誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第六話 狂犬と暴君のいる素敵な職場です

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 おそるおそると吐いた願いが、三初の耳に届いて、急に俺は目元を手で覆われた。


「っ、見えな、あ……っ」

「……ふ、見ないでいいですよ」

「くっ……い、うっ……三初、入、あっ……っん…ぁあ……っ」


 次いであてがわれていたものが、暗闇の中、俺の内部にズブ、と埋め込まれていく感覚がする。

 熱くて大きい。冷たい機械じゃないものだ。ずっと欲しかったもの。これは俺のもんだろ? もう離してやんねぇぞ。

 三初の姿が見えないまま、求め続けたものが少しずつ侵入していく挿入感で、汗と粘液で濡れそぼり火照った体が歓喜に震える。

 柔軟性のある肉筒に押し込まれていく怒張を全て腹の中に呑み込むと、離すまいとしてギュッ、ギュゥ、と内部を食い締めた。

 中の襞をあますところなく絡め取り、押し拡げられる膨満感。
 反り返りで前立腺が潰され、足の間で勃起していたモノの先からダラダラと透明な粘液が滴り落ちる。


「ふ、ぁ……っひ、く……っン、ンン……っ」


 はぁ──やっと捕まえた。

 充足に満たされた全身が出さずにイキ、腰が浮き上がっては小刻みに震えた。

 中がビクビクしている。余韻でまた感じて喘ぎながらブルブルと身震いし、自分の目元を覆う腕に両手を絡ませる。
 そのまま両足をのったりと滑らせて、三初の腰に引っ掛けた。


「あ…ぁぁ……っぉ、女も、せんぱ、もいやだ……俺以外に好かれねぇで……俺だけ抱いて、好きになって、みはじめぇ……っ」


 塞がれた視界で必死に甘える。
 腹に力をいれて抜いて誘い込み、体で感じさせようと酒臭い息を吐きながら呻く。

 どこの誰となにをしていようが構わないが、俺以外に好かれるのは嫌だ。

 三初が他に好かれると落ち着かない。
 大人なら言わないこと、俺が言えなくて三初が聞きたいこと。大人気なくても本当はそう思っている。これが本心。

 甘えんのは下手くそだ。上手にできてるか? できてたらいい。好きだと言ってくれればもっといい。

 俺は三初に好かれたい。
 三初を好きな人間は、俺だけがいい。


「あー……ふぅ、……えげつねぇな、甘えてくる先輩、ってもんは……」

「う……っ」


 絞り出したような言葉と共に、窮屈な中で身じろぐ肉棒が、グリュッ、と強引に抽挿を開始した。

 スローテンポなストロークで角度を変えながら、トン、トン、と熟れきって疼く腹の中をノックし、三初の形に慣らしていく。

 繰り返し出してもう形を保てず柔らかな肉茎をヒクつかせるだけの俺は、されるがままに「あ、あ」と断続的に喘いでその快感を味わった。

 ダメだ……気持ちいい。擦れる。内側の、俺の弱いところがいっぱいになって、ドロドロに溶けちまう。目を塞がれているせいでより浸る。

 アルコールと肉欲に溺れてぼんやりとした頭は恍惚と沈み、下腹部の奥から這い上がり背筋が粟立つ慣れた愛撫に媚びる身体。

 ギッ、ギッ、と軋むベッド。
 ズルッ、と抜けるギリギリまで引き抜かれ、根元まで丁寧に押し込まれる。

 やっと普通のセックスだ。多少普通じゃないかもしれないが、いつも通り、このまま疲れ果てるまで抱かれて眠るだろう。


「いい……? 一回しか言わないから、ちゃんと聞いてくださいね」

「ん、ふっ……」


 トロけた脳でそう思い人任せに揺さぶられ突かれていると、言葉とともにふと、耳元に顔を近づけられる気配を感じた。

 吐息がかかる。
 くすぐったくて息を漏らす。


「──……好きですよ。あんたが一番、俺にとっては、かわいい」


 瞬間、ビクッ、と全身の筋肉が引き攣って小さく硬直した気がした。

 今なにを言われたのか。

 ええと、俺は、ええと、俺、三初、は、俺が一番、かわいくて──……好き、だ?


「は、ぅ…あっ……」


 汗や涙や潤滑油で湿った肌と張りついた前髪を振り切り、ゆっくりと、目元を塞いでいた手が離れていく。

 久しぶりのオレンジライトが眩しい。
 見えないことはない。ボヤけた視界をこらすと、ちゃんと自分を抱く男がいる。

 俺の胸の横に手をついてチュ、と鼻先に触れるだけのキスをした天邪鬼は、腰を揺すりながら「マジで、もうしばらくは言わないからね」と冷ややかに目を細めた。

 けれど俺には、普段は血が通っていないサイボーグなのかと疑うほど顔色を変えない三初の頬が、仄かに赤く染まっているように見える。

 ──照れてる、のか。

 だったらそれは……すげぇ、かわいい。
 俺のことを好きな三初、かわいい。




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