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プロローグ
しおりを挟む「嫌! 聞きたくない!」
リスベスは両手で耳をふさぐ。
五歳年上の婚約者、マリウスは子供っぽいその仕種を見ても特に慌てた様子もなく整った顔をゆがめつつも話をやめなかった。
「リスベス……ごめん……」
「やめて! 謝らないで!」
「君とは結婚できない……」
「だから、止めて!」
マリウスに手首を掴まれそちらを向かされるが、頑なに目を合わせようとしないリスベスに構わずマリウスは続ける。
「ヴァートレンの叔父様には了承をもらってるよ」
それは最後通牒だった。
お茶会で、夜会で度々噂になっていた。薄々予感していた。でも認めたくはなかった。
「ごめん、好きな人が……結婚したい人ができた……」
「何故……」
「君が、悪い訳ではないんだ! 僕が君を妹としか見れなかっただけで……」
「マリウス様……?」
「そうなんだ、彼女に出会って好きになって今更ながら気づいたんだ。君に対する気持ちは慈しみのような気持ち。それは情ではあるけれど、愛ではないんだ」
マリウスの残酷な言葉に思わず涙を湛えた目で睨んでしまう。
「ずるいです! 私の気持ちはどうなるの? 私はずっとマリウス様が好きだったのに! 私が子供っぽいから? あの人のようにあか抜けてないし蠱惑的でもないから?」
愛する人を貶めるような物言いをしたリスベスにマリウスが一瞬苛立ちの表情を浮かべたが、すぐにそれを隠して謝罪を続ける。
マリウスの一歩引いた言い合いにもならない謝罪にすがり続けることはできなくて。
背を向け去っていく初恋にリスベスは泣いて見送ることしかできなかった。
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