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15・そちらもよろしくないんです?
しおりを挟む夜、マコトはトオルとタカコに、レイに提案されたことを話した。トオルは話を聞くなり、祖父・タイゾウに電話をかけた。
なんで母さんではなく父さんが電話をするのかって? それは、母さんはばあちゃんとだけではなく、じいちゃんとも仲が良くないらしいからだ。
まったく、母さんの過去にいったい何があったのやら。
トオルがスピーカーモードにしたスマートフォンをダイニングテーブルの上に置いた。タカコはトイレへ逃げて行った。アヤコはマコトの陰に隠れてコソコソ様子見をするように、マコトの体の中で気配だけひょこひょこと動き回っている。
プルルル、プルルル――つながった!
「あ、どうも。タカコさんの――」
――用はない。
久しぶり、とかそういう言葉もなく、いきなり「用はない」ってなんだ? っていうか、こっちには用があるんだけど? 頭の中には頑固おやじの顔しか浮かばないくらい頑なだ。
「ねぇ、父さん。番号間違えてたりしない?」と、小声で問いかけてみる。
するとトオルは、やれやれと言うような顔をしながらスマートフォンの画面を指さした。
そこには〝タカコのお父さん〟の文字。番号はもともと登録されていたものらしい。となると? じいちゃんが番号を変えたり、携帯を盗られて誰かに使われたりしていない限り、じいちゃん本人で間違いないということか?
「ああ、いや。実はですね。うちの息子にアヤコさんが憑いてしまったようでして」
――なにをふざけたことを。切るぞ!
「ふざけてなどいません。アヤコさんに憑かれて困っているので、お電話をさせていただきました。孫と会ってみてくれませんか。それで、状況をご確認いただいて――」
――断る。
「ええと……。失礼でなければ、理由をお伺いしても?」
――あいつが死んで、ようやく自由が手に入ったんだ。孫に憑いた? それならそれで構わない! 今あいつの血が一滴でも入ったヤツの顔を見たら、わしは死んじまう!
ええ……。ばあちゃん、嫌われすぎじゃない? できることなら、ばあちゃんの過去を見てみたいものだよ。
「そんなに嫌いならば、成仏させるのを手伝っていただけませんか。せっかく別れられたのに、アヤコさんはまだこの世界にいるんですよ? 嫌じゃないんですか!」
父さん……なかなかひどいことを言っている気がするよ?
『なんですって! 許しませんよ! おとうさん? 今晩のビールは抜きですからね!』
ばあちゃん、今出てきちゃダメだって!
――う、うわあああ! でたあああ! わしは老い先長くないんだ! あいつが成仏しちまったら、わしが成仏した先で待ってるってことになっちまうだろ? そんなの嫌だ! だから、成仏してくれていない方が助かる! アヤコはそのまま、孫に憑いとれ~!
ガチャ……ツー、ツー、ツー。
「と、いうわけで、おじいちゃんの協力は得られません」
トオルががっくりと肩を落としながら言った。
「ばあちゃんが出てくるから、もともとない会話の余地を作る隙がなくなったじゃないか」
『あら、マコちゃん。おバカさんねぇ』
「お義母さん。息子にむかってバカとはなんですか、バカとは!」
父さん、今は火に油を注ぐタイミングじゃないってば。
『気づいてないの? ふたりとも』
「「何を⁉」」
『あの人、わたしが成仏しちゃだめって言っていたでしょう?』
「だからなんだっていうんですか!」
『ってことはよ? わたしが成仏しようとしたら、あの人はわたしを成仏させようとするってこと』
アヤコが何を言っているのか、理解が追い付かない。
するとその時、家をお化け屋敷と勘違いしているかのように、そろりとタカコが近づいてきて、
「おとうさん、火を消そうとして油を注ぐような人なの……」と呟いた。
『ね! そうよね! さすが、うちの子は分かっているわ』
「ひぃっ!」
タカコは怯えて震えあがった。
『まったく、失礼な子! 母親のことをお化けみたいに!』
いや、事実お化けみたいなものですけど?
『だからね、火を消そうとしたら火を大きくするような人だから、成仏させないようにって行動して、成仏させちゃうタイプってことよ! ……って、あらやだ! わたし、教えちゃいけないことを言ったかもしれないわ。忘れて頂戴! いち、にの、さん、ぽかん! はい、みんな忘れた! ね、忘れたわよね!』
「なるほど。つまり、成仏させようとすればいいだけってことですね」
「じゃあ、ばあちゃん。とっとと成仏しようか」
『やだー! みんなそろって、いじわるー‼』
ばあちゃんは被害者ぶるけれど、実際問題、被害を受けているのはこっちのほうだ。
ばあちゃんが成仏しないせいで、みんなが迷惑している。迷惑している? ああ、じいちゃんだけは喜んでいるんだった。
「あの、私、もう寝るね。おやすみ」
「ああ、おやすみ、母さん」
『おやす――』
バチン!
寝室へ向かって歩き出していたタカコが、ちらり、と振り返って、強引に笑った。
マコトはその顔を目に焼き付けると、大きく息を吸って、それからふぅっと細く長く吐きながら、ぎこちなく笑った。
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