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七皿目 ストーキング・デート

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 ◇


 パスタの美味しいオシャレな食事処。

 レンガ造りの二階建ての店舗の、その更に上がった屋上が、ちょうど眺めのいい穴場の席らしい。

 一階は落ち着いたバーで、内装も外装も、雰囲気がよかった。

 魔族の街は種族差でサイズが異なるので、全体的に天井が高く、扉が大きい。

 二階建ての屋上と言えど、飛べない人間は、落ちたらただじゃすまないような高さがある。

 それなのに、だ。

 ゼオはなにも言わずに背中からコウモリのような大きな翼を広げ、俺の手首を掴んだまま、屋上へ飛び上がった。

 うん。……ガド以来の驚きだった。

 上下の動きで酔い易い俺に、優しくない移動方法だぞ。

 ヘロヘロと席についた時、屋上から外向きに立てられた看板に〝空からのご来店歓迎、お席に座ってお待ちください〟と書いてあるのが見えた。

 公的に大丈夫だとしても、なかなかのビックリ体験だ。

 俺の中身が人間だとは知らないゼオに非はないけれど、不言実行は流石に驚く。

 パラソルがついたウッドテーブルに突っ伏した俺は、フラリと起き上がる。

「ひ、一言ぐらい、言ってほしい……」
「なぜ? 屋上まで階段で行くより、ずっと楽だったと思いますが」

 ドキドキと鼓動が早まる心臓を落ち着かせつつ提案してみると、ゼオは文句を言われた意味がわからなさそうに首を傾げた。

 なるほど。わかりにくいが、あれは善意だったみたいだ。

 ええと、言葉が圧倒的に足りないが……良かれと思ってしてくれたなら、それはいいことだな。

「ゼオ、ありがとう」
「別に」

 逸らしもしないで佇む澄まし顔の沢尻ゼオ様は、所謂クードラと言うやつなんだろうな。

 普段クールでデレのところですらドライな人のことをそう言うと、リューオが言っていた。

 冷たい物言いも、本人は一切悪気はないと思うが、どうだろう?

 本当に俺に呆れているのかもしれない。
 もしそうだったら、寂しいな。

 本の趣味は合うし、話しやすいし、なにより城仕えの魔族なら、アゼルの部下なのだ。

 俺はできれば仲良くしたい。
 もちろん、無理にとは言わないぞ。

 バラララ、とメニューを速読したゼオがどうぞと差し出すのでそれを受け取りつつ、俺は傲慢なことを考える。

 メニューを開くと、そこには精巧なスケッチと共に、こだわりの料理が並んでいた。

 人間国で見るようなものもあるし、普段食べているものもある。

 魔王城でも見たことがない料理の名前を見つけると、胸が踊った。

 変身効果があったり、電流が走るものがあったり、食べるとバフがかかって能力値があがる料理もある。

 ひと狩りいこうぜのあのシステムを、リアルにできるのか。凄い。

 これはデート向きだ。
 見ているだけで楽しいぞ。

「本当に凄い。おもしろいし、食べ物がとても綺麗だ。魔界では珍しいな……お城の料理みたいだぞ」
「魔王城は食事にこだわってますからね。チーフシェフ……と言うか、リザードマンって味にうるさいんで」
「確かに、ラグランさんはそうだな。ゼオはどうだ? 食べ物にはうるさいか?」
「うるさくはないですが、俺もどうせ食べるなら、美味しいものを食べたいです」

 その答えは、意外だった。

 ゼオのことだから、食べればなんでも一緒、と言うようなことを言いそうだと思ったのに、宛が外れたようだ。



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