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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です
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──あれからしばらくが経った。
強制的にチョコレートを贈呈しなければならなくなった俺は、どんなバレンタインチョコをどのようにしてあの人間性破綻系野郎に渡すかを、真剣に考えていた。
普通にうまい高級なチョコレートか?
いっそお気に入りの駄菓子系チョコレートを詰め合わせる?
それともやはりネタ系チョコレートで気恥しさごと誤魔化すべき?
俺の脳内は仕事中以外、寝ても醒めてもチョコレートだらけだ。最近仕事中でもふと思い出す。まるで呪いみてェだぜ。
一度は夢にまで見たが、脳内三初が小粒なネコ耳執事となって俺を誑かしただけの無駄な夢だった。
大きい三初よりかわいげはあったけどよ。
手のひらで転がしてるようで、楽しかった……かもしんねぇ。
しかしながら現実の三初は奇妙なくらい俺になにも言ってこないので、逆に恐ろしかった。
話題に出さないところを見ると、俺に催促しなくてもいい理由があるのだ。
どうせ忘れていた場合のお仕置きとして、誓約書のペナルティ履行を目論んでいるのだろう。
大義名分を得るか、チョコレートを得るか。
どう足掻いても大魔王は利を得る。
抜け目のないクソ野郎である。
バレンタイン当日が近づくほど仕事が落ち着く宣伝企画課。
落ち着いてしまうと思考時間が増える。
困り果てた俺は夢の中の三初の『買えるものは意味がない』という言葉と、多少のヤケを含め、暴挙に出た。
有り体に言うと──手作りすることにしたわけだ。
「っつうことで、コーヒーとチョコチップのマフィンを作るぞ」
「はいっす!」
キッチンで材料を前に仁王立ちする俺の隣でコミカルに敬礼するのは、大学時代の俺の後輩──八坂 中都である。
柔らかな金髪をカラフルなピンで止めたゆる系若人の中都は、こう見えて料理ができる男だった。
確か昔、犬の食事を休日に手作りしていたからだったかな。
あと料理男子はモテると思ったらしい。
オリーブオイルの打点は高め。
そんな意外と頼りになる後輩を引き連れて菓子作りに挑む俺は、もちろん料理ができない系男子である。
オリーブオイルの打点は不明。
なぜならオリーブオイルを振りかける料理を作ったことがねぇからだ。
ちなみに中都にはあとで俺をシャンプーする権利と、飲みに行く権利を対価として与える約束だったり。
なんだかんだと約束を守る俺は、休日の今日、ちゃんと銭湯と飲み屋のコンボに付き合うつもりだ。なお明日は仕事。
接客業で基本的に土日が仕事な中都に合わせてわざわざ有給を取ったかんな。そんだけ後がねぇってことを察しろ。日にち的に。
閑話休題。
それじゃあ不本意ながら、始めるぜ。
見守る中都の指示通り、まずは材料の分量を全て正確に測っていく。
中都の仕事は俺に作り方を教えることと、とんでもない間違いを犯す前に止めることと、見守ることなので、手は貸さない。
作るのは俺。
手出しは無用と言ってある。
ふるいを置いたボウルの上へ慎重に粉をポフポフと注いでいると、コーヒー粉を眺めながら中都は小首を傾げた。
「それにしても、センパイの彼女は変わってるッスね~。付き合って初バレンタインってぇと基本、女が作るんじゃないスか? 今時はどっちもアリッスけど」
「あー……ま、まぁな」
一瞬手が止まり、生ぬるい返事をする。
チョコレートを作るに際して〝恋人がほしいと言った〟と誤魔化したのだ。
嘘でもない。確かに恋人で、アイツが欲しがった。
……いやだってよ。彼女じゃなくて彼氏で、それも相手は三初だなんて、言えるわけねぇだろうが。
『あぁ、別に? 俺は誰に言ってもらっても良いですよ。俺も先輩と付き合ってんの? って聞かれたら思った通りに答えるかな。聞かれないから言ってませんけど』
脳裏にあっけらかんと笑う三初が過ぎったが、頭を振って追い払う。
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