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十三皿目 ラブリーキングに清き一票

14(sideゼオ)

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 ──コンテスト当日。

 陸軍長補佐官、ゼオルグッド・トードは、光のない瞳で自分の隣を見る。

 そこには触り心地のいい生地を上品に仕立てた、深い真紅のロングチャイナドレスに身を包む美女がいた。

 民衆に顔バレしている為、つけ毛をして無理矢理伸ばした腰までの夜色のロングヘアーは、風に煽られ柔らかく揺れる。

 凶器のようなハイヒールを苦もなく履きこなし、体のラインにフィットするドレスの深いスリットから覗くのは、下着の紐だ。

 パンチラ未満平時以上。
 その名もヒモチラである。

 どうして見えてしまう衣装を着ているのにその下着を選んだのかは、ゼオには突っ込むことができなかった。

「フッ、ついにこの日が来たか……いいな、全ての敵に勝利するぞ」

 引き締まった色めかしい腰に手を当てる、ガタイがいい以外は妖艶な絶世の美女。

 彼女は凡そその容姿で聞こえるはずがない逆らいがたい低く威圧的な声で、命令を下す。

 そう。
 なにを隠そう、どんな悪夢か知らないがこの美女は、自分の主──魔王なのだ。

 切れ長の目元は化粧で瞳を大きく見せ、普段より愛らしい。

 元々防御力が高いので傷一つなかった艶やかな白い肌は、いつもより潤っている。

 極めつけはなにと戦うのか戦化粧としか思えない戦闘力増し増しの真っ赤なルージュに、真っ赤な爪化粧。

 確かに強そうだが、主は元々最強なのにまだ強さを求めるのか。

 女性らしさを引き立てているだけで、元がいいのであまり手を加えた化粧をしているわけじゃない。

 それでも髪型と衣装で別人だ。
 身内だと言われれば疑いなく信じるが、本人だと言われれば信じがたい。

 そして帰りたい。

「ハンッ、魔王たるもの当然のことをわざわざ口にするな。俺の前に立つ者は、誰だろうが悩殺してやる」

 そんな主を挟み向こう側から、ドスの聞いた冷ややかなテノールが、至極当たり前に悩殺宣言をした。

 声の主は、太陽の光を受けて黄金色に輝く翼をきゅっと縮め、それと同色のゆるふわヘアーを手で払い除け、高圧的に鼻を鳴らす。

 ややつり上がった猫目をよりぱっちりとさせたので、眼力がある。

 ほのかにチークがかかった頬と小さめな唇は、薄桃色でかわいらしい。

 初夏を意識した淡い黄色のシフォンワンピースに身を包み、レース生地の袖や裾が風に揺れる。

 女性にしては高身長すぎるが、一見して清純な乙女は、空軍長補佐官であるキャットだ。

「悩殺というか、目玉が弾けて全員死亡しますね」

 抑揚のない声で吐き捨てたゼオは、どんどんと失われていく目の光とともに呟く。

 ──そして最後に、忘れたかった事実へと目を向けた。

 首筋から肩までを大きく開いた、着物という魔界の東方の街の民族衣装。

 確か花街の娼婦である。花魁とかいう職業の衣装だと聞いた。どうでもいい。

 髪と同じく落ち着いた薄い灰色を基調に紫をあしらい、背中のコウモリの翼を意識しているのか彼岸花やコウモリの柄が描かれたそれ。

 主の命令で花魁衣装を着ているのは、なにを隠そうゼオだ。

 重い髪飾りまで付けられている。
 もはや命令に扮した罰ゲームだった。

 魔力の多い由緒ある家系のキャットや、言わずもがな魔力に愛されすぎている主は、元々容姿がすこぶるイイ。

 だが自分は、魔力量自体は特別多くはない。

 魔王城の闇魔力と相性がよく、使いかってのいいレアな魔族ヴァンパイアというだけなので、顔立ちは平凡である。

 そんな普通顔の男の女装。

 化粧係の海軍長の息子がかなり気合を入れたので厚化粧でごまかせているが、もう何度もコウモリ化して逃げようかと思った。

 主に勝てないので諦めているが。



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