忘却の時魔術師

語り手ラプラス

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第一部 第二章「最悪の夜獣・前編」

第11話 プロローグ

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「ハァ。ハァ。ハァ」
『魔力……量……4%。スーツ損……率72%……』
 荒い息遣いと腕につけた機械のアラート音が砂煙の舞う廃墟の中を響きわたる。

『危険です。危険です。即刻、戦闘離脱してください。繰り返します。戦闘離脱してください』
 あぁ、うるせえなぁ。
 出来たら、してるつぅーの。こんな状況。

 頭から流れてくる血のせいで、左の視界が真っ赤に染まる中、この絶望しか無い状況に目を向ける。

 辺り一帯は瓦礫まみれ、いつこの廃墟が崩壊するかも分からない。奴への唯一の決定打であるルナは先程からピクリとも動かない。

「ハァ。ハァ。ハァ。クソッ!」
 ──なんだよ。マジで何なんだよ。あの……バケモノは……。

 ・・・
 時は数時間前に遡る。

「はぁ~~」
 憂鬱だ~。

 次が最後の授業との事で、放課後何するかでクラスメイト達がザワザワと盛り上がり見せる中、俺は椅子に背をかけたまま脱力しきっていた。

「あと一時限で授業が終わるってのに。溜息なんて吐いてどうしたんだよ。悩み事か?」
「あー。隼か。……別に悩み事って程じゃないけど。ちょっとな」

 そうだ。別に悩み事ってわけじゃ無い。
 遂に約束の日が来てしまったという事実から、現実逃避がしたかっただけなのだ。

「なんだよ~。気になるなぁ。教えてくれよぉ~。俺とお前の仲だろ~?」
「……なんでそんなに聞きたがるんだよ」
 ツンツンと肩を突いてくる隼の手の払いながら、隼に問いかける。

 ……どうせ、こいつの事だ。碌な理由じゃない。
「そんなの決まってるさ。友達が困ってるんだ。助けるのが当たり前だろ?」
 ニッと笑みを浮かべる悪友に俺は驚きを覚える。

 そんな、隼。お前……。
「──で? 本音は?」
「貸し1つでも作っておけば、後で有効活用出来そうだからさ」

 ……変わるわけないよな。
 もし、さっきの発言が本気だったのなら、辞書で頭をぶん殴った後、精神科に連れて行くところだ。

「はぁ~」
「そう溜息吐くなよ。今なら貸し借り無しで聞いてやるからさぁ」
「──結構だ」
「なぁ、そんなこと言わず、話してみろって。きっと、スッキリするぞ?」
「遠慮する」
「──なんでだよ!」
「いやだって、……お前。俺の話、ネタにするだろ? 相談とか言ってるけど、本当は俺を揶揄いたいだけなんじゃないのか?」
「そんなの当たり前だろ?」
 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる悪友に俺は溜息を零す。

「……それで? お前は何しに来たんだ?」
「いやな? とある筋から面白い情報を手に入れてさ。どうせだから。零にも聞かせてやろうと思ってな」

 ……嫌な予感がするが、コイツの話は偶に良い話もあるしなぁ。
「……どんな情報なんだ?」
「フフフ。それは……怪人白マス──」
「隼。ワザとだろ? お前、俺が嫌いなの知っててワザとやってるだろ」
「大丈夫。大丈夫。怖い話じゃなくて都市伝説だから」
 ニヤニヤしながら、ドウドウとしてくる隼に若干のイラつきを覚えつつも、振り上げようとしていた拳を下ろす。

「はぁー、それで? その変人白パンツがどうしたんだ?」
「怪人白マスクな? 変人白パンツだと、ただの変態だぞ?」
「いや、別に何でも良いだろ」
「よくは無いと思うけどな。まあ、いいや。その怪人白マスクって奴がここらへんの地域に出没しているらしくてな。出会ったら……」

 ・・・
 side:玄野凛

「じゃあね。バイバイ」
「バイバイ! 凛。また、明日」
 私は校門の前で帰り道の違う友達に手を振ると、そのまま帰路に着く。

 ……今は4時過ぎ。
 確か5時くらいにお兄ちゃんとルナが用事って言ってたから、ルナはまだ家にいるはず。

 なら、今日も出来るかなぁ。魔術の練習!
 早く魔術を使えるようになって、お兄ちゃんをびっくりさせたいな!
 早く帰りたい一心で人通りの少ない近道を歩いていた時──。

「面白い眼鏡を掛けていますね」
 背後から男の酷く冷たい声が聞こえてきた。

「──っ⁉︎」
 その場から離れるように真横に跳び、声のした背後へと視線を向ける。
 すると、そこには、黒いマントを羽織り、白いのっぺりとしたマスクで顔を隠した怪しげな男が立っていた。

「ふむ、一般人とは思えない魔力操作だ。しかし、まだ少々荒い。見習いと言ったところか」
「……誰?」
「おっと、失礼。私、ジョーカーと申します。とあるお方の命により、あなたを人質として攫いにきました。以後、お見知り置きを」
 ジョーカーと名乗る男はそう口にすると同時にゆっくりと私の方へと歩み寄ってくる。

 ──私を攫いに? それも人質として?
 なら、本当の目的は?

 様々な疑問が思い浮かぶ中、近づいてくる男から逃げるように後ろへと後退ろうとしたその時、見えない何かが私の退路を阻んだ。

「──っ⁉︎」
 これは……壁?
 そういえば!

 ・・・

『ねえねえ。凛。知ってる? 最近有名な怪人白マスクの話』

『怪人白マスク? 何それ』

『ここら辺の地域の都市伝説でね。下校途中に突然、後ろに立たれて話しかけられるんだけど。その話しかけられる内容が人探しらしくてね。ちゃんと答えないと殺されるらしいんだ。それで、もし、ちゃんと答えたとしても、後ろを振り向いてそののっぺりとした白マスクを見てしまえば、頭を掴まれて、首を捻じ切られるらしいんだよね』

『じゃあ、話しかけられた瞬間に逃げればいいじゃん』

『それが出来たら都市伝説にもならないわよ。その男から逃げようとすると、見えない壁に阻まれて……』

 ・・・

「あなたが怪人白マスク……?」
「どういった経緯でそう言う安直な名前になったのかは分かりませんが……。あなたを攫えば目的は達成するので、名前なんてどうでも良いですかね」

 ──っ‼︎ 来る! 嫌だ。嫌だ!
「──『来ないで!』」
「──っ⁉︎」
 ゆっくりと近づいてくる男に向かって、そう叫んだ瞬間、男はまるで何かに弾かれるように後ろへと飛んでいった。

「──っ!」
 何? 何が起きたの?
 分からない。分からないけど、とりあえず今は!

 遠くへと飛んでいった男に背を向けて走り出そうとしたその時──。

 トンッと何かを叩くような音が背後から聞こえると同時に全身に力が入らなくなり、その場に膝をつくようにして倒れ込む。

 ……嘘っ。何で? 何でここにいるの?

「……さっきの魔力。実に忌々しい。まさか、あなたがとは」
 男がそう口にした瞬間、私の意識は暗闇の中へと沈んでいった。
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