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十四皿目 おいでませ精霊王

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 ◇


「──ということで。お、俺に恋愛指南をお願いします!」
「そうか。深刻な人選ミスだ」

 ところ変わって、家族三人が暮らす魔王の私室。

 旦那さんが嬉しいことを誰かに聞かせたくてたまらない小学生並みの行動を起こしているなんて、露知らずの本人だ。

 この日の俺は恒例のカプバット鬼ごっこで遊び疲れたタローを寝かしつけ、午後の穏やかな時間を過ごしていた。

 それを見計らって現れたキャットに、腕を組んでふむと頷く。

 さて、簡単に状況を説明しよう。

 どういうことかと言うと、セリフからわかるとおり、恋愛相談をされているのである。

 非番らしいキャットは鬼ごっこが終わるまで、律儀に扉の前で待機していた。

 足が疲れたろうに、ずっと立っていたのだ。

 俺としては真面目で明るい爽やかな青年なキャットの力になってやりたいが……困ったな。

「や、やっぱりダメですか?」
「ダメというか……俺には向いてないと思うんだ。もっと他に適任がいると思う」
「あぁあっそこをなんとか! テクニックの小手先、いいや先っちょだけでも! 先っちょだけでもぉッ!」
「いけないキャット。その言い回しは物凄くまずいぞ」

 両手をついてテーブルに擦れそうな程頭を下げるから、俺は慌ててそれをやめさせた。

 うん。セリフが良くない。
 俺がキャットにいかがわしいオネダリをされているように聞こえる。

 慌てる俺に止められて顔を上げたキャットは、うるりと瞳を潤ませた。

 背中の翼を心持ち丸めて、獣と人間を混ぜたような指先をいじいじと合わせてしょげる。

「俺、俺、シャル様がいいんです……っ。シャル様がダメだと、俺ぇ……っ」
「うっ……でも俺は、恋愛関連は役に立たないドストレートな男なんだ……」
「ど、どうしても?」
「ふぐ、どうしても、だ」

 キャットのいじいじに合わせて、俺の眉尻もしょんもりと下がっていく。

 親しい人に頼られると全力を尽くしたくなる性根が疼くが、簡単に頷けない理由がある。

 ──キャットの恋愛相談。

 それは陸軍長補佐官であるゼオへ、どうやって好感触な告白をするかと言う、非常に難易度の高いものだった。

 キャットの想い人である、ゼオ。
 本名をゼオルグッド・トード。

 ゼオは氷魔法を使うハーフヴァンパイアで、尊敬度で扱いの温度を変える、シビアでクールな男だ。

 キャットはそのゼオに密かな恋をしているが、想いを告げるつもりはなかったらしい。

 それはゼオが男と付き合ったと言う話は聞かないので、好意の対象は女性に限定されているのだと思い、諦めていたのだ。

 だがしかしそんな時。
 耳より情報をゲットしてしまった。

 いつかの女装男子コンテストで、ゼオはオカ魔さんに蔑んでくれ踏んでくれと、キャーキャー言われていただろう?

 騒々しい者を嫌うゼオが特に暴れたりしないものだから、まさか満更でもないのかと予想。

 キャットは盗られるかもと不安になって、少し拗ねてしまった。

 付き合ってもいないし好意も告げていないので、ゼオからすると鬱陶しいとは思う。

 それでも自分のほうが好きなのに! と敵対心が湧き上がって拗ねてしまったそうだ。




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