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第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-
27.閑話 Side天敵 天敵の幼馴染
しおりを挟むアイリーンは今、めちゃくちゃ機嫌が悪かった。
最近は王子の婚約者として(なってない)、嫌いな勉強も頑張っていた。
神玉という魔石みたいなものが存在することを知れたのはよかったけど、”害獣”しか魔法が使えないなんて聞いてない!!
通りで小さい時から魔法の練習してたのにアイリが使えないわけよ!
確かに神様には”魔法のある世界”ってしか言ってないけど、普通アイリも使えるようにするべきでしょ?!何考えてんのよ!全く気が利かないんだから!!
この世界が”人間は魔法が使えない”んだったら、アイリは特別に魔法が使えて”聖女”として崇められるってのが常識ってもんでしょ?!本当、神様って常識ないのかしらっ。
その事実もアイリをイライラさせたが、一番の理由ではない。
その最たる理由が・・・・今目の前で怯えた様子の、この”デブ”な公爵子息グレンだ。
ある日滅多に会うことがなくなったカイトが、「同じ公爵家である、同い年のご子息様が遊びに来られる」と言いに来た時は歓喜した。
あぁ!!きっと美少年が私に一目惚れして、ゆくゆくは王子様と幼馴染の私を取り合うことになるのね!!と期待していたのに・・・。
胸膨らませ、会った少年は・・・濃い銀髪に青目という、それだけなら麗しい容姿なのに・・・ぽっちゃりとしたその体型が、アイリからしてみればデブ体型が全てを台無しにしていた。
アイリは想像していた少年とかけ離れた容姿のグレンに、目を見開いて固まり「は、はじめましてっ!僕グレン・ポートマンです!5歳です!仲良くして下さい!」という精一杯の挨拶を聞き流していた。
どうやらこのデブが私の幼馴染になるらしいと理解すると、アイリは激高してグレンに怒鳴り散らした。
「アイリの幼馴染になるのになんでこんなにデブでブスなのよ!!!アイリの幼馴染なのよ?!もっと相応しいヤツいるでしょ?!」
突然怒鳴られたことと、今まで言われたことのない棘のある悪口にビックリしてグレンは泣き出してしまった。
「う・・・・うぅっひっく、ごめ、ごめなんなさいっえぇぇ~ん!!」
泣き出してしまったグレンに、従者の女が駆け寄る。
・・・アイリーンの傍に控えるヒュー対策として、グレンの従者は女にして影に腕利きの男を付けている。
泣き出したグレンに、興味がなくなったアイリーンは無視して自分の部屋へ戻っていった。
こちらを気にした様子ではあるものの、ヒューもアイリーンに続き部屋を出ていった。
その様子を見届けたカイトは、冷やしたタオルをグレンへ差し出した。
「グレン様、そのお心を傷つけてしまい、申し訳ありません。こちらお使いください。・・・グレン様は少し体格が良いだけです。健康的で良いではありませんか。それに、グレン様はお父様であるショーン様に似て、整った顔立ちでいらっしゃいますよ。これはお世辞ではなく、成長するにつれ精悍なお顔立ちになると思いますよ。」
カイトの優しい言葉に、それまでピリついていた従者・・・名を確かアンナといったか、が警戒を解いたのが分かった。
「・・・そうですよ、坊ちゃん。あんなピンク頭の言うことなんて聞き流していいのです。あの様な戯言に、そのお優しいお心を痛める価値なんてございませんよ!」
二人の慰めに多少落ち着いたのか、泣き止みだしたグレンはタオルを握りしめながらお礼を言う。
「う、うん。・・・ぐすっ二人ともごめんなさい。ありがとう、気を遣ってくれて・・・。お父様にあの子を見張っておくように言われてたんだ・・・。”なんで仲良くするだけじゃないの?”って聞いたけど、”あの子と仲よくしようとお前は思わないさ”って・・・。僕はそんなことないと思ってたけど、仲良くできないかも・・・。」
落ち込んだ様子で、また泣き出しそうになるグレンを、アンナは慌てて慰める。
「グ、グレン様!大丈夫ですよ、仲良くならなくていいんです!旦那様も、グレン様には仲良くなるのではなく、”見張っている”ようにおっしゃったんですよね?”奴”が何をしようとしているか、不審な様子を監視するだけでいいんですよ!」
アンナは事前に打ち合わせしていた、内情を知るカイトに”お前もフォローしろ!”と目配せた。
「・・・大丈夫ですよ、今頃あのヒューとやらに公爵家の血筋を教えてもらってることでしょう。今後、嫌でも近づいてきます。グレン様はお父様の言われた通り、無理に仲良くすることなく動向を見張っていれば大丈夫です。何か”奴”に言われたら、アンナ様でも影の方でも、自分でも良いのでおっしゃってください。必ずあなたをお守りしますし、微力ながら力を貸します。」
カイトの力強い言葉と、自分に寄り添ってくれるアンナをみて、グレンは腹をくくった。
「・・・分かった。僕、頑張る。頑張ってお父様の期待に応えて見せる!」
そうしてグレンは、度々アイリーンと遊んだり勉強したりするようになった。
そして冒頭に戻る。
アイリーンはこんなデブ!と未だにグレンを認めていないが、あの後ヒューから教えてもらったグレンの血筋には価値を感じて、嫌々ながらも一緒に行動することを拒否しなかった。
ハーブリバ王国の王族は、光の様な綺麗な銀髪に金色の瞳を持つ、色素の薄い高尚な容姿が有名だという。
若干濃いながらも銀髪を持っているポートマン公爵家は、グレンの祖父が王弟であるそうだ。
ということは、グレンは王子様の親戚なのである。
実際、グレンは王子様とも交流があるそうなので、幼馴染なら早めに王子様に出会えるかもしれない!とグレンといることを我慢している。
今日も同じ公爵家として、この王国の貴族について勉強していたが、まったく面白くない。
グレンと勉強する内容は、ヒューも分からない知識らしく先生は別だ。
この先生、言ってることが全然分からないっ!本当、もっと腕のあるやつ雇いなさいよ。
・・・・唯一、そういった貴族の勉強の際は、カイトが付いてくれるようになったから気分が良い。
グレン付きのアンナという女がいなきゃ、もっといいのになぁ・・・と思いながら、休憩中のお茶とお菓子を嗜みながらカイトを眺める。
だが、そのカイトは私じゃなくてグレンの世話を焼いている・・・まったく、私にヤキモチ焼いてほしいからって、グレン何かの世話をして・・・そっちがその気なら、私もヤキモチ焼かせてあげる♪
「・・・アンタ・・・グレンは王子様の親戚なんでしょ?何か王子様の好きなものとか話しなさいよ。ビクビク怯えてるだけじゃなくて、そんぐらい私に貢献したらどう?」
アイリは鼻で笑いながらグレンに向かって言葉を吐いた。
本人的には王子様を気にしている自分をみて、カイトがヤキモチを焼くと思っているが当の本人は白けた目でアイリーンを見ていた。
「・・・た、確かに王子様達とはよく会うけど・・・。えっと・・・クリス王子のこと?それともルーカス王子のこと?」
「はぁ??正妃の息子の方に決まってんでしょ!!アイリと同い年なのよ??少しは頭使いなさいよ!!」
アイリの態度にある程度慣れたグレンは、泣きはしなかったがやはり涙目で答えた。
「ご、ごめん。・・・クリス王子は、ルーカス王子が1番好きかな。お二人は本当に仲が良いんだ。あとご家族だけじゃなくて、王宮の使用人達とも仲が良いかな。この間なんて、一緒に食べたお菓子がとっても美味しくて、わざわざ料理長に一緒にお礼を言いに行くぞ!って言われて・・・」
「へ~、クリス王子は美味しいものが好きなのね・・・。でもここの料理ってイマイチじゃない。それとも王宮ではやっぱり美味しいものばかりが出てくるのかしら・・・。」
アイリは最後まで、というか満足にグレンの話を聞いておらず、話しを続けた。
「・・・いや、そんなことないよ。ここで出るお菓子やお茶は、本当に美味しいものばかりだよ?それこそ王宮のものと引けを取らない程・・・」
「はぁ??!!これが?!えっ、ちょっと待って。最初は幼児用に味薄めて出されてると思ってたけど全然美味しくならない料理に、てっきりここの料理人の腕が悪いと思ってたのに・・・。まさかこの世界、メシマズ世界なんじゃない??えっラッキー!!ここで私無双できるじゃない!!まずは王道の・・・マヨネーズよね!!早速作って商会にプレゼンしなきゃ!!」
なんだかブツブツと小さな声で独り言を言い始めたアイリに、一同不気味な者を見るように怪訝な視線を向けた。
すると突然立ち上がって、「ヒュー!!カイト!!今から調味料を開発するわよ!!今から言うものを一式用意しなさい!厨房へ行くわよ!!」と言いながら走り去っていった。
カイトは怪訝な視線を外さず、何か良からぬ事があるかもしれないと思いアイリに着いて行った。
ヒューはうんざりしながらも、顔に出さずアイリに続いた。
こうしてアイリ達がいなくなったテラスで、グレンはアンナに「今日もよく頑張りましたね!」と慰められていた。
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