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第8章 シルビアーナは冒険の旅に出る

087★死薔薇の鞭を握りながら、シルビアーナは昔を思い出す1

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 あれは、ほんの子供の頃………。
 皇太后陛下が、私の護衛騎士を任命したばかりの………。
 やってきたのは、見目麗しい双子の近衛騎士だったわねぇ………ええ、見目は良い者だったわ。

 どちらが兄でどちらが弟かは、些細なことだと言って、教えてはくれなかったわね。
 確かに、そっくりの騎士達だったので………。
 今考えても、ティアラやピアスのセイで、はっきりと認識出来ないままだけど………。 

 まして、近衛騎士の金と白の制服に個性は無く、あの2人を見分けることは極めて困難だったわねぇ………。
 2人とも、水と光の属性持ちで、それを表わすように、銀髪は青みを帯びていたし、瞳は、深い水底の紺碧色で、透き通るように白い肌をしていたわね。

 そうそう、毎日訓練に明け暮れる騎士なのに………って思ったけ………。
 ユールベーナ侯爵の次男と三男だと、他の護衛騎士から聞いたなぁ~……。
 そんな彼らは、私をドレスのまま庭に引き出すと、腰に佩いた剣をスラリと抜いて私に向けてにっこりと笑って言ったわ。

 『姫、剣を向けられて、どんな感じがしますか?』

 私は子供だったので、目に涙を溜めて必死で答えたわ………子供心に怖かったモノ。
 だから、皇族の血を引く姫としての誇りも見栄も無く、こころのままに素直に震える声で一生懸命に答えたわ。

 『怖いわ』

 そんな私に、彼らは優しく笑って言ったわ。

 『姫様、武器を向けられただけで、怯えてはなりません』

 『でも、怖いの』

 『怯えたり、怖がったりすれば、身体がすくんで動けなくなります』

 『だって、怖くて動けないわ』

 『しかし、姫様、姫様が武器を向けられて怯えて動けなくなりますと、我々が姫様を抱えて走る必要があります』

 『あっ…うん』

 『最初のウチは余裕で出来ますが……。最後まで出来るとは限りません』

 『デブで重くて、ごめんなさい』

 もう、あの頃にはわけのわからないストレスで、常に食べ物を口にしていたから、見事にコロコロしていたわねぇ………最初から抱えるなんて無理なほど………。
 それでも、2人とも最初は抱えて逃げるって言ってくれたわねぇ………。
 今思うと、気遣ってくれていたのよねぇ………今、どうしているかしら?
 そう言えば、最近、姿を見かけてないわ………じゃ無くって、あの時は………。

 『姫様は、軽いですよ。太って無くても、大柄な皇帝陛下とか、がっつりと太った財務大臣とか、だぶんっだぶんっな書記長とか、むりんっむりんっな法務大臣とか色々といますから。大人の男を考えれば、姫様はとても軽いです。だから、そこは問題じゃ無いんですよ』

 『そうなの?』

 『問題は、襲撃してきた相手との戦闘が、どう転ぶかわからないということです』

 『そうだね。騎士だけじゃなくて、もしも魔法使いがいたら……』

 『ええ、良くわかりましたね。ですから、少しでも、逃げることができるように、とにかく武器の扱いを覚えてください』

 『うん、自分でも使えれば、どんな攻撃をしてくるか、わかるもんね。私には、魔力がほとんど無いから、魔法も魔術も無理だから………』

 『そうですよ。姫様、姫様はご理解が早くて助かります』

 『私達は、姫様の護衛騎士で本当に良かったと………』

 『皇太子殿下は………ですからね』

 『姫様は、あのレギオン様の娘なんです。戦いのセンスはあるんですから、全ての武器の扱いを覚えられますよ』

 『うん。私、頑張るよ』

 なんて、けっこう、健気にがんばったよなぁ………私ってば……。
 今、私が、死薔薇の鞭を使いこなせるのは、あの時、2人に丁寧に教えこまれたお陰なんだよね。

 どんな武器も、私の身体に合わせたモノを皇太后陛下は作ってくださったわ。
 それを使って、一通りの演舞をして見せたとき、涙を浮かべて喜んでくださったわ。
 皇太后陛下は、私を孫として扱っていてくれたっけ………。

 何度も何度も………。

 『馬鹿な孫につき合わせてごめんなさいね。こんなに、苦労させる予定なんて無かったのに。可愛いシルビアーナに酷いことをするバァーバで……』

 って………寂しそうに………。







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