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メテオの提案
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「今、何と言われましたか?」
耳を擦りながら聞き返すユランの目は、驚きでこぼれ落ちそうなほど見開いている。
「何度でも言いましょう。ユラン様が私のものになるなら、教えてさしあげますよ。
お兄様を助けたいんですよね。私ならお兄様を昏睡状態から覚醒させることが出来ます」
*
この部屋は見覚えがある。
ユランは通された別塔の部屋を見回した。
豪奢ではないが洗練されたテーブルと椅子が並んでおり、続き部屋の奥の部屋には片方はベッドが誂えてあった。床の上にはグリーンの柔らかい絨毯が敷かれている。
(飾り気のない殺風景の部屋。貴族の罪人を取り調べ中に幽閉するためだけに存在する部屋…)
ユランがゲームの中で閉じ込められていた部屋だった。イザベラに襲いかかったユランは、この部屋で薬に侵され気が狂ったように射精し続けた。正気に戻った後はこのガランとした部屋の中で自分が犯した罪に絶望し、心を引き裂くような後悔の念で自分の身体を傷つけていた。
今この見覚えのある部屋に閉じ込められているのはメテオだ。
ゲームとの違いに安堵するとともに一抹の不安を感じた。
ブルブルと震えるユランの肩に王子が手を添えた。ユランは小さく深呼吸をして、メテオの前の椅子に腰掛けた。
よく眠れなかったのか、メテオの目の周りは薄暗く隈取られていた。
「メテオ様……」
「お越しいただきありがとうございます。ユラン様。そのご様子では、私が仕出かした事を全部ご存知のようですね」
メテオが乾いた笑いをする。
「どうして…」
「どうして?ユラン様を欲したことですか?こんな卑劣な手段をとったことですから。イザベラと協力をしたことですか?
私はユラン様の外見に惹かれ、穢れのない真っ白でひたむきな内面を知り、ユラン様の全てに心を奪われてしまいました。
ただ、貴方を狙う輩は他にもおり、貴方の近くには美しい従者や兄が見守っていた。そんな彼らを私のような平凡な男が出し抜くためにはこんなやり方しかなかったのです。
貴方のせいですよ。貴方を手に入れるという目的のためだけに、あの不快な女に手を貸したのです」
「そんな…メテオ様は平凡なんかじゃなく、優秀で穏やかで素晴らしい方で…僕なんて特に際立つところもなくて…」
「それでも、あのまま何もしなければ貴方を手に入れる事は出来なかった。貴方は決して私には振り向かなかったでしょう?ただのクラスメイトとしてじゃなく、私は貴方の視界に入りたかった。
結局失敗に終わりましたが、こうなって初めて貴方を独り占めできるなんて皮肉なものですね。ふふ。
無駄話はよしましょう。
ユラン様は私に会いたくてきたわけじゃない。私が犯行に協力した理由を知りたいわけでもない。
何か他に聞きたいことがあるんでしょう?」
メテオが部屋の片隅に立つ王子の姿にちらりと視線をやると、口を少し歪め自嘲気味に笑った。
「兄上…僕の兄のカールがイザベラの渡した匂い袋の影響で昏睡状態となっています。匂い袋にはメテオが抽出したエキスが使用されていると考えられています。
メテオ様なら僕の兄を助ける方法をご存知ではありませんか?僕に教えてもらえませんか?」
ユランは胸の前で手を合わせ、メテオの心に届くように声を絞り出す。
メテオはユランを一瞬悲しそうに見つめたが、すぐに何も考えていないような空虚な眼差しに変えた。
「ユラン様はお兄様を慕ってらっしゃるんですね。お兄様のためなら憎むべき私にも会いに来られるほどに。自分の身も厭わないほどにお兄様を優先されるのですね。
貴方から愛されるお兄様が羨ましい」
「メテオ様、僕はメテオ様を憎んでなど…」
「あぁ、お優しいユラン様は私を憎んではおりませんか。きっと私のことなどなんとも思っていないのでしょう。憎んですら貰えないなんて…
ははは。わかりました…」
メテオは唇を噛み締め考えを巡らせた。
この後、メテオから発せられたのが冒頭の言葉だった。
*
「貴様っ!何をっ!」
メテオの言葉に激昂し、王子がメテオに今にも掴みかかろうとしている。
「殿下!大丈夫です」
ユランは王子を制し、メテオを正面から見つめた。
(メテオ様が、どうして僕なんかに拘るのかわからない。それでも、僕がメテオ様の言う通りにしたら、メテオ様は兄上が昏睡から目覚める方法を教えてくれる。兄上を助けられるんだ。
僕は兄上が生きて元気に過ごしている姿が見られればそれでいい)
「わかりました。メテオ様。貴方の言う通りにしましょう。その代わり、先に兄上を助ける方法を教えてください」
耳を擦りながら聞き返すユランの目は、驚きでこぼれ落ちそうなほど見開いている。
「何度でも言いましょう。ユラン様が私のものになるなら、教えてさしあげますよ。
お兄様を助けたいんですよね。私ならお兄様を昏睡状態から覚醒させることが出来ます」
*
この部屋は見覚えがある。
ユランは通された別塔の部屋を見回した。
豪奢ではないが洗練されたテーブルと椅子が並んでおり、続き部屋の奥の部屋には片方はベッドが誂えてあった。床の上にはグリーンの柔らかい絨毯が敷かれている。
(飾り気のない殺風景の部屋。貴族の罪人を取り調べ中に幽閉するためだけに存在する部屋…)
ユランがゲームの中で閉じ込められていた部屋だった。イザベラに襲いかかったユランは、この部屋で薬に侵され気が狂ったように射精し続けた。正気に戻った後はこのガランとした部屋の中で自分が犯した罪に絶望し、心を引き裂くような後悔の念で自分の身体を傷つけていた。
今この見覚えのある部屋に閉じ込められているのはメテオだ。
ゲームとの違いに安堵するとともに一抹の不安を感じた。
ブルブルと震えるユランの肩に王子が手を添えた。ユランは小さく深呼吸をして、メテオの前の椅子に腰掛けた。
よく眠れなかったのか、メテオの目の周りは薄暗く隈取られていた。
「メテオ様……」
「お越しいただきありがとうございます。ユラン様。そのご様子では、私が仕出かした事を全部ご存知のようですね」
メテオが乾いた笑いをする。
「どうして…」
「どうして?ユラン様を欲したことですか?こんな卑劣な手段をとったことですから。イザベラと協力をしたことですか?
私はユラン様の外見に惹かれ、穢れのない真っ白でひたむきな内面を知り、ユラン様の全てに心を奪われてしまいました。
ただ、貴方を狙う輩は他にもおり、貴方の近くには美しい従者や兄が見守っていた。そんな彼らを私のような平凡な男が出し抜くためにはこんなやり方しかなかったのです。
貴方のせいですよ。貴方を手に入れるという目的のためだけに、あの不快な女に手を貸したのです」
「そんな…メテオ様は平凡なんかじゃなく、優秀で穏やかで素晴らしい方で…僕なんて特に際立つところもなくて…」
「それでも、あのまま何もしなければ貴方を手に入れる事は出来なかった。貴方は決して私には振り向かなかったでしょう?ただのクラスメイトとしてじゃなく、私は貴方の視界に入りたかった。
結局失敗に終わりましたが、こうなって初めて貴方を独り占めできるなんて皮肉なものですね。ふふ。
無駄話はよしましょう。
ユラン様は私に会いたくてきたわけじゃない。私が犯行に協力した理由を知りたいわけでもない。
何か他に聞きたいことがあるんでしょう?」
メテオが部屋の片隅に立つ王子の姿にちらりと視線をやると、口を少し歪め自嘲気味に笑った。
「兄上…僕の兄のカールがイザベラの渡した匂い袋の影響で昏睡状態となっています。匂い袋にはメテオが抽出したエキスが使用されていると考えられています。
メテオ様なら僕の兄を助ける方法をご存知ではありませんか?僕に教えてもらえませんか?」
ユランは胸の前で手を合わせ、メテオの心に届くように声を絞り出す。
メテオはユランを一瞬悲しそうに見つめたが、すぐに何も考えていないような空虚な眼差しに変えた。
「ユラン様はお兄様を慕ってらっしゃるんですね。お兄様のためなら憎むべき私にも会いに来られるほどに。自分の身も厭わないほどにお兄様を優先されるのですね。
貴方から愛されるお兄様が羨ましい」
「メテオ様、僕はメテオ様を憎んでなど…」
「あぁ、お優しいユラン様は私を憎んではおりませんか。きっと私のことなどなんとも思っていないのでしょう。憎んですら貰えないなんて…
ははは。わかりました…」
メテオは唇を噛み締め考えを巡らせた。
この後、メテオから発せられたのが冒頭の言葉だった。
*
「貴様っ!何をっ!」
メテオの言葉に激昂し、王子がメテオに今にも掴みかかろうとしている。
「殿下!大丈夫です」
ユランは王子を制し、メテオを正面から見つめた。
(メテオ様が、どうして僕なんかに拘るのかわからない。それでも、僕がメテオ様の言う通りにしたら、メテオ様は兄上が昏睡から目覚める方法を教えてくれる。兄上を助けられるんだ。
僕は兄上が生きて元気に過ごしている姿が見られればそれでいい)
「わかりました。メテオ様。貴方の言う通りにしましょう。その代わり、先に兄上を助ける方法を教えてください」
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