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七皿目 ストーキング・デート
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パスタの美味しいオシャレな食事処。
レンガ造りの二階建ての店舗の、その更に上がった屋上が、ちょうど眺めのいい穴場の席らしい。
一階は落ち着いたバーで、内装も外装も、雰囲気がよかった。
魔族の街は種族差でサイズが異なるので、全体的に天井が高く、扉が大きい。
二階建ての屋上と言えど、飛べない人間は、落ちたらただじゃすまないような高さがある。
それなのに、だ。
ゼオはなにも言わずに背中からコウモリのような大きな翼を広げ、俺の手首を掴んだまま、屋上へ飛び上がった。
うん。……ガド以来の驚きだった。
上下の動きで酔い易い俺に、優しくない移動方法だぞ。
ヘロヘロと席についた時、屋上から外向きに立てられた看板に〝空からのご来店歓迎、お席に座ってお待ちください〟と書いてあるのが見えた。
公的に大丈夫だとしても、なかなかのビックリ体験だ。
俺の中身が人間だとは知らないゼオに非はないけれど、不言実行は流石に驚く。
パラソルがついたウッドテーブルに突っ伏した俺は、フラリと起き上がる。
「ひ、一言ぐらい、言ってほしい……」
「なぜ? 屋上まで階段で行くより、ずっと楽だったと思いますが」
ドキドキと鼓動が早まる心臓を落ち着かせつつ提案してみると、ゼオは文句を言われた意味がわからなさそうに首を傾げた。
なるほど。わかりにくいが、あれは善意だったみたいだ。
ええと、言葉が圧倒的に足りないが……良かれと思ってしてくれたなら、それはいいことだな。
「ゼオ、ありがとう」
「別に」
逸らしもしないで佇む澄まし顔の沢尻ゼオ様は、所謂クードラと言うやつなんだろうな。
普段クールでデレのところですらドライな人のことをそう言うと、リューオが言っていた。
冷たい物言いも、本人は一切悪気はないと思うが、どうだろう?
本当に俺に呆れているのかもしれない。
もしそうだったら、寂しいな。
本の趣味は合うし、話しやすいし、なにより城仕えの魔族なら、アゼルの部下なのだ。
俺はできれば仲良くしたい。
もちろん、無理にとは言わないぞ。
バラララ、とメニューを速読したゼオがどうぞと差し出すのでそれを受け取りつつ、俺は傲慢なことを考える。
メニューを開くと、そこには精巧なスケッチと共に、こだわりの料理が並んでいた。
人間国で見るようなものもあるし、普段食べているものもある。
魔王城でも見たことがない料理の名前を見つけると、胸が踊った。
変身効果があったり、電流が走るものがあったり、食べるとバフがかかって能力値があがる料理もある。
ひと狩りいこうぜのあのシステムを、リアルにできるのか。凄い。
これはデート向きだ。
見ているだけで楽しいぞ。
「本当に凄い。おもしろいし、食べ物がとても綺麗だ。魔界では珍しいな……お城の料理みたいだぞ」
「魔王城は食事にこだわってますからね。チーフシェフ……と言うか、リザードマンって味にうるさいんで」
「確かに、ラグランさんはそうだな。ゼオはどうだ? 食べ物にはうるさいか?」
「うるさくはないですが、俺もどうせ食べるなら、美味しいものを食べたいです」
その答えは、意外だった。
ゼオのことだから、食べればなんでも一緒、と言うようなことを言いそうだと思ったのに、宛が外れたようだ。
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