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25.本当の想い
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王太子宮に与えられている部屋に戻ると、アイリスは自己嫌悪に沈む。
己を抑えられなくなり、王子であるジョナスに危害を加えてしまったのだ。不敬罪、暴行罪といった罪状がアイリスの頭に浮かぶ。
レオナルドがジョナスに暴力を振るったのとは、わけが違う。レオナルドは王太子だが、アイリスはただの子爵令嬢でしかないのだ。
「結局、聞き出すこともできなかったし……」
アイリスは盛大なため息を吐き出す。
王妃とフォーサイス家の事件に関わりがあるという、とても興味深い話は聞けたが、詳細は不明だ。
まともに情報は得られず、王子相手に乱暴して逃げてくるという結果で、間抜けな役立たずにも程がある。
「どうしてしまったというの……」
目的のことを考えるなら、ジョナスの誘いを受けるべきだった。
いっとき体を差し出すだけで、気になっている情報を聞けるのだ。もしかしたら、もっと知らない発見があったかもしれない。
損失は少なく、利益は大きい。ためらうようなことではなかったはずだ。
しかし、どうしても我慢できなかった。
ジョナスに対して好悪の感情はこれといってなかったが、触れられたときの嫌悪感は耐えがたがった。
「もし、あれがレオナルドさまだったら……」
触れてきたのがレオナルドで、その先を望まれたら、アイリスは応じていただろう。
それも、目的のためにと我慢して受け入れるのではなく、むしろ喜んで身を任せていたかもしれない。
「……私は何を」
はっとして、アイリスは己の顔を両手で覆う。
何を考えていたのだと、羞恥心で頬が熱くなる。
「い……いえ、これは、かりそめとはいえ恋人という立場だからで……」
アイリスは一人でぶつぶつと言い訳を呟く。
誰も聞く者のいない言葉は、尻すぼみに消えていった。
「違う……本当は、レオナルドさまのこと……」
俯きながら、アイリスはぎゅっと拳を握り締める。
もともと、アイリスがフォーサイス家にいた頃、憧れを抱いていた相手なのだ。
それがかつての想像を超えて、毎日愛を囁かれていれば、いくら演技とわかっているとはいえ、心が傾いてしまう。
一緒に過ごす時間が心地よく、このままでいたいという思いは、日増しに強くなっていた。
「お姉さまの仇なのに……好きになってはいけないのに……」
弱々しく握られた拳に、ぽとりと涙がこぼれ落ちる。
姉ジゼルを手にかけたとは、レオナルドから直接聞いたのだ。仇であることは、疑いようがない。
「でも……もしかしたら……」
何故ジゼルを手にかけたかの理由は聞いていない。
王妃の功績となった反乱未遂や、王妃とフォーサイス侯爵夫人の関係、そしてアイリスが洗脳を受けている可能性など、いくつもの疑問も出てきた。
ジゼルが殺された背景は、いったい何なのか。
「……レオナルドさまに、お尋ねしてみよう」
いくら一人で考えたところで答えは出ない。それならば、レオナルドから聞き出すしかない。
さらなる絶望に叩き落されるかもしれないことが恐ろしく、アイリスの拳が微かに震える。
「大丈夫よ……悪い結果だったとしても、気持ちの問題だけで、状況が変わるわけじゃないもの……」
ジゼルを殺したことに納得できるような理由がなかったとしても、置かれている状況が変わるわけではない。
レオナルドは、カトリーナに道筋を示すまで生きている必要があると言っていた。
まだ十二歳の彼女は嫁ぐとしても、まだ先だろう。それまでは、アイリスもレオナルドの命を保留にしておける。
「このまま何も知らず、利用されるだけなのは……もう嫌よ」
目的を果たせるのなら、駒として利用されても構わないと思っていた。何も考えなければ、それ以上傷付くこともないだろうとも。
だが、たとえ結末が変わらないのだとしても、苦しむことになるのだとしても、本当のことを知りたい。
アイリスは決意をこめて、俯いていた顔を上げた。
ところが、レオナルドと話す機会はなかなか訪れなかった。
レオナルドは忙しいらしく、ほとんど王城に行ったきりだ。王太子宮に帰ってきても、すぐにまた王城に引き返してしまう。
「アイリス、すまないな。まだ当分、忙しそうだ」
王城との行き来の中、わずかな時間でレオナルドはアイリスの部屋を訪れる。
後ろには秘書官が付き従っていて、隙間を縫ってアイリスに会いに来たことがありありとしていた。
「いいえ……お体にお気を付けて……」
時間がない上に、他人がいるような状況では、話を切り出せない。アイリスは焦燥感を抱えながら、無力に微笑むだけだ。
レオナルドが去っていくのを見送り、ただ待つことしかできない。
しかも、先日アイリスがレオナルドの手に身をすくませて以来、触れようとしてこないのだ。
もしかしてレオナルドを傷付けてしまったのかと、アイリスは心が痛む。
身をすくませてしまったのは、衝撃的な出来事があって混乱していたからで、レオナルドに触れられるのが嫌なわけではないとも、伝えられていない。
それでも、わざわざアイリスに会いに来てくれるのだから、嫌われてはいないのだろう。
ただ、もしかしたら溺愛しているという演技のためかもしれない。そう思うと、アイリスは胸が苦しくなる。
だからといって何もできることなどなく、今はレオナルドの仕事が落ち着くのを待つしかない。
「王妃から、お茶の誘い……?」
そのようなとき、王妃からの呼び出しがあったのだ。
お茶の誘いとあるが、何らかの企みの駒として、指令が下されるのだろう。
それとも、ジョナスへの暴力に対するお咎めだろうか。
うまくいかない状況下での、憂鬱な誘いだ。アイリスはうんざりしながらも、断ることなどできず、支度をするしかなかった。
己を抑えられなくなり、王子であるジョナスに危害を加えてしまったのだ。不敬罪、暴行罪といった罪状がアイリスの頭に浮かぶ。
レオナルドがジョナスに暴力を振るったのとは、わけが違う。レオナルドは王太子だが、アイリスはただの子爵令嬢でしかないのだ。
「結局、聞き出すこともできなかったし……」
アイリスは盛大なため息を吐き出す。
王妃とフォーサイス家の事件に関わりがあるという、とても興味深い話は聞けたが、詳細は不明だ。
まともに情報は得られず、王子相手に乱暴して逃げてくるという結果で、間抜けな役立たずにも程がある。
「どうしてしまったというの……」
目的のことを考えるなら、ジョナスの誘いを受けるべきだった。
いっとき体を差し出すだけで、気になっている情報を聞けるのだ。もしかしたら、もっと知らない発見があったかもしれない。
損失は少なく、利益は大きい。ためらうようなことではなかったはずだ。
しかし、どうしても我慢できなかった。
ジョナスに対して好悪の感情はこれといってなかったが、触れられたときの嫌悪感は耐えがたがった。
「もし、あれがレオナルドさまだったら……」
触れてきたのがレオナルドで、その先を望まれたら、アイリスは応じていただろう。
それも、目的のためにと我慢して受け入れるのではなく、むしろ喜んで身を任せていたかもしれない。
「……私は何を」
はっとして、アイリスは己の顔を両手で覆う。
何を考えていたのだと、羞恥心で頬が熱くなる。
「い……いえ、これは、かりそめとはいえ恋人という立場だからで……」
アイリスは一人でぶつぶつと言い訳を呟く。
誰も聞く者のいない言葉は、尻すぼみに消えていった。
「違う……本当は、レオナルドさまのこと……」
俯きながら、アイリスはぎゅっと拳を握り締める。
もともと、アイリスがフォーサイス家にいた頃、憧れを抱いていた相手なのだ。
それがかつての想像を超えて、毎日愛を囁かれていれば、いくら演技とわかっているとはいえ、心が傾いてしまう。
一緒に過ごす時間が心地よく、このままでいたいという思いは、日増しに強くなっていた。
「お姉さまの仇なのに……好きになってはいけないのに……」
弱々しく握られた拳に、ぽとりと涙がこぼれ落ちる。
姉ジゼルを手にかけたとは、レオナルドから直接聞いたのだ。仇であることは、疑いようがない。
「でも……もしかしたら……」
何故ジゼルを手にかけたかの理由は聞いていない。
王妃の功績となった反乱未遂や、王妃とフォーサイス侯爵夫人の関係、そしてアイリスが洗脳を受けている可能性など、いくつもの疑問も出てきた。
ジゼルが殺された背景は、いったい何なのか。
「……レオナルドさまに、お尋ねしてみよう」
いくら一人で考えたところで答えは出ない。それならば、レオナルドから聞き出すしかない。
さらなる絶望に叩き落されるかもしれないことが恐ろしく、アイリスの拳が微かに震える。
「大丈夫よ……悪い結果だったとしても、気持ちの問題だけで、状況が変わるわけじゃないもの……」
ジゼルを殺したことに納得できるような理由がなかったとしても、置かれている状況が変わるわけではない。
レオナルドは、カトリーナに道筋を示すまで生きている必要があると言っていた。
まだ十二歳の彼女は嫁ぐとしても、まだ先だろう。それまでは、アイリスもレオナルドの命を保留にしておける。
「このまま何も知らず、利用されるだけなのは……もう嫌よ」
目的を果たせるのなら、駒として利用されても構わないと思っていた。何も考えなければ、それ以上傷付くこともないだろうとも。
だが、たとえ結末が変わらないのだとしても、苦しむことになるのだとしても、本当のことを知りたい。
アイリスは決意をこめて、俯いていた顔を上げた。
ところが、レオナルドと話す機会はなかなか訪れなかった。
レオナルドは忙しいらしく、ほとんど王城に行ったきりだ。王太子宮に帰ってきても、すぐにまた王城に引き返してしまう。
「アイリス、すまないな。まだ当分、忙しそうだ」
王城との行き来の中、わずかな時間でレオナルドはアイリスの部屋を訪れる。
後ろには秘書官が付き従っていて、隙間を縫ってアイリスに会いに来たことがありありとしていた。
「いいえ……お体にお気を付けて……」
時間がない上に、他人がいるような状況では、話を切り出せない。アイリスは焦燥感を抱えながら、無力に微笑むだけだ。
レオナルドが去っていくのを見送り、ただ待つことしかできない。
しかも、先日アイリスがレオナルドの手に身をすくませて以来、触れようとしてこないのだ。
もしかしてレオナルドを傷付けてしまったのかと、アイリスは心が痛む。
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それでも、わざわざアイリスに会いに来てくれるのだから、嫌われてはいないのだろう。
ただ、もしかしたら溺愛しているという演技のためかもしれない。そう思うと、アイリスは胸が苦しくなる。
だからといって何もできることなどなく、今はレオナルドの仕事が落ち着くのを待つしかない。
「王妃から、お茶の誘い……?」
そのようなとき、王妃からの呼び出しがあったのだ。
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