天に召されよ!

湖ノ上茶屋

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14・幼い子どもの、大人っぽい計画

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 マコトの頬が真っ赤に染まった。そんな頬を、ミツキが苦笑いしながら、レイが準備した濡れタオルを当てて冷やしている。

「なるほど。成仏できない霊は時に誰かに憑くことができる。そうして、体を乗っ取り、時に憑いた人間を……」

 レイがこめかみを指先でトントンと叩きながら、部屋の中を歩き回りながら、なにやらぶつぶつ呟いている。

「大丈夫か? マコト」
「うん。チョコ食べすぎて虫歯になったってことにしておいて」
「……まぁ、そういうことにしておくか?」
「ねぇ、おばあちゃんが憑いちゃったのは分かったからさ。計画のことを教えてくれない?」

 レイに言われて、マコトとミツキは計画のことも話しに来たんだった、と思い出した。
 お屋敷。イメージ通りのようで、なんだか幼く見える部屋。孫を殺しかけるばあちゃん――。ここへ来てからというもの、情報量が多すぎて、計画のことがどこか遠くへ飛んで行ってしまっていた。

「えっと、なんだっけ?」
「本人がそれでどうすんだよ……」
「えへへ、ごめんごめん」

 ミツキは小さくため息をつくと、

「俺らが考えたのは、三段階の仲良し計画。第一段階・ホップ。マコトの母ちゃんがばあちゃんの存在に怯えなくなるまでは、挨拶だけする。第二段階・ステップ。母ちゃんの怯えが弱くなったら、少しずつ会話の機会を増やしていく。最終段階・ジャンプ。わだかまりについて謝罪し合ってもらって、ばあちゃんを天へ放りだす……ってな感じ」
「ふーん。っていうかさ、第一段階からよく分かんないんだけどさ。マコトのお母さんとおばあちゃんは、挨拶すらまともにできないってこと?」
「まぁ、そんな感じ」
「なんで?」
「まぁ、いろいろあって」
「ふーん」

 レイは不気味なものばかりが飾ってある棚に近づくと、場違いなピンク色のかわいらしい石をそっと撫でながら、

「何があったのかまでは教えてくれなくてもいいんだけどさ。それって、お母さんに優しくない計画って感じがする」と、呟いた。

「どういうこと?」
「なんか、お母さんにおばあちゃんと仲良くすることを強制しているみたいな感じがするの。霊を追い払うために、誰かの犠牲を強いているような気がするの」
『でも、親子なのよ? 親子が仲良くないだなんて……』
「おばあちゃん? 親子だけどね、親子ってだけで、他人なんだよ? だからあたしは、親子だからって仲良くなくたっていいと思う」
『でもぉ』
「あたし、正直、お母さんのことちょっと嫌い。チョコ買ってくれないから」

 なんだその幼い理由……。マコトは眉間にしわを寄せた。

「でもね、大っ嫌いではないよ? 不満なのは、チョコ買ってくれないってことくらいだからね。あたしのお母さんはね、あたしの話を聞いてくれるし、人に『不気味ね』って後ずさりされることもあるくらい、普通の人は集めないんだろうなってモノをこうして集めるのを許してくれてる。だから、なんだかんだ言ってもけっこう好きなんだ」

 マコトは〝自分が同じものを集めたら、母さんはどんな反応をするだろう?〟と考えた。
 やめろと言われるかどうかまでは分からない。ただ、認めてくれたらうれしいと感じるんだろうなと思う。もしも自分が苦手なものやことであったとしても、人の好きを邪魔しないのは優しさってことか。

「あたし、おばあちゃんは、ひとりで成仏したほうがいいんじゃないかって思う」
『そんなぁ、さみしいわ』
「分かるよ、分かる。だけどね、〝あなたと仲良くなれたら成仏する〟って条件を付けるのは良くないと思う。おばあちゃんと、おばあちゃんの娘さんとの仲が、今よりもっと悪くなっちゃうかもしれないよ?」
『ええ……』
「お取込み中失礼」

 ミツキがひょい、と手をあげながら言った。

「何?」
「たいそうなことを言ってるけどさ、レイに何かいい案でもあるのか? マコトの母ちゃんに優しくて、ばあちゃんがひとりで成仏できる、都合のいい案がさ」

 レイは顎に手を当てて、「うーん」と唸った。今のところ、いい案はないみたいだ。

「あのさ、聞いてばっかりで申し訳ないんだけど、おじいちゃんは今どうしてる?」

 話に突然祖父が登場して驚いたマコトは、きょろきょろと視線を泳がせた。

「うーん、どうだろう?」
「どうだろう? って、どういうこと? 生きてはいる? それとも、死んだけど成仏しているか分からないってこと?」
「えっと……ばあちゃんの葬式で会ったっきりだから、今どうしているのか分かんない」
「そっか。そのおじいちゃんに協力してもらうのはどうかな?」
「おおお! と、言いますと⁉」

 興奮していることを少しも隠す気がないような、ハリのある声だった。ミツキはもう、友だちの心配よりも目の前のおかしな話を面白がるのに夢中みたいだ。

 マコトは、自分の話だというのに盛り上がっていくふたりにどこか置いてけぼりにされている気がして、とほほ、と小さくため息をつく。

「おじいちゃんに、おばあちゃんを預かってもらえばいいんだよ! そうしたら、マコトのお家は元通りでしょ? それに、おばあちゃんはひとりじゃない! 結婚した人と、愛を誓った人と一緒に居られる!」
「確かに! それで? 憑く相手を変える方法は? ばあちゃん、知ってる?」
『……そんなの知らない』
「ええ……じゃあ、レイ! いい案ある?」
「……そんなのない」
「ウソだろ? じゃあ、どうすんだよぉ」

 ミツキが頭を抱えた。その様はひどく心配してくれているように見えるけれど、おそらくは面白そうなことが起こらなくなった気がしてショックを受けているだけだろう。

 マコトは冷めた心でそう考えた。

「とりあえず、じいちゃんと話ができないか、家で話してみるよ」

 ぼそり、と呟く。興奮する自分たちとは対照的に、マコトがどんよりと肩を落としていたことに気づいたふたりは、気まずそうに笑いながらこくこくと頷いた。
 

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