天に召されよ!

湖ノ上茶屋

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13・高級チョコレート争奪戦

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「お、おじゃまします」

 まるで石橋をたたいて渡るかのように慎重に、ぷるぷる震える足を動かして、マコトとミツキは恐る恐るレイの家に足を踏み入れた。ふたりがこうも緊張してしまうのは、ここが女の子の家だから、ということもあるけれど、それだけではない。レイの家が、マンションでもアパートでも一軒家でもない、通り過ぎたことしかない大きなお屋敷だったことに驚いていたのだ。こんな場所に入る日が来るだなんて、思ってもみなかった。

「な、なぁマコト。こういう時って、お菓子とか持ってくるべきなんじゃ?」
「そんなこと言ったって、学校から直接来てるし」
「っていうか、ランドセル置きに帰ったほうが良かったかな」
「ちょっと! ふたりで何をコソコソ話してるの?」
「「ああ、なんでもないです! なんでもなーい!」」

 マコトとミツキは両手を小さく上げて、頬の前で息ぴったりに小刻みに振った。

「じゃあ、この部屋で待ってて。なんか適当にお菓子と飲み物取ってくるから」
「ええっと、レイ?」
「なに? ミツキ」
「この部屋は……」
「あたしの部屋」
「「で、ですよねー」」
「じゃあ、くつろいでていいから」
「「はーい」」

 レイがどこかへ行くと、

「「はぁ~」」

 ――ひゃぁ~。……あらあらあら。

 三人はため息をついた。

「なぁ。俺、今すぐ帰った方がいい気がするんだけど」

 ――マコちゃん。学校じゃないんだからいいわよね?

「オレも、そんな気がしなくもない」

 ――マコちゃん!

「なんか、ばあちゃんが話したがってるんだけど」
「俺はいいぜ?」
『……っはぁ! ちょっと、早く帰りましょ! ここ、不気味よ? あのかわいい子、ここで何か怪しい術でも研究しているんじゃないの? 嫌よ? 変な術をかけられるの』
「オレは、ばあちゃんと離れられるならどんな方法でもいいけど」
『マコちゃあああん!』

 バチン!

 マコトは頬を叩くと、部屋の中をぐるりと見てみた。ここに広がっているのは、レイのイメージそのものだ。でも、何か違和感がある。その違和感の正体が、マコトにはどうにも分からない。

「なぁ、マコト」
「なんだ?」
「俺、思うんだけどさ。この部屋、なんかちょっと幼くない?」
「……ああ」

 それだ! レイのイメージと比べるとなんだか少し幼いんだ! 呪術を使いこなしそうな人、というよりも、呪術を使いこなす人の子ども、それも幼児とかで、父さんや母さん、じいちゃんやばあちゃんのお古をもらって呪術ごっこを楽しんでいるような感じがする。

「あいつも苦労してるのかなぁ」
「どういうこと?」
「ああ、いや。学校では大人ぶってたりするのかな、なんて思っただけ」

 広がった沈黙を、トン、トン、トンという少し危なっかしい音が切り裂く。
 マコトはそれがレイの足音だろうと思って、扉を開けた。

「レイ……。あれ? 違った?」
「どうした?」
「足音がした気がしたんだけど……」
「どうした?」
「え? だから……って、うわぁ!」
「で、でたぁ!」
「なによ、失礼ね。人を幽霊みたいに」

 音がした気がする方とは反対側に、レイがいた!

「ごめん、こっちからくると思ってて」
「俺も思った」
「なにそれ」
「っていうか、あっちに行ったじゃん? なんでこっちからくるの?」
「なんでって、どっちから来てもよくない?」

 マコトとミツキは首を傾げた。

「……お屋敷ってすげぇな」
「なぁ」

 レイはきょとん、と首を傾げた。



 それぞれの前にオレンジジュースが置かれた。マコトの前にはお茶もある。そして、お盆の上にはおせんべいにおまんじゅう、赤いジャムか何かがのっているクッキーに、キャンディのように一粒ずつくるんと包まれた丸くて大きなチョコレート。

「え、ええっと?」
「おばあちゃんの分も持ってきた。お口に合うといいんだけど」

 ――マコちゃん!
 ――何?
 ――食べたい! 食べたい食べたい食べたい!

 ガキかよ!

「おばあちゃん、おやつの時間ですよ」

 ――はーい!

「いやいやいや」
「学校じゃないんだからいいでしょ? っていうか、この家に足を踏み入れたからには、おばあちゃんを出さずして帰さないから」

 レイはニヤリと笑うと、怪しい人形を突き出した。藁人形、とは違うけれど、誰かにダメージか何かを与えられそうな不気味さだ。

「まぁ、うん。分か――」
『はーい! おやつのお誘いありがとう♡ マコちゃんのおばあちゃんのアヤコですぅ。よろしくね!』
「あら、こんにちは。レイです。どうぞどうぞ、召し上がってください」
『ありがとう~。あ、わたしね、おせんべいとかおまんじゅうも好きなんだけど、洋菓子も好きなの。それでね、このチョコレート、初めて見たから食べてみたいんだけどぉ』
「そうなんですか? それじゃあ、ぜひ食べてください。おいしいですよ!」
「え、それオレも食べたかった!」
『マコちゃんはおばあちゃんの後~』
「なんだと⁉」

 アヤコがマコトを乗っ取って、チョコレートに手を伸ばす。包みをはいで、大きなまん丸のチョコレートをぽん、と口に放り込んだ。

『ん、んんん!』
「そんなにおいしいです? 高いからって、ママはあんまり買ってくれないんですけど、あたし大好きで。だから、いつもパパにおねだりして買ってもらってるんですよ~」
『んんー!』
「これはミルク味なんですけど、キャラメル味もおいしいんです! この前全部食べちゃったから、今はないんですけど。また今度買ってもらったときは、おばあちゃん用に――」
「ちょ、レイ! コイツ、チョコレートのどに詰まらせてね?」
「……え?」
『んー!』
「やばっ!」

 バコン!
 ミツキがマコトの背中を思いっきり叩いた。

「フゴッ! ああ、死にかけた気がする。サンキュー。……ってか、このチョコうまぁ!」

 マコトは落ちそうな頬に両手を添えた。

「おばあちゃんに丸のままはよくなかったか……」

 レイが難しい顔をして、口元に手を添えながら呟いた。

『ああーん。マコちゃんにチョコレートとられたぁ』
「死ぬよりマシだろ」
「いや、死んでんだろ、ばあちゃん」
「そうよ」

 ミツキとレイに真顔で言われて、マコトは、

「オレ、今死んだらぜったい成仏できない気がするー!」と叫んだ。

『あら! わたしと一緒!』

 バチン!

『何するのよ!』

 バチン!

『ちょっと、マコちゃん!』

 バチン! バチン! バチン!
 

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