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魔法競技会

個人部門・決勝戦

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 準決勝を終えて、アルはこの日だけは真っすぐに宿屋へと戻りその身を休ませた。
 ノートンとの試合で疲労したわけではない。決勝戦を見据えて、最高の状態でレイリアとの試合に臨むため。
 リリーナたちもアルを気遣い、戻ってきてからは声を掛けたりもしなかった。

 そして──その日がやって来た。
 控え室にはアルだけではなく、リリーナたちパーティ部門に参加する面々、そしてアミルダとペリナの姿もある。

「アル、準備はできているのかい?」
「もちろんですよ、ヴォレスト先生」
「そうか。まあ、アルのことは信じているし、心配はしていないが……気をつけなさいよ」

 笑顔で激励の言葉を口にしていたアミルダだったが、突如として真剣な表情へと変わる。
 どうしてそのような表情を浮かべたのか、アルには心当たりがあった。

「決勝戦の相手が、強いんですよね?」
「あら、知っていたの?」
「はい。まあ、あれだけの雰囲気を持っていれば、嫌でも分かりますよ」
「普通は分からないんだけどね。でも、それなら安心か。決勝戦、頑張りなさいよ」
「ありがとうございます」

 最後にもう一度激励の言葉を受け、アルはイスから立ち上がった。

「弟君、ファイト!」
「アル君、応援してるからね!」

 フレイアとラーミアが笑いながらそう口にする。

「負けるとは思わないけど、気をつけて」
「個人部門とパーティ部門の優勝、僕たちで取っちゃおうね」

 シエラが注意を促し、ジャミールは強気な発言だ。

「冒険者ギルドで問題を起こした時はビックリしたけど、アル君にはそれ以上に驚かされていたことを忘れていたわ」
「スプラウスト先生、それは言い過ぎじゃないですか?」
「本当のことじゃないのよ。でも、ここで優勝したら、とびっきり驚いて、とびっきり褒めてあげるわ。期待しているからね?」

 ペリナが冗談交じりに激励の言葉を贈る。

「アル様……」
「どうした、リリーナ?」
「……絶対に、優勝してきてください。私は、アル様を信じています」

 真っすぐに見つめられ、アルは少しばかり照れ臭くなったものの、目を逸らすことなくはっきりと答えた。

「もちろんだ」

 その一言で十分だった。
 アルはみんなに背を向けて歩き出す。
 その腰にはアルディソードが下がっており、アルは舞台上にいるレイリアを見据えながら軽く柄をポンポンと叩いたのだった。

 ※※※※

 会場に姿を現したアルを見て、観客席からは大ブーイングが巻き起こった。
 昨日までとは打って変わり、ほとんどの観客からのブーイングだ。
 これには当然理由があり、根回しをしたのはヴォックスであり、ラクスフォード家である。
 ラクスフォード家の者を観客席のいたるところに配置し、アルの登場に合わせて大ブーイングをさせた。
 周囲にいる関係のない観客たちも、アルの戦い方に嫌悪感を抱いており、誰かがブーイングをするなら自分も、といった感じで広がりを見せたのだ。
 しかし、アルは特に気にした様子も見せずに舞台へと上がり、レイリアと対峙する。

「さすがはノワール家の異端児ね」
「なんだそれは?」
「あら、知らないの? あなた、一部の人間からはそう呼ばれているのよ?」
「……それ、絶対に良い意味じゃないよな?」
「7、3、といった感じかしら。7が悪い意味だけどね」

 なぜそのような呼ばれ方をしているのかは定かではないが、良い意味で言っている人が三割もいるとは信じられないとアルは考える。
 しかし、レイリアが嘘を言っているようにも見えず、また嘘をつく理由がない。

「私は、数少ない三割の方よ」
「だから、ヴォックスたちからは嫌われているんじゃないか?」
「あら、気づいていたのね?」
「なんとなく、だけどな」

 クスクスと笑っているレイリアを見て、アルは肩を竦める。

「ずいぶんと楽しそうだな。開会式では、あんなにもむすっとしていたのに」
「そうかしら。でも……えぇ、そうね。確かに楽しいわ。だって、あなた――本気を出してくれるんでしょう?」

 レイリアがそう口にしたと同時に視線を向けた先は、腰に下げたアルディソード。
 だが、アルも同時にレイリアが持つある物に視線を注いでいた。

「そういうお前もそうじゃないのか?」
「えぇ、もちろんよ」

 レイリアの左右の手に二本の魔法装具を握っている。
 魔法装具を持っている相手とは何度も戦ってきたものの、二本同時に使用している相手はレイリアが初めてだ。

「無駄口も終わりにしましょう」
「そうだな。それじゃあ、試合を始めようか」

 レイリアが左右の腕を上げて構えを取ると、アルもアルディソードを抜いて構える。

「個人部門、決勝戦──試合開始!」

 そして、決勝戦が始まった。
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