17 / 20
17.ふくれたポーチ
しおりを挟む洋服がくたびれれば新しいものを買ってもらえた。お腹がすいたらご飯を食べられたし、屋根があるところでぐっすりと眠れた。
親は私に様々なものを当たり前のように提供してくれた。でも、コスメは違った。
洗顔料は買ってもらえても、クレンジングは買ってもらえない。そのくらい、線引きはシビアだった。
ぜいたく品の枠に組み込まれたそれを、私はお小遣いやお年玉を使って買った。
たぶん、私は幸せ者だ、と思う。メイクをしようという段階になってようやく、ではあるけれど、こうして自分で何から何まで管理する経験をさせてもらえているのだから。しかも、社会に出る何年も前から経験することができているのだから。これが社会人になるのと同時だったら? この大変さを考えると、社会に出るのと同時に始めることなんて、想像したくもない。
「それでは、マイコのポーチの中身チェックをおこないまーす!」
「いえーいっ!」
メイクを始めたころ、私のポーチにはおさがりしか入っていなかった。
新商品に浮気した結果、使いかけのまま放置されていたというファンデーション。
ラッキーバッグに入っていたという、手持ちとそっくりな色味のアイシャドウ。
たくさんの色を集めていたらいつの間にか三軍に落ちて出番がなくなったというチーク。
これあげる、の集合体。
そこに少しずつ、私は私が選び取ったものを増やしていった。
メイクの先輩三人がアドバイスをしてくれるから、買わなきゃよかった、と思ったことは今のところほとんどない。
自分一人でメイクを始めることになっていたらどうだっただろう、と考えれば、お札や小銭が羽を生やしてパタパタと私のそばからいなくなっていく光景が浮かぶ。
私は今、すべての過去の集合体に、心の底から感謝している。
「お、あたしがおすすめしたマスカラ」
「くそぅ、わたしのおすすめは選ばれなかったか!」
「え、いつの間にマスカラ選挙してんの?」
「マスカラ選挙とかウケる」
「えー、わたくしの公約はー、まつ毛を1.3倍に伸ばすことでありますぅ」
「どこの誰だよ」
「マスカラだよ!」
あっはっは、と、笑い声が何層にも重なって響く。
本当かウソかわからないけれど、一昔前のマスカラは、涙で溶けて、涙を黒く染めていた、なんて話を聞いた。
今、もしみんながそんな溶けるマスカラをつけていたとしたら。きっとみんなの目じりには、黒い涙が溜まったんじゃないだろうか。
「だいぶ増えたね」
「うん」
「コスメってさ、いいよね」
「なーに? 改まっちゃって」
「いや、コスメってさ、フラペチーノとかクレープくらいするじゃん?」
「ああ、まぁ」
「それを我慢してコスメ買ったらさ、ダイエットになって、かわいいを手に入れられて、最高だなと!」
「えー、わたくしの公約はー、かわいいを高め、不要な肉を削減することでありますぅ」
「ついでにムダ毛も削減してほしいですぅ」
みんなの手がお腹にいく。
その行動は不要な肉を隠すためじゃない。
ただ、笑いすぎてよじれたお腹を支えるためだ。
「ああ、面白い!」
「涙とまらないんだけど」
「ああ、わたし、ここに住めててよかったぁ! みんなと同じ中学でよかったぁ!」
「なに? 急に」
「もう笑わせないでよ」
「笑い死ぬぅ」
私の救世主が、幸せそうに死にかけている。
その顔を見ながら、私は思う。
私も、この地域に住めて、同じ中学に入れてよかった。
そう伝えたら、救世主はどうなるだろう。いよいよ笑い死ぬんだろうか。それとも、泣き死んじゃう?
とどめを刺さないために、私は心にもそっとメイクする。
私は笑いながら、キラキラした唇をそっと結ぶ。
11
あなたにおすすめの小説
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる