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Special ② (聖奈さん♡)
CROSS OVER コンペ編①
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俺達二人は正式にIrisに迎え入れられ、大広間で所属の挨拶をすることとなった。この間は数人の前だったが、ズラリと並んだ多くの人達を前に改めてスピーチをするとなるとめちゃくちゃ緊張する。何度もカンペに目を通しながら無事に終え、盛大な拍手で締められた。
ほっとして目の前を見わたしてみると、俺達と同じ位の年の人やら随分と幼く見える子まで様々な人達が揃っていて、今までの会社とは違う場所に居るんだな…と実感させられる。
新人であって新人でないような複雑なポジションという形での新入組織員?ーーいやこの場合中途採か?であったが、この組織の人達はとても良い人ばかりで、最初はよそよそしかった俺達二人もすぐに打ち解け合うことが出来た。なるべく早く顔と名前を覚えられるように毎日色々な所へ出向き、Irisの方々と仲良くなれるように努めた。その結果もあり、今では気さくに接してくれる人も多くなって俺達も嬉しかった。
「すみませーん!この道具、うまく動かなくなってしまったんですが…見てもらえますか?」
今日も一人の子が相談しに来てくれた。今まで中々機械に関する事を聞ける人が少なく、困っていたこともあったようだ。メンテナンスとかも出来るし機械のことなら何でも聞いてね、と挨拶ついでに言って回ったのが功を奏したのか、些細なことでも俺達に相談や質問をしに来てくれる。
「ん?これはね、えっと…この部分が焼ききれていることによる故障だね。大丈夫、すぐ直せそうだよ。出来上がったらまた持っていくよ」
「ありがとうございます!」
些細なことでも、頼りにされるととても嬉しい。篠田くんも同じようで、俺よりもお客様とのトークで慣れている分、すっかり皆と仲良くなったみたいだ。
「ま~さかこんなことになるとはねぇ。俺の住んでたアパートよりデカい部屋くれるし、作業場もくれるしで至れり尽くせりだな。風呂もあるし!」
食堂のテーブルで篠田くんと二人で食事をしながら笑いあった。
「でもお前と隣同士の部屋ってのが解せねぇ!あの時お前が隣だったら嬉しいなぁとか言うからだぞ!おかげでこっちは寝不足だ!」
「だってぇ~そりゃ未南さんが隣の部屋で可愛くスヤスヤしてると思ったら見に行きたくなるじゃないですか。毎日じゃないんでそれぐらい許してくださいよぉ」
ヘラヘラ笑いながら嬉しそうな笑顔を見せる篠田くん。今までも明るかったが、ここへ来てから彼は一段と生き生きしてきたように見える。
「あーもう今度絶対ドアチェーン付けてやるからな!」
「そんな勝手にドアを改造してはいけませーん。組織の人に怒られても知りませーん!」
毎日このような他愛ないやり取りをしているのだが、俺もなんだか小さい頃ちょっと夢見た、世界を守る秘密組織の一員に本当になった気分で毎日ワクワクドキドキしていた。決してコイツがいつも側に居るからドキドキしてんじゃねぇぞ。絶対。
「じゃ、そろそろ遅いし俺は部屋戻るわ。…今日は来るなよ!絶対来るなよ!おやすみ!」
「それ絶対フリですよね~」
「フリじゃねーよ!」
漫才のような会話をし、俺達はそれぞれの部屋へ戻った。オイいつ来るんだいつ来るんだと構えながら篠田が来た時のセリフを考えていたが、結局今日は来ることがかなった。なんだよ人を弄びやがって!
フンっ!と布団を被り、俺はそのまま熟睡した。
ーーとある事件が起きたのは、その次の日だった。
◇ ◆
俺の本業であるアダルトグッズの会社の方も、お金が入ったことにより順調らしく、新しく人も雇えたようだ。リモート会議でたまに上司と会うが、『こっちは問題ないよ~、君たちコンビはそっちに専念しちゃってー!』と手を振りながら伝えてきた。
「ほんっとあっけらかんとしてるよなーあの上司!まぁ自由でいいけどな!」
朝、朝食を終え篠田くんと廊下を歩いていると…少し先の部屋の扉から今まで見たことが無い人が二人、出てくるのが見えた。
(あ、あの人達はまだ会ったこと無いな。挨拶しとかなきゃ)
そう思い、篠田くんも同じことを思ったのか、去ろうとする二人を後ろから追いかけて声をかけた。
「あの、いきなりすみません。初めまして…ですよね?先日、新しくこの組織に加入することになった未南と篠田と申します。機械製作等を担当することになりましたので、これから宜しくお願いします」
「篠田です。入ったばかりで分からないことがまだまだたくさんありますが、宜しくお願いします」
二人揃ってペコリとお辞儀をすると、二人のうちの一人…可愛らしい顔をした男性が、少し驚いたように答えてくれた。
「初めまして。えっ…あなた方が未南さんと篠田さんですか?!以前から噂を聞いていて、お会いしてみたいなと思っていたんですけど…こっちに来たタイミングで偶然会えるなんて!」
こっちに来た、ということはこの人達はここの組織の人達ではないのだろうか?
迂闊に名前を明かして良かったかな、と一瞬考えたが、彼が続けてくれた。
「俺達はDaisyという此処とはまた違った組織に所属しています。ご存知かとは思いますがIrisとDaisyは行き来できる間柄で、たまにではありますが用事がある時に訪問させていただいております」
え、全くご存知ありませんでした。
「自己紹介が遅れました。俺は桃瀬といいます」
「…同じく初めまして。栗原です。彼の先輩としてDaisyに所属しています」
もう一人の栗原と名乗った男性はスラッとしていてびっくりするぐらいの美形だった。何かオーラがあるというか、有無を言わせない圧を持っている。
若干その圧に押されながら、俺と篠田くんは栗原さんと桃瀬さん…いや、桃瀬くんと呼んだ方がしっくりくるんじゃないか?と思えるほど若くて可愛らしい彼と握手を交わした。
ーーその時、今まで笑顔だった桃瀬さんの顔が少し曇り、ぐっと奥歯を噛みしめるのを、俺は見逃さなかった。
だがすぐに先程までの笑顔に戻り、声をかけていただいて良かったですと言ってくれた。…さっきのは俺の気のせいか?と気にしつつ、それではまた、と手を振って失礼しようとすると。
「ーーいきなり何の訓練もテストもなく上のポジションに配属されるなんて、何かコネでも持ってたんですか?中々できませんよそんな事。羨ましいですね」
は?
せっかく仲良くなった雰囲気をいきなりぶち壊す彼の発言にポカンと口が開いた。
え?何?いきなりディスってきたぞこの子。
「どーやったらそんな上手いことできるんですか?教えて下さいよ」
「…おい桃瀬!何言ってんだ」
栗原さんが声を大きくして桃瀬さんの肩をぐっと引っ張り、俺達と距離をとらせようとしている。
…俺だってついさっき知り合った彼らといきなり喧嘩はしたくないが、彼の挑発的な態度は少し気に障る。
そんなの上手くあしらうのが大人だろ、と思う反面、明らかな年下にナメられてこのまま大人しく引き下がるのはちょっとばかし俺のプライドが許さない。
「…キミさ。握手したときも変な顔してたよね。…俺のこと嫌いなの?初対面だと思ってたけど何か恨みでもあんの?」
単純に不思議なのと、さっきまでの笑顔とは違った不敵な笑みを浮かべる彼に、俺もだんだんと言葉遣いが横柄になる。
「…全然。あなたとは初めて会いましたし、むしろ良い噂しか聞いてませんよ。凄い技術者の人がIrisに二人も入ったって。Daisyの中でも一時期その話題でもちきり。Irisにまた引き離されたって」
目を逸らされて放たれたその言葉は、少し悔しそうなニュアンスを持っている。
「…あ?組織の勢力云々なんて俺は全然知らねーけど、互いに仲良くしといた方が良いんじゃない?…あ~、俺達の人気に嫉妬してるわけ?いきなり来たヤツがちやほやされてるからって?」
ふふん、なんとなくこの桃瀬がいきなり俺達につっかかってきた理由が分かった気がした。自分達の方が上だと自信があったところへ余計な奴らが来やがったと。多分そんな感じだろう。
…そう思うと、何だか逆にコイツがいじらしく見えてニヤニヤした。
すると桃瀬はそんな俺を見て、ふぅ、と一つ溜息をつく。
「はは、流石Iris直々にスカウトされる実力の持ち主ですね。俺がわざと煽ってるのに平気そうで。…そうかもしれません。俺、結構自分で頑張ってきたと思ってたんで」
やっぱそうなんだろうな。あとキミ気づいてないだろうけど栗原さん凄い顔で君を睨んでるよ。後で怒られるパターンだねこれ。ま、たっぷり怒られろ。
「けど未南さんと篠田さんの力を見ずして、ハイ負けました…とは絶対言いたくありませんね。
そこで、一つ提案があるんですけど」
何だよ可愛い顔しやがって。まだ何かあんのかよ。
最後に聞いてやるから。
「この際…今IrisとDaisyどちらの技術力が勝っているか示すために、どちらがより優れた拘束台を作れるか、勝負をしませんか?…それも、設計図のプレゼンだけとかじゃなくて実際に完成させて皆の前で発表するんです。性能を見せ合い、欲しい方を組織の人達に投票してもらう。…ま、新作拘束台のコンペですね」
最後の最後、いきなりぶっ飛んだことを言ってきやがったが、コイツの真剣そうな目は悪くない。技術者同士、本気でやり合おうと言ってるんだ。ーーそんな事言われたら、断れねーじゃん?
「へえ。面白い提案するじゃん。すげー金かかりそうだし上がそんなこと許してくれるとは限らないけどさ。やるんだったら受けて立つよ。俺達だって老舗アダルトグッズ製作会社の看板背負ってるんだからな」
俺は堂々と桃瀬の目を見て言ってやると、そうこなくっちゃと言わんばかりにバチバチと火花を飛ばしてきた。
…だけどその対立は長くは続かなかった。
今まで睨んでいた栗原さんが痺れを切らしたのか桃瀬の胸ぐらを掴み、先程の声とは違った恐ろしく静かに低い声で怒鳴ったからだ。
「桃瀬お前…さっきから自分が何を言ってるのか分かっているのか?お前一人で今まで築き上げたIrisとDaisyの仲に亀裂を入れるつもりか?そうなれば俺達だけで責任が取れると思っているのか?」
やっば、こっわ。
栗原さん怖っわぁ。
見てる俺の方が竦んでしまう程の凄味に思わず身震いしてしまった。栗原さんは桃瀬から手を離すと、こちらを向き深く頭を下げた。
「…初めてお会い出来たというのに、こんなことになってしまい申し訳ありません。桃瀬にはよくよく言って聞かせますので、どうかこの事は、」
「えー僕は全然いいですよぉ!ね、未南さん!」
栗原さんが全部言い切る前に、今まで横で見ているだけだった篠田くんが元気な声で答えた。
「桃瀬さんのことそんなに怒らないであげて下さい。僕達も全然怒ってなんかないですし、コンペバトルなんてすっごい面白そうじゃないですか!早速提案してみましょうよ!案外あっさり通るかもしれませんよ?」
いや篠田くん。今問題にしてるのはコンペをやるかどうかじゃなくて。それやったら組織の仲がアレになるかもしれないからと言っているのであって。ええと。え?そうだよな?…俺も分からんくなってきた!とにかくこの空気をなんとかしてくれ篠田くん!
と一人であたふたしていると、急にグイっと篠田くんに腕を掴まれて引き寄せられた。…えっ?
「よし、じゃあ善は急げです!皆で一緒に上司の所へ提案しに行きましょ!人数多い方が聞いてくれるかも!」
「は?…は?!ちょっと待っておいおいおい!ちょ待てよオイ!!!!」
右手で俺の腕、左手で栗原さんの袖を掴むとニコニコしながらピクニックにでも出発するような足取りで先程二人が出てきた扉の方へ向かっていった。
あまりの突拍子もない篠田くんの行動に、栗原さんも目を丸くして言葉を出せずに引っ張られている。ついでに今どんな顔をしてるのか分からない桃瀬も後を追ってくる。
「失礼しまーす!」
どうしてここに上司がいると分かったのかは知らないが、突然ノックされて開かれた扉の前の光景を見て『えっ…?!今どういう状況?!』みたいな顔の上司が映った。
「実は今さっき四人でこういう話をしてましてぇー、………」
俺達が口を挟む隙も無く、篠田くんお得意のマシンガントークが炸裂し、全てが説明された。
「…という訳なんですけど、どうですか?!」
「いいね。凄くいいね。是非やろう。今度の会議で皆に発表するよ」
え~~~~~~っ!!!!
OKされちゃったぁ~~~~~~!!!!
どうする?どうするどうなるよ俺達!!
続く!!
→
ほっとして目の前を見わたしてみると、俺達と同じ位の年の人やら随分と幼く見える子まで様々な人達が揃っていて、今までの会社とは違う場所に居るんだな…と実感させられる。
新人であって新人でないような複雑なポジションという形での新入組織員?ーーいやこの場合中途採か?であったが、この組織の人達はとても良い人ばかりで、最初はよそよそしかった俺達二人もすぐに打ち解け合うことが出来た。なるべく早く顔と名前を覚えられるように毎日色々な所へ出向き、Irisの方々と仲良くなれるように努めた。その結果もあり、今では気さくに接してくれる人も多くなって俺達も嬉しかった。
「すみませーん!この道具、うまく動かなくなってしまったんですが…見てもらえますか?」
今日も一人の子が相談しに来てくれた。今まで中々機械に関する事を聞ける人が少なく、困っていたこともあったようだ。メンテナンスとかも出来るし機械のことなら何でも聞いてね、と挨拶ついでに言って回ったのが功を奏したのか、些細なことでも俺達に相談や質問をしに来てくれる。
「ん?これはね、えっと…この部分が焼ききれていることによる故障だね。大丈夫、すぐ直せそうだよ。出来上がったらまた持っていくよ」
「ありがとうございます!」
些細なことでも、頼りにされるととても嬉しい。篠田くんも同じようで、俺よりもお客様とのトークで慣れている分、すっかり皆と仲良くなったみたいだ。
「ま~さかこんなことになるとはねぇ。俺の住んでたアパートよりデカい部屋くれるし、作業場もくれるしで至れり尽くせりだな。風呂もあるし!」
食堂のテーブルで篠田くんと二人で食事をしながら笑いあった。
「でもお前と隣同士の部屋ってのが解せねぇ!あの時お前が隣だったら嬉しいなぁとか言うからだぞ!おかげでこっちは寝不足だ!」
「だってぇ~そりゃ未南さんが隣の部屋で可愛くスヤスヤしてると思ったら見に行きたくなるじゃないですか。毎日じゃないんでそれぐらい許してくださいよぉ」
ヘラヘラ笑いながら嬉しそうな笑顔を見せる篠田くん。今までも明るかったが、ここへ来てから彼は一段と生き生きしてきたように見える。
「あーもう今度絶対ドアチェーン付けてやるからな!」
「そんな勝手にドアを改造してはいけませーん。組織の人に怒られても知りませーん!」
毎日このような他愛ないやり取りをしているのだが、俺もなんだか小さい頃ちょっと夢見た、世界を守る秘密組織の一員に本当になった気分で毎日ワクワクドキドキしていた。決してコイツがいつも側に居るからドキドキしてんじゃねぇぞ。絶対。
「じゃ、そろそろ遅いし俺は部屋戻るわ。…今日は来るなよ!絶対来るなよ!おやすみ!」
「それ絶対フリですよね~」
「フリじゃねーよ!」
漫才のような会話をし、俺達はそれぞれの部屋へ戻った。オイいつ来るんだいつ来るんだと構えながら篠田が来た時のセリフを考えていたが、結局今日は来ることがかなった。なんだよ人を弄びやがって!
フンっ!と布団を被り、俺はそのまま熟睡した。
ーーとある事件が起きたのは、その次の日だった。
◇ ◆
俺の本業であるアダルトグッズの会社の方も、お金が入ったことにより順調らしく、新しく人も雇えたようだ。リモート会議でたまに上司と会うが、『こっちは問題ないよ~、君たちコンビはそっちに専念しちゃってー!』と手を振りながら伝えてきた。
「ほんっとあっけらかんとしてるよなーあの上司!まぁ自由でいいけどな!」
朝、朝食を終え篠田くんと廊下を歩いていると…少し先の部屋の扉から今まで見たことが無い人が二人、出てくるのが見えた。
(あ、あの人達はまだ会ったこと無いな。挨拶しとかなきゃ)
そう思い、篠田くんも同じことを思ったのか、去ろうとする二人を後ろから追いかけて声をかけた。
「あの、いきなりすみません。初めまして…ですよね?先日、新しくこの組織に加入することになった未南と篠田と申します。機械製作等を担当することになりましたので、これから宜しくお願いします」
「篠田です。入ったばかりで分からないことがまだまだたくさんありますが、宜しくお願いします」
二人揃ってペコリとお辞儀をすると、二人のうちの一人…可愛らしい顔をした男性が、少し驚いたように答えてくれた。
「初めまして。えっ…あなた方が未南さんと篠田さんですか?!以前から噂を聞いていて、お会いしてみたいなと思っていたんですけど…こっちに来たタイミングで偶然会えるなんて!」
こっちに来た、ということはこの人達はここの組織の人達ではないのだろうか?
迂闊に名前を明かして良かったかな、と一瞬考えたが、彼が続けてくれた。
「俺達はDaisyという此処とはまた違った組織に所属しています。ご存知かとは思いますがIrisとDaisyは行き来できる間柄で、たまにではありますが用事がある時に訪問させていただいております」
え、全くご存知ありませんでした。
「自己紹介が遅れました。俺は桃瀬といいます」
「…同じく初めまして。栗原です。彼の先輩としてDaisyに所属しています」
もう一人の栗原と名乗った男性はスラッとしていてびっくりするぐらいの美形だった。何かオーラがあるというか、有無を言わせない圧を持っている。
若干その圧に押されながら、俺と篠田くんは栗原さんと桃瀬さん…いや、桃瀬くんと呼んだ方がしっくりくるんじゃないか?と思えるほど若くて可愛らしい彼と握手を交わした。
ーーその時、今まで笑顔だった桃瀬さんの顔が少し曇り、ぐっと奥歯を噛みしめるのを、俺は見逃さなかった。
だがすぐに先程までの笑顔に戻り、声をかけていただいて良かったですと言ってくれた。…さっきのは俺の気のせいか?と気にしつつ、それではまた、と手を振って失礼しようとすると。
「ーーいきなり何の訓練もテストもなく上のポジションに配属されるなんて、何かコネでも持ってたんですか?中々できませんよそんな事。羨ましいですね」
は?
せっかく仲良くなった雰囲気をいきなりぶち壊す彼の発言にポカンと口が開いた。
え?何?いきなりディスってきたぞこの子。
「どーやったらそんな上手いことできるんですか?教えて下さいよ」
「…おい桃瀬!何言ってんだ」
栗原さんが声を大きくして桃瀬さんの肩をぐっと引っ張り、俺達と距離をとらせようとしている。
…俺だってついさっき知り合った彼らといきなり喧嘩はしたくないが、彼の挑発的な態度は少し気に障る。
そんなの上手くあしらうのが大人だろ、と思う反面、明らかな年下にナメられてこのまま大人しく引き下がるのはちょっとばかし俺のプライドが許さない。
「…キミさ。握手したときも変な顔してたよね。…俺のこと嫌いなの?初対面だと思ってたけど何か恨みでもあんの?」
単純に不思議なのと、さっきまでの笑顔とは違った不敵な笑みを浮かべる彼に、俺もだんだんと言葉遣いが横柄になる。
「…全然。あなたとは初めて会いましたし、むしろ良い噂しか聞いてませんよ。凄い技術者の人がIrisに二人も入ったって。Daisyの中でも一時期その話題でもちきり。Irisにまた引き離されたって」
目を逸らされて放たれたその言葉は、少し悔しそうなニュアンスを持っている。
「…あ?組織の勢力云々なんて俺は全然知らねーけど、互いに仲良くしといた方が良いんじゃない?…あ~、俺達の人気に嫉妬してるわけ?いきなり来たヤツがちやほやされてるからって?」
ふふん、なんとなくこの桃瀬がいきなり俺達につっかかってきた理由が分かった気がした。自分達の方が上だと自信があったところへ余計な奴らが来やがったと。多分そんな感じだろう。
…そう思うと、何だか逆にコイツがいじらしく見えてニヤニヤした。
すると桃瀬はそんな俺を見て、ふぅ、と一つ溜息をつく。
「はは、流石Iris直々にスカウトされる実力の持ち主ですね。俺がわざと煽ってるのに平気そうで。…そうかもしれません。俺、結構自分で頑張ってきたと思ってたんで」
やっぱそうなんだろうな。あとキミ気づいてないだろうけど栗原さん凄い顔で君を睨んでるよ。後で怒られるパターンだねこれ。ま、たっぷり怒られろ。
「けど未南さんと篠田さんの力を見ずして、ハイ負けました…とは絶対言いたくありませんね。
そこで、一つ提案があるんですけど」
何だよ可愛い顔しやがって。まだ何かあんのかよ。
最後に聞いてやるから。
「この際…今IrisとDaisyどちらの技術力が勝っているか示すために、どちらがより優れた拘束台を作れるか、勝負をしませんか?…それも、設計図のプレゼンだけとかじゃなくて実際に完成させて皆の前で発表するんです。性能を見せ合い、欲しい方を組織の人達に投票してもらう。…ま、新作拘束台のコンペですね」
最後の最後、いきなりぶっ飛んだことを言ってきやがったが、コイツの真剣そうな目は悪くない。技術者同士、本気でやり合おうと言ってるんだ。ーーそんな事言われたら、断れねーじゃん?
「へえ。面白い提案するじゃん。すげー金かかりそうだし上がそんなこと許してくれるとは限らないけどさ。やるんだったら受けて立つよ。俺達だって老舗アダルトグッズ製作会社の看板背負ってるんだからな」
俺は堂々と桃瀬の目を見て言ってやると、そうこなくっちゃと言わんばかりにバチバチと火花を飛ばしてきた。
…だけどその対立は長くは続かなかった。
今まで睨んでいた栗原さんが痺れを切らしたのか桃瀬の胸ぐらを掴み、先程の声とは違った恐ろしく静かに低い声で怒鳴ったからだ。
「桃瀬お前…さっきから自分が何を言ってるのか分かっているのか?お前一人で今まで築き上げたIrisとDaisyの仲に亀裂を入れるつもりか?そうなれば俺達だけで責任が取れると思っているのか?」
やっば、こっわ。
栗原さん怖っわぁ。
見てる俺の方が竦んでしまう程の凄味に思わず身震いしてしまった。栗原さんは桃瀬から手を離すと、こちらを向き深く頭を下げた。
「…初めてお会い出来たというのに、こんなことになってしまい申し訳ありません。桃瀬にはよくよく言って聞かせますので、どうかこの事は、」
「えー僕は全然いいですよぉ!ね、未南さん!」
栗原さんが全部言い切る前に、今まで横で見ているだけだった篠田くんが元気な声で答えた。
「桃瀬さんのことそんなに怒らないであげて下さい。僕達も全然怒ってなんかないですし、コンペバトルなんてすっごい面白そうじゃないですか!早速提案してみましょうよ!案外あっさり通るかもしれませんよ?」
いや篠田くん。今問題にしてるのはコンペをやるかどうかじゃなくて。それやったら組織の仲がアレになるかもしれないからと言っているのであって。ええと。え?そうだよな?…俺も分からんくなってきた!とにかくこの空気をなんとかしてくれ篠田くん!
と一人であたふたしていると、急にグイっと篠田くんに腕を掴まれて引き寄せられた。…えっ?
「よし、じゃあ善は急げです!皆で一緒に上司の所へ提案しに行きましょ!人数多い方が聞いてくれるかも!」
「は?…は?!ちょっと待っておいおいおい!ちょ待てよオイ!!!!」
右手で俺の腕、左手で栗原さんの袖を掴むとニコニコしながらピクニックにでも出発するような足取りで先程二人が出てきた扉の方へ向かっていった。
あまりの突拍子もない篠田くんの行動に、栗原さんも目を丸くして言葉を出せずに引っ張られている。ついでに今どんな顔をしてるのか分からない桃瀬も後を追ってくる。
「失礼しまーす!」
どうしてここに上司がいると分かったのかは知らないが、突然ノックされて開かれた扉の前の光景を見て『えっ…?!今どういう状況?!』みたいな顔の上司が映った。
「実は今さっき四人でこういう話をしてましてぇー、………」
俺達が口を挟む隙も無く、篠田くんお得意のマシンガントークが炸裂し、全てが説明された。
「…という訳なんですけど、どうですか?!」
「いいね。凄くいいね。是非やろう。今度の会議で皆に発表するよ」
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