天に召されよ!

湖ノ上茶屋

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16・作戦会議は仲良しの素?

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「と、いうわけで、成仏しちゃうぞ作戦を始めることになったんだけど――」

 マコトは机の上にスライムをぶちまけたみたいにデロデロと力なく突っ伏した。

「具体的に何をするかはさっぱり、と」

 ミツキは、そんなマコトの机に体重を預けながら首をひねる。

「ふたりしてそんな顔してるってことは、おばあちゃんの話?」

 ふたりは何か妙案をくれそうだと期待できる声の主・レイを見た。レイは大事そうに不気味で分厚い本を抱えている。

「憑く相手を変える方法、探してみてるけど、良いのないんだよねぇ」
「ああ、その話なんだけど」
「どうかした?」
「コイツのじいちゃん、ばあちゃんのこと嫌いすぎて会いたくないし、老い先長くないから近いうちに成仏する予定で、その成仏先にばあちゃんが居たら困るから、成仏してくれなくて構わないって」
「え……マコトのおばあちゃん、家族から嫌われすぎじゃない?」

 ――あーん! みんなしてひどいぃ!

 アヤコが悲鳴を上げた。マコトはアヤコが体を乗っ取らずに悲鳴を上げたことに安堵した。そしてほんの少しだけ、可哀そうな人だな、と同情した。

「それで、コイツのじいちゃんが油に火を注ぐタイプで」
「ミツキ、逆。火に油」
「ま、どっちでもよくね? とにかく、成仏しようとしたら阻止しようとしてきて、その結果成仏を手伝ってくれそうだから、成仏しようとすることにしたんだけど――」

 ミツキの説明を聞けば聞くほど、レイの眉間のしわが深くなっていく。

「じゃあ、憑く相手を変える必要はなくて、とにかく成仏しようとすればいい、ってこと?」
「そういうこと」
「それなら……」

 レイが分厚い本をぱらぱらとめくりだした。ときどきページをめくる手が止まる。いくつかのページに心当たりがあるみたいだ。

「あ、これこれ。生前のこだわりの糸を切るっていうやつ。これ、どうかな? まぁ、モノとしての糸じゃなくて、考えとかそういう形のないものを切らないといけないから、そう簡単にはできないだろうけど」
「執着とかそういうこと?」と、ミツキが問う。
「そうそう。おばあちゃんの場合は、娘との糸かなぁ。おじいちゃんとはもう切れてそうだもんね」

 ――失礼なー! マコちゃん! 出て行っていい? わたし、もう限界よ!
 ――どうどう。ここで出て行ったら、オレとの糸がぶち切れるからやめて。
 ――あーん。マコちゃんだけよぅ。わたしのことを見捨てないの!

 マコトは胸がぽっと熱くなったような気がした。胸に手を当ててみる。手のひらから感じ取れるのは、なんてことない布の感触。特別、体が熱くなったわけではない。体の内側から発せられる熱。その出所は、自分の心? いや、違う。アヤコが喜んでいるからだ。

「ん? どうした? マコト。何か閃いたのか?」
「ああ、いや。なんか、いいかもしれないことが頭のこの辺にほわわん、って見えた気がしたんだけど。でも、母さんが吐くかじいちゃんが狂いそうだからダメだわ」

 あのふたりには、アヤコに優しい言葉をかけて成仏する気にさせる余裕なんて、一ミクロンもないだろうからなぁ。

「なんじゃそりゃ」
「ああ、なるほど。そういうタイプのやつね」

 レイが分かった顔でこくこくと頷いた。

「いや、なんでレイには分かるんだよ。あれ? もしかして、俺だけ頭悪い?」
「頭悪くてもいいじゃん? これだけ友だちのこと想えているんだからさ」
「あはは~、そうだよな~。……って! レイ! いま俺のことバカだって言っただろ!」
「バカとは言ってない。頭悪いって言っただけ」
「それ、同じことだろ!」
「バカと頭悪いは違うから!」
「どう違うんだよ!」
「バカは救いようがないけど、頭悪いのはどうにかなるの!」
「……そうなの?」

 急に口から熱を放つのをやめたミツキに問われて、マコトは、

「分かんない。とりあえずオレは、ミツキがバカでも頭が悪くても、そうじゃなくても別にいいぞ? 天才だったら嫌かもしれないけど」と答えた。

「なんで天才じゃダメなんだよ!」

 ミツキの口から再び熱が放たれた。

「事実、天才ではないんだからどうでもよくない? なんで噛みついてんのよ」
「うるさいなぁ! 誰だって、どうせだったら天才って言われた方が嬉しいだろうが!」
「えっと……ふたりとも?」
「黙るタイミング見失うと頭悪い通り越してバカになるよー?」
「そう言うレイだってずっとしゃべってるじゃんか! バカなのか?」
「ええ。バカですが何か?」
「ふはは! じゃあバカ仲間だな」

 パチン、とふたりがハイタッチをした。

「ねぇ、バカ仲間。放課後、我が家にて成仏会議をしないか?」
「おう! また行っていいのか? チョコあるか?」
「ある! 昨日、お父さんがあたしの心をハッキングしたらしくて、キャラメル味を買ってきてくれたの! みんなにわけてあげようと思って、取っておいてある!」
「よっしゃー! よかったな、ばあちゃん! 今度はのどに詰まらせないで食えよ!」

 ミツキがマコトの肩にぽん、と手を置いた。

 ――キャラメル味ー! 嬉しいわ! 楽しみ~♡

「え、ええっと……」

 自分の問題の話をしているはずなのに、なぜやら蚊帳の外に追い出されてしまったマコトは、はぁ、と小さなため息をついた。


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