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secret live
break
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俺は固まっている清酒くんの身体を軽く抱き寄せ頭を再び撫でてやる。いきなり傷ついている内面を見透かされたからか、初対面の相手に頭を撫でられたからか、清酒くんは軽くパニックを起こしているようだ。
「……あの、……kenji……さ……ん……。
そんな貴方に語るほどの面白い話なんてありませんから」
必死に冷静を繕い俺から離れるように身体を捩り離れる。
俺はシットリと話し合いたいわけではなく、熱い夜を楽しみたいだけ。だがピロートークの失恋話は良いスパイスではあるかなと思う。
「逆に見知らぬオジサン相手だから、そういう事も出来るってもんだろ」
冗談めかしてそう言うと、清酒くんは苦笑して首を小さく横にふる。
「よくある話ですし、話をしていても聞いても楽しいものでもないから止めときます」
思った以上に冷静さを失わないし靡かない。ここで『実は……』とか話し始める事を期待したのだが……。
「その方がいいよ、清酒くんと言ったかな。
コイツ程、恋愛相談しても意味ない男はいないから」
どう話を続けるかと考えてきたら、割り込んでくる声が聞こえる。
カウンターの中で仕事していた杜である。
「あと、賢史! この店及び商店街内でナンパするのは止めて貰おう。そう何度も言った筈だが」
杜はニヤリと笑って言っているが、目が笑ってない。
さらに都合悪い事に、その言葉に清酒君も眉を寄せている。
「恋愛は自由だろ」
そう嘯いてみるが、杜が笑みと睨みを強める。
「お前の場合は自由過ぎる! ここは日本だという事をもう少し頭に入れろ」
俺は肩を竦めるしかない。そして清酒君を見ると怪訝そうに俺を見ている。
「もしかして、俺ってナンパされていたんですか?」
俺はニヤリと笑って頷く。一人称が『私』から『俺』になっている。気取り捨てて素になっているようだ。
「まあね。そして今も口説き中、どう? このオッサンはこう言っているけれど、これから楽しまないか?
この店でも商店街でもなくどこか場所変えてさ」
清酒くんは目を細め、うろんな相手を見るような表情をする。
「物好きな。俺なんかを口説かなくても」
『俺なんて?』こんな時にチラリと弱気を晒したことにニヤリとしてしまう。
「君だからだよ!
女房にも良く言われるが、俺はそういう趣味が最高に良いとね。俺はそもそも良い女や、良い男にしか勃たない。
この俺がビンビンに感じているって事は、君がそれだけの魅力があるってことさ」
清酒くんは複雑な顔しながら頬が引きつらせている。こりゃ完全に引いているダメなようだ。
「……そう言って頂いたのは光栄ですが、遠慮させていただきます。そういう趣味はないんで」
「若いんだから色々な体験を楽しむべきでは? 新しい悦び知りたくない?」
手を伸ばし、その頬を撫でてやるがパシっと払われてしまった。
「そういう事は、俺以外の人と楽しんでください」
ニッコリ笑うがキッパリ断られてしまった。ここまでハッキリ言われると諦めるしかない。
チラっと杜を恨みがましい気持ちで睨むが、フンと笑っていやがる。
「まあ、コイツはピアノだけは最高だから、それ以外の事は大目に見て流してやってくれ。
そしてこんな事あったからってJazzやこの店を嫌にならないでくれ」
そう言う杜に清酒くんはニヤリと笑い俺を見返してくる。
かなりの猫被りだったようだ、剥いてみたら結構男の顔していやがる。
「それは大丈夫ですよ! ライブは最高に楽しかったですし、こういう面白い経験も出来ました。
お蔭でショック療法というか、なんか色々と吹っ切れた感じもありますし」
俺は笑い肩を竦める。
「そりゃ良かった、お役に立てて。ファンが元気になれば俺も嬉しいよ」
結局口説く空気もなくなり、そのまま杜も交えた普通のJazz談義になる。
そこまでJazzに詳しくない清酒くんには楽しい内容だったのか興味深い様子で聞いていた。
夜も更けてきて清酒くんが帰る事にしたようで、会計を杜に頼んだのでそれを俺は止める。
「いいよ、それ俺につけといて! 今日は奢らせろ!」
清酒くんは目を細めてチロリと俺をみてくる。
「今日の出会いの記念にね。代わりにまた俺のライブに来てくれ、もっと楽しませるよ!」
清酒くんはフッと笑い頷く。
「楽しみにしています。そして今日はご馳走になります。ありがとうございました」
ノンケで男にナンパされそこには拒否反応は示したものの、俺という人間を拒絶するというような潔癖で頭堅い事をする奴でなないようだ。
「いいってこと。
そして、また一緒呑もう。今度はもっと長くじっくりと夜を楽しもう」
『ジックリ』にアクセントをつけた俺の言葉に清酒くんは苦笑する。
「ですね、このBARで、また楽しくお話しましょう」
『このBAR』を強調して清酒くんは応えてくる。思った以上にガードが堅くて流されない奴だ。
ナンパも失敗した事で残念な事に杜と呑み明かすという色気のない夜になりそうだ。
その飲み会になんとか透ちゃんも巻き込んで彼と奥さんの話題でからかい恥ずかしそうに照れるその姿をツマミに酒楽しむ事にしようとしよう。
俺は清酒くんの後ろ姿を見送った後、ウィスキーのお代わりを杜に頼んだ。
「……あの、……kenji……さ……ん……。
そんな貴方に語るほどの面白い話なんてありませんから」
必死に冷静を繕い俺から離れるように身体を捩り離れる。
俺はシットリと話し合いたいわけではなく、熱い夜を楽しみたいだけ。だがピロートークの失恋話は良いスパイスではあるかなと思う。
「逆に見知らぬオジサン相手だから、そういう事も出来るってもんだろ」
冗談めかしてそう言うと、清酒くんは苦笑して首を小さく横にふる。
「よくある話ですし、話をしていても聞いても楽しいものでもないから止めときます」
思った以上に冷静さを失わないし靡かない。ここで『実は……』とか話し始める事を期待したのだが……。
「その方がいいよ、清酒くんと言ったかな。
コイツ程、恋愛相談しても意味ない男はいないから」
どう話を続けるかと考えてきたら、割り込んでくる声が聞こえる。
カウンターの中で仕事していた杜である。
「あと、賢史! この店及び商店街内でナンパするのは止めて貰おう。そう何度も言った筈だが」
杜はニヤリと笑って言っているが、目が笑ってない。
さらに都合悪い事に、その言葉に清酒君も眉を寄せている。
「恋愛は自由だろ」
そう嘯いてみるが、杜が笑みと睨みを強める。
「お前の場合は自由過ぎる! ここは日本だという事をもう少し頭に入れろ」
俺は肩を竦めるしかない。そして清酒君を見ると怪訝そうに俺を見ている。
「もしかして、俺ってナンパされていたんですか?」
俺はニヤリと笑って頷く。一人称が『私』から『俺』になっている。気取り捨てて素になっているようだ。
「まあね。そして今も口説き中、どう? このオッサンはこう言っているけれど、これから楽しまないか?
この店でも商店街でもなくどこか場所変えてさ」
清酒くんは目を細め、うろんな相手を見るような表情をする。
「物好きな。俺なんかを口説かなくても」
『俺なんて?』こんな時にチラリと弱気を晒したことにニヤリとしてしまう。
「君だからだよ!
女房にも良く言われるが、俺はそういう趣味が最高に良いとね。俺はそもそも良い女や、良い男にしか勃たない。
この俺がビンビンに感じているって事は、君がそれだけの魅力があるってことさ」
清酒くんは複雑な顔しながら頬が引きつらせている。こりゃ完全に引いているダメなようだ。
「……そう言って頂いたのは光栄ですが、遠慮させていただきます。そういう趣味はないんで」
「若いんだから色々な体験を楽しむべきでは? 新しい悦び知りたくない?」
手を伸ばし、その頬を撫でてやるがパシっと払われてしまった。
「そういう事は、俺以外の人と楽しんでください」
ニッコリ笑うがキッパリ断られてしまった。ここまでハッキリ言われると諦めるしかない。
チラっと杜を恨みがましい気持ちで睨むが、フンと笑っていやがる。
「まあ、コイツはピアノだけは最高だから、それ以外の事は大目に見て流してやってくれ。
そしてこんな事あったからってJazzやこの店を嫌にならないでくれ」
そう言う杜に清酒くんはニヤリと笑い俺を見返してくる。
かなりの猫被りだったようだ、剥いてみたら結構男の顔していやがる。
「それは大丈夫ですよ! ライブは最高に楽しかったですし、こういう面白い経験も出来ました。
お蔭でショック療法というか、なんか色々と吹っ切れた感じもありますし」
俺は笑い肩を竦める。
「そりゃ良かった、お役に立てて。ファンが元気になれば俺も嬉しいよ」
結局口説く空気もなくなり、そのまま杜も交えた普通のJazz談義になる。
そこまでJazzに詳しくない清酒くんには楽しい内容だったのか興味深い様子で聞いていた。
夜も更けてきて清酒くんが帰る事にしたようで、会計を杜に頼んだのでそれを俺は止める。
「いいよ、それ俺につけといて! 今日は奢らせろ!」
清酒くんは目を細めてチロリと俺をみてくる。
「今日の出会いの記念にね。代わりにまた俺のライブに来てくれ、もっと楽しませるよ!」
清酒くんはフッと笑い頷く。
「楽しみにしています。そして今日はご馳走になります。ありがとうございました」
ノンケで男にナンパされそこには拒否反応は示したものの、俺という人間を拒絶するというような潔癖で頭堅い事をする奴でなないようだ。
「いいってこと。
そして、また一緒呑もう。今度はもっと長くじっくりと夜を楽しもう」
『ジックリ』にアクセントをつけた俺の言葉に清酒くんは苦笑する。
「ですね、このBARで、また楽しくお話しましょう」
『このBAR』を強調して清酒くんは応えてくる。思った以上にガードが堅くて流されない奴だ。
ナンパも失敗した事で残念な事に杜と呑み明かすという色気のない夜になりそうだ。
その飲み会になんとか透ちゃんも巻き込んで彼と奥さんの話題でからかい恥ずかしそうに照れるその姿をツマミに酒楽しむ事にしようとしよう。
俺は清酒くんの後ろ姿を見送った後、ウィスキーのお代わりを杜に頼んだ。
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