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第14章 冒険者の始まりの街フォレンへ

196★シアに天使シリーズを着せましょう

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 ジオンが、石畳にうっすらとある魔法陣の縁に触れるのを見て『私も魔法陣に触って、魔力を流してみたい』と言う直前にジオンがなるほどなるほどという顔で、シアと私達を振り返って言う。

 「ふ~ん、なるほどな
  この魔法陣はシアの魔力で
  稼働した形跡が確かにある

  なら、まだこの魔法陣は
  生きている可能性があるな

  ふむ、ここに封印されていた俺が
  魔法陣に魔力を流したら
  なんか反応があるかな?」

 あっそれはありかもね、と私も思うわ。
 シアの魔力には反応しなくても、ここに封印されていたジオンの魔力なら………危険はないわよね。

 なんてちょっと思ったら、それはフラグになった。
 何故なら、ジオンが魔力を少し流したら………。

 なにあれぇー…放電現象おこしてない?
 って、うわぁ~ん冬場の静電気直撃ぃ………。
 思ったよりも痛いんですけどぉ………それに、なんか魔力をちょっと奪われた気かする。

 もしかして、さっきの放電で魔力認識とかしてるぅ?
 この《牢縛の神殿》って、このハイオシス帝国領に固定されて、対侵入者用の防護トラップとか発動していたりするかも………。

 だって、正面玄関の観音開きの扉ってシアの魔力に反応していたし、私の魔力には拒絶っぽいのあったし………。
 まぁ、今の静電気みたいな感じと変わらなかったから………識別か何かしているのかもしれないわね。
 ここは、様子みてシアやジオンに警告しないとダメよね。

 フリードは流石にコウちゃんのカケラから誕生した子だけあって、結構しっかりした子みたいだけど………。
 シアは天然、ジオンは生真面目の実直?って感じだから、経験から来る融通や応用ってモンなさそうだし………。

 なんて思いつつも、身体は条件反射でもって魔法陣から二歩ほどしっかりと離れている。

 クスクス………それでも、とっさにシアを抱えてさがるなんて、ジオンは立派な護衛ねぇ………。
 大事な者は抱え込むタイプかな?
 シアに対して、ヤンデレにならなきゃ良いけど。

 まぁ…それはシア次第だろうし、私にどうこう出来るコトじゃないから言わないけどね。
 取り敢えず、今はあの魔法陣を何とかしないとね。

 でも、私も魔力を流して、反応するか試してみたいなぁ………はい、ダメですよね。
 コウちゃんとガッちゃんが、視線だけでメッて言ってるぅ………はぁ~…ええ、私だってわかってますよ。
   
 あの魔法陣は、ジオンの魔力に反応しているって………。
 しょうがないから、ここはジオンに頑張ってもらいましょう。

 「ふ~ん、やっぱりねぇ………
  封印されていたジオンの魔力に
  反応したみたいねぇ………

  私の魔力にも反応するかなぁ?
  フリードの魔力はどうかな?

  あと、コウちゃんやガッちゃんの
  神獣の魔力に反応するかなぁ?」

 言うだけは言うわよ、だって興味あるもの………。
 まぁ、言うだけだけどね。
 コウちゃんもガッちゃんも、お試し実験に協力してくれる気がまるっきり無いから………。

 にしても……うふふふ……シアってば頬を膨らませて可愛いわねぇ………。
 ほんと、コウちゃんやガッちゃんとは違う意味で癒しになるわぁ………。

 「ぶぅぅぅ~………私の魔力には
  あの後、反応しなかったのにぃ~…」

 くすくす………本当は、可憐で儚げな可愛いシアを妹に欲しいけど、家の事情考えると巻き込んじゃうからそんなコト言えないのよねぇ………。
 まぁ、過保護丸出しのジオンと、しっかり者のフリードがいるから大丈夫でしょうけど………いや、やっぱり巻き込めないわ。

 私の周りってヤンデレしかいないもの。
 ジオンがいるのに絡んだりしたら、大変なコトになるのは火を見るよりも明らかだものね。

 じゃなくて、なんか魔法陣の反応が微妙ねぇ………ジオンが流す魔力を思いっきり絞ったセイかな?
 まぁ、どんな反応するかわからないから、それが正解なんでしょうけど。
 でも、なんかすっごくまどろっこしいわね。

 そんな感想を持ちながら魔法陣を観察する私に、ジオンは首を振って言う。

 「いや、今はそれは止めた方が良いな
  俺の魔力に反応して、何かが出て来た」

 うん、確かにね。
 ジオンの魔力に反応してるよ。
 ただ、やっぱり流す魔力足りなかったんじゃない?
 ここは、しっかりと言うべきよね。

 「ねぇ…なんかめっちゃジワジワと
  何かが出現するのってさぁ………

  ちょっと、ジオンの魔力の込めが
  足りなかったセイなんじゃない?

  魔力をかなり絞って流したんでしょう

  もう少し魔力を追加で魔法陣に
  足してみたらどうかなぁ?

  魔力を十分に注いだら
  正常に魔法陣が発動するんじゃない

  もしかしたらだけど………
  さっき、シアの説明していた

  転移用の光る水晶柱が正常に
  出現するかもよ」

 私がそう言うと、ジオンはそのコトを把握しているらしく頷いて、飛び退く時に抱えたシアをフリードへと預ける。
 うん、2人とも過保護だわ。
 いや、肉付きがうっすい華奢なシアにはあれぐらいでちょうど良いのかな?

 しっかし、警戒態勢のフリードってコウちゃんやガッちゃんとは別にして可愛いわねぇ………手がわきわきしちゃうわ。
 そういえば、クランの子達にも獣人いたけど、撫で撫でしてあげてなかったわよねぇ………。
 なんて思い、自分の手を無意識に見てしまう。

 このイベント終わったら、あの子達に会いに行こうかなぁ………。

 そんな中、ジオンの低い声が響く。

 「頼む」

 「任せて」

 うん、ジオンの声に応じるフリードの声も良いわね。
 こういう声って、声優にいたわねぇ………ああ、前世が懐かしいなぁ………。
 なぁーんて考えている視線の先では、ジオンが警戒しながら魔法陣の縁に指先を触れさせて、魔力を込めているところだった。

 その瞬間、ほとんどタイムラグ無しに赤みを帯びた光の柱が微かな音ともに出現していた。
 うぅ~ん………顕著だわぁ………あっという間に、水晶柱が完成したわね。

 「どうやら、ここに注ぐ魔力は
  俺ので正解のようだな
  さて、どうする?」

 あらあら良い顔してるわねぇ………って、シアを見る瞳が蕩けているわねぇ………本人は自覚ないみたいだけど。
 シアに抱きついているフリードもあんまり変わらない瞳しているし………。

 所詮はヤンデレ祭りのレイパレの外伝の悪役令嬢ってコトかな?

 じゃなくて、現実を直視しないとね。
 話しを振られたシアはなんて答えるのかしら………。

 「勿論、行くわよ
  ジオンとフリードの魂を包んだ
  繭が入っていた水晶柱って

  フリードが入っていた繭と
  ジオンの影?が消えてから

  移動用の水晶柱になったんだから

  コレで移動したあちら側から
  確認(魔力を流すなど)したら

  新しい発見があるかもだもん」

 うわぁ~い、シアってば男前っ………じゃないっ、ここは止めないと。
 マジで、この《牢縛の神殿》が変化している可能性あるんだから………。
 ここは、今度こそシアに天使シリーズを着せないと。
 いや、マジでヤバそうじゃない。
 それに、もう手渡されちゃっているから、いい加減魔晶石の対価をさっさと手渡したいもの。 

 「ちょっと待った、シア
  だったら、せめて天使シリーズを
  身に纏ってからにして………

  この先に、どんな危険があるか
  わからないんだから………

  このハイオシス帝国領に
  《牢縛の神殿》が出現し
  固定されたのと同時に

  神殿内に、何かのトラップが
  発動しているって
  可能性があるんだから………

  現に、シアには反応しなかった
  魔法陣がジオンには反応したわ

  安全考えて、着替えましょう
  ってコトで………着替える為に

  フリードはシアを放してあっち向く
  勿論、コウちゃんもガッちゃんもね

  ジオンとフリードの監視よろしく

  で、シアはこっちね」

 私はそう言ってシアの手をとる。

 いや、わかっていたけど、シアの手って華奢だわぁ………つーか、骨皮って言わないコレ。
 確かにすべすべしてはいるけどぉ………極上って言うにはほど遠いわよねぇ…この手。

 なんて思いつつ、私はジオンとフリードが背を向けるのを待って、インベントリの中から天使シリーズをひょいひょいと取り出し腕に掛けながらシアを見る。
 衝立(ついたて)とか無いけど、ジオン達は後ろ向いてるんだから、ちゃっちゃと男装の服を脱いでもらって身に着けてもらいましょう。
 ということで、小声で………。

 「シア、それ脱いでね
  んでもってもって、シアって
  天使シリーズの身に着け方わかる?」

 私の問いかけに、シアも小声で返して来る。

 「うん、一応はわかるつもり

  つっても、ゲームのアイテムで
  アバターに着せていただけだから

  もし間違えていたら指摘してね」

 そう言って、シアは躊躇(ためら)いなく男装服をポイポイと指輪の中へと放り込む。

 ふぅ~ん、シアのインベントリは指輪なんだ。
 それにしても、躊躇(ためら)いなく脱ぐわねぇ………。
 羞恥心はポイしたわね。

 まぁ…私だって、こっちに転生して、初めて天使シリーズを身に着けた時は、確かに恥ずかしさもあったけど、ぱっぱと身に着けたわねぇ………。
 だって、躊躇(ためら)ったら、恥ずかしさがつのって着替えられないものね。

 「はい、まずこれね
  で次に身に着けるのが、コレ
  そんで、その後はこっちね」

 私の言葉に従って、シアは着実に天使シリーズを身に着けて行く。
 それを確認しながら、私はシアの異様なほどガリガリな身体を見て息を飲む。
 いや、その手を取った時から、もしかしてっては思ったけどねぇ………予想以上に酷いわ。

 なんと言っても、シアの胸部から腹部にかけての肋骨が、そりゃー見事に、がっちりと浮いてるし………。
 鎖骨のところなんて窪みが凄いし………骨がほっそいって見て判るわぁ………。

 うん、胸がほぼ絶壁になっていないだけまだマシね。
 うっすらでも、一応胸が有るもの………俗に言う微乳ね。

 まぁ、そんな状態でも、天使シリーズの胸あては、ぴったりと吸いつくようになっているから………。
 そう、サイズが合わないブラ特有のずり落ちもずり上がりも無い優れモノだから………。

 「はぁ~…やっぱり…恥ずかしい
  こんな肉がない骨と皮ばかりの
  ペタペタの身体なんて………

  ジオンに……いや、フリードにだって
  見せられないよぉ~……ライムぅ~……」

 泣きごとを言うシアに、私はクスクスと笑いながら言う。

 「だぁ~いじょうぶよ
  ジオンもフリードも、そんなコト
  カケラ揉む気にしないわよ

  かえって、美味しいモノを
  たぁ~っぷりと食べさせなきゃって
  思うだけだから………

  心配する必要なんてないわよ」

 そう言う私に、シアは小声になるのも忘れて訴えて来る。

 「うぅ~ん…ちょっと…いやかなり
  恥ずかしいですぅ………」

 そんなシアの言葉に、私も敢えて声を小さくせずに、どうしてそんな姿なのかをさりげなく聞く。

 「シア…本気で痩せ過ぎだよぉ
  なに、その折れちゃいそうな身体

  ガリガリじゃないのぉ………
  いったい、いままでどぉ~んな
  酷い生活していたのよぉ」

 さて、シアは私の質問に答えてくれるかしら?
 ジオンやフリードもその理由を知らなそうだし………。
 いや、たぶんに悪役令嬢のセイだってコトはわかるけどね。

 私の心配を余所に、シアはあっけらかんと骨皮状態の理由を口にする。

 「うぅ~………どんなって………
  幼少期に、生母が亡くなり………

  戸籍上の父がねぇ……
  もう、とにかく物凄いゴミクズ男で………
  アレを父なんて呼びたくないわね

  人のモノは自分のモノ
  嘘もつき通せば本当っていう

  半島のクズ男並みに
  ひっどぉーい廃棄物男ね

  そんな男が選んだ後妻がねぇ………
  これまた、メッチャゴミクズで
  義弟連れて来たのよねぇ………

  勿論、戸籍上の父の実子ね

  お母様が生きて居る時から
  堂々と浮気して作った子で

  流石、あの二人の子だけあって
  ご多分にもれず、ゴミクズよ
 
  んでもって、私は後妻が
  我が公爵家に入ってからは
  毎日、ほぼ折檻されていたわ

  私が与えられた私室から出ると
  とにかく、自分の気が済むまで
  折檻されたわね

  食事は抜かれるの当たり前
  毒なんかもちょくちょく盛られてたわ

  んで、婚約破棄1週間前ぐらいに
  階段の最上段から突き落とされて

  婚約破棄三日前に目覚めたら
  前世を思い出して………

  そのテンプレの婚約破棄の後
  どうにかして逃げてやろうって

  家の中を家探ししたら………
  キーアイテムの扇が我が家の
  図書館に埃かぶって有ったのよ

  色々と逃げる算段を考えたけど
  全然時間的余裕はないし

  階段から転げ落ちたセイで
  身体はボロボロの満身創痍で

  どこの嫁姑のテンプレよってぐらい
  ものすごぉーく酷いコトになっていたわ

  クリスタリア王家を守る
  筆頭公爵家だっていうのにね

  まぁ、王も王太子もしょうもない
  皇妃や側妃も救いようのない
  腐りきった王家だから………

  もう、乙女ゲームや小説の悪役令嬢
  それも、外伝とは言えレイパレよ
  あのエロゲー会社が作った劣化版の

  バットエンドなんて
  アヘ顔腹ボテダブルピースよ

  それも、魔力はあるけどっていう
  おっさんの子供を孕まされて

  《結界》維持の為の生贄になる子を
  ボロボロと死ぬまで生まされるって言う

  処刑の方がどれだけ救いがあるか
  ってぐらいにはものすごぉーい
  酷いバットエンドがある
  レイパレ外伝

  だから、私はバットエンドの
  ぎりっぎり目前で

  その婚約破棄を利用して
  誓約の女神に誓いし誓約を
  祭壇前で破棄してやって

  とんずらこいて逃げたのよ
  そしたら、キーアイテムのお陰で
  この神殿まで飛ばされちゃったの

  んで、ここでレイパレ外伝の
  《牢縛の神殿》のイベントを
  クリアーして………

  まぁ…今、ココって感じかな」

 うわぁ~予想以上だったわ………流石、レイパレの外伝で劣化版ね。
 もう、シアに何を言っていいやら………。
 いや、開き直るしかなかったのかもしれないけど………。
 おおざっぱな内容を聞いただけで泣けてくるから………。

 「もぉー…そんな環境を
  明るく言うコトじゃないわよ

  でも…そう…だから
  そんなに痩せぎすなのね」

 その言葉以外、私は口に出来なかった。










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