精霊たちの献身

梅乃屋

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本編

01:死亡回避の夜

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 悪役令嬢ものっぽい物語です。
 n番煎じ好きですみません。
 宜しければ最後までお付き合い頂けると嬉しいです♡



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「エヴァ!神聖なる巫女ミリナを蔑ろにする行為は目に余るぞ!それにグレゴリオと……ンンっ!とにかくそんなに妃になりたいのなら貰ってやるから、……い、今すぐ服を脱いで体を、さ、差し出せ!」

 私に憎悪の目を向け抱かせろと下衆な命令を下すアウラヴィータ王国王太子、レオナルド殿下。因みに私の婚約者だ。しかもちょっと興奮しすぎているのか噛み気味だ。

 所詮心の伴わない政略結婚が前提の婚約者など、真実の愛を知った彼には忌々しい存在なのだろう。
 弁解しようにも目が腐っておいでだ。


 私はセルダ公爵の娘、エヴァ・マカレナ・ガブリエラ・オルティス・セルダ。

 僅か十歳でこのレオナルド殿下の婚約者となった。
 親元を離れ城の敷地内にある離宮で王妃教育を受けて早八年。
 私が十八歳の成人を迎えたことにより婚儀の準備をそろそろ…という時期に、我が国へ“精霊の巫女”がご降臨された。

 この世界を司る精霊達と通じ合える能力を持つ巫女様だ。

 巫女の名はミリナ。
 不思議な出立ちに神秘的な黒髪を持つ十八歳の少女だった。
 異世界からやって来たというミリナは愛らしく天真爛漫な性格で、レオナルド殿下も彼女に夢中になったようだ。

 勿論私は彼女を憎むことも侮辱したつもりも微塵もない。寧ろその時間すら惜しい。
 だが巫女様はエヴァが嫉妬のあまり自分を虐めるとレオナルド殿下に泣きついたらしい。

 そして今ココ。
 レオナルド殿下はわざわざ私を咎めに寝室へと怒鳴り込んで来たのだ。

 その瞬間、
 私は事もあろうに、今、ここで、前世を思い出すという有難いのか残酷なのか判らないギフトを授かったのだ。

 何しろこの世界、前世で読んだ小説なのだからこの状況じゃなきゃ発狂して叫んでるレベルよ。
 そして案の定私は悪役令嬢で、その結末は死…だ。

 ……お取込み中に思い出して軽くパニックよ。


 この物語は十八歳の少女、美里菜ミリナが異世界トリップし、精霊が見える“精霊の巫女”として活躍しながら王太子といちゃつき結ばれるという王道恋愛小説だ。
 婚約者である悪役令嬢エヴァは当然巫女ミリナを虐め、更に妊娠してお産中に母子共々命を落とすという後味悪すぎな展開で出番は終わる。

 エヴァの妊娠が発覚した当初、相手はレオナルド殿下だと知ったミリナは酷く傷つき二人の仲が拗れる。
 だがレオナルド殿下とエヴァは政略結婚だと知り、決して結ばれることのない関係性に盛り上がり、逆に二人の愛は深まる。

 いわば当て馬的要素でエヴァは抱かれるのだ。……酷くね?あんまりじゃね?
 それだけの為に私、今から王太子に犯されるんですよ?
 つーか、一発やっただけで妊娠て、どんだけ的中率高いんだ。

 マジでこの状況下でどうしろと?私は何か業を背負うようなやらかしをしましたかね?前世は普通に暮らしてうっかり事故って二十七歳で死にましたけど?
 前世を思い出すテンプレ何処いった?それが犯される寸前て、もう寸前過ぎるわ!寧ろ既に詰んでるわ!


 あまりのタイミングの悪さに頭が沸騰していた私を、レオナルド殿下は訝しむように顔を覗き込んだ。

「おい、聞いているのか?お前がミリナを侮辱し、彼女はとても傷ついているのだぞ」

 レオナルド殿下は私に近付き、王族にはあるまじき乱暴さで胸倉を掴む。
 マジでそれどころじゃ無いんだが。とりあえずこのポンコツ王太子から片をつけなきゃ話にならん。

「日々に忙殺され巫女様のお相手を怠ったことは認めますし、お詫びします。ですが、侮辱というのは具体的にはどの様なことですの?」

「なんだと?彼女のお茶会を無下に断ったり、俺が贈った宝飾品を盗んだだろう!とぼけるのも良い加減にしろ」

「先程申し上げたように、私は最近非常に忙しくてそんな暇はございま……ぎゃんっ!」

 まだ私が喋ってるでしょうが!

 私の話はどうでも良いとばかりに、レオナルド殿下は私をベッドに押し倒した。
 ここは私の寝室。今日は珍しく日が変わる前に仕事が終わり、侍女を退がらせゆったりとベッドで寛いでいた所へこの王太子が突撃して来たのだ。

「王妃になりたいのならなら大人しく口を慎め。それに、に、二度と不貞は許さんからな!」
 レオナルド殿下の目は怒りで理性を失い、まるで獣のようにギラギラと澱んでいた。…彼のこんな目つきは初めて見るな。

 貞操を奪って妃にしてやるから巫女には手を出すなって事?しかも不貞って?意味わからんわ。

 そもそも嫌いな女を無理矢理押し倒してちんこ勃つものなのかな?
 そりゃレオナルド殿下は十九歳で若いから刺激すれば勃つだろうけど、こんな状況下で最後まで出来るものなの?しかも孕ませてる設定だしさ。

 元からエヴァを抱きたい願望があったんじゃないの?一回だけじゃなくて何回もやってんじゃないの?

 何せ悪役令嬢だけに私エヴァは非常に美人だ。輝く金髪に珍しい赤紫色の瞳。
 体だってまだ十八歳だと言うのに、やらしいくらいの真性ワガママボデーを持っている。

 この王太子、実はヤりたいだけだとすると本当にクソだな。「(インポになっちまえ)」こっそり呟いた。

「殿下。とりあえず暴力で解決するのは如何かと思われますが?それに……」

 前世の記憶を取り戻した私はふと思いつき、彼の股間を足でするりと撫で付けてみた。

「……………っっ!!」
 既に張り詰めたそれが見事にピクリと反応した。

「私は初めてですから、そんな剣幕で来られるとナカが傷ついて、最悪二度と子が産めない体になってしまいます」

 冷静にそう諭すと、彼は顔を真っ赤にして怒りを露わにするも少し力を和らげた。

「お前っ、よくもそんな嘘を……!お前が………そんな態度を取るからっ……ひゃんっっ!!」

 黙らないのでもう一度足で擦ってやった。声を裏返して悲鳴を上げる王太子。“ひゃん”て!可愛いかよ。

「エヴァっ?はしたないぞ!」
「はしたないのはどちらですか。今、組み敷かれているのは私ですけど?これが将来国王陛下となる方のやり方ですか?まるで破落戸のような目をしてらっしゃいますよ!」

 語尾を荒げて叱るとびくりと肩を震わせ、さっきまでの威勢は消え失せて大人しくなった。

 そして、

「う………。だ、だがお前がミリナにした事は許されないし、それに毎晩のように俺の側近がお前の部屋に通っていると聞いている」
 彼は体を起こし、私の肩を抑えつけていた手をそろりと離して自分の頭を撫で付けた。

「ですから、私にそんな暇はないのです。どなたかがお仕事を投げ出しているせいで、全て私に回って来ているのですから」
「…………え?あれ?執務をお前がやっているのか?」
「貴方の代理が出来るのは、立場的に私しかいませんが?」

 するとレオナルド殿下の怒り狂った表情は一変し、いつもの美麗な顔で瞠目する。

「毎晩俺の側近がお前の部屋へ入り浸っていると言うのは…?」
「ここのリビングをご覧になりまして?書類で溢れ返っておりますでしょ。毎晩捌き切れなかった仕事を貴方の側近が押しつけてくるのですよ」
「……ミリナの宝飾品は?」
「盗んだところで貴方が新しい物を買い与えるだけでしょう。そんな無駄遣いは許しませんわ」
「あ、あぁそうだな。お前はそういう性格だ………。合理主義で物欲がない」


 しん、と静まり返った私の寝室。
 いい加減私の体から降りてくれないかしら?

「誤解は解かれまして?」
 そう問うと、彼は額を抑え頭を振る。

「す、すまないエヴァ。てっきりグレゴリオと……。あ!いや。エフン!盗みはお前か、もしくは公爵家の仕業だと思い込んでしまった」
「そもそも私の両親はこの婚約には反対でしたのをお忘れになったのですか?」
「そう……だったな。うん。何故か忘れていた………」

 ここまでポンコツにさせるなんてさすが主人公というべきか、ミリナの魅力がそれ程までなのか判らないが、とりあえず私の死亡ルートはひとまず回避できたんじゃないかな?

 と、ほっと一息ついたところで気が付いた。
 私の腰にまだ乗っているこの王太子、暴れん坊が益々元気になってません?

「殿下。その昂ったモノ、押し付けるのやめてくれませんか?」

「…………むりだ」

 真面目な顔で彼は言い切った。


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