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新しい恋、忘れられない恋

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東京へ到着したのは夕方だった。
志村は仕事へ、由清はホストクラブへ最後の出勤をしに、桃子は三広のマンションに泊まると言って行ってしまった。
そして、今美名のアパートで、真理は所在なげに大きな身体でちんまり正座して美名がシャワーを浴びる音を聞きながらテレビを見ていたが、勿論内容などさっばり頭に入ってこない。

真理はバスの中での会話を思い出していた。


―――――――――――



桃子が真理にメールを打ってきた。


『お姉ちゃんが寂しがるだろうから今夜は一緒にいてあげてよね!頼むわよ?』


『頼む、て言われても……美名が何て言うか
(;´д`)』



『何よその弱気な顔文字は!
ゴツい癖に似合わないっつーの!
あんたお姉ちゃんの彼氏になったんでしょ?
グイグイ行きなさいよ!
ボヤボヤしてたら翔大さんに取られるからね!』


「う……」


真理は思わず呻く。



「どうしたの?」


美名が鈴を転がす様な声で聞いてくる。


真理はその長い髪を弄びながら、美名にどうやって切り出そうか頭をフル回転させる。






フワッと甘い薫りがしたかと思うと美名の身体が真理に寄り添い、腕が絡み付いてきて、真理のときめきと緊張がMAXまで振り切れた。


「美、美名?」


声が上擦る。


皆が居るのに、大胆な振る舞いをする美名に戸惑いを隠しきれずどもってしまう。



「なななな何だよ……また眠いのかね?
ままま、まあまあ、寝る子は育つって言うしな――!……育つなら、胸に栄養が集中するのが理想だな!うん!
……って、いや……そうじゃなくてっ」



美名は少しムッとして唇を尖らせた。



「私……自慢じゃないけど……そんなに小さくないけど?
真理君って……おっぱい星人てやつ?」


「ま、まあそりゃあ――勿論おっぱいは大好きさ!三度の飯より……て、何を言わせんだよ!」



「もう!サイテー!」


美名はプイッと横を向いてしまう。


真理は狼狽えて必死にフォローする。



「ご、ごめん!すまん!申し訳ない!
それはいわゆるひとつの一般論であってだな!
デカけりゃいいって物じゃなくて、色とか形とか艶とか!
手触りとかっ!
好みは色々あるんだよ!ケースバイケースなんだよ!」



しょうもない言い訳に、美名は頬を膨らませたままこちらを見ようとしない。






「ほら、アレだよアレ!」


何がアレなのか自分でも分からないが、真理は必死だった。




「どんなでっかくて素晴らしいおっぱいより、お、俺は、俺は!」



真理の声がどんどん大きくなる。

バスの中の面々は身を乗り出して真理の大演説を聞いていた。



「真理っ!がんばれー!」

桃子はガッツポーズして叫ぶ。


「……確かに、大きいに越したことはないのかも知れないけど……俺は、俺は……もっ桃子ちゃんの……おっ……ぶへ――!」

「キャア!根本さん鼻血――!」





「…………」


由清は呆気に取られて真理の必死な様子を見ていた。


「それ……口説き文句のつもりなの?新しいな……」



「んも――!真理君ったらお馬鹿なんだから!」



志村はクスクス笑う。






「俺は!美名の全部が!大好きだ――!おっぱいも!お、おおおお尻も――!それからそれから」



「もうっ!真理君のバカ――!」



「ぐほおっ」



美名のグーパンチが真理の顔にめり込む。



「……バカ……」



美名は真理にギュッと抱きついた。



「ふえ?ひ、美名……?」


真理はジンジン痛む顔を押さえて美名を見る。


美名は真っ赤になり、上目遣いで小さく呟いた。



「今日……私のアパートに泊まって?」



ズドーン!と爆弾が落とされた位の甘い衝撃が襲い、クラクラする。



「え、え、えうう」


「桃子が……今夜は居ないから……
私も、一人になりたくなくて……ダメ?」



真理は何も言えずにブルブルと首を振った。






「――おめでとう真理君っ!」


志村は手を叩いて口笛を吹いた。


由清も笑いながら手を挙げる。


「真理――!頑張んなよ!お姉ちゃんも、私の作ったエロエロランジェリーで攻めて攻めて悩殺して真理を鼻血まみれにしちゃえ!」


「エロエロ……ランジェリー……ぐぼ――っ」


三広がまた鼻血を噴いた。



皆がヤンヤヤンヤと囃し立てる中、二人は真っ赤になり照れまくりでいたのだ。











―――――――――――
そういう訳で結局二人は今夜も、一緒に過ごす事になったのだが……

真理は半端なく緊張している。



深呼吸して落ち着こうとするが、部屋全体の女の子らしい色や雑貨や何とも言えない良い香りがソワソワさせる。


不意に、今朝抱き合った時の美名の甘い声を思い出してしまい、身体がゾワリと熱くなる。



「ま、まずい……何かで気を逸らさないと……」



真理はベッドの上にある沢山の編みぐるみに目を止めると手に取り眺めた。


「くま……うさぎ……犬……ねずみ……?……あとこれは何だよ……
何だか未知の生物だな……」



美名は、この人形達を胸に抱いて眠ったりするのだろうか。

可愛いパジャマを着て長い髪と手足を無防備に放り出してその柔らかい胸に人形を優しく抱いて、

"お・や・す・み"

あの澄んだ綺麗な声で囁いて、桜色の唇で人形にチュッと……





「って……うわ――!エロい!なんかエロい!」


真理は頭をぐじゃぐじゃにして叫びベッドに顔を埋めた。








「はあ……ダメだ俺は……」


舞い上がって、何をしてもそういう方向に妄想が働いてテンパる。



真理は仰向けになり、思わず呟く。



「綾波とか……翔大なら……もっとスマートなんだろうな」



口に出すと、モヤモヤが広がりそうになり、打ち消す為に両手で頬をバチンと叩いた。



「ああ――っ奴等の事は関係ねーし!いや、関係無くはないか……」




『お前には渡さない』



翔大の静かに燃える瞳が脳裏に蘇り、ゾクリとした。



翔大とjunkをやって二年、色々な事があったが、奴は普段は大人しくて温厚に見えるが、これと決めた事は必ずやる強い芯を持つ男だ。


低く所は引いて、だが自分の絶対的な要求は必ず通す。
だがそのやり方が露骨でなく、相手との交渉の仕方がとても巧みでしかも嫌味がないのだ。


常日頃から翔大だけは敵に回したくないと密かに思っていたが……



「思いきり敵になっちまったな……」







美名を初めて見た時の胸の高なりを今でも覚えている。


志村に手を引かれて現れた美名はまさにプリンセスに見えた。


最初は只の可愛い女の子にしか見えなかったのに、合宿で美名と演奏をした時、真理の中で天使が降臨したのだ。

その声が発せられた瞬間、身体中の毛穴が全部開いた様な感覚に囚われた。空間がビリリと震動し、目に見えない力で総てを鷲掴みにされる様な……




けれど、普段の美名は素直で普通で、一生懸命に恋をする女の子で、綾波に夢中だった。



急速に美名に惹かれていく自分に戸惑いながらも、この気持ちは漏らすまいと思っていたのに……




真理は、綾波が態度を豹変させたのを訝しく思っていた。


見るからに嫌味な男だが、美名をいとおしげに見る目には、確かな愛があった筈だ。





それが突然、あんな冷たい仕打ちを美名にするなんて……


「何があったんだろうな」


美名が話したがらない事を無理に聞く事はしたくない。


ゆっくりと、美名が綾波の事を忘れていってくれたら……





「真理君も、入って?……あれ?もう眠い?」


シャワーを終えて短い部屋着に着替えた美名がバスルームから出てきて、真理はベッドから飛び起きた。



「ご、ごめん!なんかコイツらが気になってさ」



真理は大量の編みぐるみを指差して取って付けた言い訳をする。



「それね……全部桃子が作ったのよ」


「へえ、器用だな」


「嫌な事があると作るのよ……その度に私の部屋に置いてくから困るんだけどね」



美名は、綾波がくれた大きな"バニっぴー"をふと思い出した。


(綾波さん……荷物を送ってきてくれるって言ったけど、あの子も送ってくれるのかな……
あれだけ大きいと無理かも知れない……

マンションに持っていかずに、ここに置いておけば良かったな……)







「――美名?」


真理に声をかけられて我に返り、タンスの中からパジャマと下着を出して渡そうとするが、その前にギュウと抱き締められてしまう。



「ま、真理君」



「風呂上りの美名……ヤバイ……可愛い」



化粧を落とした美名の肌はほんのり赤みを指して、身体からは石鹸の薫りが漂う。

洗い髪はまだ少し濡れていて、それが色っぽかった。


腕の中で美名がモゾモゾ懸命にもがいているのがたまらなく愛しい。


「ま、真理く……お湯が冷めるから……んっ」


我慢出来ずについキスをしてしまう。



「ごめん。スゲー可愛くて……」



「も、もうっ」



美名は真っ赤になりながら、真理の胸にパジャマを押し付けた。



「ピカピカにしてきてね……それから……その後でなら……て、何でもないっ!」


「何っ何――?
聞き捨てならんぞ今のっ!その後で、何が?」


「も――!早くして!」


「ハイよ!早く済ませて早くしてやるから!待ってなさい!」


「んもうっ違うってば――!」







ハハハと笑いながら真理はバスルームへ入って行った。



美名もクスリと笑いながらベッドを直す。


冷蔵庫の中のビールやチューハイも冷えている事を確認すると、真理が持っていたうさぎを胸に抱き締めて、これから始まるであろう甘い夜に思いを馳せた。


(……ついこの間まで、綾波さんに沢山抱かれて愛を囁かれて居たのに……)


忘れると心に決めたけど、やはり思い出すと辛い。
彼はマネージャーだから、これからも顔を合わせないとならないし……


忘れる事なんて永遠に出来ない様な気がした。


美名は自分の着ている部屋着をチェックする。
桃子が作ってくれたセクシーな下着は中に付けているが、上からは見えない。


(真理君がこれを見たら……何て言うかな……

喜ぶかな……)




子供みたいにハッキリと喜怒哀楽を出してくる真理に美名は救われていた。
真理の前では自分も素で居られる様な気がする。


「何か、簡単なおつまみでも作ろうかな……」


立ち上がった時、チャイムが鳴った。



「……誰かな?こんな時間に……て……ひいっ!?」


美名は警戒しながらドアを開けると、巨大なウサギの顔が見えて腰を抜かした。



ウサギは美名に倒れかかって来た。
美名は慌てて受け止めて思わず叫ぶ。


「ば……バニっぴー!帰ってきてくれたの?……て、そんな訳ないよね……」


玄関の入り口には、箱と紙袋が幾つか置いてあったが、人の姿はない。



美名はバニッぴーを抱いて、辺りを見回したが、誰も居ない。

袋の中を見ると、美名が綾波のマンションに置いてきた服や化粧品が入っていた。


「あの……
誰か居ませんか?
運んできてくれた方……」



美名はハッとする。

残り香がするからだ。

この香りは……




「綾波さ……ん?」



胸がけたたましく鳴り出した。








「綾波さん……居るの?」


逸る気持ちを隠しきれず、美名は声を上げた。


だが、夜のアパートの静寂の中、虚しく響いただけだった。




……来るわけがないよね……




美名は、フッと笑うと、荷物を中へ運びドアを閉め鍵をかけた。




暫くぼんやりとしていたが、バニっぴーを胸に抱き締めて顔を埋めた。




「ねえ……
あなたを連れてきたのは誰かな?」



勿論バニっぴーは答えない。



胸の中に浮かぶ、忘れられない人の姿を打ち消す様にきつく目を閉じて柔らかい人形を潰す如く抱き締めた。





美名はその時、綾波が離れた場所に車を停めて中から部屋の明かりを見つめて居る事を知る由もなかった。



人形を抱き締める美名を見て、微笑んでいた綾波は、真理の姿を認めると唇を結んだ。


明かりが消えて、二つの影が重なったまま見えなくなるのを見届けると、静かに言った。




「――もういい。出してくれ」



車は、静かに走り出した。










綾波が向かったのは、志村のスタジオだった。


前回ここに来た時には美名が一緒で、志村を待っている間、我慢が出来なくて抱き合ってしまった事を思い出す。



スタジオの中はしんとしていて、志村の姿はまだなかった。



ピアノの前に腰かけて蓋を開けると鍵盤が現れる。


弾いていると、いつも美名は目を輝かせて側に来て歌った……


『剛さんの弾いている姿が好き』


と言って、綾波がピアノの前に居るとずっと側から離れなかった。



色んな曲を美名に聴かせて、歌わせた。

ヒットチャートのポップスやらジャズからクラシックまで、どんなメロディーでも美名は楽々と、鳥が囀ずる(さえずる)様に歌ってみせた。


歌う美名を側で感じていると、次第に愛しくて堪らなくなり、抱き上げてベッドまで連れていって……





「…………」


黒い蓋を閉じると、溜め息を付く。






美名を手放す事は、思っていた以上にキツかった。


真理の手が美名を抱いているのを見て、身体中を引き裂かれる様な感覚に囚われた。


荷物を業者に送らせるつもりだったが、美名の姿を一目見たくてそっと人形と共に持っていった。


もし鉢合わせたら、決心など脆く崩れて抱き締めてしまったかも知れない。



――しかし、美名は俺のせいで深く傷ついている。
今は近付いてはいけない。
どうせなら俺がとことん悪者になって、憎んだ方が美名の回復は早いかも知れない。

美名は、過去に男につけこまれて弄ばれた経験を実はずっと引き摺っていて、それがコンプレックスになっている。

俺の事も、それと同様に捉えてしまったら美名は救われない。

だが、真理が美名を癒して、美名が笑っているならそれでもいい――



そう思いながら胸の奥に重い塊が居座り、綾波を苛む。



――本当なら俺が笑顔にしてやりたい……



だが、それをする資格は自分にはないのだ。





こめかみを押さえ目を閉じると、ノックと共に志村が入ってきた。




「はあい!お待たせ……大丈夫?」



「?何がです」



「酷い顔してるわよ」



「…………疲れてるだけですよ。警察に一晩絞られたのはかなりこたえましたから」



志村は眉を僅かに寄せて、椅子を持ってきて綾波の前に座る。



「……あなた達、一体どうなっちゃったの?
美名ちゃん、真理君とラブラブよ?
まあ、真理君の方がベタ惚れって感じだけどね?」



「さあ……」



「さあって事はないでしょ?あんなに美名ちゃんを大事にしてたじゃない……手を出した翔大君を半殺しにする位惚れてたんでしょ?
なのに、どうしたのよ?」


志村は綾波の顔を覗き込み真剣に聞いた。








「……翔大を殴ったのは……単に自分の物に手を付けられて面白くなかったからです。
けど、馬鹿馬鹿しくなりましてね……
俺は、思い通りに抱ける女なら美名で無くても良かったんですよ。

他の奴に触られた女になど、もう興味はありません」



綾波は平坦な口調で言った。


志村は納得をしてない目をしていたが、頑なな綾波の態度を崩すのは至難の業だと諦め、ふうと息を吐く。



「まあ……あなた達の間に何があったか、他人の私には詮索する権利はないし、言いたくないなら、それでも良いけれど……」


志村は綾波の肩を叩いた。


「本当に困る前に私に言ってね?
私は美名ちゃんや真理君や由清君が可愛いけれど、貴方の事が一番心配なのよ……」




「ありがとうございます」

綾波は鉄壁の守りの笑顔を崩そうとしない。

志村は肩を竦めてまた深く溜め息をついた。



「まあ、飲みながらでも、これからのプランを練りましょう。
翔大君が抜けた今、大幅な予定変更しなくちゃだしね」




志村は奥の部屋から秘蔵のワインを出してニヤリとした。



「さあ、作戦会議よ?今夜は寝かさないから覚悟してね?」



「ハハハ……怖いなあ」



二人は深紅の液体で満たされたグラスを傾けてチンと鳴らした。





――――――――――――――――











「はっ……はあっ」



「んっ……」




テレビの明かりが激しく抱き合う二人の身体を照らす。



シャワーから出てきた真理は、ウサギの人形を胸に抱き締めていた美名が潤んだ目でこちらを見た瞬間、ベッドまで行くのさえもどかしく、明かりを消すと堪らずその場で抱き締めてしまった。


腕の中に包んだ時、美名の柔らかい腕が直ぐ様首に絡み付いて、まるで自分を待ってくれていたかの様で、真理の恋情は張り裂けそうに膨らんだ。


朝抱いた時よりも激しく執拗に、柔らかく豊満な双丘を揉みしだき、顔を埋めて初々しい色の突起を美名が泣き叫ぶまで舌で転がした。

身体中隅々まで口付けをして至る場所に真理の痕を付けた。



美名の可憐な唇から卑猥な言葉を言わせたくて、秘蕾の周辺を焦らす様に指や舌でなぶり愛して、真理は美名に問い掛けた。
何処に触れて欲しいのか、どんな風に突き刺して欲しいのか……









「やっ……ま……真理く……意地悪っ……」




泣き出しそうな目で息も絶え絶えに可愛い声を出す。




「意地悪じゃねえよ……美名の口から……どうして欲しいか……言えよ……」



指を太股に踊らせながら耳元で囁くと、美名は弾かれたように身体中を震わせて涙を流し、逞しい胸にしがみつき、唇を僅かに動かした。



「……て……」



こそばゆい感触に頬を緩めて、真理は優しく聞き返す。



「……ん?」



「もう……っ……言わないっ」



「美名……言えよ」



真理は美名をぎゅっと抱き締め、乳房をそっと掴むと唇と舌で敏感な突起を刺激した。



「あんっ……やっ……あ……溢れ……ちゃ」



「……何処が……?」



舌は乳房をなぶり、指は蕾のすれすれの場所をゆっくりと撫でた。







白くもっちりした吸い付くような太股の間から蜜が伝うのを目にすると、自分の下腹部の反り返った淫獣がビクリと動く。


腕の中の美しい身体の中心を、今すぐに滅茶苦茶に掻き回したい……


真理はごくりと太い首を鳴らすと指を潤った蕾の中へと挿し入れた。




「ああっ……ああ」


甘い叫びと共に淫らな音が部屋に響くと、目の前で悩ましく身体をくねらせる様と相まって、聴覚と視覚で欲望をますます高ぶらされてしまう。

真理はもう、焦らす余裕が無かった。



「……っ我慢できねえ」


「あんっ……」



腰をがっちりと抱き、極限まで硬く熱くなった自分を一気に沈ませ、激しく活発に腰を動かした。



「美名っ……美名……」



「まこ……っ……ああっ……ダメっもうダメっ」



美名はすぐに達してしまい、腕の中でぐったりしてしまう。







「美名……そんなに良かったんか?」


自分の攻めに甘く乱れて果てた美名が可愛くてたまらずに、真理は繋がったままで頬にキスする。


まだ獣は愛する事を欲して硬くたぎっていた。



「……でも……まだ足りねえよ……美名……」


指で唇をそっと撫でると、ピクリと動いた。




美名は、薄れた意識の中で綾波に抱かれている夢を見ていた。



長いしなやかな指が唇をなぞり、優雅な動きで咥内を掻き回される。



『まだまだだ……美名……』


真っ直ぐな髪の間から覗く切れ長の瞳に見つめられるだけで蕾が焦れてくる。


『俺が満足するまで……離さない……』



「ああっ……も……もっと……剛……さん」




「――!」



真理が息を呑み、動きを止めると、美名はゆっくり瞼を開ける。



「……ま、こと君……ごめ……私、どうなったの……」


トロンとした焦点の定まらない目で、美名は真理の髪を撫でた。



「美名……今、お前」



「……?」



邪気の全く無い少女の様な笑みに、それ以上の追及が出来ず、腰を掴むと再び突き上げる。



「んっ……ああっ」







突き上げるごとに、美名は美しい胸を揺らして真理の名前を呼び甘く乱れた。



……俺の事を好きじゃなくてもいい……

そう言った。

そう思っていた。

だが、今腕の中で美名が他の男を呼んだ時、生まれて初めて殺意を覚えた。


美名を棄てておきながら、美名の心を掴んで離さない綾波剛が憎い。



他の誰かに心を奪われてもいいなんて、無理だ……




「好きだ……好きだ……美名」



「真理く……んっ」



太股をグイと左右に大きく広げて、より深く突き刺すと美名は髪を乱してしがみついてきた。



「あ……あっ……真理く……もっと……」



名前を呼ばれる度に、悦びで獣は増大して胸が苦しい位にときめく。



しかし、何度名前を叫ばれても、先程の美名の呟きが耳に残り消えない……



もっと、もっと呼んでくれ……


真理は切なく願いながら、腰を打ち付けて美名を啼かせた。



自分の上で髪を揺らして苦悶する真理に、美名は綾波を見ていた。



打ち消そうとしても、綾波の姿と重なってしまう……

いつの間にか両の瞳は涙で盛り上がって煌めいていた。



深く深く突かれた時、二人は同時に果てた。


視界が白く霞む中で、美名は心の中で愛しい人を呼び、頬には涙が流れ堕ちた。







「――――」

その時、綾波は思わず振り返った。



「ど――したの綾波君?怪談話の時に後ろを向いちゃう現象かしら――おほほほ」


ワインでいい気持ちになった志村はピアノをつま弾き、陽気に歌い始めた。



(……今、美名に呼ばれた様な気がするが……
錯覚か……)



綾波は、ふっと苦笑するとグラスの中の苦いワインを煽った。


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