の光景は変わらない。花びらはベッドだけでなく、床やテーブルの上まで広がり、まるで一面に赤い絨毯を敷き詰めたかのようだった。甘い薔薇の香りが部屋いっぱいに漂い、まだ目が覚めきらない頭がさらにぼんやりしてしまう。

「な、なにこれ…?」

混乱していると、部屋の扉がゆっくりと開き、ユリドレが現れた。彼は白いシャツに黒のジャケットを羽織り、いつもよりも整った姿で、手には小さなブーケを持っている。

「メイ、19歳のお誕生日おめでとうございます。」

ユリの声は低く落ち着いていて、柔らかな笑顔を浮かべている。その瞳には、私を見つめる優しさと愛情がたっぷりと込められていた。

「えっ…えぇっ!?今日って…誕生日?」

私は頭の中で日付を必死に思い出す。育児に没頭するあまり、自分の誕生日すら忘れていたのだ。

「そうです。俺が忘れるわけないでしょう?」

ユリはベッドの端に腰掛けると、そっと私の頬に手を添えた。その手の温かさに、全身がふわりとした心地良さに包まれる。

「これは…全部ユリが?」

「ええ、メイが少しでも笑顔になれるように、夜中にこっそり準備しました。花びらの片付けは後で使用人に任せるので心配しないでくださいね。」

彼の言葉に、胸がじんわりと温かくなる。育児で忙しい私を気遣いながら、こんな素敵なサプライズを用意してくれるなんて――本当に、ユリはどうしてここまで完璧なんだろう。

「でも、こんなにたくさんの薔薇をどうやって…?」

「秘密です。でも、メイにはこれくらいのことをしても足りないくらいですよ。」

ユリは微笑みながら、手にしていたブーケを私に差し出す。ブーケには赤と白の薔薇が交互に飾られており、その美しさに思わず見とれてしまう。

「これ、メイのために特別に作ったものです。」

「特別…?」

「赤い薔薇は情熱と愛、白い薔薇は純粋な気持ちを表しています。俺の気持ちを込めて作りました。」

ユリの真剣な眼差しと言葉に、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。

「ありがとう…ユリ、本当に…ありがとう。」

私はブーケを受け取り、そっと花の香りを楽しむ。優しい香りと彼の気遣いが、私の心をいっぱいに満たしていく。

「まだありますよ、メイ。」

ユリはおもむろに立ち上がり、ベッドのサイドテーブルから小さな箱を取り出した。それは繊細なデザインの銀のリボンで包まれた、小さなジュエリーボックスだった。

「これも…?」

「ええ。開けてみてください。」

緊張しながらリボンを解き、箱を開けると、中には美しいペンダントが入っていた。それは薔薇を模したデザインのペンダントで、中心には小さな青い宝石が輝いている。

「この宝石は、メイの瞳をイメージして選びました。いつも俺の目に映る、メイの愛らしい瞳を…形にしたかったんです。」

ユリの言葉に、目頭が熱くなる。彼の思いが詰まった贈り物に、感謝の気持ちがあふれて止まらない。

「ユリ、ありがとう…すごく綺麗…。でも、こんなにたくさんの贈り物をもらっていいのかしら。」

「もちろんです。俺の妻であり、メアルーシュの母であるメイが幸せでいてくれることが、俺の一番の願いですから。」

ユリは私の手を取り、その手の甲にそっとキスを落とす。その仕草があまりにも紳士的で、恥ずかしさと幸福感が入り混じった感情に包まれる。

「ユリ…ありがとう。本当に、こんな素敵な夫がいて幸せだわ。」

「メイ、俺の方こそ、あなたが俺の人生にいてくれることが何よりの幸せです。」

二人で見つめ合いながら、部屋いっぱいに広がる薔薇の香りと幸せな空気に包まれて、その瞬間を心に刻んだ。

ユリドレのサプライズで始まった私の19歳の誕生日。部屋の中はまだ薔薇の香りで満ちている。朝の感動が胸に残る中、私たちはそのままゆったりとした時間を過ごしていった。

ユリは使用人に指示を出し、特別な料理を運ばせた。金色のカートに載せられた銀の蓋付きの皿が次々と運び込まれ、部屋はまるで豪華なレストランのように華やかになる。テーブルの上には、色鮮やかな前菜、湯気の立つスープ、ジューシーな肉料理に、新鮮な果物をふんだんに使ったデザートまで並べられた。

「こんなにたくさん…!」
「今日は特別ですからね。遠慮せず召し上がってください。」

ユリが椅子を引いて私を座らせると、彼自身も隣に腰掛け、私がフォークを手にするのを待つ。その姿勢はどこまでも紳士的で、つい頬が緩んでしまう。

「いただきます。」

一口目を頬張ると、口の中に広がる豊かな味わいに感嘆の息が漏れる。ふとユリを見ると、彼は私の反応をじっと見つめ、満足げに微笑んでいた。

「美味しいですか?」
「ええ、とっても!これ、どこの料理人が作ったの?」
「メイが好きそうな料理を世界中の料理本から探して、腕のいい料理人に試作させました。」
「…本当に、そこまでしてくれたの?」
「ええ。それくらい当然のことです。」

ユリの真剣な言葉に胸が温かくなる。彼の優しさと努力が伝わってきて、自然と笑みが溢れる。

食後には、部屋に商人たちが招かれた。布地や宝石、アクセサリーから香水まで、色とりどりの品々がテーブルに並べられる。商人たちは丁寧に商品を説明し、ユリはその様子を隣でじっと見守っている。

「これ、どう思う?」
私がピンク色の繊細なレースのスカーフを手に取ると、ユリは少し考えてから頷いた。
「とても似合うと思います。…ですが、もう少し青みのある色も見てみませんか?メイの瞳に合うかもしれません。」

彼の助言を受けながら、商人たちの提案に耳を傾け、私は楽しくショッピングを楽しんだ。

夜が訪れ、部屋の中の明かりが柔らかな灯火に変わる頃、ユリが私の手を取った。

「さあ、次はお風呂の時間です。」
「お風呂?」

案内されるままに浴室へ行くと、そこには大きなバスタブがあり、赤やピンクの薔薇の花びらが一面に浮かんでいた。バスルーム全体が薔薇の香りに包まれ、キャンドルの灯りが優しく揺れている。

「ユリ…これも?」
「ええ、メイのために用意しました。どうぞ、リラックスしてください。」

彼は私をバスタブのそばまで連れて行き、そっと肩に手を添えて微笑む。その瞳には、私を思う気持ちが溢れていた。

薔薇の湯に浸かりながら、私たちは今日一日のことを話し合った。湯気の中、ユリは私の隣に座り、そっと肩に腕を回す。

「楽しんでいただけましたか?」
「ええ、とっても。人生で一番幸せな日だったわ。」

私が心からの感謝を伝えると、ユリの顔に柔らかな笑みが浮かんだ。彼の手がそっと私の髪を撫でるたび、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「あなたには本当に感謝しているわ。こんなに大切にされて…。」
「メイが俺にとってどれだけ特別な存在か、少しでも伝われば嬉しいです。」

ユリの言葉に、自然と目頭が熱くなる。その瞬間、私は今日のすべてが彼からの愛の表現だったことを再確認した。

湯気と薔薇の香りに包まれた静かなひととき。私たちは互いの存在を感じながら、静かに愛を深めていった。
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